戦術ノ限界
黒い影のみが辛うじて視認できる超高速戦闘のさなか
幾百の交錯と激突の末、魔王の斧に亀裂が走った。
「……」
しかし魔王は構うことなく勇者に対し斧を振るう。
「ガァァアアアッ」
咆哮と共に放たれる二刀のX斬りが、魔王の斧を切り裂いた。
砕け散る斧、破片が周囲を舞い散る。
エインは放射雷撃を放ち、残骸を弾き飛ばす。
しかし、目前に魔王はいない。
やはり背後には魔王。
「――ッ」
エインはとっさに剣を背後へ振るう。
しかしその刃は魔王には届かない、空を斬る刃の先には手をかざす魔王の姿があった。
漆黒呪文の直撃を受け、エインは床に体を横たえた。
(殺さない最低限度の魔力量は把握した……しかし、勇者の反応…そろそろこの方法も潮時か?……とにかく、細心の注意を払って次に備えるとしよう)
「ふう」
勇者を牢獄に監禁し、一息ついた魔王は王座に腰を下ろす。
「魔王様、お疲れ様です」
全身をローブで覆った側近、ハルファが音もなく魔王の前に現れた。
「ハルファか、それで奴らはどうなっている?」
「芳しくありませんね」
「……そうか」
ハルファの言葉に魔王は眉間を指で押さえた。
つい先日滅ぼした町があった。 その中の何十名かの信者を捕らえ信仰を捨てさせるための実験を繰り返しているが、未だに確実な方法が確立できずにいた。
拷問の痛みに耐えられず棄教する者は確かにいる。
だが逆に、痛みで信仰を捨てない者はどれだけ凄惨な目にあわせようと決して信仰を捨てようとはしなかった。
魔王が求めているのは後者を棄教させる方法だ。
奴らは死を恐れない。 痛みに屈しない。時には犠牲すら――
ではなぜ
「……なぜあの戦士と魔法使いは信仰を捨てたのだ?」
魔王は呟くように言った。 あの二人は間違いなく後者側の人間だった。
一週間間隔で行われる勇者との戦闘、現状はまだ魔王有利であるが魔王の手札は限られており、その数もそろそろ限界が見えていた。
もしそのすべてに勇者が対応した場合、じわじわと体を削られやがて敗北する可能性もあり得た。
魔王にとって勇者の解呪は最優先事項であり、そのためにはあの神父の男に神系呪文を使わせる必要がある。
別の神父ならば可能か?? しかし魔王軍の戦力は勇者に削られそれほど多く残っているわけでもない。
今回の町落しにしても無傷だったわけではなく、人間の抵抗はいまだに侮れないものがあった。
下手に進軍すれば返り討ちにあう可能性もある。残存兵力に不安のある魔王としてはそれは最後の手段にしておきたかった。
「それでハルファよ、何かあったのか? 変わりのない報告をしにここに来たわけではあるまい?」
「は、実は信者の一人が妙なことを言い出しまして」
「ほう?」
「あの戦士と同じ言葉です」
「……詳しく話せ」




