引裂カレル安寧
竜巻のような乱舞の激突の末、二人はお互いに後方へ吹き飛ぶ。
「…っ」
着地と同時、魔王は手のひらを前方へ突出し、追尾光球を30個召喚、エインへ向け放つ。
「!?」
しかし、視界の先にすでに勇者はいない。
魔王は視線を上へ、双刃を振りあげ上空から切りかかるエインを視認する。
魔王は咄嗟に手のひらを上へひねる、放たれた光球が急旋回し上空の勇者へ迫った。
対しエイン、魔力で自身の体をはじき迫る光弾を避ける。
落下運動の中、光弾を躱し切りそのまま魔王へ切りかかる。
迫る刃を魔王は後方へ水平に飛び回避。 一本の刃が頬を掠めた。
「つっ」
床に激突する二つの刃、エインの着地地点にワンテンポ遅れて光球が着弾。
30発の光弾が雨のように降り注ぎ、粉塵が巻き上がる。
「ウ゛ォォオオオオ゛ッ」
一蹴りで音速まで加速、その抵抗から巻き起こる突風により粉塵を蹴散らし魔王へ迫るエイン。
その直線的な動きを読んでいた魔王
魔王の手のひらから放たれる疾風魔法弾が、エインの胴体に着弾した。
エインの体がくの字に曲がり、後方へ吹き飛ぶ。
空中身動きの取れないエインへ向け、30発の光弾が迫る。
光球がそれぞれ勇者の両手両足に着弾。
エインは絶叫し、手足から煙を吐きながら地面を転がった。
唸り声をあげ立とうとするエイン、しかし手足のダメージが深く、立ち上がることができない。
立ち上がろうともがくエインの頭部に魔力を込めたかかと落としが叩きつけられた。
エインの頭部を中心に弾ける漆黒の魔力、頭を地面に押し付けられエインの意識は断ち切られた。
「……」
足をエインの頭部に押し付け、頬から血を流しながら魔王は憎らしげに勇者を睨んだ。
魔王城からほど遠く、この戦争の中でも比較的平和な町があった。
そんな町の神父を務めるロドラルもまた、日々の平和を感謝し、女神に祈りを捧げる平凡な神父の男だった。
日々の悩みと言えば、、背信者の処刑をどう行うかといったもので
女神に心身を捧げた神父達にとってはそれは日常的な悩みの一つでしかなかった。
大きな町では背信者の巨大な組織が完成しており、神父の命すら危険な地域もあると聞いていた。
告げ口と駐屯兵の武力で制圧できるこの町はなんて平和なんだと、神父はまた女神にそのことを感謝する。
ある日風の噂で勇者が魔王に敗北したというニュースが流れた。
女神の寵愛を受けた勇者が敗北など考えられず、ロドラルはその噂を一笑に付した。
心配する信者に女神の教えを説く、
女神様は無意味な試練を与えない。
もし仮に勇者様が敗れたとしても、それもまた試練なのです。と
勇者様は必ずやこの試練に打ち勝ち、この世に平穏をもたらすだろう。と
ロドラルの熱心な教えもあってかこのニュースはこの町では騒動にすらならず終息する。
自身への信者たちの信頼の厚さと女神様の偉大さに、ロドラルは満足した。
この世に生かされていることを感謝した。
魔王軍が、すべてを奪うその日までは。




