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狂威ノ戦略

 勇者捕縛、7日後。


「……」


 ルドルは神父を庇うように、おおよそ勇者らしくない勇者の前に立ち、緊張を高めた。


 場所は教会、祭壇。


「エイン?」

 

 ルドルは棒立ちの勇者へ呼びかける。

 

「ぎりぎり…意識はある」


 コミュニケーションが取れることにルドルは安堵する。転生によって呪いのかかる前の状態になることはこれで実証された、しかし呪いの装備のためまたすぐに正気を失ってゆくのであろうが。


「すぐに行くのか?」


「ああ、自我があルうちに、まず感染して魔王城ニ乗り込む、あとは、……狂気に身ヲゆだねるだけでいい」


「…勝算は?」


「手ごたえは…あル…。 悪い、もう行く、長いこト正気を保っていられる自信がなイ」


「…そう…か」


 エインは踵を返すと歩き出し、教会をでると転移呪文を発動した。


「あれは…勇者なのですか?」


 神父が怯えたように、ルドルに尋ねる。


「…ええ、勇者です、今人類のために必死になって戦っている、俺たちの知る勇者ですよ」


 ルドルは、どこか願うようにそう応えた。


 エインは魔物の巣くう岩石地帯へ移動すると、迫る狂気に歯を食いしばりながら、一頭の巨人を瞬殺する。


 吹き出る血を飲みほし、すぐさま転移呪文、すでに正気があいまいになる。


 魔王城を駆け抜け、魔王の間とを隔てる巨大な扉を見止めたエインは、狂気に身をゆだねた。






 魔王は王座に座り、眉に皺を寄せていた。


 この7日間で、自分の認識がなお甘かったことを知ったのだった。


 勇者の戦略を前に、魔王はただ顔をしかめるほかなかった。


 魔王の誤算――そのすべては、勇者の装備にあると言える。


 勇者の装備を、外すことができないのだ。


 スカルフェイスの隙間から猿ぐつわをかませることには成功したが、全身を守るように覆う鎧や兜、加えて刀と剣も外せない。


 呪いの効果というやつなのだろう。


 さらにこの呪いが厄介なのが、勇者の狂化がいつまでたっても解けないことだ。


 これではどんな拷問も意味をなさない。


 もちろん、呪いの装備を解呪する術は探した。


 呪いを解呪する方法はただ一つ、魔族が使うことのできない神系呪文でしか成しえない。


 しかし、先の戦闘で落とした町の神父に人質をとって呪文を使わせる方法は不発に終わった。


 どんなに目の前で町人を殺そうと、体を痛めつけようと、神父は魔族のために呪文を使おうとは決してしないのだ。


……やはり、方法が短絡的なのだろうか?


 この問題は、勇者の信仰を捨てさせることと密接につながっているような予感があった。


 ならばと幻術をかけて解呪の神系呪文を使わせようとしたが、これも失敗に終わった。


 正常な神経ではないと、神系の魔法は使えないのだ。


 そして問題はもう一つあった。


 それは拘束した勇者をまたしても逃したことである。


 前回も一週間、今回も一週間……ちょうど七日キッカリに今回も勇者は消えた。


 これが偶然でないとすれば、答えは一つだ。


 勇者は、感染した状態でこちらに乗り込んできている。


 なるほどあの地獄のような絶命の苦しみも、狂気の中ではゼロに等しいだろう。


 魔王の背筋が寒くなる。


 感染の治療もまた、教会の開発した神系の呪文が必要だ。


 あの弱者は……どこまで先を読んだのだろうと。


 魔王の間の扉が空く。


 呪いの装備に身を包み、感染した勇者が雄叫びを上げ切りかかってくる。


 面白い、いいだろう


 魔王は立ち上がる。


 必ずお前を屈服させてやる。


 今はそのために、余の全能力を使うとしよう


 魔王の手刀と、勇者の双剣が激突した。


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