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勇者一行と魔王

「……魔王」


 魔王城、魔王の間。 


 虹色の輝きを発する白銀の鎧に身を包み、淡い青を称える魔鉱石が装飾された額あてを身に着けた黒髪の若い男


 勇者エインは目の前、王座に鎮座する男を鋭く睨みつけた。


「ようこそ勇者諸君。 お前たちの数々の武功は余の耳にも届いているぞ」


 魔王は、穏やかな口調で言った。


 一見すると黒髪長身、黒を基調とした革製の衣服に身を包んだ若い村人にしか見えない。


 しかし、エインにはわかった。この男から発せられる禍々しい魔力が、目の前の存在が間違いなく魔王であると告げていた。


「勇者さま……」


 豊かな水色の長髪を震わせ、青の法衣に白銀の杖を構えた彼女


 僧侶の女ランは冷や汗をかきながら勇者を呼んだ


「あの者は、今までに感じたことのないほどの力を感じます、ご用心を」


「ああ、わかっている」


「さっさとやっちまおうぜ」


 エインよりも頭二つ高い恵体。たくましい筋肉を覆う極厚の胸当て、防御よりも動きやすさを重視した装備に等身大ほどの斧を持った彼


 戦士アウルは筋肉隆々の腕に握られた斧を担ぎ、構えを完成させる。


「援護は任せて」


 体に不釣り合いな大きな三角帽子、紫のマントに身を包み、赤いショートヘアの下から覗く自信に満ちた瞳を持つ小柄な彼女


 魔法使イリスも世界樹の杖を構え、いつでも戦える体制だ。


「……頼もしい仲間だな」


 魔王の言葉に皆がプレッシャーを感じる、ただその口から発せられる言葉だけでも、並みの人間なら意識を刈り取られていただろう。


 その圧は、魔王が臨戦態勢に入ったことを告げていた。


「だがな勇者、余は知っているぞ、貴様らが余を前にして勇敢に戦える理由をな」


「…なんだと?」


「ふふ、余がただ、何もせず貴様らが来るのを待っているとおもっていたのか?」


 魔王は顔に微笑を浮かべると、王座から腰を上げた。


「その貴様らの希望が、絶望と同義であったことを教えてやろう」


「くるぞっ!!」


 エインが叫ぶ


 ――仮に、この場に村人がいたとしよう。その村人の目には、魔王が席を立った瞬間、勇者一行と魔王がその場から消えたように見えただろう。


 次に起こるのは、爆炎と粉塵、しかしその粉塵も刹那の間に切り裂かれ霧散する。


 魔王の間には今、常人ならかすっただけでも致命傷になりうる暴力が錯綜していた。


「極大疾風呪文!」


 イリスの放つ巨大な竜巻が、魔王目掛けて突き進む。


「ふん」


 魔王の手の一振りで、魔法使いが生み出したものと同じレベルの竜巻が発生する。


 同規模の呪文が激突し、相殺された。


「全能強化呪文」


 ランの魔法が、エインとアウルのステータスを跳ね上げる。


 そして風の衝突により発生した粉塵を突き抜け、エインとアウルは魔王に切りかかった。


 勇者エインの素早く正確な斬撃と、戦士アウルの重く鋭い斬撃が息の合ったコンビネーションと共に魔王へと放たれる。


 その閃撃を、魔王は両手の上腕のみで受けきってみせた。


 刃と腕が激突するたびに、金属音と火花が散る。


 勇者と戦士の剣技を受け、体を後退させながらも、魔王は余裕を張り付けた顔で二人の攻撃を捌いていた。


(伝説の剣でも切れないのか!?)


 かつての勇者が振るったとされる伝説の刃が、意図もたやすく魔王に弾かれる現実にエインは顔を歪める。


 無呼吸運動に勇者と戦士が限界を感じたその時。


「「どい てっ・くださいっ!」」


「!」

 

 その音が届くと同時、エインとアウルはその場から飛び退く。


 入れ違うように飛び出すランとイリス。


「極大熱線呪文!!」


「極聖十字呪文」


 灼熱の極太光線と、眩く光る巨大な十字の衝撃波が、取り残された魔王を襲う。


「!」


 魔法使いと僧侶のもつ最大威力の呪文が、魔王に直撃する。粉塵と共に爆音と衝撃が空間を駆け抜けた。


「やったか!?」


 着地同時、声を発したアウルの顔が一瞬で曇った。


 魔王のいた地点を起点に巻き起こる風が粉塵を払いのけ、無傷の魔王が姿を現したのだ。


 魔王の周囲に、直径20cmほどの大きさの光球が三十ほど召喚される。


「!」


 魔王が手を振るうと同時、光球が、四人それぞれへ向け迫った。


「っツ!」


 四人がそれぞれ回避運動に入る。 それを追尾する光弾。


「なっ」


 迫る8つの光弾、その内の一つにアウルは斧を振り下ろした。 着弾、同時に爆発、その爆発は残りの光弾にも誘爆し、アウルは爆炎の中に包まれた。


「アウル! くそっ」


 エインは体を錐もみさせながら跳躍し、紙一重で迫る10の光弾を避けると、自身を通り過ぎた光球めがけ雷撃呪文を放つ。呪文の衝突により、10の光球が同時に炸裂した。


 光球の爆風に吹き飛ぶ体の舵を取り、なんとか着地する。視界の隅で、イリスがランと自分に迫る光球を、エインと同じように魔法で迎撃した姿を確認する。


 ――ゾクリ


「!!」


 刹那、背筋に走る悪寒に、エインはとっさに背面へ向け伝説の剣を振り抜いた。


 刃が空を切る、その切っ先の数センチ先に魔王の余裕の張り付いた顔があった。


「――~~ッ!!」


 エインは左手をかざし、雷撃呪文を放つ。


 対し魔王は、暗黒呪文で応じた。


 至近距離で二つの呪文が激突する。 鋭い雷鳴と光が漆黒の闇を包み込み、その後訪れる爆発の衝撃波にエインの体が吹き飛んだ。


 体が地面を何度もバウンドし、転がり、やがて停止。 停止と同時、呪文を撃った左手に激痛が走る。


 見れば、腕がなくなっていた。


 ほぼゼロ距離からの勇者専用魔法と魔王専用魔法の激突だ、むしろこれぐらいで済んで運が良かった。


 そう思考すると同時、エインは同じ条件であった魔王を見、顔をしかめた。


 魔王は涼しげな顔をして、先ほどエインがいた場所に直立している。


 ランの回復魔法で、黒焦げになったアウルの体と、エインの失った左腕が再生した。


「どうした? こんなものか?」


 魔王はその余裕ゆえか、声をかけた。


「……く」


 エインは、顔をゆがめる。


 強い……今まで戦ったどんな敵よりも……これが魔王


 女神の加護を授かった自分達をまるで相手にしていない。


 しかし……どうにも引っかかる。


 エインは思考する。


 戦闘前の言葉もそうだが、今の魔王の戦いぶりだ、たとえば先ほどのイリスの疾風呪文に対して、あの暗黒呪文を使えば貫けたはずだ。


 なぜ相殺を選択した?


 というより、なぜ人型のまま戦うのか。 この土壇場で本気を出さない理由が……何か……ある?


「!」


 一瞬でエインの目前に移動する魔王、その手刀と、勇者の剣が激突した。



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