勇者ト魔王
二つの黒い影が、魔王の間で幾重にも錯綜する。
黒い魔力が衝突しあい、そのたび漆黒の波紋が空間に浮き上がった。
「……ッ」
魔王は顔を歪める。
全力を出せば、瞬殺できる、今もなお魔王と勇者の力量にはそれほどの差があった。
しかし、殺しても意味がないのだ。
次の瞬間には、全快となった勇者が転移呪文で飛んでくる。
殺さぬように加減する、それがこの幾重の呪いを重ねられ本能のみで戦う勇者に対しては、並々ならぬ消耗を魔王にもたらしていた。
エインは両腕を後方に伸ばし、双剣の刃先を魔王へ向け刺突の構えで迫る。
「っ」
対し魔王、刺突を放とうとする左右の腕へ向け、両手それぞれで暗黒呪文を放った。
二つの暗黒のエネルギーボールが勇者の両腕に着弾する。
「がぁぁぁああああああああああああああああああ!!」
「!」
そんなダメージなど意に反さないように、咆哮と共にエインは両手を突き出した。
暗黒呪文を貫き、魔王の両肩を掠める刃。
「ッ!」
魔王はとっさに距離をとる。
エインは暗黒呪文を突き破った両腕をだらりとたらし、獣のような唸り声を上げる。
黒い煙を上げるエインの両腕、鎧を通して血が滴った。
しかいエインは次の瞬間には魔王へむけ、痛んだ腕など気にしないように切りかかった。
荒々しい濁流ように繰り出される二刀流の斬撃をいなしながら、魔王は思考する。
確かに、ハルファの言うように認識が甘かったのかもしれない。
刃の掠めた両肩が痛む、こうも容易く傷つけられたこともその甘さの所為であろう。
切れ味は伝説の剣をしのぐであろう武器、その一刀が魔王の眼前に迫る。
魔王はそれを掌底で刃の側面から押し上げると、前蹴りを勇者の腹部に直撃させた。
吹き飛ぶエイン、体を回転させ着地、するとすぐに二刀を構え迫――
――エインが足を踏み出すよりも速く、魔王はエインの眼前へ移動、そして突き出すように放たれる蹴りが、エインを吹き飛ばし、壁に激突させた。
(甘く見ていた事実は認めよう、傷つけられたことも認めよう、勇者の脅威も認めよう――だが)
エインの目前に、魔王――
「ッッ」
魔王の目にもとまらぬ連続蹴りが、エインに反撃の隙も与えることなく着弾してゆく
その回数は瞬く間に1000を超え、蹴り終えた魔王は足を払うように振り、足に纏った魔力を解除する。
足の先から漆黒の飛沫が上がり、それが空気の中で薄まり消える
それと同時に、魔王は足を地面につけた。 意識を失ったエインの体は崩れ落ち地面に倒れた。
「勝つのは余だ」




