信仰の補強
三日後
猿ぐつわ、鉄の手枷と足枷をはめられたエインは、魔王の間、魔王の座る王座の横に倒れこんでいた。
手枷と足枷は鉄製だ、加護の力を使えれば難なく砕けるだろう、しかし加護の力の供給源たる魔力をカラにされた状態では、常人となんら変わらない力しか使えない。
目の前に……宿敵がいる、その状態でありながら何もできないもどかしさに、エインは顔をゆがめる
「勇者、貴様の仲間の死に様が、貴様を殺す方法を教えてくれた」
エインの視線など意に介した様子もなく、魔王はどこか独り言ちだった。
(……何か策があるのか? この数日、拷問がなかった理由と関係があるのか?……一体…何を)
アウルとイリスが信仰を捨てた原因が、痛み以外にあるというなら……なんだ?
「あの戦士の男は、魔法使いの小娘の正面の牢獄にいた、これは偶然だったのだが、ある時、戦士はこう言ったのだ。 俺が信仰を捨てればイリスを助けてくれるか? とな」
「!!」
エインは目を瞠る。みんなの未来を守ると約束したアウルの頼もしい顔が頭をよぎった。
「余は約束した、そして女神の気配を失った戦士を殺すことに成功したのだ、最後は実にあっけなかったな」
「……」
「魔法使いの女は、目の前で戦士が死ぬ様を見て、自殺したよ、信仰を捨ててな」
「……っ」
「あれは大変興味深い事例であった、魔族には決して考えつかない発想だ」
「……」
「しかし人間という生き物は、時に自分よりも他人を大切に思うことがある、これは大きなヒントだと思わないか? なぁ勇者よ」
その言葉に、エインの顔から血の気が引いた。
(……まさか…)
魔王の間の扉が開く、魔物に連れられ、一人の少女が魔王とエインの前に放り出された。
「うぇぇ、ママ……パパ……」
「先日滅ぼした村の生き残りだ」
「…っ……ッ」
先ほど頭に思い浮かべた最悪を前に、エインはもがいた。
体の自由が奪われていることも忘れ、ただもがく。
「どうだ勇者、信仰を捨てればこの小娘は助けてやるが?」
「……ッ」
エインは、力の限り魔王を睨む。
「……」
対し魔王は、無表情で指を鳴らした。
少女の片足が吹き飛んだ。
少女が絶叫を上げ、のた打ち回る。
「っ!」
エインは思わず目を閉じる、悔しさで、無力さでおかしくなりそうだった。
ただ、少女の悲鳴が聞こえる。
「イギャアアアアァァァアッ」
エインはただ無力な自分を呪い、目の前で苦しみ消えゆく命に謝り続けた。
勇者拘束6日目
エインは、茫然と目の前で行われる行為を見つめる。
魔王によって四肢を爆裂させられ、内蔵を潰された激痛に悶える男を見つめている。
「勇者さまぁぁ、お助けくださいいい、め……女神さばっ」
男の頭部がはじけ飛んだ。
脳症が飛び散り、こぼれ出た目玉がエインの目の前に転がった。
エインは、静かに涙を流す、しかし信仰は捨てない。
「……」
そんな勇者の姿を見て、魔王は目を細めた。
(ふむ……もう14人は苦しめたあと殺したはずだが……何か、間違えているのか?)
ただ殺すだけでは駄目なのか?




