女神の言葉
教会に、アウルとイリスの姿はなかった。
神官にランのことを託し、エインは教会を出る。
「もういくつもりか?」
教会の壁に身を預け、腕を組んだ侍祭の男ルドルがエインの背中に語りかける。
ルドルの言葉に、エインの歩みがピタリと止まった。
「…ルドル……妹のことは……すまなかった」
エインは背中越しに、水色の短髪の下に妹と同じ青い瞳を宿したルドルに声を発した。
「よせ、あいつも望んでいった旅だ。 お前の所為じゃない」
「……でも」
「そんな事よりも、今すぐ行くつもりなのか?」
「…ああ、アウルとイリス…それにリールを助けないと」
エインが転生してから時間が経ち過ぎていた。 救出に奔走するリールに何らかの異常事態が発生したことは明白であろう。
「俺も手を貸すか?」
「……いや、確かにお前も加護を持ってるけど……お前の加護のレベルじゃ、正直足手まといにしかならない」
「正直に言ってくれるな」
ルドルは自嘲気味に笑う。
「…すまん」
「…ほら」
司祭は一振りの剣を勇者に投げ渡す。
「!」
鞘に収まった両刃の剣をエインは咄嗟に受け取る。
「この国の名工が勇者のために打った剣だ、古の勇者が使ったとかいう伝説の剣には及ばないだろうが、下手な剣よりはましだろ」
「…恩に着る」
世界でも指折りの職人が打った剣であることは、エインには手にしただけでわかった。
冒険の最中で集めた中から適当な剣を用意するつもりだったが、この剣ならばそのどれよりも優れている。
自分が伝説の剣に頼り切っている間にも、人の持つ技術は進歩しているということなのだろう。
その事実が、この時エインには頼もしく感じた。
「二人の事、頼んだぞ」
「ああ、必ず助けてみせる……女神様は無意味な試練を与えない。だろ? 今までだって何度もピンチは経験してる。 それを乗り越えるたびに俺達は強くなった。今回だって同じさ」
エインは微笑し、剣を背負うと、転移魔法を唱えた。
エインの体が浮き上がり、すさまじい加速とともに空を翔けていった。
「……女神様……どうか……勇者にご加護を……」
遠ざかる勇者、その消えゆく夕暮れの空に、ルドルは手を組み祈った。




