fall wall
「fall wall」
僕たちは、出会った瞬間から“恋人”だった。
その時の僕たちは、決して「主役」なんかではなかったけれど。
寒空の下で煌びやかな光を帯びている、いかにもデートコースというようなビル街で僕たちは出会った。
「撮影、長引きそうですね」
このドラマの主演は今人気の俳優と女優で、タイトなスケジュールの間を縫って撮影に挑んでいるらしく、待ち時間はかなり長そうだ。
「そうですね、寒いから風邪引きそう…」
彼女B、と名付けられた君は、観測史上最低の気温を記録したらしい今宵でも、手袋をつけられずにいた。
「手袋、衣装にないんですね」
「そうみたいです、ここまで冷えこむとは誰も思いませんからね…」
ううむ。
なんとなく弾まない会話を噛み締めながら、リハーサルを迎える。
“はい、じゃあお願いしますー”
スタッフの掛け声とともに、エキストラが動き出す。
「じゃあ、手繋ぎますか」
「ですね」
彼女の手は、冷たくかじかんでいた。
「心が、暖かいんですね」
「まあ、そんなところです」
衣装の白いマフラーにうずめた君の頬は、赤く染まっていた。
“はい、OK!本番いきまーす”
時の流れには逆らえない。
本番が終わる、ということは
彼女との一夜限りのこの “関係” も終わる、ということだと気づいたのは、スタッフのその掛け声がかかった時だった。
どちらからともなく手を繋ぐ。
今日だけで五回は手を繋いだのに、明日からは隣を歩くことすらない。
ましてや君の名前さえ知ることはない。
やっぱり、不思議だ。
「これ、、、あげます」
「カイロ、、??」
僕は咄嗟に、ポケットに入れていたカイロを渡した。
「手、、、寒そうだったから」
「ああ、ありがとうございます」
「お疲れ様でした」
「こちらこそお疲れ様でした」
カイロに書かれた拙い文字は、君の元に届いただろうか。
白いスヌードにうずめた僕の頬だって、きっと赤く染まっていたに違いない。




