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朝食

 同じ階にある別部屋に連れて行かれた私は、少し広めのテーブルの上に三人分のテーブルセッティングが準備されているのを見て、一瞬、うわぁ……って言いそうになったのを堪えたが、どうにかしてこの場から去りたい欲求から、ちらりと後ろを確認するとドアも閉められて完全に逃げられなくなっていた。

 若干絶望した。

 しかも、更に言えば、既にテーブル近くに待機済みのシルカによってどうぞッス!と椅子を引かれて逃げ場は完全に断たれた。


 ……なぜ君が率先して退路を断つ?


 そんな嫌な気持ちから足がテーブルに向かわなかったが、ノア・ウィッツ・カッフェルタと彼が率いる侍従たち全員に物凄く見られていたため、私は致し方なくシルカが引いた椅子に向かい、そこに腰を下ろした。

 そして、その致し方なさが滲み出ている私の隣りにシルカが座り、ノア・ウィッツ・カッフェルタはその様子を見て対面するように反対側に腰を下ろし、食事をする人間が全員席に着いたのを確認すると、昨晩の紅茶に引き続きコンラッド・クーンズの手により次々と朝食が並べられた。


 ……帰りたい。


 確かに今から朝ご飯を用意してくれるって侍女の人が言ってたけど、さっきの部屋でシルカと一緒に二人で大人しく食べてろよ此処から動くなよ?ってことだったはずでしょ?

 だから、王子と一緒に食べてもらうために別部屋に用意してくるからここでちょっと待っとけよ?いいな?ってことじゃなかったはずでしょ?

 なんで一緒に……いや、原因は分かってるんだけど、と隣りに座って、朝っぱらから豪華ッスねぇ~とキラキラした目で感心したようにテーブルの食事を眺める少年を見てこっそりため息を吐く。


 ノア・ウィッツ・カッフェルタから朝食の誘いを受け、え、嫌です……と言う気持ちが前面に出てしまったために、は?と言ってしまった私は、しまった!とうっかり発言を取り消すために丁寧な言葉に変換させて断りを入れようとしたのだが、その私よりも早く、まるで狙ってるとしか思えないようなタイミングでシルカのお腹が鳴ったのだ。


 あれ?デジャヴかな?その時の音を出した人物は違うけど、昨日のお昼頃にも同じようなことがあった気がするんだけどどうしてかな?気のせ……いやデジャヴ……幻聴かな?


 いや、まさかね!そんな何人もね!お腹の虫で空腹を訴えてくるなんてね!と念のために音がしたソファの後ろをそっと振り返ると、あからさまにヤバいと言う顔をしてお腹を押さえるシルカと目が合った。


 まさかはやっぱりまさかだった。


 マジでか……と言いたげなのがありありと分かる顔をしているだろう私と目が合ったシルカは、テヘッと笑い数秒沈黙したかと思うと、すいませんッス!飯は自腹だったんで、まだ三日目だしイケっかな?って感じで空腹を酒で誤魔化してまともな飯食ってなかったんッス!朝飯って聞いたら欲望に腹の虫が負けたッス!だってオレ、オレ……女神様のリュミナス様と違って人間だもの!と土下座をしてきたのだ。


 いや、人間だものって、私と違ってってなんだ。私も人間だわ。

 まるで私が食事をしないでも生きて行けるみたいな言い方止めてください。食べないと私も普通に死ぬわ!

 大体、その、えー、女神様って言うのも、それそう言う本物とかそう言う意味じゃないし、もう一回言っておくが、私も人間だわバカ。普通の人間だわ。


 あとご飯代とかケチらないで普通にご飯を食べて栄養とって……とシルカの発言に戸惑っていると、クスクスと笑うノア・ウィッツ・カッフェルタに流れるように、ではご案内しますねと言われ、その瞬間には、いつの間にか私の座るソファの周囲は彼の侍従に囲まれていた。あまりの対応の速さにビビった。

 ソファの側に立つ彼らを睨み付けて、シルカだけ行けばいいじゃない!私は行かない!と言う意思を見せるために腕組んで足組んで断固として動かない姿勢を見せ続けたのだが、相手は意に介してはくれず、むしろ味方であるはずのシルカに促されて、またしても流れるように此処に連れて来られたのだ。


 何でだ。私、流され過ぎじゃない?

 川に落ちた葉っぱ並みに流されてるんですけど……と言うか、なんで敵に味方してるんだこの子。私の味方じゃなかったの?


 ってなことがあり、私は味方がいないことを儚みつつ、朝食を目の前にしていると言う訳である。

 神はいない。知ってたけど。

 

 真顔で並べられた出来立ての食事を見ている私に何を思ったのか、ちょっと待っててくださいッス~と言いながら、シルカがちょこちょこと私の目の前にあるパンやらスープやら卵やら肉やら水やら果物やら、とにかく私に出されたと思わしきもの全てを一口づつ口にして、流石王族が口にする食いもんッスねぇ~金と時間が掛かった味がするッス!と感想を述べ、リュミナス様とりあえず毒とか入ってないんで食べて大丈夫ッスよ!と宣った。


 ……いや、うん、そうだね。カッフェルタのこと信用してないもんね。しかも明らかに作り立てだもんね、怪しいよね?ってことは毒見するよね。うん。


 頼んでないけども。


 「……そう」

 「んじゃ、オレ、食べていいッスか!」

 「えぇ、もちろん構いませんよ」

 「いや、王子様には聞いてないッス」

 「……好きにしたらいいだろう」

 「ウッス!じゃあ食うッス!」

 「リュミナス殿もどうぞ召し上がりください」


 言い方!


 さらっとシルカに無下にされたと言うのに苦笑で済ませてくれた心の広いノア・ウィッツ・カッフェルタにホッとしていると、あ、もしかしてオレの方は毒とか入ってるとかッスか?オレ、毒とか効かないんで無駄ッスけど!とケラケラ笑いながら尋ねるシルカに第二撃を食らって心を抉られた。

 ……何故私を死に急がせるの。やめてください。


 そんな気軽に私を死へと追いやろうとするシルカは、ノア・ウィッツ・カッフェルタの背後に立つ侍従たちの視線すらも物ともせず、いただきま~すと目の前の食事をすごい勢いで消費し始めた。


 その様子を横目で見て、うわ~怖いものなしかよ、私の方が怖いわ恐怖だわ、と思いながら、させるつもりもなかった毒見がされた水が入ったグラスを手に取り、流石に毒見までさせて置いて食べたりしないとか人としてどうなのと、ジッと見てから恐る恐る口にして、ピタッとグラスを傾ける手を止める。


 水がただの水じゃなくてミントの香りがするレモン水だった。

 え、美味しい……なにこのサプライズ……とグラスから口を離し、グラスを覗くとそのグラス越しに何やら上機嫌なノア・ウィッツ・カッフェルタと目が合った。


 ヒッ!何!


 視線が合ったことに驚いてビクついた瞬間、盛大にグラスの中身が揺れた。

 あぶねっ!と咄嗟にグラスを慌ててテーブルに押さえつけるように置くと、余計にばちゃばちゃとグラスの縁のギリギリを荒波の如く揺れ出した。あぶ、あぶっ!いや!若干零れた!

 白いテーブルクロスを少し濡らしてしまったのを見て、私は何回液体を零しまくるの……とここ最近の水に関する自分の失態を思い出しながら落ち込む。


 もしや、私は水に呪われているのでは、とこれまでのことを振り返る。

 水攻めされるとか豪雨に見舞われるとか、紅茶を人様にかけるとか、零すとか……やっぱり呪われてない?と、私の水難に一番関係しているノア・ウィッツ・カッフェルタを見るとまだ私を見ていた。

 コワッ!


 なんでそんなに見てるのという意味で、何か?と聞くとふふ、と口元に手を添えて笑い声を漏らした。

 コワイ。やだ、何が可笑しかったの?コワイ。

 

 「失礼、見つめ過ぎてしまいましたね。お許しを」

 「……何かと聞いているのですが?」

 「いえ、ただ……今口にされた水は普段私が好んで飲んでいるものでして、気を利かせて侍女がいつも用意してくれるものなのですが、お口には合いましたか?」

 「……それは、お気遣いどうも?」


 まさか、呪いの効果を目の前で見れて笑っているとでも言うのか、と思ったら違った。と言うか、その質問をするために私は驚かされて水を零すはめになったの?

 いや、だって、自分が好きなものが私も好きかと言うことが聞きたかっただけとか……穿った目で見てごめんなさい。

 でも、自分は食事に手を付けないで人のことを見ている必要ある?無いよね?食べなよ。自分の前にある朝ご飯食べなよ。折角温かい食事が冷めちゃうじゃん。それに、ガン見されてると食べにくいんですよ。

 まぁ……本当は食べるつもりなかったけども。


 私を見ても何もない……いや、さっきみたな突然のハプニングは起こるけども、何もなければ何もないから、黙って食べるから、むしろ隣りのシルカの方が見ごたえがあるからそっちを見たらどうだ、とばかりに隣りに視線を向ける。


 その視線の先の人物は、ふむ、さっき毒見した時に思ったんッスけど、まぁまぁッスね!このパンならうちの王都の裏通りにあるパン屋のがモチフワでウマいッスとか、あ、でもコレは割と好きッスよ!このスープ、でも食感がドロドロしてるんッスよねぇ……泥?あ、泥みたいッス!砂みたいにジャリジャリしない泥スープッス!でもウマいッス!と、ポテトのスープに対して、おおよそ食事を用意されている立場の人間が食事時に出てくるとは思えない言葉を並べて感想を述べていた。


 スープを泥って……。

 ちちちち、違うんです!やっぱり彼のことも見ないでください!この子に悪気はないんです!ほんと、多分蔑む的な意味はなくて自分なりに美味しいって表現してるんだと思うんで!ほら、現に出された食事はもう少しで完食だから!

 ……ごめんなさい!


 そうして、ノア・ウィッツ・カッフェルタの後ろに並んで立つ彼の侍従たちの顔色を窺うように見ると、さっきまでは私たち(主に私)を射殺さんばかりに見ていたのだが、今は、カッフェルタの朝食に言いたい放題のシルカに照準を当てて殺気立った目で見ていた。

 さ、殺伐とした空気が流れているっ!

 もし、視線で殺せる能力があったら今頃死んでるわ!瞬殺だわ!

 そりゃ、自国の食事を貶されれば怒りますよね!ですよね!ごめんなさい!


 あぁぁぁ、お腹が痛くなってきたぁぁぁ。

 でも最早、お腹が空いているからお腹が痛いのか、胃の痛みでお腹が痛いのか分からなくないんですけどぉぉぉぉ。


 とにもかくにもまずはシルカを静かにさせなければと考えた私は、グラスの足の部分をぎゅっと強く握ってから手を離し、まだ食べ足りなさそうなシルカへお食べください、そして静かにしてくださいと言う願いを込めて私の分の朝食をシルカの方に寄せた。


 「ん?どうしたんッスか?」

 「食べろ」

 「え!……リュミナス様食べないんッスか?オレ、毒見したんで大丈夫ッスよ?……あれ、もしかしてオレが効いてないだけでリュミナス様には効いちゃったパターンのやつッスか!水ッスか!って言うかリュミナス様、水しか口にしてないッスよね!って言うことは水なんッスね!そうなんッスね!」

 「……黙れ、さっきからうるさい。それとも……私が黙らせるか?」

 「ヒィェッ!黙るッス!黙って食べるッス!ありがたく頂くッス!ウッス!オレ、ハラペコッス!でも、果物くらいは食べてくださいッス!オレの命に係わるッス!」


 このパンを無理やり口に詰め込んで黙らせるぞ、と言う方法を行う旨をシルカの方へ寄せる予定のパンが乗った皿を手に持って提示して見せたら、素直に聞いてくれたのでそのままシルカの前に置くと、シルカは慌てたようにまだ手を付けていない自分の分の果物を私の器に移した。


 いや、いらない……けど、うん、ありがとう、優しいね……。


 断る間もなく、シルカの分の果物も追加された私は、レモン水が入ったグラスと、唯一残った一人分の大きさのガラスコンポートに零れそうなほど盛られている果物を見下ろす。

 山盛りじゃねぇか。

 量、多くない?乗せ過ぎじゃない?シルカの分が無かったとしても、あの量の朝食を食べた後にこの量の果物とか胃が破裂すると思うんですけど。


 あ、そう言えば、ティエリア・ウィッツ・カッフェルタも尋常じゃない程食べ物用意してたな。何で貴族とかって量を必要人数以上用意するの?勿体ないと思う気持ちはないの?市民の血税が……いや、まぁ、そうじゃない貴族が居ることも知っているけど。

 だとしても、今ここにいる人物たちは多分、残ってもその残りをお昼に回そうとかそう言う食べ方をしない人たちでしょ?

 ん?ってことはあのお茶会で断ったあの量の食べ物が全て捨て……あ、イタタタタタッ!胃が、胃が痛い!これはお腹が空いて痛い痛みじゃない!


 コルセットに締め上げられているお腹を見下ろした私は、覚悟を決めてフォークを手に取り、山になった果物を頂上の方から少し掬っては口に入れ、咀嚼し、掬っては口に入れという作業を早食いにならない様に気を付けながら繰り返した。


 時折止まりそうになる手を叱咤して無心で食べる。全然減らない。地獄か。


 しかも、なんて言うか、口の中が多種多様なベリー攻めのせいで甘みを押し退けて酸っぱいしか感じない。結構な割合で酸味が強いのが多い。嫌がらせですか?

 いや、酸味とか関係ない。食べきることが大事なのだ。ただ、ただ珈琲的なものをください。出来るだけ苦い、いや、砂糖をたくさん入れてください。


 大体、何でこんなにベリーベリーしてるの?私がイチゴが好きだということをカッフェルタ側が知っているから?イチゴをたくさん食べさせることで果物にトラウマを覚えさせようと目論んでいるとか言うことなの?

 ナニソレ、私から好物を一つ消すと言う拷問?……自分で言っといてなんだけど、それは一体なんの拷問だよ。


 「リュミナス殿」

 「……」

 「本日はどういたしますか?もちろん、このまま此方でずっと身を潜めていてくださっても構いません。ですが、宜しければ私どもの見回りのついで、と言う形になってしまいますが町に出ませんか?」

 「……それも良いですが、その前に、会いたい人がいます」

 「会いたい……ですか?私が知っている人物でしょうか」

 「…………虚偽の報告で警護体制を壊した騎士に」

 「あぁ……。なるほど、彼ですか。それならばご安心ください。彼については現在、尋問の最中です」

 「……」


 危うく、太眉君って身体的特徴が口から出るのをギリギリ抑えた私に、答えながらニコッと笑ったノア・ウィッツ・カッフェルタを見て悟った。

 あ、これ、クライがまたノア・ウィッツ・カッフェルタに報告してないな、と。


 零れそうになるため息を飲み込むために、レモン水を口に含んだが、飲み込んだはずのため息を我慢しきれずに吐き出されてしまった。


 いや、ね。だって、なんとなく、そう、なんとなくね、クライがまた同じ過ちを犯しているのではないだろうかと思っていたんだよ。

 だって、ノア・ウィッツ・カッフェルタってばクライのことに触れなかったし!

 そして案の定、案の定だよ!案の定、私が知っていることを知らなかったし!言っておいてよ!クライ、ノア・ウィッツ・カッフェルタには言っておいてよ!自分の上司でしょ!?


 なんでなの?カッフェルタは報連相をもっと大事にしようよ……。

 うちはちゃんとしてるよ……私以外は。


 大体、ノーズフェリの場合、私が隊長なんて大それた役目についている実質ただの小娘なものだから、事後報告とか何かのついでにって感じで突然大きな報告をしてきて、後々私が勝手に心臓止まりそうになっているけど、うちで働く隊員たちについてはうちの四人の魔王たちがめちゃくちゃ神経尖らせて報連相させているよ。

 ……まぁ、ここ最近は、そちらのクライさんがやってくれたリンク・アンバートのことがあったものだから、隊員たちが報告する量が増えて管理する側も大変になり、報告する側も大変になったけども。以前よりも更に一切の漏れも許さなくなったけども。もし報告漏れなんかあったら厳しい処分が下るようになったけども。


 でも何故か隊員たちからは不満は聞かないんだよね……なんで?普通、急に色々と変わったり、始めたり、仕事が増えたりしたら不満って出るものじゃないの?

 それがなんで流石はリュミナス様ってなるの?何が?何が流石なの?おかしくない?みんな仕事の虫過ぎない?ちゃんと休暇を取っているか帰ったら調べよう。


 じゃなくて、待て待て、落ち着け私。

 今はうちの隊員たちのことは関係ない。ノア・ウィッツ・カッフェルタたちがどこまで何を知っているかって話である。


 クライが話さなかったのであれば、効率とか情報共有的な意味では話さないといけないことは分かっている。言ってもいいけど、私が伝えたら色々と端折り過ぎて意味ないよね。

 細かくお伝え出来ないし、リュミナス・フォーラットの性格上、最終的にはお前の国のことだろう、自分で調べろ屑が、とか言いそうである。

 ……なんて性格が悪いんだ、リュミナス・フォーラット。私のことだけれども。


 しかしよくよく考えたら、知らないなら知らないで、今はカッフェルタとの協力関係の点においては問題があるけど、スクレットウォーリアと言うか、うちの隊員的には問題ないんじゃないかと思い直す。


 私が情報を持っていることを伏せて、ノア・ウィッツ・カッフェルタと一緒に動いて情報収集をしている風を装っておけば、うちの隊員たちが動いていることが逸らせる。ミレットたちも上手くやるだろうし。

 それに、今の私にはミレットととの連絡手段があるから、こっちはこっちでちゃんと情報交換が出来る。

 ……うちの隊員たちが勝手に調べているのがバレるまで、クライがノア・ウィッツ・カッフェルタたちに報告するまでだし……。


 うん、わざわざ言わなくていいか!


 ドレスの形を壊さない様に背筋を伸ばして座っていた私は、いつもの癖で腕を組みながら背もたれに預けて、さて……と次のことを考える。

 だったら、なおのこと唯一ミレットたちが接触出来ないであろう太眉君には会っておきたい。

 だけど、コレって押し通してもいい意見なんだろうかと、考えていると、隣りから何かがテーブルに叩き付けられた音と共にパリンッと陶器が割れるような音がした。

 テーブルが揺れたことでガラスコンポートからころりと落ちるブラックベリーを見て、音と揺れのもとを辿って自分の隣りを見ると、シルカが持っているバターナイフをそのまま逆手に持ってパンとテーブルにグサッと突き刺していた。


 ヒィェッ!ナニナニナニナニッ!どうしたの!


 パンのど真ん中にバターナイフ刺さってる……と恐る恐るパンの下を見ると、思いっきりテーブルにバターナイフが突き立てられ、皿が真っ二つになっていた。ただ刺さってるだけじゃなくて、バターナイフがパンを貫通して皿が割れてテーブルに刺さってた。

 ……キィャァァァァァッ!シルカは一体、どうしたと言うの!

 コワイ。急にキレる年下怖い。何が彼の逆鱗に触れたと言うのか。


 「リュミナス様に行きたい所を聞いて、リュミナス様がそれに答えたんッスから、そこに行くべきじゃないッスか?それとも、なんか、やましいことでもあるんッスか?」

 「まさか、ですが女性に見せる様なところではないでしょう?」

 「誰にモノ言ってんッスか?」

 「シルカ」


 王子様が言ってる相手はリュミナス・フォーラット様ッスよ?と言うシルカに、え、まさか私の意見を却下されてブチギレていらっしゃるの?なんで?と恐々とシルカを呼ぶと、こっちを向いた真顔のシルカはノア・ウィッツ・カッフェルタ側から見えない方の目をパチンと瞑ってウインクをしてきた。


 ……え、まさかキレてるフリ!?


 ビビった……本気でビビった……。ノーズフェリの人じゃないシルカまでうちの隊員たちに染まってしまったのか!感染力ヤバい、最早病原菌じゃん隔離しなきゃと絶望していただけに大分安心した。

 良かった。うちに来るとみんなこうなるのかと思っていたことが覆されて本当に良かった。

 だけどシルカもそうだけど、スクレットウォーリアの人間って役者ばっかりかよ。やっぱり軍人辞めて役者になりなよ。貴族で役者とか新しいから受けると思う!


 あぁ、しかし、ホントにキレ出したのかと思って焦ったぁ、良かった───などと安堵している場合ではない!

 慌ててシルカの作ってくれた波に乗らねばと口を開く。


 「問題ないなら、是非ともお願いしたのですが?」

 「……分かりました。ですが、直接話をすることは出来ませんが構いませんか?」

 「えぇ」

 「では、食事が終わり次第、出かける準備を致しましょう」

 「何?」

 「彼は此処にはいませんので」


 そう言って、ノア・ウィッツ・カッフェルタは、やっと食事に手を付け始めた。

 優雅な様子で食べる様子を見ながら、いや、いないのおかしいでしょ、とノア・ウィッツ・カッフェルタをガン見する。

 監禁して尋問してるなら此処の地下とかに居なきゃおかしいでしょう。此処本拠地でしょ?何でいないの。じゃあ何処にいるの。え、意味が分からない。

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