報告
『……分かりました。キルヒナー様にもご協力頂き、何人かをそちらの調査に回しましょう。しかし、少々お伺いしたい事があるのですが?』
「何だ」
『リュミナス様は現在、捕まっていらっしゃり、尚且つ、カッフェルタの者に薬を使われ意識が無い状態であったとそこにいるシルカに聞きましたが……間違いは?』
「ない」
『ではその情報は、どこで、どうやって、いつの間に、手に入れられたのですか?』
全て話し終えた私がホッと息を吐いていると、沈黙して聞いていたミレットが、ものすっごいひっくい声で一言一言を区切るように問いかけてきた。
お、おおぉぉぉ……やべぇ。
そうだった、得意気に話してしまったが、これはクライがベラベラと話してくれた内容だった。
つまり、このことを話すと言うことは、その情報源の話をしなくてはいけないということである。
……ミレットが蜂の巣にすると言ってマシンガンをぶっ放した相手、レイラがモサモサ殺すと言わしめた相手であるクライと会ったということを。
クライと二人きりで会ったことがバレたら尋常じゃないくらい怒られる。
……これはもう、この言葉を発さなければなるまい。言うのはかなり勇気いるが仕方ない。とりあえず、話をいったん終わらせて、後から、ね、後から言い訳は考えよう。
ごくりと僅かに口内に溜まった唾液を飲み込み、私は覚悟を決めて口を開いた。
それが今、関係あるのか?と。
『チッ……いいでしょう。それもまたノーズフェリにて納得の行く話をして頂く事にしましょう。私たち四人の前で』
ひぃぇぇ……ごめんなさいぃ。
私に対して大いに文句があるのは分かるけど、怖いので舌打ちやめてくださいぃ。
なんか良くわからないけど、正座している未来の私の周りを取り囲んで見下ろしてくる四人の姿が見えるんですけど、やだ……こわぁ。
とにもかくにも、私の渾身のはぐらかしが効いたのか、シルカの悲鳴が聞こえたからなのか、ミレットは舌打ち交じりに私への追及を今は諦めてくれた。
しかし、ノーズフェリに戻った時に話さないといけないことが確定しているのだ。こわぁ。
どうやってクライのことを言わずに済む、もしくははぐらかすことが出来るのだろうか……あれ?もしかして無理じゃね?などと考えていると、ミレットが、ではリュミナス様の話を踏まえた上での警護体制についてですが、とさらっと話を切り替えた。
……いや、うん、発言権及び話の主導権などは私にないからいいんだけども。えぇ、はい。黙って聞きます。どうぞお話しください。
『まず、移動する際などリュミナス様の側にはそこに居るシルカという少年を必ず付けてください。許しはしたくはありませんが、眠られる時も側に置くようにしてください。決して一人になったり、カッフェルタの人間と一人で対面したりせず、仮に一人でと言われても必ず側に置いてください。その少年は王都からの使者と言うこと以外では詳しいことは分かりませんが、頭の固い貴族たちも貴女の命が何よりも優先させるべきであることは承知でしょうから多少使っても問題ないと思います。なので、危険を感じた場合は肉の盾でも生きた道具としてでも何でもいいので使ってください』
「……」
『次に、キルヒナー様の護衛については主にエイク・カーパスが行い、私とレイラは偽者の見張り、フィッシュとシャムロックは先にお話した通りの二人に付け、それ以外ではエイク・カーパスと交代でキルヒナー様の護衛に就かせます。その間に交代したエイク・カーパスには町民に紛れ込ませて色々と探らせるつもりです。そして、キルヒナー様にご協力を仰げるようであれば、護衛兵の数名にリュミナス様が仰った人物の調査を行わせます……ということで宜しいですね?』
「……」
『では、その様な手筈で行いますので。あぁ……それと、ルルアにノーズフェリに戻るように連絡致しました。到着次第そのまま此方に来る予定です』
「……何?」
……ん?なんて?
何かされそうな時はシルカを使ってでもお前はさっさと逃げろ、とさらっと言われて、恐ろしいこと言うなよ、とビビっていると、更に衝撃的な言葉が聞こえた。
え、なんて?ルルアがなんて?来るの?こっちに?……イデアに来るの!?なんで!
早馬で戻るとのことでしたので、ルルアでしたら恐らく昼前には到着するでしょう、となんでもない風に言ってくれているけど、いつ出発したのか知らないけど王都から早馬で来て昼に着くって馬を何頭潰してくる気なの?
馬が可哀想だから止めて……じゃなくて!
え、なんで呼んだの?なんで?今、資金繰りしてるんでしょ?嬉々としてシャムロック家と自分の家からもお金を毟り取ろうとしてる最中なんでしょ?強奪の最中なんでしょ?
……なんで呼んだの?
そもそも、ルルアが来たとして最悪の事態になった時、ミレットは止められるの?言っておくけど、私は無理だよ?
それに、今ミレット握っているであろうレイラの手綱だって抑えが効かない状態なんじゃないの?ルルアが来ちゃったらその抑えなきゃいけない手綱が二本になるんですけど大丈夫なの?殺戮マシーンと化した人物が二人になるんですけど……。
え、本当に大丈夫なの?戦場で笑いながら突っ込んで行く二大巨頭を止められるの?
サーッと引いて行く血の気を感じながら、何故呼んだのかと理由を問うと、フィッシュでも構わないとは思いましたがこの様な事態です、まだ経験が少ないことも鑑みてリュミナス様がいない現状で私に何かあった時、私の立場の代わりが出来る人物を考えるとシーラ以外ではルルアしかいないので、シーラと相談した上で呼び戻すことにしました、とさらっと言われた。
いや、そうかもしれないけど!
って言うか、シーラへの連絡が早い!
確かに、ミレットの代わりを務められるのはシーラかルルアだろうけども!そして、現在シーラは万一のために城に残っていて動けないのも分かってるけども!
……え、だから弁の立つと言うか交渉向きな残る私の側近はルルアしかいない状況という訳ですか?
いや、まぁ、元々次期侯爵として無理やり教育をさせられ、本当に貴族たちと表立ってやり合った経歴のあるルルアだから適任だと二人の意見が一致したんだろうけど……。
だからと言ってルルアだってダメでしょうよ。って言うか、この場合、うちの隊員ってだけで誰でもダメじゃない?
自分で言うのもなんだし、こんなこと言ったら自意識過剰なのは承知しているけど、ノーズフェリに勤めている隊員たちは私のことをとても大切というか、大事に思ってくれているのだ。
それはもう、過剰なほどに───。
だから分かる。
今の私の現状がうちの隊員たちに知られたら、誰でもブチギレ案件になるということが。そしてルルアがブチギレているであろうことが。
それも全て私のせいで……酷い……。
うぅっ、私が薬嗅がされて意識がなかったばっかりに、ミレットに連絡が取れず、私が誘拐されたと察したミレットがシーラに連絡して今の状況がシーラとルルアに知られてしまったと……。
この世の終わりかな?
大体、ブチギレている人たちのいるところにブチギレている人を連れて行ってどうすると言うのか。怒りの炎に炎を足して油を注いで酸素を送りまくってカッフェルタを火の海にするつもりですか?
……止めて下さい。
だったら、じゃあ、そこにいるんだからレイラに任せれば知らせなくて済んだんじゃないの?という話になるのだが、レイラは……うん、ね?すぐに物理で解決しちゃうから、ね。
ほら、生きるか死ぬか選べ、じゃなくて、死ぬか死ぬかしかないけど死ね、ってやつだから。結局選ばせてくれないやつだから。
だからまだ言葉でどうにかしようとしてくれるであろうシーラかルルアに話がいったんだろうけども。
一人は鉛掛けるとか人体を損傷させる薬撒くとか微笑を称えながら言う人だし、一人はキレやすい上に笑いながら超ザコばっかりぃ~とか言いつつ魔法と銃をぶっ放してレイラと戦場で無双する子だけど。
……あれ?やっぱりダメじゃない?
……カッフェルタの人たち、せめて、せめてルルアが到着した際は、突然彼女が来たことには触れずに、速やかにミレットの下へ通すようにしてください。
そこで一揉めすると目も当てられない事態になるから。ホント、お願いします。もう、連絡済な上に馬を潰してでも速攻で戻って来るって言ってる時点でルルアがヤバいので。
キレまくったルルアと対面するであろうカッフェルタの門番の人たちがルルアと対面したところを想像して、起こりうるであろう災いを思い浮かべ、苦悶の余りに顔を顰めると、ひぃぃ、死刑ッスか!オレ、死刑になったんッスか!と目が合ったシルカに非常に怯えられた。
……違う。死刑じゃない。何故私と目が合っただけで死刑だと思った。泣くぞコラ。
人から見ると自分がどう見えているのかが分かりやすく察せてしまったがことに傷付きながら、お前はうるさい、とそう伝えると、シルカはバチンッと勢いよく口を両手で押さえるとコクコクと頷いた。
その反応傷付くのでやめていただきたいのですが……と見ていると、そう言えば、と思い出した。
「シルカ」
「ふぁい!なんッスか!」
「私に報告することがあるはずだが?」
「報告ッスか?………………あ」
電話から耳を話して聞くと、考え込んだ末にシルカからそう言えば的な声が零れた。
……いや、うん。自分が死ぬかもしれないと思ったらそっちを優先させるよね。分かる。
でも、ウインクして舌を出しながらテヘッ!ってしてる場合じゃないからね。
君はもしかしてアレなの?私に怯えるそぶりを見せるのってフリなのかな?そうじゃないとしたら勇気あるよね。今更なので全然いいんだけども。
でも、ミレットに聞こえたらヤバいから止めなさい。って言うか、ミレットは地獄耳だから電話口から離れてても貴方がテヘッって言ったの聞こえてるからね。
ほら、なんか聞こえてるから。
電話から耳を離してるから何を言ってるのかちゃんとは聞こえないけど、地獄から這い出てくる悪魔の恨み言みたいな声が聞こえて来てるから。
「えっと~キルヒナー様に頼まれたおつかいの話ッスよね?」
「他に何があると思うんだ?」
「いや~エヘへ!」
私もこんな状況になったせいで忘れかけてたから人のこと言えないけど、エヘへじゃないからね?キルヒナー様に伝え忘れたッスじゃないからね?
何故忘れた。一回ミレットたちのところに戻ってるんだからついでに報告するチャンスだったじゃん。
シルカを見ながらもう一度、電話に耳を当てて、シルカが別口の情報を持っていることを知っているかとミレットに聞くと、舌打ちが聞こえ、どういうことですかと怒りを抑えたような声で逆に聞き返された。
コワイ。
私が悪い訳じゃないのに謝りたくなった。ごめんなさい。
知らなかったことが一瞬で分かる対応を頂いたところで、シルカが宰相様におつかいを頼まれて、私もその話を聞くことになっていたと説明しようとした時、急にミレットが声を潜めて、少々失礼します、と言うとそのまま電話をポケットにしまったのか、声が遠のき、代わりに衣擦れの音がした。
ただ、電話の向こう側で誰かと話している声が微かに聞こえてくる。なんとか耳を澄ませて拾おうと思うものの全然何も聞こえない。
一体、誰と話してるんだ。
そもそも一人だって言ってたけど、ミレットはどこで話してるの。
多分、みんなは私が案内された部屋に居るんだろうけど。隣りは簡易だけど結界付きの宰相様の部屋もあるし。
『申し訳御座いません。そろそろ部屋に戻らなければなりません。怪しまれますので一度切らせていただきます』
「分かった。で?」
『何でしょう』
「今のは誰だ、何処で話をしている」
『見回りのカッフェルタの騎士です。フィッシュたちにもこの会話が聞かれる訳にもいけませんので外の人気のない所を選んだのですが』
「そうか、それなら早く戻れ。何か分かり次第連絡を……いや、夜に私がする」
『畏まりました。その方が良いでしょう。シルカの別口の情報とやらもその時にお聞きします。それから、そちらの携帯ですがリュミナス様がそのままお持ちください。カッフェルタに所持していることをバレないように。では、リュミナス様』
「何だ」
『決して一人になりませんように』
「……」
『決して一人になりませんように』
「……分かってる」
『えぇ、そうでしょうね。では失礼します』
切る前にすごい念押しされた。
大事なことなので二回言ったみたいなやつである。コワイ。
通話が切れた電話を渋い顔で見ていると、ハイ!ハイ!と教師に向かって自己主張するが如く真っすぐに手を上げて、シルカが言い訳させてくださいッスぅ!と叫んだ。
……ビックリした。
心臓が飛び出る恐れがあるから急に大きな声出さないでください。本当にビックリしたんですけど。
え、何?なんの話だって?言い訳?とドッドッドッドッと鳴る心臓に、心臓痛い、と思っているとシルカは既に手を下げて、べたっとベッドに引っ付いているんじゃないかという土下座をしていた。
一瞬の出来事過ぎる。土下座への移行が早い。
「……頭を上げろ」
「はいッス!」
「声量を落とせ。うるさい」
「はいッス!」
「うるさいと言っている」
「はいッス!……あ、すんませんッス。寿命が尽きるまでは死刑は勘弁して欲しいッス」
……それ、普通に老衰じゃないの?との疑問が湧いたが敢えて触れないことにした。だって理由は散々聞いてるので、多分どう触れてもお金が絡んでいる気しかしない。
で、何だ、と電話を自分の近くに置きながら話を促すと、リュミナス様からの手紙と伝言を伝えたものの、味方だと信じてもらえずその証拠としてまずはリュミナス様と連絡を取れるようにしろと言われたことは話したじゃないッスか、と切り出し、此処に来るまでの間にあったことを話し始めた。
ミレットとエイクさんに尋問を受けたこと、その時に唯一自分のことを知っているはずの宰相様はソファで寛いで見てるだけで援護してくれることもなく、そのせいで殺されかけたこと。
宰相様の手前、本当の王命の話や勅書のことが言えないこともあり、結局シルカの所在が分からず、若干殺されそうになったこと。
私の現状を話したら漏れなく全員の殺気が増したこと。そして殺されそうになったこと。
更には私の無事が確認できなければ殺す的なことを言われたこと。
だから、結局宰相様と話す隙が無かったと締めくくった。
……大体殺されそうである。なんでなの?
そして、ぶっちゃけ、あの場に居たらその辺の関係で殺されるってよりも、レイラ・ボローニャからの八つ当たりで殺されるかと思ったッス!ホントのところはどうか分かんないッスけどあの中で一番キレてたッス!殺気立ってたッス!オレにとって権力と金は大事ッス、大事ッスけど……命と健康な体があってこその権力と金ッス!正直、そっちが気になってキルヒナー様のことは目に入って無かったッス!と至極真面目そうな顔して速攻で白状した。
……うわぁ。
君って子は言わなくてもいいことを……いや、うん、いいよ。うん、そうだね。逆にその理由で良かったとすら思うっているよ私は。
よく無事に戻って来てくれた。ありがとう。
だけど、リュミナス様そっくりの偽者が床に下着姿で転がされて居たッス、リュミナス様の部屋の端っこでレイラ・ボローニャが身動きしようとする偽者を見て、当たらないギリギリのところに真顔で文具とか椅子の足とか手当たり次第に突き刺していたッス、色んなものが刺さった床には人型の形が出来てたッス、とか……その話は聞きたくなかった。
そりゃ、殺されるかもって誰でも思うわ。
それにしても、本当に早く解決しないと私がカッフェルタの内乱問題に関わっている間に偽者の人が死んじゃいそうである。
そして、このことに関して全く関係のないイデアで生活をしているだけの一般市民が巻き込まれて死んじゃう。
色々と言いたいことはあるが、まずは偽者の人に服を、私の服を着せてあげてください。
私の服がいっぱいあるんだから着せてあげてよ。何故ひん剥いて床に転がすの?っていうかせめてベッドに寝かせてあげてよぉ……。
それに、何扱いなのソレ……。
その人、人だよ?生きてるよ?風邪ひいちゃうから、って言うかそもそも人権侵害だよ!
アレ?なんだか目眩もしてきたぞ、なんてこめかみ辺りを抑えていると、えっと……ダニエル・ウォーターハウスの話、するッスか?とシルカが頭を抱える私の顔を覗き込むように聞いてきたので、顎をしゃくって促すと了解ッス!と元気に返事をし、正座を胡坐に変えると生き生きと報告を始めた。
もうちょっと静かめにお願いします。
「えっと、まずはリュミナス様を殺そうとしている残党の首謀者の話ッスね。と言ってもッスね、イデアの内情とかもちょこっと混じってるんで一緒に話しちゃうッス。ダニエル・ウォーターハウス曰くッスけど、現在一番可能性が高いのは元騎士隊長のウィリアム・スタッブスだって言ってたッス」
「理由は」
「騎士隊長の地位に戻りたいらしいッス。まぁ、オレもウィリアム・スタッブスの立場だったらノア・ウィッツ・カッフェルタがいたら邪魔だなって思うッス。んで、そのウィリアム・スタッブスなんッスけど、ノア・ウィッツ・カッフェルタが来る前までどうも此処の騎士隊に宛がわれる金を国に水増しして申告して本来必要分を残して余りをそのまま自分の懐に入れてたらしいッスよ。いつからやっていたのかは分からないって言ってたッスけど、結構な額だと思うって言ってたッス。今はコンラッド・クーンズが管理してるんで触れないらしいんッスけど、金遣いが荒いとかじゃないからその金はまだあるんじゃないかって。世渡りの上手い人だったから金を着服したことも多分国は知らないのだろうって言ってたッス」
「……」
「んでですね、最近、その金を使ってノア・ウィッツ・カッフェルタ側じゃない騎士の何人かを懐柔して、うちの武器を購入させてるらしいんッスよ」
「何?」
「ほら、さっきリュミナス様が電話でミレット・ゴッシュにウィリアム・スタッブスがここ最近、友達の家に出かけてるって話してたじゃないッスか。そこで自分側に落ちて来そうな何人かを見繕って集めて、そんでこっそり金を渡しているらしいッス」
「金で釣ったのか」
「みたいッスね」
「そいつらの特定は」
「出来てないッス。うちの銃が保管されてる場所とか人物とか、銃の売買をしているこっち側の人物についてもウィリアム・スタッブスの警戒心が強くてつき止められてないって言ってたッス。銃の購入をしてる所を両方とっ捕まえれば一発だと思うんッスけどって聞いたんッス。そしたら毎回顔ぶれが変わるし、そもそもウィリアム・スタッブス自身は現場にいないし、そんなことをして自分がスクレットウォーリアと縁が切れてないってバレたら今まで潜んでいたのが無意味になるから深追いできないって言ってたッス」
「そうか」
「でも、もうちょっと調べてみるからリュミナス君に十分気を付けるように言ってくれって言われたッス。……あの、聞いていいッスか?」
「何だ」
「……ダニエル・ウォーターハウスって実は血の繋がらないリュミナス様の父親かなんかッスか?生き別れの~とか言う悲しい過去がある感じッスか?ハッ!……これ、もしかして機密ッスか?」
……違うわ。
そんな他に聞かれちゃまずことを聞いてるみたいにコソッと聞いても違うから。どこをどうなったらそうなったの。
シルカの良く分からない超推理にドッと緊張感が抜けながら、冷ややかに一言、馬鹿か?と伝えると、あ、やっぱり違ったッスか、違うと思ったんッスよね~!とあっさりと発言を撤回した。
なんなの……違うと思ったならなんで聞いたの?一か八かとかそう言うことなの?
……いや、いいよ。違うことさえ分かってくれれば。うん。それよりも、だ。
流石はダニエル隊長。
見張りがあるであろう状況下で此処まで調べるとかすご過ぎる。流石はあの血肉貪る系の屈強な男たちをまとめていた人である。尊敬の念しかない。帰ってきて。
むしろ何故こんなに優秀な人の代わりを私がしているのかという不思議。意味が分からない。
私が隊長をやってなんの得になるの?
「そんで、町の様子ッスね。これも聞いてきたッス。リュミナス様たちが来た時に起こった騒ぎに関係した人以外は落ち着いているって言ってたッス。会談の日に貴族の捕縛があったってノア・ウィッツ・カッフェルタが言ってたじゃないッスか。流石に水面下で準備してただけあって、この時までイデアの人たちは誰も知らなかったみたいッス。捕まった当初は驚いていたみたいッスけど、今は、そんなことしていたなんて貴族って怖いわね~って感じで、完全に他人事状態ッスね。ダニエル・ウォーターハウスは、まぁ、此処は聖騎士隊が常駐しているし、尚且つそのトップが王子だってことなんで、ここに住んでる限りは飛び火はしないと思ってるんじゃないかな……って言ってたッス。ただ、町の人間たちはカーロ家だとか、グノー家だとか、とにかく素行に問題がある貴族は、反乱に関係っていたかもしれないとかは思ってるらしいッスけど」
「……そうか」
なんか、ほぼほぼウィリアム・スタッブスが犯人で確定って感じじゃない?私を殺すことで一番のうまみがあるのはこの人だし。むしろ、此処まで怪しくて他に誰が犯人になれるんだ状態である。
ウィリアム・スタッブスについてはダニエル隊長が引き続き調べてくれるらしいからそれは任せて、私はマック・カーロ、いや、尋問されている太眉君についてノア・ウィッツ・カッフェルタから聞き出そう。
自分の意志じゃなくて魔法を使われていたのなら、その犯人を見ているかもしれないし。そうなるとその犯人がウィリアム・スタッブスと繋がるかもしれない。
道が開けて来たぞ!帰れる!と思っていると、シルカがぴくっと顔をドアの方へ向けると、スッと立ち上がった。
え、何事?と帰れることに喜んでいた私は、そのままドアの方に向かって行くシルカをポカンと追った。するとシルカは、そっとドアの向こうを伺うように耳を澄ませながら、音を立てない様にノブに手を掛けるといきなりドアを引いて開けた。
 




