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怪しい人物

 「まずはですねぇ、教えると言っておいてなんですが、お伝えできる話がほんの一部分ってことだけは了承して欲しいんですよねぇ」

 「何?」

 「なんせ、王子サマに呼び出されて交代するまでお姫サマの子守りもしながらの偵察だったんで、ピッタリとくっ付いていられなかったんです。それに、子守りの交代しても見張られていたんですよ~。ま、疑われていたのは僕じゃなくてディアンなんで、部屋に戻ってふか~いふか~いお休み中の本物のディアンを部屋で寝ている偽装をさせて置いてきたので今は大丈夫なんですけどね?」


 なんか、さらっとカッフェルタの騎士のディアンさん(本人)がなんらかの事情で意識がないという情報を得てしまった。

 なんでなの?なんでカッフェルタの人、すぐ人の意識を奪ってくるの?……コワッ。


 敵味方関係なしとか……無差別とか、うわっ、コワッ!なんて恐怖を抱いていると、クライが僕が三人くらい居れば主要な人間を全員マーク出来て、一人は囮に使えるから簡単なんですけどねぇ、とかなんとか言って分身する(すべ)を考え出した。

 やめろ。

 そんなこと言うから、今目の前にいるクライが三人に増えて、どうします?聞いちゃいます?僕色々と知ってますよ?と一斉に話しかけられる想像してゾワッとして震えたじゃないか。


 ……やだ、想像でもめちゃくちゃ話しかけてくる。お帰りください。

 それ以前に、お願いだから分身出来るようになっても分身しないでください。って言うか、分身出来るようにならないでください。

 貴方、アレだよ?一人相手にするだけで大変なんだよ?それが三人にもなったら私はお手上げだよ。


 三人なったクライを想像して震えた私を見たクライは、あれ?女神サマ、もしかして寒いですか?まぁ……この雨ですもんねぇ~、前髪越しの天蓋の布越しに外の土砂降りを見ているのか、私から視線を外した。


 ……違う。違くもないけど違う。


 「……うるさい、さっさと話せ」

 「アハハッ、そうでしたねぇ。ではでは、僭越ながら……。僕が女神サマの部下の二人を見たのは、多分、女神サマが誘拐された後、あったま悪いお姫サマが王子サマに叱られてベッコベコにへこんでびーびー泣いていた時です。そのお姫サマが泣き止んだと思ったら、面倒くさいことに気分転換に外の空気を吸いたいとか言い出したんで、いや~、ただでさえ色恋沙汰でこんな所に来て邪魔以外の何ものでもないのに空気読めないなぁ~、大人しく部屋に居ればいいのにホントに脳みそ足りてないなぁ~、お城育ちの姫サマの護衛とかチョロいだろうなぁって思って成り代わってみたら、蓋を開ければ姫サマあんなので僕ってばなんて見る目がないんだろ~って、痛感しながら護衛なので黙って付いて行ったんですよ」

 「……」

 「まぁ?そのお陰で面白いことに遭遇したんで、その辺はプラマイゼロかなって思ってるんですけど。アレですよねぇ、王族ってどこも勝手なのが多いですよねぇ?僕、この国を見限って思わずスクレットウォーリアの人間になろっかなって思っちゃいましたよ~」

 「……」


 あ、相変わらず悪口が酷い……。


 前回の王子への悪口に引き続き、今、貴方が脳みそ足りてないとか罵ってる相手、姫だぞ?ねぇ、自分の国の姫だぞ?

 ティエリア・ウィッツ・カッフェルタもノア・ウィッツ・カッフェルタもそこまで言われる筋合いはなくない?

 嫌いなの?ただ嫌いなの?嫌いだからそう言うこと言うの?


 だからって、気軽にカッフェルタの人間であることを辞めてうちに移住したいとか言わない方がいいと思います。いや、私もたびたび亡命しようとか田舎で暮らしたいとか思ってるけど。行動に移すと普通に阻止されるけど。


 でも、私は思う。


 口から出たら戻せないんだからな!と。

 聞かされてるのは私だけど、口から出したらダメなんだからな!言葉も吐血も吐いたら終わりなんだからな!後悔しても遅いんだからな!血塗れなんだからな!


 あと、ついでに言っておくと、スクレットウォーリアはカッフェルタと違って、そうそうカッフェルタの人間を移住させることを認めないと思うから止めた方がいいと思う。


 ほら……あれだよ。カッフェルタの人に対しての移住拒否には理由があるから。その、今までの積み重ねと言う名の敵対関係がさ……。

 だから、多分、戦争に関係ない普通の一市民でも無理だと思うんだ。親が憎ければ子も憎いみたいな感じで。

 こう言ってはなんだけど、スクレットウォーリアはホントにカッフェルタのこと嫌ってるから、宰相様という偉い人が先頭に立って今日の会談もああやって話を潰そうとしていた訳だし……。


 私としては戦争が終わるなら、是非とも和平を結んで欲しいのだけれども。損も得もどっちかの国に偏るんじゃなくて、お互いに平等な条件の下でって前提があるけども。


 取り敢えずクライのカッフェルタの王族に対する暴言にドン引きした私は、これ以上クライの口からその類の暴言を話させないために、どうでもいい、と渾身の白けた感じで伝えると、クライは、そうですか?まぁそうですよねぇ~と笑いながら全然思ってなさそうな軽い謝罪を二度繰り返してやっと話し出した。


 「で、その肝心の面白いことってのが女神サマの部下の二人です。あれはもう、素晴らしい喜劇でしたよ~。発見した時点でカッフェルタの騎士が険しい顔をしてスクレットウォーリアの毒婦の片方を背に、もう一方の毒婦から庇って所でしたからねぇ。アレはどう見ても修羅場でしたよ~!お姫サマさえいなければ僕、前席でかぶりついて見てましたね。終わった後はスタンディングオベーション。拍手喝采です」

 「……」

 「でも、やっぱりお姫サマが居たんでそれも出来なかった訳ですよ。お姫サマに教えちゃったら、正義感振りかざして、何事なの!とか言って行っちゃうでしょ?そんなことされたら面白さが減っちゃうじゃないですか~。だから取り敢えずお姫サマの視界に入れない様に誘導してその場から離れて、僕は意気消沈気味のお姫サマに気を使ってる風にお姫サマが見えるギリギリ、そっちの毒婦たちの話し声が聞こえるギリギリの丁度いいところで警護についているフリをしてたんですよ」

 「……」

 「そしたら、そし、たら、ぷっ……ククッ」

 「……」

 「カッフェルタの騎士がですよ?なんて言ったと思います?ふふ、何故その様にルーナ様を貶める様なことを!って!貴女の言動には目に余るものがあります!って!ルーナ様を何だと思っていらっしゃるんです!って!アハハッ、普通言わないですよねぇ。この国の貴族の令嬢サマでもなく、仮にもお隣からいらしてるお客サマに、騎士っ、騎士如き、がっ、ブフッ!お前こそ、そのルーナ様の何を知ってるんだって思ったら腹が痛くて!コレを喜劇と言わずして……ッ!」


 段々と声が震えだしたクライは、我慢できなくなったのか吹き出しながら、ね、喜劇でしょう?と私に同意を求めながらも、興が乗ったのかそのままぺらぺらと話し続けた。


 いや、どこら辺が喜劇?私からしたら悲劇である。色んな意味で。

 全然面白くない。もう一回言っておくね。全然面白くないよ!

 むしろ絶望した。折角悪口を言わない様に釘を刺したのに意味もなくて絶望した。そして、悪女(男)作戦の計画が順調に行っていることに絶望した。


 何処のカッフェルタの騎士かは知らないけど、か弱い女性と言う名の皮を被った悪女(男)によって、落とされようとしている!


 いや、待てよ?そのカッフェルタの騎士が、ただの騎士とは限らないぞ。それなりに地位のある人かもしれない……。やべぇ。

 彼女たちが此処に来る前から狙っていたのはノア・ウィッツ・カッフェルタの侍従の近くの人間だ。狙うならその辺りだ。

 だけど、たった一日でそこまで食い込めるとも思えないし……もしかして、妥協したのだろうか?

 

 ノーチェとルカという二人の人となりを今日に至るまでにそれなりに知った私は、なんとなくで感じる確信に胃が痛くなった。頭も痛い。


 あの子たちなら、あの見回りに行ってくると言った時に引き連れ居て行ったカッフェルタの騎士たちに満遍なく種を撒いていたはずだ。

 多分、その中で見つけたんだろう、悪女(男)の餌食にするに最適な人を……。


 そして、その人をノーチェとルカが持てる力、いや、持てる女子力でもって短期決戦のつもりで全力でその小さな芽を刈り取りに掛かったとして、クライの言ってことが起こっていたとしたら……!


 か弱い美少女を背に庇ったカッフェルタの騎士が、ノーチェにいびられるルカ扮するルーナを憐れに思ったのか、庇護欲が沸いたのか、恋に落ちたのかは分からないけど、その美少女に悪い印象を抱いていないことは確実である。

 そして、そんなルカを見て、見るに見かねた善意のカッフェルタの騎士が悪女たちの作戦に釣られてしまい、予定通り、喋ることも出来ず、毒々しい美女に虐げられるか弱く可憐そうな美少女(ホントは男)側に付いた……。


 誠に恐ろしい子たちである。


 特にルカ。あの子のポテンシャルがコワイ。シャムロック家コワイ。白薔薇の姫君の血がコワイ。そして、ここまでルカを仕上げたルルアとシーラがコワイ。


 これでこの子たち、私よりも年下なんだよ?同じ学校を卒業した言うなれば後輩なんだよ?今は部下だけど。

 3、4歳の差でこんなになるなんて誰が予測していたというのか。この差の何が私と彼女たちの間に溝を作ったのか。貴族?貴族という血がみんなをこんな風にしてしまうの?

 年下ってだけで、いや、貴族ってだけで距離を置きたい気持ちである。私以外の人みんな貴族なのに。絶望的である。


 ……だが、そんなことになった切欠は間違いなく、私が居なくなったことが原因で、全面的に私が悪いのだ。お先真っ暗すぎる。

 全ては私があっけなく誘拐されたせいで……私があっさり捕まったばっかりに……。


 これから起こりうることを考えて、カッフェルタのみなさまに土下座をして周りたい。私のバカ。こんなことになるなら宰相様がとか城がどうとかは後回しにして、全力で盾魔法を作って、ノエル・クリゾストームから逃げればよかった。

 そしたら、こんな胃の痛い思いはしないで済……むことはないだろうけど、軽減されたかもしれなかったのに。……今更悔やんでも手遅れなんだけど。


 どうせ……どうせ、私が捕まった後、誰も止めなかったんでしょ!みんなどうせ、やれやれとばかりに推奨したんでしょう!

 (敵陣で無茶をするノーチェとルカの身が)危ないし、(怒髪天をついてブチギレてるうちの人たちのせいでカッフェルタの人たちの身も)危ないんだから止めてよ!


 ……けれども、もう悪女(男)作戦が発動してるし……うぅっ、どうしよう……でも……あぁぁ、絶対にムリだぁぁぁ……本当に、本当にムリなのにぃぃ……。

 でも、仕方ない……。

 嫌でも無理でも、私が関わっても何ともならないことは分かってるけど……もう、分かってるけど分かった!



 自力で逃げるのが不可能なら、私がカッフェルタのいざこざをどうにかして解決して、さっさとみんなの所に戻るしかない!



 運良くって言うのもおかしいが、私は既にカッフェルタに協力することになっているし!私さえ戻れば止められる!少なくとも悪女(男)作戦は止められる!……多分!

 ……あぁぁぁぁ!でも出来ない気しかしないぃぃぃ……でも、やるしかないぃぃ……。

 酷いぃぃぃ!カッフェルタとスクレットウォーリアが共謀して私の内臓(主に心臓と胃)を殺しにかかるぅぅ!敵対してるのは嘘かよぉぉぉ!建前かよぉぉぉ!実は仲良しなのかバカぁぁぁっ!


 うぅっ、やるしかない、いや、しかないじゃなくて、やらなくてはいけない……泣ける。

 別に甘んじてる訳じゃないけど、泣きぬれて死体役に甘んじている場合じゃない。

 こうなったら死ぬ気で、死ぬ気でカッフェルタの内乱を片付けてやろうじゃないか!

 やれる!他の魔法のセンスがゼロ過ぎて血反吐吐きながら盾魔法を匠の域にまで到達させた私だ!頑張ればやれる!そう、やれるはず!


 だから……だからホントに一生のお願いだから、私が戻るまでは大人しくしていてくれ!


 味方の悪女(男)作戦を潰すためにカッフェルタに自ら全面協力をする意思をこんな風に固めるはめになるなんて、とギリッと歯噛みする。

 しかも、私の非力さを知っている側近たちにこんなことをしようとしていたのがバレてみろ。

 私、死ぬ。酷い。どうしたって死ぬ。精神的に殺される。味方に、というか、うちの側近たちに殺される。酷い。


 神様許さない。ホント、私が死んだ暁には神様覚悟してろよ。

 ビンタ……は威力がないから、物理的に何か持てたならば、足の小指……そう、足の小指を狙って重点的に重たい物を落としてやるんだからな!覚悟しておくんだな!


 そうして、神様への復讐方法を決めつつ、逃げることしか考えてなかったが、現実問題、絶対に逃げられないこともあり、泣く泣く腹を決めてカッフェルタのいざこざに関わることを決めた私は、こうなったら徹底的に聞き出さなくては、と未だにノーチェたちの修羅場話を続けるクライを半泣きで睨み付けた。


 「……で、他は何を知ってる」

 「あれ?この話はお気に召しませんでした?まだ、もうちょ~っと続きがあるんですけど。あ、それとも……僕の話を信じてくれる気になりました?」

 「私が信じるか信じないかはどうでもいいだろう。お前はさっさと全部話せ」

 「酷いですねぇ。こんな危険を冒して女神サマに外のことをお伝えしている僕に、そんな突き放した言い方するなんて」


 なんか、クライが此処にいる理由を私のせいにされた。


 え、おかしくない?自分で来たんじゃん!自ら不法侵入したんじゃん!頼んでないじゃん!と思ったら、自然とお前が勝手に来たんだろう、て淡々とした言葉がスルッと出て来た。

 そしたら、えぇ?確かに、アハハッ!違いないですねぇ、って言われた。


 違いないですねぇって……。も、もぉぉぉ……もぉぉぉぉっ!


 人が真面目にっ!ホントそういう、ホントそういう所だよ!いちいち、いちいちだよ!

 もう直そうよ……いや、自分で直せないなら、そう、病院。病院行けばいいよ。病院はみんなに対して平等に開かれてるものだから行ったら相談に乗ってくれるよ。私も胃薬で医者にはお世話になってるから。早めの治療が大事だよ。


 組んだ腕の二の腕をぎゅっと握ることで頭を掻き毟りたくなる衝動を抑えた私は、深々と吐いた息と共にその衝動を追い出し、目を閉じながら柱に感じた疲労感を乗せるように凭れ掛かった。

 お帰り頂きたい……。

 もう、うちの隊員たちの話とかシルカに聞くし、ノア・ウィッツ・カッフェルタたちの動向は自分で確かめるからお帰り頂きたい……。

 何もかもを上回る疲労がドッと来た。


 どうしてくれるの。この今世稀にみない厄介事を解決しようと乗り出そうとした私の気持ち。


 「……お前、もう失せろ」

 「怒っちゃいましたか?」

 「……」

 「困りましたねぇ。どうしたら機嫌を直して貰えますかねぇ?」

 「お前がさっさと必要なことを話すか、目の前から消えるかすれば多少はマシになるが?」

 「じゃあ話しますよ。いやですねぇ、話すに決まってるじゃないですか~。ふふ、じゃあ、取り敢えず僕は女神サマが僕のこと信じて聞いてくれている、と勝手に前向きに思うことにしますね。ってことでぇ、まずは手始めに僕からみた内部の人間で怪しい人物について話しましょうか」


 ぐったりしたまま目を開いてクライを見ると楽し気ノーチェたちのことを語っていた時とは違う、愉快さを前面に押し出してニィッと笑みを深めたクライが、まずは一人目、とピッと指を一本立てた。


 ……一人目ってなんだ。何人いるつもりで話す気なんだ。あと、信じてはいない。


 「さっき話した毒婦たちの餌食になってた騎士…………の側にいたひん曲がった性格が顔に滲み出てる騎士とその家族ですね。あ、ビックリしました~?いきなり毒婦たちが当たりを引いたと思ってビックリしました~?」


 うるせぇわ!

 だったら意味深に間を開けるんじゃない!とギッと睨み付けると、コワイコワイとクライは笑った。

 ……私がレイラだったら全力でグーで殴ってるんだからな!壁にドーン!ってなってるんだからな!貧弱な私だったことに感謝して!


 「元々、お姫サマの護衛に成り代わる前は、僕、騎士の中に顔を変えて紛れて騎士たちの事を調べてたんですよ。内部調査みたいなものです。この時は成り代わっている訳じゃなく、架空の人物として騎士たちの中に紛れ込んでいるんです。あ、コレについては王子サマにも教えてないので、いくら女神サマでも僕がどれかって言うのは教えられないですけどねぇ。ヒミツです」

 「……」

 「それで、騎士たちの話なんですけどね、騎士たちには二通り居るんです。どこでもそうでしょうが、大多数が教養のある貴族の人間、そして優秀な市井育ちの人間です。騎士になるには、そちらの兵と同じで学校に通い、王都で試験を受け、王サマからの許可を経てやっと正式に騎士になれるんですけど、それでも、清廉潔白を掲げるカッフェルタにもよろしくない人間もいましてねぇ?バカでも入れる裏口、というものもあるんですよ」

 「……金を積んで入ったのか」

 「そのはずなんですけどねぇ。あぁ、もちろん、金がなくても頭が使える者なら入れさせるっていうパターンもあるんですけど、アレは馬鹿なのでそのパターンは無いはずなんですよ。だったら金を積むしかないじゃないですか。それなのに、その男の家って言うのも一応貴族の端くれなんですけど、金を積めるほどの金を持っている家じゃないんです。じゃあ、どうやってその金を工面したんでしょうねぇ?」

 「……内乱の首謀者である貴族と繋がってると?」

 「その血筋の貴族とですけどねぇ」

 「……」


 胡坐を掻いて、くるくると立てた指を回していたクライは、さて次です、と二人目を表すように指を二本立てた。


 「二人目は女神サマも会ってるはずなんですけど、覚えてますか?ほら、そばかすの」

 「……」

 「あれ、もしかして覚えてない感じですか~?アハハッ、カワイソーですねぇ。だけど、顔の印象が残らないとか暗殺者向きですよねぇ、と言っても顔の印象が残らないから候補に挙げた訳じゃないですよ?彼、戦争で家族を亡くているんで家族はいないんですけど、あ、もちろん戦争ってのは、スクレットウォーリアとのですよ?」

 「……」

 「父親が死の間際、うわ言の様に、銀色の化け物がこっちに来るって言って震えていたそうです。女神サマに対して個人的な恨みがありそうじゃないですか。そんな人間が単独で女神サマに接触をしたとか聞いたら……怪しさ満点ですよねぇ」

 「……」


 一応言っておくが、私は彼のことを覚えていない訳じゃない。

 名前を覚えるのは絶望的だけど、顔を覚えるのは割と得意な方なのだ。

 アレでしょ?私がティエリア・ウィッツ・カッフェルタのお茶会に強制参加させられた後、迷子になった時に会った人でしょ?エイクさんに絡まれて泡吹いて倒れそうになってた……マジか。


 心臓というか心が痛い、と悲しくなっていると、クライはそれじゃあ次です、と三本目の指を上げた。


 「三人目は王子サマからの命だって嘘の情報を伝えた騎士です」

 「まぁ、妥当だな」

 「だけど、身に覚えがないって言うんですよ」

 「は?」

 「おかしいですよねぇ?嘘吐いているようには見えなかったんですけど、間違いなくその騎士が門にいた騎士たちに命令を伝えたって言うのに……」


 なんで若干ホラーテイストで話してくるの。


 え、ホラー案件なの?そうなの?ホラーなの?もう一人の自分なの?と思っていると、言っていることが本当なら、僕みたいに成り代わる魔法が上手い人間だったか、もしくは、精神乗っ取る魔法を使われていた、とかになると思いますけど、とカラカラと笑った。


 どっちにしろ怖いわ!


 「そして最後に、イデアの聖騎士隊をまとめていた元騎士隊長サマです」

 「……」

 「つまり、王子サマに地位を追われちゃった人ですね!余りにも成果がないからどこか辺境に飛ばされるはずだったんですけど、どうやってか騎士隊の中に居座り続けてるんですよ。まだ元騎士隊長サマの頃に仕えていた騎士たちもいるもんですから王子サマはすごい邪魔そうですけどねぇ。……まぁ、元騎士隊長サマが此処にしがみ付く理由は察しがつくんですけど」

 「何?」

 「イデアってずっとスクレットウォーリアと戦ってきた最前線じゃないですか~。そうなると、やっぱり知名度に加えてお給料も高かったりするんですよねぇ。なのに、その美味しい地位から下ろされたなんて面白くないじゃないですか。だけどしぶとくしがみ付いていると~、そこに!現状を打破するに打って付けのチャンスが!」

 「……」

 「アハハッ、怒んないで下さいよ~。ま、そう考えると、女神サマを殺すことで王子サマは窮地に陥るし、上手くいけば、王子サマが矢面に立って、自分の地位が戻ってくるかもしれない……なんて思ってもおかしくないじゃないですか~」

 「……それで終わりか?」


 取り敢えずは、と言って両手の指を四本づつ立てて指先を曲げたり伸ばしたりしながらニヤニヤしていたクライはパッと指を広げた。


 「で、なんでその四人を上げたかって言うと、その全員が最近、頻繁に町に出ているからです。その内の二人には王子サマから疑われて例のお話を聞かされて監視されてます。あ、僕も入れると三人ですねぇ」

 「……」

 「ついでに僕が疑われた理由って言うのは、女神サマたちにお遊びを仕掛けたのがお姫サマ経由で知られたからです」


 いやですよねぇ、出来るだけ裏もないクリーンな人間を選んだって言うのに、とひょいっと肩を上げた。




 自業自得じゃねぇか。

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