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夢日記  作者: 橘 舞子
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憎悪

殺してやる。

殺して、やる。


憎悪は、人を狂わせる。




私には、兄がいる。

幼い頃から仲が良く、気が付けば、私は兄を愛していた。

兄も、同じように私を愛してくれた。

兄は私の長い黒髪が好きだと、よく撫でてくれた。

壊れ物を扱うように、優しく。


兄が異母兄妹だと知ったのは、十八の時。

兄はその事をずっと知っていた。兄の本当の母親の居場所も知っていて、時折会っていた。

黒髪の綺麗な、優しい人だと。



二十歳の冬。

私は兄の子供を身籠った。

母と父は発狂し、絶対に産むことを許さないと私と兄を引き離そうとした。


本当の兄妹ではないのに。

何故許されないのか。


兄の母なら、許してくれるだろうか。

兄と変わらず、私を愛してくれるだろうか。



雪の降る朝、兄と二人で家を出た。

兄の母親に会うために。

着く頃には夜になり、冷え込みは更に強くなった。


兄は私を、妹とは言わずに母親に紹介した。

母親は大層喜び、歓迎してくれた。


まだ空気の冷たい春のある日、母と二人で海を眺めていた。

私の体を気遣ってくれる優しい母に黙っているのが辛くて

本当の事を打ち明けた。


貴女の娘ではないけれど、貴女の愛した夫の娘ではあるのです と。




母は笑いながら私の手を掴み


海へと引き入れ そのまま水の中を引き摺り回した。

水を吸った衣服が重く、抵抗ができない。



お前のせいで。

お前のせいで、あの人は私から離れた。

あんな汚い女の子供。

産ませるものか。そんな 穢れた子を。


母は笑いながら、叫びながら、もがく私を水中で引き摺り回し続けた。



どうにか手を振り払い、逃げ出す。

追ってくる 母。

家まで逃げれば、兄がいる。

早く 早く。



必死に辿り着いた家の庭で、兄は薪を割っていた。

逃げてきた私を抱き止め、うまく話せない私の声を懸命に聞いてくれた。

追ってくる 母。

泣きながら

笑いながら。



殺してやる

殺してやる


母は叫び、私に襲い掛かってくる。


兄が

斧を 振りかざした。


飛び散る 鮮血。

酷く赤く、勢いよく 噴き出す。


綺麗 だ。



刺さった斧を自分で抜き、母はそれを私に向かって振り下ろした。

刺さったのは

兄の胸


兄は呻き、その場に倒れた。

溢れる黒い血と 涙。


母は私に馬乗りになり、再び斧を振りかざした。

私の胸に刺さる、斧。

痛みは ない。



何度も

何度も

何度も

何度も



痛くはない。

痛くはないけれど、酷い恐怖。


憎悪に歪んだ母の顔が、黒い血しぶきと共に目に焼き付く。


視界の端に見えた、誰かの脚。


父だ。

手には、斧。


振りかざされた刃は、真っすぐに。

真っすぐに 母の頭へ。


崩れ落ちてくる、割れた母の顔。


怖い

怖い


何が 起きた。

何故 こんな 事に





目が覚めた。

左胸が、痛い。

誰かの記憶の追体験のような夢。

非常にリアルで、未だに鮮明に覚えている夢の一つ。

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