第八十一話 「塔の上の狂騒曲」 妖怪「ステータス上位」登場
1
朱い仮面と黒い鳥 二人の天狗が闇を焦がす
心の闇の奥底に たどり着くのはいつの日か
てんぐ探偵只今参上 お前の心の悪を斬る
「11階の竹下ですが」
このタワーマンションでは、階数を名前の前につけるのが慣習となっていた。
「どうもどうも、22階の桝田です」
「ごめんなさい。ゲーム内でメッセ送るの面倒になって、直電しちゃった」
「たしかに電話の方が早いわ。オーディーン退治のご協力感謝です」
「いえいえ。ジュエル目当てですよ」
「戦果は?」
「Sクラス三つゲット」
「いいなあ。うちはS+が一個」
「それはそれで」
二人は人気ゲーム「バラライカ」の話をしていた。北欧神話やギリシャ神話、インド神話など、さまざまな神を下僕とし、更なる強力な神を育てていくゲームである。11階の竹下木の葉は、同じタワーマンション内に女性プレイヤーがいることを知り、コンタクトをとって以来、22階の桝田理緒とはよきゲーム仲間であった。
「あ、子供が起きてきたので」
「あ、じゃあまたね」
11階の木の葉はシングルマザーで、三歳の息子がいる。その笑顔を見るたびに、つまらない仕事を頑張れると木の葉は思う。彼女はまだ小さな息子の頭部を、包み込むように撫でた。
「お前はSクラスだねえ」
彼女たちの住むタワーマンション「エデン」は、60階建ての、農地ばかりのこの盆地に似つかわしくない巨塔だ。草原に突然にょきにょきと出現した近代だ。木の葉は当時の恋人とともに新居のつもりで購入した。しかし彼は浮気をして出てゆき、親権を取った息子と、ゲームだけが残された。
木の葉は「自分のクラス」をゲームにたとえて分析してみる。
年齢はもう31だし、クラスCか……。
【11階の竹下木の葉】
年齢 :C ルックス:B ファッション:A 年収 :B
つきあい:A 子供 :S 将来性 :A よくいく店:S
一方、22階の理緒のスペックはどうだろう。
【22階の桝田理緒】
年齢 :B ルックス:B ファッション:B 年収 :B
つきあい:B 子供 :なし 将来性 :B よくいく店:A
「ふん、22階に住んでる以外、私の方がスペックが上だわ」
しかも彼女には最悪の男がいる。多少イケメンかも知れないが、DV男だと悩みを聞いていた。「男:E」のペナルティだ。
それに比べて──木の葉は新しい若い男と知り合っていた。同じく「バラライカ」のプレーヤー仲間で、大阪に住んでいる24歳。「男:A」とボーナスポイント追加だ。
つまり──
「私は理緒よりステータス上位」
木の葉はほくそ笑んだ。
パートの時間が来たので、木の葉はエレベーターホールへ向かった。このタワーマンションでは、エレベーターは高層階用と低層階用に分かれている。木の葉は「上」を押す。
一度高層階──30階以上まで上り、高層階の住人が乗ってくるエレベーターに乗るのが、彼女のひそやかな楽しみなのだ。目的は、上層階の人々と顔見知りになることである。
このマンションには最上階のひとつ下、59階に展望室兼スポーツジムがあり、そこの帰りだとでも言えば不審がられることはない。
ちん。
エレベーターの扉が開き、そこに朱の天狗面を被った少年と猫がいた。
「は?」
隣に、烏天狗面の少年と烏もだ。
「あなた、妖怪に取り憑かれていますよ」
2
伊勢、鈴鹿を出発したシンイチと光太郎は、北上して関ケ原から京都に入る計画であった。しかし途中、西方の伊賀盆地にたたずむ異様なタワーマンション「エデン」にシンイチが気づいたのだ。
「なんで野原のど真ん中に、あんなデカいマンションが?」
「ほんまや。変わったマンションやのう」
伊賀の地は古くから、伊勢、奈良、近江、京を結ぶ中継地点であり、情報の集約された要衝である。情報収集に長けた忍者──伊賀忍術(忍術の祖)の発達した地だ。
「忍者いないね!」
伊賀と聞いてわくわくしたシンイチが実際に来てみても、黒装束の忍者が走っていたり、どこかの壁にへばりついているわけではなかった。
「当たり前やんけ! そんな目立ったら忍者ちゃうわ。むしろ現代に忍者がおったら、普通のスーツのオッサンの格好した方が目立たんやろ」
「たしかに! あ、今時の泥棒って、スーツ着てるんだって。怪しまれなくて済むからって!」
「忍び装束は夜に活動するときのモンやで。昔は街灯なんてなかったさかいな」
「月明りがない時に忍者が出たっていうしね!」
戦国のその闇には、妖怪も棲んでいたかも知れない。町に街灯が立ち、文明が進み、闇は消えていった。そこに住む妖怪たちもだ。妖怪は文明に追われたのだ。
シンイチがタワーマンション「エデン」を千里眼で覗くと、「心の闇」を見つけた。
「これが妖怪『ステータス上位』?」
鏡に映った自分の肩の、紫色の妖怪を眺め、木の葉は言った。
上目遣いで空ばかり見ている。
「うん。なにもかもステータスに分解して、その上位が大好きな心の闇だね」
「『心の闇』っていうけどさ、そもそも人は競争する本能があるんじゃないの? 上を目指すのは、健全な向上心でしょ」
「それ自体は否定しないよ? でもそれがループして異常になることが『心の闇』さ。この妖怪はその『負の心』を吸って生きてる。で、そのうち吸い尽くして取り殺す」
「小アモンに似てる」
「?」
「ゲームのキャラ。クラスSS」
そこへ下行きのエレベーターがやってきた。中に数人の住人が乗っている。
「11階の竹下さん、乗らないの?」
「あ、18階の横田さん、24階の下野さん、お先にどうぞ」
「では」
〇〇階の、とわざわざつけて言う所にシンイチは闇を感じ取った。自分より階上の人から「11階の」と呼ばれるたびに、コンプレックスを感じた木の葉の心の闇を、妖怪は吸うのである。
エレベーターの扉が閉まると、木の葉はてんぐ探偵たちに言った。
「パートに行かなくちゃならないんだけど」
「そっか。でもまだ妖怪は小さいし、すぐに取り殺されるってことはなさそうだね。帰ってきたら様子をまた見るよ!」
てんぐ探偵たちはいったん彼女をエレベーターに乗せる。
扉が閉まると、光太郎が言った。
「さっきのなんかヘンやったな」
「オレも思った」
「何で『〇〇階の』ってわざわざつけて言うんや」
「タワーマンションってさ、階数差別があるらしいよ」とシンイチが言う。
「階数差別」
「上の階に住んでる方が上級国民で、下の方の住人は下級国民って風潮。そもそも上の階の方が家賃高いから、金持ちが住んでるって露骨さもあるけど」
「なるほど。芦屋とドヤ街が上下に並んどる、ってことかいな。なんか人間社会のやーな所が、縦に凝縮されとるんやな」
忍者に登用されたのは、身分の低いものであったという。彼ら現場を下忍と称し、統率者を中忍、それをまとめ上げる領主を上忍とした。身分や階級は、どの時代にもあったことで、それをつくるのは人間の心の本質と関係があるかもしれない。現代においとも、タワーマンションという形で上忍中忍下忍を作り出す。身分は勝手に生まれる。心の闇のように。
「……さてと」
シンイチは上の階を眺めて、天狗の面を被りなおした。
「22階の人に取り憑いた、妖怪『ステータス上位』も見に行こう」
3
【22階の桝田理緒】
年齢 :B ルックス:B ファッション:B 年収 :B
つきあい:B 子供 :なし 将来性 :B よくいく店:A
「ハア? 妖怪『ステータス上位』だって?」
もう一人の宿主、木の葉のゲーム仲間、22階の理緒は言った。
「しかも11階の竹下さんも取り憑かれてる? 彼女の方が『下』だから、上位に取り込みたいんでしょ?」
「? 取り込みたいって?」
「だって私のスペックを見てみなよ。年齢B、ルックスB、ファッションB、女づきあいB。ステータスは下位でしょ。でも22階に住んでる私に近づいてきたのは、『22階のステータス』が欲しいからでしょうが」
「?」
「より上流階級になりたいのよ。あの人が毎日59階展望台までわざわざ上って降りてること位、下層階の全員が知ってるわよ」
「??? なんでそんなことを?」
「上階の人と知り合う為よ」
「なんで?」
「だってより上位になりたいじゃない」
「……なんだか狂っとる」
光太郎は呟いた。
「狂ってなんかいないわよ! ここではそれが常識」
「……それを『心の闇』って言うんだろうね」
シンイチが言ったとき、電話がかかってきた。
「あら、33階の諏訪さん」
電話をする理緒を見て、二人はやっぱり階数をつけて人の名前を呼ぶのは変だと思った。
「クッキー、ご相伴にあずかりに行きますわ」
なんだか上流階級のような言葉遣いに理緒が変わった。
二人はかくれみので姿を消し、観察しに行くことにした。
【33階の諏訪成美】
年齢 :B ルックス:A ファッション:S 年収 :S
つきあい:A 子供 :A+ 将来性 :S よくいく店:S
「やっぱり33階の眺めは違うわね!」
「所詮、見えているのは伊賀盆地ですけどね」
「でも比叡山まで見えるじゃない! 私の階からはこんな風に頭を出してないもの!」
33階の眺めを理緒は絶賛し、住人の諏訪は気分を良くした。
「専業主婦ってうらやましいわ。旦那さんが一流企業の正社員だとこんな素敵な生活が手に入るのね!」
「そこまで大したことないけれど」
「ありありよ! ウチから見える比叡山のショボさ、びっくりするわよ!」
理緒は部屋の調度品をほめ、紅茶とクッキーをほめ、ピアノを買いたいけど壁の工事が、という諏訪の悩みをうらやましそうに聞いた。
それに応じて、妖怪「ステータス上位」は徐々に膨れ上がっていった。
「生活ランクS、ってとこかのう」
と、光太郎がかくれみのの中で呟く。
「そうかもね。……で、その妖怪退治の方法なんだけどさ」とシンイチはにやりとする。
「もう思いついたんか!」
4
スマホに送られてきた「33階の暮らし」の写真を見て、パート仕事中木の葉は苛ついていた。
「なんなの? 私にマウント取ったつもり? 私よりステータス下の癖に」
木の葉のパート仕事は、近くのスーパーマーケット「アップルストア」のレジ打ちであった。退屈な仕事であるが、木の葉がここで働くのには意味があった。より上階の住人と知り合うためであった。先ほどエレベーターで出会った18階のA-クラスの横田さん、24階でAクラスの下野さんはここで知り合った。「偶然」とはいうものの、「近所だものね」とうまく抱き込んだ。せっかくAクラスの人脈を築き始めたのに、理緒のやつ、Sクラスの暮らしだって?
そこへ強い風が吹いた。
自動ドアが開いた拍子に、外の風が強く吹き込んできたのだ。
その風に乗って、高そうな白い帽子が転がってきた。反射的に木の葉はそれを拾いあげる。
「ありがとう」
帽子を追ってきたのは……
「44階の高梨さん」
「えっと……」
「22階の竹下です。ここでパートしてるんです」
「あらそう。偶然ね」
「でも近所ですし、今まで会わなかった方が不思議ですよ」
「でも私ここのスーパー入ったことなくて」
「そうなんですか!」
自分の作戦が悪かったと木の葉は心の中で舌打ちした。上級国民は、こんな安売りスーパーには来ないんだ。
「でも今日は風が強くて、帽子を飛ばされたらタイミングよく扉が開いちゃって……」
この風を起こして帽子を飛ばしたのはシンイチの葉団扇で、自動ドアを開けたのはかくれみので透明になった光太郎である。二人の作戦であった。
「で、これからどないするんやシンイチ?」
「競争させるんだ、二人に」
「?」
そこへ木の葉の嬌声が響いた。
「まあ! 44階のお部屋にご招待してくれるんですか?」
【44階の高梨麻友】
年齢 :B ルックス:S ファッション:SS 年収 :SS
つきあい:A 子供 :SS 将来性 :SS よくいく店:SS
44階の部屋でくつろぐ高梨と自分の写真を、木の葉は33階の理緒へ送った。
高梨さんは旦那が社長で息子が東大。ランクSSではないか。写真を受け取った理緒は歯ぎしりする。
「諏訪さん、ひとつお願いがあるんですけど」
「?」
「50階の方にお知り合いとかいます?」
「えっと……55階の友永さんなら、バレエ教室のお友達よ」
「そうなんですか! どんな方です?」
「明るくて快活で、お茶目な奥さんよ」
「旦那さんは何をなされて?」
「いくつかグループのある大企業の社長をなさっていて……」
来た! ランクSSS!
理緒は諏訪さんの手を握った。
「私もお友達になりたいわ」
【55階の友永敏子】
年齢 :B ルックス:S ファッション:SSS 年収 :SSS
つきあい:SS 子供 :SS 将来性 :SSS よくいく店:SSS
その55階の部屋の写真を、木の葉は受け取った。
これがクラスSSSの部屋か……。
「55階の部屋ってワンフロアぶち抜きなのか……」
上流階級とはこのことかと、木の葉は悔しがった。
「あ、でも、最上階の大家さんのお部屋は、2フロアぶち抜きだそうよ」
「え? でもこのマンション60階建てでしょ?」
「最上階は階数表示がいらないから、60と61を区別してないそうよ」
「はあ……行ってみたいわあ……」
「58階の天本さんがたしか大家さんと仲がよかったかと……」
58階の天本さんの部屋の扉の前に、妖怪「ステータス上位」に取り憑かれた二人、木の葉と理緒が鉢合わせした。
「……あなたも天本さんに?」
「……最上階の景色を見たくてね」
かくれみのに隠れたままの光太郎はシンイチに聞いた。
「で、最上階まで行ったらどないなるんや?」
「オレもわかんない」
「はあ? 行き当たりばったりかいな!」
「でも、上とか下とか言うのはさ、一番上を見てからでもいいのかなと思って」
「どういうことや」
「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』。よく見えないことが闇を生むんだよ。全部を見てしまったら、意外と馬鹿らしいじゃん」
「ふむ」
58階の天本は、現在海外旅行中の大家さんに代わり、ペットの犬の世話を頼まれていた。合い鍵も持っているという。
「それって最上階の部屋に入れるってことですか?」
「入っても何もないわよ?」
「何もないってことはないでしょう? クラスSSSの上……クラスXの暮らしが何もないわけないじゃないですか!」
「クラスX?」
「あ、ゲームの話なんです。二人でハマってるゲームのクラス分け」
「良く分らないけど……とにかく、何もないのを見れば満足なのね?」
60階に行くには、エレベーターの中にある特別な小さな扉を開け、カギを指し込まねばならなかった。いつも59階までしかないランプの上にある、階数表示のないランプが光った。
ちん。エレベーターの扉が開くと、そこは直接部屋であった。
「……本当に何もないなんて……」
木の葉と理緒はショックを受けた。クラスXの暮らし。クラスXの住民。クラスXの社交。
そんなものは最上階になかった。
そこに人が住んでいる気配はなく、壁と床と窓しかない、もぬけの空だったのだ。
「大家さん、普段ここに住んでないから」
天本さんはその理由を説明した。
「ええっ!」
「道理で一度も見かけたことない筈だわ……」
「じゃあ、どこにいらっしゃるの?」
「京都の一軒家」
二人はがっくりと膝を落とした。タワーマンションより一軒家。三重県伊賀の田舎より京都。それがクラスXか。小さな塔でかけずり回っていた自分たちが、あまりにも馬鹿らしく見えてきた。
「帰りましょうか」
と木の葉は言った。クラスXの、そのまた上の上の上の……無限ループが、馬鹿らしくなってきた。
「大家さんがなぜここに住んでないか、なんとなくわかったんだけど」
と、シンイチがかくれみのから突然姿を現し、皆はびっくりした。慌てて光太郎もかくれみのから姿を現す。
「な、なんなのアンタたち!」
「たぶん大家さんはこのマンションの秘密を知ってて、だからここに住んでないんじゃないかなって思うんだ」
「? ……どういうこと?」
シンイチは窓から見える、あたりに広がる野原を見つめて言った。
「ここ、沼地だったんだよね?」
「沼地?」
「どうもこのマンション見たときからヘンだなと思ってたのさ。これだけの平地、田んぼか畑にするでしょ。それが遊んでる土地なんだ。上から見てピンと来たんだけど、ここは水がたまる構造になってるぜ!」
「……だとしても、それを埋め立てて造ったマンションでしょ?」
「湿気が集まる土地の構造は変わらないよ?」
シンイチは腰のひょうたんから、遠眼鏡「千里眼」を出して木の葉に渡した。
「基礎のコンクリを覗いてみて」
「?……!」
丸い視界の中にコンクリの柱があり……たしかに下の方にひび割れが。
「湿気があるところなのに、手抜きして基礎のコンクリが乾燥しきらずに固めたんじゃない?」
「どうしてそんなことを知ってるの?」
「手抜き工事のことは昔大工さんに教えてもらったんだ!」
「じゃあ、このタワーマンション、そのうち倒れるってこと?」
「ええっ!」
皆の顔が引きつった。
光太郎が補足する。
「すぐには倒れんようやろけど、デカイ地震が来たら、あるいはやな。この先いつまで持つかわからへんな」
「大家さんは、このことを隠してた?……」
「今住んでいないのが、最大の意味かと」
がらんとした最上階のクラスX。
木の葉も理緒も、絶望しかなかった。なんの為に今まで生きてきたのか分からなかった。
「ま、まだ、私には彼氏がいるもの!」
木の葉は強がった。
「大学生の彼氏で、将来性があって、こんな狭い所の上下関係なんて一発で帳消しにする切り札……!」
彼女のスマホに彼からメールが来た。「別れたい」と。
「はああああああ?」
慌てて木の葉は彼氏に電話する。
「なによ! 若い女でもできたっていうの?」
「いや」
電話口の若い男は答える。
「意外と歳食ってて、年齢は35」
「何よ! 『年齢:C』じゃない! 私よりステータスが下のオバサンですって? じゃあ金持ちなの? 美人なの?」
「それも違うな」
「はあ?」
「不細工で、お人よしで、金もない普通の庶民」
「じゃあ子供もいなんでしょ? コブ付きじゃないんでしょ?」
「前の旦那との子供が二人」
「じゃあ、まるっきり私の下位互換じゃない! どこがいいのよ!」
「……そこのところさ」
「?」
「『バラライカ』もさ、上を目指しているうちは面白かったけど、それに疲れちゃった。EからC、B、Aあたりは楽しかったけど、S、S+、S++、S+++、SS、SS+、……とか、キリがないよ。S10まであるっていうし、その上もあるんだって?」
「……たしかに」
理緒は、今までのから騒ぎを思って呟いた。
「新しい彼女は、ゲームをしない人でさ。スポーツサークルで出会ったんだ。誰もが対等に闘えるスポーツだって彼女は言った。そこが気に入ったのさ」
「はあ?」
「上とか下とか、上位互換とか下位互換とかない。そういう世界も、世の中にはあるって彼女は教えてくれたのさ」
「そのスポーツ知ってるぜ! 当ててみようか!」
シンイチは言った。
「サッカーだろ!」
「あたり」
「上とか下とかないのが、サッカーのいいところだよね! ボールのもとに皆平等だもんね!」
「ああ。じゃ、とにかくそういうことで」
通話はここで途切れた。
シンイチはまとめる。
「クラスSとかAとかはゲームの話だろ? そうじゃないゲームをすればいいんだよね!」
木の葉は自虐的に言った。
「……人生もか」
こうして彼女の妖怪「ステータス上位」は肩から落ちた。
「上ばっかり見てて、足下を見てなかったのかもね」
理緒の妖怪「ステータス上位」も肩から落ちる。
「不動金縛りの術!」
シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である。
クラスSSのキャラクターに似た妖怪「ステータス上位」を、小鴉で一刀両断にする。もう一匹の「ステータス上位」は光太郎の大鴉が斬った。二匹の妖怪は真っ赤に燃え、清めの塩になって最上階に散った。
「ドントハレ!」
「めでたしやん!」
「バベルの塔はいつか倒れるんやなあ」
「楽園でもなんでもなくて、ただの地獄じゃんね」
二人の小学生は、素直な感想を残して去っていった。
その後、木の葉と理緒は市内に平屋のアパートを見つけ、引っ越した。
「水平荘」という名前を、気に入ったそうだ。
てんぐ探偵只今参上
次は何処の暗闇か




