第七十四話 「禁じられた遊び」 妖怪「禁止」登場
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朱い仮面と黒い鳥 二人の天狗が闇を焦がす
心の闇の奥底に たどり着くのはいつの日か
てんぐ探偵只今参上 お前の心の悪を斬る
鞍馬山への、天狗の山を巡る旅。東京の地を離れて、様々な人の心の闇に触れる武者修行の第四日目。
夜は山に野宿だ。山を庭とする修験者の光太郎、遠野の山で鍛えられたシンイチ、二人は山で寝ることに慣れている。動物に襲われたって天狗の力でなんとかなるし。
その野宿の途中、時々光太郎の気配が消えていることにシンイチは気づいていた。ネムカケは爆睡していて気づかないし、罵詈雑は烏なので夜目が効かない。
光太郎は寝床を抜け出して、何処へいっているのだろう?
今夜も夜中にふと目を覚ますと、光太郎はいない。
寝床を抜け出すと、そばの藪に光太郎がいた。
「アレ? 起きとったんかシンイチ」
「うん。なんか起きちゃった」
「ワシもや。しょんべんいっとった」
「じゃあオレも」
光太郎は嘘をついている。一本高下駄を履いたままだというのに、シンイチには何も言わなかった。
毎晩何処へ行っているのだろう。オレに言えない何かがあるのだろうか。草むらで小用を終え、寝床へ戻ったシンイチに、光太郎は星を眺めながら言い始めた。
「シンイチはホンマにすごいな」
「……なんだよ急に」
「いや。前回の『けだもの』はさ、ワシがたまたまプロレス好きやったからうまいこといったけどさ、あんな感じで毎回その人の心の奥底まで想像して、どないしたら闇が晴れるか考えんのなんて、しんどいやん」
「そうかな?」
「だってワシ、今まで毎回テキトーに斬ってシャンシャンシャンで済ましてきたんやで? 妖怪がまた生えてきたらまた斬って、みたいな繰り返しや。庭師みたいなもんやったんや。そのうち『心の闇』も毎回生えんのめんどくさくなんのか、宿主もこれではアカンと心を入れ替えるのか知らんけど、それで心の闇はいなくなる。それで何とかなっとったんやで?」
「東京には人が多すぎる。だからかもね」
「せやな。東京はごっつ人が多かったわ。二度と会われへん、一期一会の世界や思たわ」
「ははは。でも、一緒に考えばいいじゃん」
「?」
「オレたちは旅の途中だからさ、全部の人は一期一会だよ。前みたいにオレが思いつかない時だってある。でもネムカケもいるし、罵詈雑もいる。みんなで一緒に考えれば、解決の糸口は見つかる」
「楽観的やのう」
「オレも、『心の闇』に取り憑かれた人も、同じ人間だよ。人間の心を理解し、癒せるのは人間だって、遠野の天狗たちも言ってた」
「人の心を癒せるのは人……」
光太郎は遠くを見ながら何か言いかけたが、やめた。
いずれ言いたければ自分から言ってくるだろう、とシンイチは追求をやめた。それほど光太郎は思いつめているように見えたのである。
東海道の黒々とした山に満天の星空。流れ星を眺めながら、いつしか二人は眠りについた。
「あれが秋葉山や!」
東海道沿いに京へ向かい、富士を過ぎると、巨大な山脈が南北に見えて来る。まるで行く手を阻む大壁だ。東の大陸と西の大陸をつなぐ、日本の背骨のつなぎ目、アルプス山脈(地層学的にはフォッサマグナ)である。
日本列島は東日本と西日本がくっついて出来た。ふたつの大陸が衝突したから、しわのように盛り上がった大山脈。それが日本アルプスだ。北から順に北アルプス(飛騨山脈)、中央アルプス(木曽山脈)、南アルプス(赤石山脈)と名付けられている。
北アルプスは日本海側、富山新潟の境目からはじまり長野に至る。白馬、劔、立山、槍ヶ岳、穂高、乗鞍と、名山の連なる飛騨山脈のふたつ名だ。中央アルプスは、長野県信濃盆地の西側を南北に走る、谷深き木曽山脈の異名。木曾駒ヶ岳、恵那山が知られる。南アルプスは静岡―糸魚川構造線の最南端部分、甲斐駒ヶ岳、赤石岳、北岳などの赤石山脈がある。その太平洋側の一番南が、秋葉山だ。
つまり秋葉山は、日本を東西に分断する巨大連峰の、南正面玄関口である。
「この山の秋葉三尺坊は、火伏せの神さんで有名や。東海道五十三次にも出て来るし(二十六番掛川宿。秋葉街道の入口)、江戸の火事を防ぐいうて信仰が盛んやったらしいで。秋葉原あるやん。あそこ、秋葉神社の分社を江戸につくったとこなんやで?」
「へえっ!」
光太郎と初めて共闘した、妖怪「死の恐怖」事件。場所は秋葉原の歩行者天国だった。自分の心の火こそが小鴉の火の正体だと分かった場所。天狗の火の力がかつて信仰された場所とは、因縁の深さをシンイチは感じた。
「天狗は火を操る。焼き尽くす火も起こすし、そうじゃないならその日を消す。火は天狗の心づもり次第や」
天狗はまるで審判の火の神のようであるとシンイチは思う。ならば天狗の弟子たるてんぐ探偵は、その力の行使の代理人であると。火山に潜む火の力。それを自分は使うのだと、火山をめぐりながらシンイチは自覚が生まれはじめていた。
「なんだこれ?」
そこは奇妙な公園だった。
だだっ広い空地で、遊具も木もない。ただフェンスに囲まれているだけのスペースだ。
そこにいる子供たちは、声も出さず、棒立ちにただじっとして空を眺めていた。
「キミたち何やってんの?」
シンイチの質問に、驚くべき答えが返って来た。
「あそんでるんだ」
「???」
「遊んでるって、ただ突っ立っとるだけやんけ!」
「これが僕たちの遊びだよ」
「はあ? サッカーとか、滑り台とか、ゲームとかあるでしょ!」
子供たちは無表情に答えた。
「それは禁止されてる」
2
そこは、何もかも禁止された公園だった。
フェンスに囲まれた更地、遊具も木もないと思ったのは第一印象で、よく見ると看板がひとつ立てられている。「禁止事項」と題されたそれには、びっしりと「禁止」が並んでいた。
「なんだこれ!」
思わずシンイチは声を上げた。
上から順に……花火禁止、爆竹禁止、バーベキュー禁止、火遊び禁止、ゴミ捨て禁止……まあこれは分る。
自転車、バイク、一輪車、ラジコン、スケボー、乗り入れ駐車禁止……分らなくもないけど、じゃあ一輪車は校庭でしか乗れないのか?
犬の散歩禁止、動物禁止。放し飼い禁止。
「ワシらはここにいてはいかんのかいの? 公共とは何ぞや」
ネムカケがいきどおった。
集会、勧誘、物品販売、配布禁止……特定の宗教の布教の場になることを恐れてのことか。しかし「公共の場」とは一体。
ゴルフ禁止、たこあげ禁止、炊事禁止、宿泊禁止……ホームレスとかいるから? たこあげ出来ないなんて、正月は何すればいいんだよ。
そして、遊具禁止。
「じゃあ公園は何するとこなんだよ!」
シンイチは広い更地を振り返って言った。
「昔はグルグル回るやつとか、滑り台もあったんだ」
子供たちは口を開いた。その中の一人、棟方修人が言った。
「僕の友達が、指を挟んで切断したのさ」
「ええ?」
「地球みたいな、まるいやつがグルグル回るやつあるじゃん」
「うん。つかまって回るやつね」
「ある日真ん中のところに指突っ込んだらどうなるかって、肝試ししたのさ」
「バカだろ! 危ないに決まってるじゃん! それで指切ったら、自業自得だろ!」
「その日から遊具は禁止された。しばらくして、ひとつずつ撤去されて、今じゃなんにもなくなっちゃった」
地面をよく見ると、かつて滑り台だった土台や、砂場だったコンクリートの枠組の跡だけが残されている。修人はつづけた。
「しょうがないから木登りとかしてた。そしたら誰か落ちて頭を打った」
「それで木登りも禁止か」
公園を囲んでいただろう木の切り株だけが残されていた。それにつまづいて転んだら危険だと、いずれ撤去されるという。
「なによりひどいのはさ」
修人は「禁止」の看板のつづきを指さした。
サッカー禁止。野球禁止。ドッヂボール禁止。ボール遊び禁止。バット禁止。ドリブル禁止。リフティング禁止。ボールの蹴り上げ禁止。フライ禁止。スポーツ禁止。
「なにして遊べってんだよ! ゲームでもしてろっての?」
しかし修人の指さす続きには、ゲーム禁止。
「だから僕たちは、駄菓子屋で買ってきたものを食べたり、冗談言うしかなかった」
その先に、大声禁止、おしゃべり禁止、飲食禁止。歌禁止。
更に、走るの禁止。Uターン禁止。転がるの禁止。転ぶの禁止。ジャンプ禁止。着地禁止。座るの禁止。寝転び禁止。笑うの禁止。泣くの禁止。
周囲の家を見るのも禁止と書かれていた。
「だから僕らは空を見て、黙って立つしかないのさ」
「おかしいよ! 何の為の公園だよ!」
「立ちションしたれ。それは禁止ちゃうやろ」
と光太郎は反論する。
「ダメ」
修人は指さした。糞尿禁止。放屁禁止。
「クッソ屁もアカンのか!」
「阿呆!」と罵詈雑が屁をこいた。
「おかしすぎる」と考え込むシンイチにネムカケが尋ねた。
「シンイチよ。これは心の闇の仕業じゃろうの」
「たぶんね。ねえ、ここの責任者って誰?」
「僕のおとうさん」
「え?」
「僕の父さんは、PTAの会長をしてるんだ」
そこへ、修人の父、PTA会長の棟方義人が現れた。
「家へ帰るぞ。来なさい」
彼の肩にこびりつくのは、妖怪だ。権威を振りかざすような顔立ちの、両目が禁止マークになっている。
「妖怪『禁止』か……」
シンイチは少しばかりの怒りとともに、闇の名を告げた。
シンイチの愛するサッカーという競技、遊び、コミュニケーション、哲学、思い出、人生。静岡はサッカー王国と聞いて、街はサッカーだらけだと思っていたのに。
「……サッカーを禁止するやつは、許せないよ」
シンイチの心の炎は、三尺坊の如く燃え上がった。
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修人の証言通り、公園に禁止の看板が増えたのは、遊具での指切断事故からだった。
「PTAの会長として、子供たちを守るのが責任だろ」
「それで結局何もかも禁止するの? おかしいだろ!」
「落ち着けやシンイチ。悪いのはこのオッサンちゃうで、妖怪やで」
「ああ、ごめん、そうだった」
シンイチは落ち着いて、ぶよぶよした赤黒い妖怪を眺めた。
「私は元々、そこそこ有名だった建築家だ」
自分の体に取り憑いた妖怪を鏡で確認した棟方は、身の上を語り始めた。
「関東を中心に、あちこちに大きなビルや商業施設を建てた。六本木にも表参道にも、高崎にも川崎にも御殿場にも。PTAの名誉会長に選ばれたのも、ここらの名士と思われていたからだ。それが……」
「それが?」
「事故をきっかけに、建築界から干されてね」
六本木に建てた巨大美術館。百メートルの空中大エスカレーターがデザインの中心で話題を呼んだ。そこに子供の靴がまきこまれ、足を切断する大事故があった。
「聞いたことあるだろ、ゴムのサンダル」
「あっ! 摩擦が大きすぎて、巻き込まれるやつ!」
「エスカレーターには、黄色い枠線がついている。そこより外に出たら危ないってね。全体のデザインを優先して、黄色を塗らなかったんだ」
「それで事故が?」
「警告の黄色があろうとなかろうと関係なかった。当日の証言によると、その子は興味本位でエスカレーターの隙間に足を突っ込んだらしい」
「じゃあ自業自得じゃん!」
同じ言葉が出てきた。
「しかし黄色く塗らなかったのは私だ」
「でも関係ないよ!」
「大人の責任は、そうやって取るものだ。その美術館は解体、いまはただの階段になっている。私は暇を出されてね。PTAに出席したこともなかった会長が、PTA活動に力を入れたというわけさ」
「だから禁止しまくったの? 公園を更地にして!」
「危ないことから子供を守るのは、大人の義務だろう」
シンイチは正論に反論できなかった。彼は正しいことを言っているように思えた。しかし心の底に引っかかるものがあった。あってるけど、間違ってる。そう言おうと思ったが、言葉にならない。
「でも私だってただ手をこまねいている訳じゃないんだ」
棟方は続けた。
「手をはさんでも大丈夫な、ゴム製の遊具を開発した。柔らかい特殊ゴムを使っている。明日から展示会があるんだ。これなら妖怪『禁止』もいなくなるだろ」
ちがう。
シンイチは心で思った。しかし反論する言葉が見つからなかった。相手の言葉自体は間違っていなかったからだ。
しかしそれは、やはり間違いだったことが、次の日の展示会で明らかとなる。
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展示会は大盛況だった。
不慮の事故で建築界を干された気鋭のデザイナー、棟方義人の復活にふさわしい場といえた。東京からマスコミも集まり、セレモニーは地方都市に似つかわしくない人の数だった。
柔らかい特殊ゴムでできた遊具たち。グルグル回る地球型ジャングルジム。ブランコ、滑り台、シーソー。手を挟んでも怪我しない遊具、ぶつかっても痛くない遊具。集まったPTAの親たちは、それを見て満足している。その笑顔は本当だろうか? シンイチは、まだ言葉に表せない違和感を抱えている。
巨大なジャングルジムの中に、修人と友達が集まっていた。皆久しぶりに遊具で遊んで、大声出して、遊び疲れていた。
友達の中の一人が、ポケットからマッチを出した。
「家から盗んできた。火つけて遊ぼうぜ」
「ダメだろ。危ねえよ」
「オレたちは今まで色々禁止されて来たんだ。解禁だろ。空見て何が面白いんだよ」
「たしかに。貸せ」
百円ライターも危険だからと手軽に買えなくなり、喫煙も減り、IHが増えてガスの火を見なくなった。その中で、マッチを扱える子供は激減しているという。
「禁止された子供たち」は、マッチの火のつけ方が分らなかった。
木の軸を持って、映画やテレビで見たようにシュッとこする。動作は大人がやっているのを見て理解してはいる。見様見真似で、修人はマッチを力一杯こすった。
「あつっ!」
火はついた。しかし修人は、火が熱いということを知らなかった。
遊具の特殊ゴムは、設計では火災に強い筈だった。だがそばにはたくさんのチラシが落ちていた。マッチはその上に落ち、火が付いた。軽くなったチラシは舞い、ジャングルジムに接触した。ゴムは退化性だった。だがジョイント部は可燃性で、そこに火が付いた。それでも鎮火する設計の筈だ。ゴムが前日の雨で、ヒビが入っていなかったら。
設計が完璧でも、施工が間違っていることがある。頭が指令を完璧に出しても、手足は手を抜いたり、間違うことがある。頭が歩けと言ったって、身体は転ぶことがある。手をつけばいい。しかしこのジムは、その手段がなかった。
ゴムの劣化部分に火が渡り、瞬く間に全体に広がった。ジャングルジムが巨大なキャンプファイヤーになるまで、数十秒の出来事であった。
「火事だ!」
誰かが叫んだって、消防署が来るまでに何分かかるか。
「助けて! あの中に息子が!」
修人の友達の親が叫んだ。
「え? ということは修人も……!」
火は燃え広がる。修人は熱い空気を直接吸い込み、ゴムのガスを吸って気を失った。
「光太郎!」
シンイチは天狗の面を被った。
「不動金縛りで火を止めてみよか?」
光太郎が答える。
「火伏の神さんの麓で大火事は天狗の恥やで!」
シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である。
「いや、この場は広すぎて、全員にかけるのは難しい!」
「じゃあかくれみので姿を消して、天狗風で消そうや!」
「よしきた!」
二人の小天狗は、腰のひょうたんから天狗の葉団扇を出した。八つ手の葉で出来ている、天狗の宝物だ。火を煽って火事を広げることも出来れば、強い風で火を吹き消すことも出来る。
小天狗たちはかくれみのを被り、姿を消した。
「吹けよ大風!」
ごうと、ふたつの葉団扇から突風が吹く。
ジャングルジムの業火の中に、一本の火のない道が現れた。
「修人!」
棟方は叫んだ。中に取り残された子供たちは、命からがら走って逃げてきた。だが修人は倒れたままだ。棟方が飛び込もうとすると、火の通路はすぐに閉じた。
「くっそ! 思たより火が強いで! 何回か煽るで!」
光太郎は煽る。シンイチも煽る。
「火の軌道が予測できない!」
シンイチは風を吹かせながら、暴れる火がどこに行くか分らず、手を焼いた。
「アッカン! 消防隊が来るまで持ちこたえられるか?」
そのときシンイチは、山から下りて来る風を見た。
秋葉颪。
秋葉山三尺坊が起こした天狗風か。
「光太郎! 大風が来る!」
シンイチと倒れた修人の間に、再び道が現れた。
シンイチは一本高下駄でかっ飛ぶ。
がらり。
熱で強度を失ったジャングルジムの骨が崩れてきた。
「シンイチ!」
咄嗟の事だった。シンイチは葉団扇をまるく使い、崩れた骨を螺旋に回して直撃を躱した。
「鞍馬流剣術『変化』やんけ!」
咄嗟のことだったので、シンイチはこのことを覚えていない。とにかく修人は助かり、ジャングルジムは炎の中に消えた。
5
修人の入院先で、マッチの件を聞いた棟方はショックを受けていた。
「火が熱いことを知らなかっただと?……」
「……だって、触ったことなかったんだもん」
「なんてこった……」
シンイチは、ようやくはじめから感じていた違和感の正体がわかった。
「危険を遠ざけることは守ることだけどさ、危険をないことにするのは駄目だよ」
「……」
そうだ。禁止する大人たちは、危険から遠ざけようとして、危険がある事を隠蔽していたんだ。
「火は熱い。鉄は冷たくて硬い。転んだら痛い。サッカーボールだってヘディングしたら痛い。世の中は危険。でもそれを知るから、どうすればいいか考えていくんじゃん」
「……でも、じゃあ、どうすれば」
「誰かがついてあげればいいんじゃない? オレの父さんはオレとサッカーしてくれたよ? 転んだら唾つければ治ることも教えてくれた。うまい転び方も教えてくれた」
「……そうか」
棟方は表情が変わった。
「俺は干されてて、仕事で復活することばかり考えてた。こんなに暇になったのに、俺は修人と遊んだだろうか。俺は、修人に何も教えていない。禁止しただけで、じゃあ何をしろと教えていない」
棟方の肩の妖怪「禁止」は遊離をはじめた。
「俺は干されて、業界から『禁止』されていた。じゃあ俺は禁止されて何をした? 修人を海へ連れて行かなきゃ。砂で城をつくる楽しさを教えなきゃ。それが波にさらわれるという危険も。それが俺の建築家の原点だということも」
妖怪「禁止」はついに彼の肩から落ちて、宙に浮遊した。
「ここは温室じゃない。地球だ」
「不動金縛り!」
病院の廊下にシンイチの声が響き渡ると、周囲の光景は時を止めた。
「火よ在れ! 小鴉!」
火は文明の本質である。火という道具を持った時、人は人になった。生きることは、危険な火を制御していくことだ。遊びとは、その危険ぎりぎりの際まで行くことだ。
小鴉の熱い炎は、妖怪「禁止」を紅蓮に染め上げた。
「一刀両断! ドントハレ!」
棟方は建築家として、新しい展覧会を催すことにした。
ゴム製の「転ぶ練習のできる床」という変わった展示で、柔道家が受け身を教えてくれるユニークな講習が併設された。
あの禁止された公園には、そのゴム床が半面敷かれた。隣にゴム遊具、本物の遊具と、危険順に並べられることとなった。
てんぐ探偵只今参上
次は何処の暗闇か
予告
夜、光太郎が消えた? シンイチが後をつけると、ひなびた温泉宿に。そこの女将に取り憑く妖怪「まるなげ」を退治しようとしても、光太郎は何もできない。
正体を女将に隠す光太郎。それは彼の過去と、深いかかわり合いがあった。
てんぐ探偵第七十五話「何を継ぐのか」に、ドントハレ!




