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鍛氷師の鎖結び   作者:
出会いは運命
8/43

不死鳥と黒

 シーラは魔法学園がとても好きになっていた。これまでの生活で好きという感覚がひどく限定的な物だったことをこの世界に来てから感じていた。そしてその好きは自分次第で広くなっていくものだと気付いたのだ。

 アンナに決闘を申し込んだのはその一環だった。以前本で読んだ。戦った後に親しくなる関係という物があると聞き、それを実行してみたのだ。


「シーラ? 無理しちゃだめだよ? 危なかったらすぐ助けを求めてね?」


 ニキータが楽しそうな顔をしているシーラの肩を持って必死な顔でシーラに言い聞かせている。隣に居るヴィクトルとその執事はまるでお使いに行く妹を見送る兄の様だと感じ二人の様子を微笑ましく見ている。

 彼らを含めた一年の白金組と赤銀組は外周区の屋外魔法練習場の一つに居る。

 草が生い茂る中に大きな長方形の形で固められた土が露出し、そこには立ち台と少し離れて椅子や止まり木など休憩用の広場が設置されただけ物だが、周囲には防御魔法が張られ、魔法が周辺に被害を出さないように作られている。

 そこに居るのは全員青を入れたローブを着ている一年生だが、片方は赤い腕章をつけている。これは赤銀組の証である。

 赤銀は必須科目に魔法戦闘学が入っているなど魔法による戦いに関する教育を主体に行うクラスで、このクラスの卒業生には王立の魔法騎士団などに入る者も多い。

 中でも目を引くのが見るからに屈強な担任の先生である。杖もそれに合わせて大きいがどうしてもその巨体に対しては小さく見えてしまう。ローブ越しにも見える筋肉の鎧は勇猛さをまざまざと見せつけていた。

 その隣に立つのはそんな赤銀の先生とは違う方向性の先生である。

 腰は細く、でるところは出ているグラマラスな体型に物腰の柔らかさ、少しつり気味の目は妖しさを少し纏っている。黒いローブを着ている様はフィクションなどで登場するような露骨な魔女を学生たちに想起させる。


「諸君、今日は授業初日であるが、さっそく白金組との合同授業となる。彼等と共に切磋琢磨し、その魂を輝かせてほしい。プロシナ先生」


 一度全体を見回すように周りを眺めるとファイーナ先生へと話を譲る。大男が譲様はどこか滑稽に見える。


「赤銀の皆さん。こんにちは、ファイーナです。今日は魔法戦闘学ということで、まずは簡単な魔法である『矢』を習得してもらいます。これは基礎的な汎用魔法ですが、攻撃魔法の基礎です。鎖結びができた皆さんならできると思います。その前に、一応安全のため繋がれし者はこっちの広場で待機しててください」


「ニカ! 頑張って!」


 そう無邪気に言いながらシーラは先生に指定された広場に移動する。

 鳥や獣などさまざまだが人の姿をしている繋がれし者は十人程度だった。丁度椅子が十人座ってもあまりあるのでシーラやシャッシュを含め全員がそこに座り、そこにほかの使い魔の鳥だったり獣だったりが集まって生徒たちを見ていた。

 一見すると動物と戯れる人たちにしか見えないが、それぞれが繋がれし者なことから一種の連帯感があったのだ。ただよりにもよってシーラの頭の上にはアンナの不死鳥が乗っかり心地よさそうに寝ており、それを見たアンナが何だか裏切られたみたいな顔をしていた。

 

「ハイまずは一列に並んで、これを狙ってね」


 赤銀の先生が杖を振ると地面から岩が突き出る。それにかぶせるようにファイーナが風の魔法を放ち、岩を削り絵本に出てくる悪魔のような岩像に削る。

 生徒から感嘆の声が溢れた。


「これは属性魔法、次の授業で練習しますから今は『矢』の魔法に集中してくださいね」


 立ち台からファイーナが下りると、豊満な体の一部分が揺れ一部の生徒がつばを飲み込む。ヴィクトルもその一人だ。ニキータは脳内で魔力を練るイメージ練習をしていた。


「まず魔力を練り、杖を弓のようにして魔力の矢を放つイメージです。この魔法は魔力の錬成、放出、制御、魔法の基礎全てを網羅していると言ってもいい。もう一度、今度はやりながら説明するからね」


 魔力を練り、それを放出し、制御する。と言いながらファイーナは『矢』を放った。それは見事な白い軌跡を残しながら岩像に命中。そのまま貫通したところで彼女は杖を振り『矢』を霧散させる。

 隣の赤銀の先生が拍手をしそれにつられ学生全員が拍手をした。繋がれし者達も拍手したり騒いだりしている。


「諸君、ファイーナ先生の『矢』は非常に洗練されたものだ。『矢』の素晴らしさが魔法使いとしての技量を示していると言われている。君たちも精進したまえ」


 それでは、はじめ!という言葉と共に生徒が一斉に岩像に向けて魔法を放ち始めた。

 ほとんどの生徒は矢ではなく光の球を飛ばしそれが失速して地面に落ちるという事態になっていた。

 そんな中、赤銀の先生とファイーナ先生両方が感心する者がそれぞれいた。


「あの金髪の少女と……あの帽子? をかぶった少年。筋がいい」

「ああ、アンナとニキータですね。特にアンナですが、とても一年生の放つアローではないですね。ですが、赤銀のあの巨乳、制御こそ甘いですが相当魔力量と放出能力が高そうですね、何て名前ですか?」


 赤銀の先生があなたが言うのかそれをという目線でファイーナの双丘を見るが気を取り直し練習している生徒たちを見る」


「スサンナだな。オムスク王国からわざわざこっちまでやってきた子だ」

「彼女は将来大物になるかもしれないね」


 先生二人はそんなことを話しながら岩像が少しずつ削れていくのを眺めていた。


 二限目が終了する頃には岩像はボロボロで像というよりはもとのいわに戻っていた。ファイーナがじゃあ一旦休憩だよと言うと赤銀の先生が杖を振り、岩でベンチを作りさらにその前に少し大きい円の台を作った

 ファイーナはベンチの側に魔法障壁を張り、生徒のみんなはこっちに座ってねと誘導する。

 一部を除いて初めての攻撃魔法にみんな疲れていたのでベンチに座っていく。白金組は全員ベンチの前の方に座りそわそわしているが、赤銀組は事情を理解していないらしく無理に前に座ろうとせず普通に座っていった。

 白金の中で一番そわそわしているのはニキータである。そして座らずに立っているのがアンナである。

 それを気にせずファイーナは台の上に乗りベンチに座る学生たちへ説明を始める。

 シーラやほかの繋がれし者も後ろ姿しか見えないものの話は聞いていた。


「それでは三限目、属性魔法の授業についてを行いますよ。属性魔法とはその名の通り、自身の属性を利用した魔法です。汎用魔法との違いは自身の属性を添加するか否かというところに尽きます」


 たとえば私なら風。と杖を小さく振り風を起こす。


「基本的に属性は生まれた時にもう決まっています。後から変化するという事もありますがまあ非常に稀有な例ですね。そしてまず基礎四属性と呼ばれるのが火風土水の四つです。これは大体の魔法使いがこのどれかの属性に属していることと、精霊とよばれる存在が確認される属性という事もあります」


 属性の話を聞きながらニキータは少し顔を落とす。頭の中で炉無しのニキータという言葉がよみがえり、練習しても火を出せなかったことや炉を作って炭をもやして剣を鍛えたことなどを思い出していた。


「それでは、実習の前に一つ見世物を、魔法使いについてです。アンナさん、シーラちゃん? お願いね」


 はーいと元気よく円の台の向こう、繋がれし者が居る広場から走ってきたのはシーラだ。頭にはいまだ不死鳥が乗り、走るシーラの上でバランスを取っている。


「あら、お友達になったの?」

「うん! 不死鳥のフーちゃん!」

「ニクスです!」


 シーラが勝手に着けたニックネームを否定するようにアンナが円の台の上に上がる。不死鳥のフーちゃんもといニクスはシーラの頭から飛び立ち、アンナの肩に着地した。


「彼女たちにはこれから属性魔法の実演を行ってもらわ。また、ニキータくんの繋がれし者であるシーラちゃんの希望で、アンナくんの相手をしてくれる。君たち、しっかりとみているように」


 二人が円形の台の上で向かい合ったところで先生二人は台から降りる、降りる際にファイーナは赤銀の先生に事故が起きないよう注意をと言い、赤銀の先生は小さく頷いた。


「こんな無駄なことする必要ないんじゃないかしら?

「ううん? たぶんアンナには必要なことだと思うし、私もアンナを知りたいからやりたいの」


 無邪気なシーラの様子にアンナに再び苛立ちが生まれる。何も知らないくせに、いや何も知らない剣精だからこそそう言えるのだとアンナは結論付けた。ならばどうするか、という問いも彼女の中で答えとして出ている。

 馬鹿は痛い目を見ないとわからないという事だ。

 こんどは杖、ニクスを介した魔法ではない。死なない程度に痛めつけてしまおうとアンナは黒い感情に任せ魔力を練った。


「それでは二人とも、準備はいい?」

「……」

「いいよー」


 無言のアンナに対して呑気に答えるのはシーラだ。両手を振るといつの間にか黒い剣とナイフがそれぞれ左手、右手に握られている。


「それでは、はじめ!」


 先生の一言と共にアンナが動く。杖を振り口で何かを唱える。肩に停まる不死鳥がそれに同調するようにかすかに光り、杖の前に火球が生み出される。

 ニキータ達には先生の張った防壁があるため熱は感じないが、防壁の外に居る先生二人は冷や汗をかいていた。


―――これが一年生の使うような属性魔法か?


 二人の心境はこれで一致していた。


「これは躾です。『火球弾』」


 火の玉が杖の先から放たれる。かなり速い速度で発射されたそれは原理としては『矢』に近いが威力は本人の属性と一致する分こちらの方がはるかに上である。

 昨日彼女自身が言っていた騎士の鎧程度では熱で溶かしてしまうような威力だ。

 直撃させるつもりはない。掠らせてそれで行動不能にさせるつもりだった。だがシーラはそのど真ん中へと飛び込んだのだ。

 生徒から悲鳴が上がる。剣精とはいえアレが直撃すると危ないのは誰が見ても簡単にわかることだった。

 黒髪の少女が火に飲まれ炙られる様を誰もが幻視した。

 火球が真っ二つになるまでは。


「え?」


 誰の呟きか、アンナか、先生か、生徒か、ニキータか、それとも繋がれし者か。

 あるいはシーラ以外全員だったのかもしれない。


「魔法って本当に不思議。あの熱量を杖一本で維持する手段も操作する方法も私は知らないもん」


 縦に裂けた火球が後ろの台に当たりただの火としてまき散らされる。

 シーラは左手を掲げていた。違う、切ったのだ。下から上へとただ魔法を切ったのである。

 そしてその手に握られる漆黒の剣は一切の変化がない。鉄を難なく溶かすような火の魔法をただ切ったという事実にすぐ気付いたのはアンナとシーラを知っているニキータだけだった。

 そしてアンナは焦った。自身の魔法がただの剣精に通じなかった。という事実が彼女の平常心にひびを入れ、


「っ! 『火竜槍』」


 アンナはとっさに肩に停まる不死鳥の尾羽の一部を取りそれを触媒に魔法を放つ。放ってから気が付いた。しまったと。

 これは目の前の黒の少女に対し感じた物を拭い消すためだ。貴族である自分が恐れるものなどないと言い聞かせ、放った高威力の第三層魔法と呼ばれる物だ。

 実際に魔法学園で習うのは二年生からの第三層魔法は触媒を利用した魔法だ。触媒を犠牲にすることで高い威力を保証されている。そして彼女が使ったのは火魔法の触媒として最高級である不死鳥の尾羽である。それが僅かであっても、シーラを即死させるような威力となることは想像に難しくなかった。


「っ逃げて!!」

 

 放った本人からの警告をシーラは気にせず笑う。

 赤銀の先生が不味いと杖を振ろうとするがそれをファイーナが止めた。なぜ、という目線を無視し、彼女は台の上を見続けた。

 炎の奔流がシーラを飲み込もうとする。シーラは姿勢を引くし、左手の剣を振った。その瞬間『火竜槍』の炎がシーラを飲み込む。

 ニキータは呆然とその様子を見ていた。

 始めの『火球弾』を見たときニキータは思わずアンナに憧れてたのだった。自分にもこれほどの火が使えれば、と心の片隅で思った。だがそれ以上に今はシーラの安全の方が大切だった。見習い魔法使い程度がこの障壁を出れば熱にさらされるとわかっていても止まらずにはいられない。それをヴィクトルが必死で抑えた。


「シーラ!!」


 叫んだニキータの耳に


「大丈夫だよーニカ」


 炎の奔流を斬り飛ばしアンナの目の前に踊りでたシーラが呑気な声で答えた。

 アンナが呆然と固まっていた所シーラに杖を掴まれる。握力で抵抗しようとするが手から杖を引き抜かれる。何かが体の正面にぶつかり、その衝撃でニクスが空へ飛び立つ。


(斬られる!)


 当然だ、殺意があったと言われても仕方がない火力の魔法を放ってしまったのだ。反撃されることは仕方のないことだとアンナは納得していたし、そもそもこれは一応決闘なのだ仕方がないとアンナは受け入れた。

 が、体は頭のように物分りが良くない。とっさに目を瞑り手を体を守るために突き出そうとする、数瞬後にやってくるであろう痛みに備えた。

 しかしまたもそれが裏切られた。

 何もやってこない。突き出した手は何も捉えない。

 変わったのは先ほどぶつかった感覚から暖かく柔らかい感触だ。

 目を開けるとシーラがアンナに抱き着いていた。心地よさそうに腰に手を回し、アンナの胸元当たりの頬をつけスリスリと擦り付けている。

 呆然としているとシーラが顔をあげアンナの方を見て笑う。距離が近い。


「えへへ、私の勝ち。だから友達のハグだよ」


 無邪気に笑う黒の少女に、不死鳥の少女は勝てないですわねと小さく微笑むしかなかった。

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