第8話 やらなければ分からない
第9話は、もう少し待って頂けないでしょうか。
必ず挙げます!
ジュリア・R・スカーレットと全力の勝負を行う。
それまでの一時間の休憩中、俺は今やれることをやることにした。
俺は何が何でも勝ちたいから、この一時間今までで初めての極集中!
「それじゃ、できるだけ準備しますか!!」
自分の今の状態を確認。
今のところ体力は40%、魔力は50% 。
体力はポーションと紅茶を飲んで全身をリラックスさせ、魔力は【魔力回復1】 に頑張って貰い休む。
ただ、休憩の間にどれほど回復できるか・・・。
作戦の考案、手札の用意を座り込みながら考える。
紅茶のおかげで勝負後の興奮から精神的に落ち着き、絶望的な勝負に勝つ可能性を模索できるほど気力が湧き上がってきた!!!
(心が少し折れそうだったが、これなら何とか奮い立たせられるぞ!
負けてたまるか、ここまで来たんだ負けるか、絶対に勝って俺はチャンスを掴んでやる!!)
武器は、片手剣、盾、魔法杖、弓、矢25本。
装備は、【圧縮の指輪】、オーク皮の防具、手袋、マント、ゴーグル、ウエストポーチ。
リュックとウエストポーチの荷物の整理を行い、全ての所持品から何か突破点はないか思考するが今のところは思いつかない。
何か、何でもいい相手を驚かせることはできないかっ!
相手を戦闘不能に持ち込むのは、龍人が持っている元々の防御力、見るだけで凄いと分かる防具、≪保護≫ 等の魔法の障壁を越えてダメージを与える必要がある。
そのためには彼女が防御することを思いつかない、想像を超えた攻撃をしなければ到底届かない。
何かないか・・・
近接攻撃は、残念ながら前の戦闘の時と変わっていない。
矢も残り25本 しかなく、魔力もレベル1なので低いから遠距離攻撃はおそらく弾切れになるだろう。
(この状況の中でどう細工するかなー。
さっき見せた手段はもう効かないと思った方が良い。)
防具を【裁縫3】の ≪衣装検査≫ でどこか壊れていないか確認する。
少し汚れていたが、運が良いことに防具としては問題はないようだ。
どこも凹んだり、欠けていたりはしていない。
魔力をたっぷり込めて ≪硬化≫ を施す。
一回でも多く防げれば儲けものだ!
ーーーーー
一時間経った、最後に装備場所を確認して準備を完了する。
彼女は部屋の中央に立ち待っている、俺はしかっりとした足踏みで向かう。
「お待たせしました。」
彼女の全身からとてつもない圧力を感じる。
前に立っているだけなのに、ピリピリとした空気が俺を締め付ける。
『最後に確認します。
私は全力であなたを殺しにかかり、先ほどみたいな手加減はしません。
レベルの差は歴然、スキルや経験は圧倒的にこちらが強く、装備の質も遙かに違います。』
ああそうだよ。
こちらが勝っている部分なんて何もない。
それでも諦めきれないから、命をかけてチャンスに手を伸ばす。
「それだけ聞くと絶望したくなるほど勝ち目がないですね。」
せめて何か攻撃に使える宝具があればよかったな。
まあ、無い物ねだりしても何もかわらない。
準備はやるだけやった、自信も持て俺!
『それでも勝負をしますか?
本当に、・・・ええ本当に死んでしまうのですよ。』
彼女はこちらを真剣な目で見ながら、心配した声で聞いてくれる。
「もちろんです!
ここで諦めたら一生後悔しますから。
俺、もう二度と後悔はしたくないんですよ。
それに勝てたらのこと考えると、死の恐怖より楽しみが滅茶苦茶勝ってますから!!」
そう、俺が今恐怖に縛られてないのは先を見ているから。
紅茶のおかげでもあるが、この後の彼女たちとの旅を考えると情熱が心の中からぐつぐつと溢れてくる。
『分かりました、全力でお相手しますっ!
そこまで言うのですから一撃は当てて下さいね。
全力の私に一撃当てることが出来れば命は取りません。』
「勝ってみせますよ。
俺の本気、見てて下さい。」
予想もしてない攻撃を一回だけだが確実に必ず当てる。
それで勝てるか分からないが、諦めるつもりはないよ。
『ふふ、期待してます。
勝敗条件は私を戦闘不能に出来ればあなたの勝ちです。
ですが、・・・もし一撃も当てれないで負けるようでしたら、命を貰います。』
最後の言葉から本気なのだと実感させられる。
ここまで警告してくれたのに俺は挑戦するんだ、死んだって文句は言わない。
「ええ、分かりました。」
俺は勝つという決意を込めて、しっかりと腹から声を出す。
『セオン!
勝負の開始お願いします。』
「うぉん。・・・わん!」 (わかった。・・・勝負開始!)
氷狼セオンはスカーレットさんが前に寝ていた、台が高くなっている場所からこちらを見ている。
今、試合の開始が告げられた。
さあ! 試合開始だ!!!
ーー≪身体強化【風】≫、≪身体強化【土】≫
≪身体強化【風】≫ で体の中、特に足腰に力が湧き移動速度を上がる。
≪身体強化【土】≫ で体全体の骨、皮膚、内臓といった柔らかい部分を補強することで対衝撃、対斬撃をできるだけ強くする。
防御は ≪硬化≫ も掛けているからかなり上がっているだろう、だが当たってはだめだ。
ーー≪火球≫
ゴオオオオオオオォォッ!
「え!? なんだあれ、大きすぎるだろ!!」
彼女が ≪火球≫ を発動させた。
ただ大きさが尋常じゃない、俺の背ぐらいある。
俺の ≪風球≫ は手のひらに収まるぐらいなのに、あっちは1m は超えている・・・!!!
『これが【火魔法7】です。
スキル7は人が到達できる限界点。
Sランクに到達するための条件でもあります。
約1.3 m 、たとえ一番簡単な初級魔法でもこの大きさなんですよ。』
(はは・・、やばいなこれ。
あれが最低限、一番脅威が低い攻撃なのに、こっちまで熱さが伝わってくる・・!)
というか、おいおいランクSかよ、世界でほんの数人しかしない最高戦力じゃないかっ!!
レベル1の最初の相手がラスボスか、俺ってめっちゃ・・・、笑っちゃうぐらい運がいい。
最初から人の限界を見せてくれるんだ、超え得るべき壁として目標にさせて貰う。
「ああ、対抗できる魔法を発動するのはどうやっても無理だ!
だけど、俺には【圧縮の指輪】がある、これこんな使い方も出来るんだよ!!」
ーー≪風球≫
ーー≪圧縮≫:風球
半径:10 % 縦:10 % 横:10 %
キュイン、キュイーン!
残念ながら俺の【風魔法3】では手のひらサイズの ≪風球≫ しか出せない。
だが、魔法自体を圧縮することで風を凝縮し、質だけは7に迫ることが出来る。
1cm に満たない大きさだが、碧色に光輝き、高速で回転している。
手で支えているだけで腕が持って行かれそうだ。
『行きます!』
「発射っ!」
1m 超えの ≪火球≫ と 1cm 以下の ≪風球≫ がどちらも凄い速度で迫る。
均衡は一瞬だけだった、少しだけ食い込んだ次の瞬間消し飛んだ。
風は火に強い、そんなことを感じさせない圧倒的なまでの熱量が ≪風球≫ を消滅させる!
ああ、だめか。
けっこう自信あったんだけどな〜。
質だけは負けないつもりだったが、量が圧倒的に違う。
ゴオオオオォォッ!
≪火球≫ が燃え盛りながら迫る。
何もかもを飲み込まんとする破壊が近づいてきた。
まだだっ! 攻撃はダメでも防御はまだ破られていない!!
ーー≪土壁≫ & ≪土壁≫
ーー≪圧縮≫:土壁
厚さ:0.1 % 高さ:—— % 横:—— %
ズズズ、シュッン!
≪土壁≫ を二枚展開。
矢印の先端、/\の形で受け流す壁を作る。
壁に両手で触れ同時に圧縮する、質を1000倍に、最高の硬さを築きあげる。
ズドッーーン!!!
(くううううぅ、熱い。
体が燃え上がりそうだ・・。
けど、なんとか・・・耐えきった!)
あの子が防ぐとは思ってませんでした。
私は、どこかまだ油断していたのだと思います。
全力で行くといっても ≪火球≫ は初級で、本気ではなかった。
『あれを防御するのですか!
また何か予想もつかない手段で逃げるのだと思ってましたが、ものを小さくする宝具でここまで色々な工夫をするとは・・・、全力を出して勝たせて貰います!!』
ーー≪火投槍≫
ブオオオオオっ!
私は魔法を発動して、相手の出方を待ちながら構える。
(・・あの壁は固いですね。
ですが、もう使えないはずですから壁から出てくるはず。
さあ、右ですか左ですか、それとも壁を消して正面から来ますか!)
俺は壁の中で矢と弓を ≪解放≫ 、そして次の準備をしていた。
右手の魔法杖に魔力を込めながら一緒に矢を持ち、左手で弓を構える。
矢にも魔力を込め、弓を限界まで引き絞りActive Skill の発動準備を終えた。
ーー≪地槍≫
ーー≪溜め撃ち(チャージショット)≫ & ≪矢雨弾幕≫
ズンッ、ヒュオオオオ、シュッ!!
先端を丸くして乗ることが出来るアーススピアを足下に発動。
魔力をたっぷり込めしっかりとした5mにもなる弓台から彼女を見下ろす。
俺が土壁を解除して元の位置か、それとも横から現れると思っていた予想を外し、相手の視線が上を向く一瞬のうちに矢を射る。
≪溜め撃ち(チャージショット)≫
弓を限界まで引いて、更に力を溜める。
射る際の隙が大きくなるが、矢の射出速度を上げて最大威力を増加させる。
≪矢雨弾幕≫
一本との時より威力は下がるが、合計【弓術】のレベル×10だけ実体がある矢の分身に分裂する。
射た後に発動するため、。他の【弓術】のActive Skillと合わせて発動することが出来る。
高い場所から射ることで位置エネルギーにより威力を上げ、スキルでさらに増加させ、そのうえ矢を40本に増やした攻撃が彼女を襲う!
「行けーーーー! 当たれ!」
『それぐらいならこちらが勝ちます!!』
彼女はすぐさま反応して、魔法を投げてくる。
見るからに凶悪そうな魔法で、すさまじい勢いで突き進んでくる。
・・・もちろん今のままでは防がれてしまうだろう。
ーー≪解放≫:矢25
1本の矢では折れてしまう。
なら、3本、いや25本ならどうだ。
残り全ての矢をまとめて圧縮した一本の矢を射た。
≪矢雨弾幕≫ だけだと40本にしか成らないが、1000本になり彼女に襲いかかる。
ザザザ、ボンッ!
1000の矢が大人の体ほどある ≪火投槍≫ に突き刺さり、削っていく。
最後には爆発して矢が全て吹き飛ばされてしまった。
だが、これも目隠しだ!
こちらが常に攻撃して、闘いの主導権を握る。
ーー≪ただの投擲≫
『—————』
水筒、そう水筒を彼女の頭上に投げる。
彼女は何か魔法を発動したのが聞こえたが、詳しいことまで聞こえなかった。
ーー≪解放≫:水
「まだまだーー!」
けど、そんなの関係ない!
水筒の中の水だけ ≪解放≫、500 kg の水が頭から彼女を襲う。
水だから火で防げば水蒸気爆発、液体だから剣では叩き落とせない!!
だが、これすらも目隠しだ。
ーー≪小型化≫ & ≪浮遊≫
ーー≪強風≫
シュン! フワッ、ブオオッ!!
体を小さくして ≪浮遊≫ により少し浮き上がり、低飛行する。
それだけでは遅いので ≪強風≫ を後ろに発生させ、高速で彼女へと迫って行く。
「はああああああああああ!!!」
彼女は幸運なことにまだ動いていなかった。
水の中に彼女が飲み込まれていくのが見える。
俺は今のうちに彼女の防具の中に入り込み、片手剣を元に戻すつもりだ。
防具や魔法の障壁の内側に入り込み無効化して、龍人の元々の防御とだけ勝負する。
ただ ≪解放≫ するだけではダメだが、防具が片手剣がはじき飛ばされないように固定してくれる。
そのあと、出来るか分からないが彼女に触れ ≪小型化≫ してみる。
上手くいけば肉体のステータスをかなり下げてくれるはずだ!
スカッ
「え・・・?」
俺は彼女に突撃したはず。
けど、何も抵抗なくすり抜けてしまった。
(やばい、やばい!
何が起こったか分からないが嫌な予感がびんびんする!!)
俺は急いで上空に避難しようと、高度を上げーーー
ボッン!
ーーーれなかった。
≪火球≫ が近くに落ち、衝撃で吹き飛ばされる。
元の位置から100m も離れた地点まで吹っ飛ばされ、地面に転がった。
「ああ・・・、いてえ。」
(彼女はどこにいたんだ!?
くそう、もろに攻撃をうけてしまった。
≪硬化≫ と ≪身体強化【土】≫ がなかったら、やばかったな・・・。)
『私はここですよ。』
体を起こして見ると、先ほどの地点よりも後ろに下がった場所に彼女はいた。
水を落とした地点からいつのまにかに移動していたようだ。
『たしかに小さくても当てれば一撃当てたことにはなります。
ですが、本気を出すと言いました、同じ場所にいるとは限りませんよ。』
(そう、そして目に見えるが本物とは限りません。
【幻惑魔法】の ≪幻像≫ で自身を透明に、そして元の位置に分身を作りました。
さらに、≪身体強化【雷】≫ で後ろに高速移動、これが発動したならあの子は私に触れることは不可能!)
あの子はぼろぼろの体を起こしてこちらを見る。
その眼は諦めや恐怖に染まっているのではなく、ただ闘志だけが感じられた。
『降参しますか?』
「まだ、負けてません!
俺は勝ってみせるといった言葉を曲げるつもりはないです。」
まだ体は動く。
心も諦めていない。
なら、俺は立ち向かえる!
ーー二重起動:≪火球≫
『これでも?』
彼女の周りに二つの ≪火球≫ が展開された。
どちらも大きさはさっきと同じで、1 m を超えている。
ああ、一つでやっとなのに、二つはやばい・・。
けどさ、ここで諦めるならもう最初の段階で諦めてるんだよ!!!!!!
「ああ、まだやります。
俺はまだ負けていない!
絶対に勝ってみせるんだあああああ!!」
『・・・。 行きます。』
(どうして、そこまで。
ですが、全力でつぶしに来ます!)
ーー≪土壁≫
ーー≪土壁≫
ーー≪土壁≫
ーー≪土壁≫
ーー≪土壁≫
・・・
ーー≪圧縮≫:土壁
厚さ:0.1 % 高さ:—— % 横:—— %
ズズズズズズズ!! シューーッン!
「はあ、はあ・・・。」
(魔力がそろそろ尽きる・・。)
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
≪火球≫ が ≪土壁≫ と衝突。
凄まじい音を立て壁が何枚か崩れた、さらに壁を越えて衝撃が伝わってくる。
俺はさらに吹き飛ばされ、部屋の壁にぶつかった。
もう立ち上がることさえできないほど、体はぼろぼろ。
服は破れ、防具も所々(ところどころ)外れ、ゴーグルと一緒にどこかに行ってしまった。
体を休めたかった。
けど、そんなのは関係なく絶望が迫る。
ーー三重起動:≪火球≫
ああ、心が折れそうだ。
二つは防げると思ったんだけど、無理だった。
三つ? 抵抗することも出来ずに消し飛ばされるだろう。
『諦めましたか?
もう何もできないでしょう。』
ーー≪風纏≫
≪風纏≫
風を対象に纏わせる。
体なら風が行動の補助をして、移動速度を向上する。
物なら命中率UP、例えば矢なら狙った場所に誘導され刺さる。
ぼろぼろになった体を、なんとか起こす。
彼女を見ると炎で光り輝いていて、とても綺麗だった。
心は諦めかけていたが、頭は冷静に今できることを分析する。
残りの魔量は1か2、感覚だと一回圧縮したらおわり。
少し消費が多い ≪小型化≫ や魔法は使えない。
・・・
矢は尽き、武器は片手剣だけ、防具は砕け、魔力もなく、体はぼろぼろ。
絶望的な状況で、できるのは魔力と体力を使わないことだけ。
そんなの・・、そんなのはーーー
「いいえ・・・、俺は立っています。
まだ俺は諦めたくない、諦めてない!!
絶対に俺は勝ってやる、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は肺の中の息を全てはき出しながら叫んだ。
そんなのはーーーーー、解放だけだ!!!
ーー≪解放≫:空気
『ガハッ!?』
(体の中から!?
あ、≪火球≫ の維持が・・・!)
彼女は胸を掴みうずくまる。
その際、魔法は宙へと消えていく。
俺は休憩の時から部屋の空気を圧縮していた。
ずっと休むことなく掌の周りを圧縮し続けていた。
ここは地下室だから圧縮された空気はそのまま空気に混ざる。
減った空気は通気口から補充されていて、元の気圧が保たれている。
だが、圧縮が解除された訳じゃない!
圧縮された状態で空気に混ざっている!!
そう、圧縮した空気を吸っても分からない!!!
俺はそれを ≪解放≫ した。
肺の空気を膨らませることによる一時的な戦闘不能を狙って。
肺は心臓のすぐそばだ、それに大きさは鍛えられても硬さは鍛えることが出来ない。
30 % 、いや10 %、 0.1 % でもいいから膨らめば、防具や、魔法の障壁、龍人の元々の防御力を無視して骨にも守られていない体の内部を攻撃できる。
その間に、ぼろぼろの体を這ってでも動かして彼女に近づく。
剣を首元に当てれば俺の勝ちだ————
『今のは本当にっ、気を失いかけ危なかったです!
私が龍人ではなかったら、負けていたかもしれません。』
蹲っていた彼女はゆっくりとだが立ち上がった。
最後の切り札が破られたら、俺はどうすればいい?
「は、はは・・。
おいおいまじかよ・・・。」
ああ、心が本当に折れそうだ。
体も心も、さすがに限界だ・・・。
『肺を攻撃するのは効きました。
ただ私は龍人です、龍の特徴を受け継いだ種族です。
龍はブレスをはくため、強靭な肺を備えているんですよ。』
あああ! 龍人の身体能力が高いことに目が行っていて、肺のことは考えてもいなかった!!
「行けると思ったんだけどな・・・。
けど、届かなかった。」
『もう一度聞きます。
本当にまだやりますか?』
くそう、情けない。
何度も何度も負けを認める機会を与えられる。
俺の本気の思い、情熱、決意は彼女には本気だと思われていない。
「ええ・・・、もちろんです。
まだ手は動きます、口も動きます。
俺の決意は本気だって言ったでしょ。」
『・・・。』
ーー多重起動:≪火球≫
2つや3つじゃない、50にものぼる ≪火球≫ が彼女の上空に展開した。
あまりの輝きに地下室の全てが照らされ、熱量が風が何もかもを消し飛ばさんと吹き荒れる。
『ごめんなさい、あなたの決意を軽く受け止めていました。』
ーー多重起動:≪火球≫
もう一度魔法が発動された。
100に増えた ≪火球≫ がまるで星空のように彼女の頭上に広がる。
髪が風で舞い上がり炎で照らされた彼女はまるで天使のようで、とても綺麗で美しい。
俺を慈しむような表情がとても合っていて、絵を見ているみたいだ。
目が焼ける、喉がからからになる、髪がちりちりになっていく、ああ、体が熱い。
『これが私の全力です。
本気でっ、確実にっ、トドメをさします!!
情けはかけません、最後です、もし覚悟がないなら諦めていいですよ。』
ここで何かの力に目覚めてくれたら俺は主人公なんだけどな。
隠された力とか、何かの力に覚醒するとか、そんな都合の良い展開は起こらない。
だけどさ、勝負は最後までやらなければ分からない!
諦めたくないんだ・・・!! 諦めたくないんだよ!!!
「俺は本気ですよ。
何度だって言います、俺は本気ですよ。
ですから最後の最後まで、諦めません!!!」
『・・・あなたの決意に敬意を表します。
では・・・、お別れです。』
彼女は表情を消して、無慈悲に腕を振り下ろした。
100の ≪火球≫ が流星のように迫ってくる。
前は火の嵐、後ろは壁、逃げ道なしの絶体絶命。
(頑張ったんだけどな、ダメだった。
ああ、勝ちたかったな・・・。)
けど、全力は出せた。
魔法も、弓も、細工も全て出し切ることができた。
それでも勝ちたかったんだ!!!
体は立っているのがやっと、今にも気絶しそうで歯を食いしばり耐える。
最後まで足掻いてやる・・・・
俺は迫り来る火球を、眼がかすむ中、最後までそらさないで見続けた。
ーー多重発動 ≪氷壁≫
目の前に氷の壁がせり上がってきた。
部屋の横いっぱいにひろがり、天井まで届く ≪氷壁≫
が ≪火球≫ を視界から隠してくれる。
スッドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
・・・
『どういうつもりですか、セオン?』
「ん、うぉおん。」 (ん、食事のお礼。)
セオンがスカーレットへと向き、質問に答える。
どうやら氷狼セオンが助けてくれたようだ。
(もう、セオンったら・・。
直前で消す予定だったのに、おかげで今更言っても信じて貰えません・・・。
はるか年下の子供を、しかも真摯な思いで訴えかけてくる子を殺すわけがないでしょう!)
『セオンは後でお仕置きです。
ゴホンッ、えーでは、私の勝ちでよろしいですか?』
彼女は少し悲しんでいる感じで尋ねてきた。
俺は死を覚悟していたが助かり、その落差で思考が止まっていたが動き出す。
「待って下さい。」
助かったけど、勝負はまだだ。
『まだやりますか?』
「いえ・・、足下を見て下さい。」
俺は魔力もつき、体はぼろぼろ、こんな状況で出来るのは・・・。
そう俺が出来るのは、解放だけなんだ!
ーー≪解放≫:剥ぎ取りナイフ
彼女の足下にあった瓦礫の破片の中からナイフが現れる。
俺は ≪風纏≫ を自分の体ではなく剥ぎ取りナイフに発動した。
その後、残った1か2の魔力で剥ぎ取りナイフを圧縮して、彼女へと投げる。
≪風纏≫ がナイフを誘導し、彼女の足に当たって落ちた。
これが俺に出来た最後の足掻きだ。
「へへ、一撃当てましたよ・・・。」
『本当に諦めなかったのですね!?
まさかここまで粘られるとは思いませんでしたよ!
あの状況でまだ攻撃を諦めないで一撃を当てたのはお見事です!!』
(本当に驚きました。
ですが・・、私の勝ちですので、旅には連れて行けません・・。)
「また会ったとき、勝負してくれますか?」
『ええ、いいですよ。』
ああ、悔しいな。
チャンスが手から零れていく。
その時だった、天の助けがきたのは。
「うぉおおん?」 (本当にいいの?)
『勝負の条件ですから仕方ありません・・・。』
(確かにあの子の頑張りには心が動きました。
命をかけた本気の覚悟は少し惹かれるものがあります。
ですが、私たちの旅に付き合わせて彼の人生を振り回すわけには・・・。)
彼女は氷狼セオンの言葉を聞き、考えるように手を顔にそえる。
何かを悩んでいるのか、目の焦点が行ったり来たりしているのが見えた。
(・・・ん?
彼女がセオンさんの言葉で考え込んでいる。
これはまだチャンスの芽が残っているのでは!?)
俺に何か出来ることはないか?
彼女の気を引けるようなことでもいい!
おそらくここが分岐点だ、ここの選択肢を間違えてはいけない。
「あのー! 同胞たちの行方を捜すの手伝う代わりに鍛えてくれませんか?」
だめか?
けどこれぐらいしか今の俺にできることはない。
頼む、お願いだ、一生分の運よ今ここに来てくれ!!
『いえ、しかし・・・。』
「うぉぉーん?」 (ほんとーに、いいの?)
セオンさんが彼女に問いかける。
俺もついでに彼女に目で訴えかける。
『・・・・・・。
ああもう! そんな縋るような目で見ないで下さい!!
仕方ないですね、本当にぃぃっ特別ですよ!!!!
少しだけのお試し期間ってことで様子を見ます!』
(もう・・・。
そんな目で見られたら、少しは優してあげたくなるじゃないですか。)
「いいんですか!?」
え・・・?
俺の耳、聞き間違えてないよね?
嘘じゃないよな!? 本当なんだ!!!
『ええ・・・、よくよく考えたらあなたの力は役に立ちます。
たとえば、その宝具は、旅の荷物を軽くでき、大型の魔物を狩って本来は一部しか持ち帰れませんが、全部持ち帰れるのでお金稼ぎができるのではないでしょうか。』
(一番はここを見つけた【探求の魔眼】。
それは、龍人の隠れ家を探す際にとても役に立つのでは?
今の結界でも見破れる自信はありますが、あまりに複雑で高度に進化していた場合は私でも分からないかもしれません。
ですが、あなたなら見つけることが出来ると信じています。)
「おおぉん。」 (やっと、素直になった。)
『セオンは後でお仕置きですよ!
・・・それに、私たちが持っていない風と土の属性を持っていますから何かと便利だと思います。
それと、先ほど話して頂いた【超翻訳】。
これは『龍人の遺跡』を調べる際や、図書館で文献を探す際に、私一人ではなくあなたがいれば人手が倍になりますから。』
「もちろん、手伝います!
お手伝いでも、雑用でも何でもします!!
スキルはあるので衣食住は任せて下さいっ!!!」
やっっっっったぁあああああああああ!!
セオンさん、ありがとうぉおおお!
彼女はどこかほっとしたような笑顔を浮かべた。
セオンさんは眠そうな目でじっと見つめてくる。
『こほん、ではちゃんと言いますね。
どうですか私たちと一緒に旅に行きませんか?』
「うぉん?」 (くる?)
ええ、もちろんです!
「行きます!
よろしくお願いします、スカーレットさん、セオンさん!!」
『ジュリアいいわ、これからよろしく。』
「わん、くうぅん。」 (セオンでいい、よろしく。)
「こちらこそ、俺も真土でいいですよ。」
これが二人との旅の始まりだった。
名前:セオン
年齢:3212歳
性別:女
レベル:77
職業:獣王
種族:氷狼
スキル: 【氷魔法7】 【闇魔法6】 【水魔法5】 【体術7】 【吸収7】 【索敵6】 【隠蔽6】 【同時発動5】 【龍人語】
種族スキル: 【超嗅覚】 【体型変化】
固有スキル: 【凍老】
装備品: 【白銀の毛皮】
PVが1000を超えました。
本当にありがとうございます。
ポイントをくださると励みになります!