第7話 分岐点:交渉と戦闘
『・・・あなた、誰?』
棺に寝ていた女性が起き上がり、こちらを見て尋ねてきた。
部屋の壁に置かれているランプらしきものの明かりが灯っていく。
女性の世界一の職人が作り上げた西洋人形のような見たこともないほど整った美しい顔と、輝き燃えていると見間違うほど鮮やかな紅い髪が腰まで広がり、神秘的な衣装と相まって、女神のように見えた。
「え!? お、俺は冒険者です・・!
たまたま見つけた隠し通路を探索していたら、ここに辿り着きました。」
(うおおおおおおおお、可愛い!!
じゃなくて、めっちゃびっくりした。)
俺は女性の姿にかなりの衝撃を受け、心の奥から強い衝動が来た。
この女性をもっと知りたい、話したい、付き合いたいと、初めて会ったのに強く惹かれているのを感じる。
出来ることなら自分だけの物にしたい、自分だけを見て欲しいという思いが湧き上がってくるが、なんとか心の中で押さえる。
『・・・なぜ、私の言葉が分かるのですか?』
女性は眠そうな目を開け、こちらの顔を見つめてきた。
眼は髪と同じ紅い瞳で、髪の隙間から後ろに突き出す2本の角が見える。
声はとても透き通っていて美しく、少し話しただけなのに耳に心地よく感じた。
「お、俺は日本人なんで日本語わかります!!」
日本語が分かって良かったと、この時ほど思ったことはないだろう。
神様の手紙に書いてあった適切だと思う場所ってこういうことだったのかな。
『にほんご・・・。 いえ、私が話しているの龍人語ですよ。
見たところエルフのようですが、なぜ龍人語を聞き取れて話すことが出来るのですか?』
女性はまるで初めて聞いたかのように日本語をつぶやき、尋ねてきた。
(んー、どういうことだ。
日本語だと思っていたけど実は違う?)
女性が話しているのが龍人語だと、今初めて知った。
スキルでも龍人語はあったのは覚えているが、スキル選択では選んでなかったはず。
もしかして、何かの手違いか、神様がおまけしてくれて【龍人語】を取得していたんだろうか?
ーー≪鑑定≫:ステータス
名前:風切 真土
年齢:12歳
性別:男
レベル:1
職業:ーー
種族:エルフ
スキル: 【裁縫3】 【料理3】 【土魔法3】 【風魔法3】 【弓術3】 【遠視2】 【索敵1】 【隠蔽1】 【魔力回復1】 【超翻訳】
固有スキル: 【探求の魔眼】
装備品:マント、ゴーグル、ウエストポーチ、防具、麻の衣服、下着、靴、隠しポケット付き手袋、【圧縮の指輪】
≪手袋≫
片手剣、盾、魔法杖、弓、矢 30本
≪ウエストポーチ≫
裁縫セット、光魔石付きランプ、剥ぎ取り用ナイフ、入れ物付き低級ポーションセット5本、毒消し薬3、魔石ライター、ペンとメモ用紙、水筒、ただの袋、石数個
所持品:
• 鞄、土の魔導書、風の魔導書、大きな袋、一回着た衣服類、タオル、方位磁石、地図、鏡、歯ブラシ、桶、財布、身分証
• 包丁、まな板、フライパン、紙皿 20枚、紅茶箱、紅茶用セット、ナイフとスプーン数本、菜箸、鍋、ボウル、魔力式コンロ
• お菓子、肉とパン6日分、小麦粉20kg、食材 数十kg、塩などの調味料、香辛料
(え・・・。)
なんだこれ。
【超翻訳】ってなんだ、【翻訳】じゃないのか。
どう考えても上位互換だよな、神様がおまけしてくれた可能性がかなり高い。
「えーと、【超翻訳】ってスキルのおかげです。
これはどんな言語でも共有語に変換できて、文字を読んだり話せたりできるっぽいです。」
『驚きました、そのようなスキルが・・。
にわかには信じがたいですが、本当なのでしょう。
現にこうして会話できていますもの、あなたを信じます。』
俺もびっくりだよ。
女性は最初は驚いていたが、信じてくれたようだ。
ただ、このスキルのおかげで会話できているから、神様には感謝しかない。
「信じてくれて、ありがとうございます。」
『それで、結界はそのままで扉は開いていませんが、どうやってここに入り込んだのですか?』
やばい、ばれた!!
やっぱ、ちゃんとした手段で入ってないから結界は解除されなかったか。
「あ!! えーーーと、その、頑張って。
ちょっと、いえかなりレベルが足りなかったので抜け道を探したんです。
体を小さくできる宝具(神器の模造品)を持っているので、それで通気口から来ました。」
『そうですか、通気口はたしかに汚れ防止結界が地上付近にあっただけな気がします。
一応、結界は部屋に破壊不可能の性質を与える最上級ですから、何があっても大丈夫だと油断してました。』
女性は少し落ち込んだように顔をふせた。
前に立っているので、まつげが長いのがばっちり見える。
「あの、どうして眠っていたのですか?」
『正確には、【聖魔法】で時間停止していました。
それだけでは完璧ではなかったので、この棺の武器を経年劣化しないように保存する機能も使いましたが。
氷狼、あの子の場合は、【氷魔法】で体を絶対零度まで下げ瞬間冷凍することにより、一時的に肉体の時間を止めていました。』
そう言って女性は俺の後ろに眼をやった。
女性は衝撃的すぎて忘れていた、扉の前には大きな狼がいたんだ。
時間を止めるとか色々つっこみたいことはあるけど、なんか急に後ろから視線を感じたのでゆっくり振り向く。
「うおぉー、わん。」 (ふあぁー、おはよ。)
「おおおおおおおお!!!」
俺はびっくりしすぎて、腰を抜かしそうになる。
後ろを振り向いたら、氷狼が体を伸ばしながら口を大きく開けてこっちを見ていて、一瞬食われるのかと死を覚悟した。
立ち上がった氷狼は見上げるほど大きく、青みがかった白い毛は明かりで艶やかに輝いていて吸い込まれそうになるほど美しい。
『おはよう、セオン。』
どうやら二人は互いの言葉が分かるようだ。
俺も氷狼の言葉が分かったが、【超翻訳】のおかげに違いない。
『忘れていました、あなたの名前を教えて下さい。
私は、ジュリア・R・スカーレット。
あちらは氷狼セオンです。』
「風切 真土といいます。
あのー、レベルが足りなくて勝手にこの部屋に入ったのですが、許してくれますか。」
そう、≪試練の扉≫ を開けていないのだ。
なのに好奇心で眠りの邪魔をしてしまった。
何か言われても、俺は何も言い訳が出来ない。
『そうですね・・・。
おそらくかなりの間眠っていたので世界は変わっているでしょう。
ですので、現在の外の世界についてあなたが知っている限り教えて下さい。』
「わん。うぉおー、おん。」 (お腹すいた。お肉の匂いがする、ちょうだい。)
「それでいんですか・・?
いや、それでお願いします。
あと、【料理3】 があるので、少し待って貰えるならご飯作りますよ。」
情報提供とご飯を作ればいいなら、こっちとしても助かる。
ご飯を食べながら、彼女たちのことについても聞きたいからこの提案は嬉しい。
『こーら、セオン。初対面の人に失礼でしょ。』
「うぉん・・・。」 (お腹すいた・・・。)
「いや作りますよ。
というか作らせて下さい、お願いします!」
スカーレットさんは、まるで姉のようにセオンさんを注意する。
見ていて微笑ましいけど、会話するチャンスなので料理は作らせて欲しいです。
『うーん、でしたらお願いします。
実は時間停止と言っても、本当に極わずかにですが少し時間が経過していて、お腹がすいていました。』
「任せて下さい!」
俺は早速調理に取りかかった。
料理は元の世界でも作り慣れている“卵付き肉うどん”に決めた。
別のメニューが相応しいかもしれないが、うどんは体に優しいから寝起きの人でも食べやすいはず。
それに、時間停止していたとしてもこんな地下の空間で寝ていたんだ体は冷える、そのうえセオンさんは凍りついていたんだ、暖かい食べ物で体を温めて欲しい。
魔力式コンロにライターで火を付け、鍋をかける。
水筒の水は圧縮済みなので、少し入れて ≪解放≫ で鍋の水を満タンに。
食材の中からうどんの麺とお肉、鰹節、昆布、醤油、砂糖、みりん等を取り出して作っていった。
・・・・・
最後にショウガと、ネギ、半熟の卵をトッピングして、肉うどんの完成だ!
さっそく温かい内に、雑談しながら待っている二人の前に持って行った。
テーブルはさっき ≪土壁≫ を応用して、台と足の部分の二枚で作った。
『いただきます。
美味しいですね、昔食べた味を思い出します。』
「わん、おおん」 (うん、美味しい。)
スカーレットさんはフォークで器用に食べていた。
セオンさんは小さい狼になって、椅子にちょこんと座り飲み込むように食べている。
「昔って、食べたことあるんですか?」
もしかして神様が前に送った人だろうか?
相当前のひとだろうに、面白い縁もあったものだ。
『ええ、前に友人の家で頂いたものと似ています。
あの娘の家は王都にあって、よく故郷の料理を作ってくれました。
その中にあった気がします、たしか“特製さぬきうどん”の一つでした。』
それ、日本人だよ。
絶対に日本人だって。
讃岐うどんって、名前ぱくってんじゃん。
「あー、確実に同じ故郷の人ですね。
大丈夫だとは思ってましたが、おかげでお口あったようでなによりです。」
『ふふ、暖まります。』
それから彼女たちと情報交換や、雑談をした。
彼女は聞き上手で話していてとても楽しく、彼女たちの話は聞いたことがないことばっかりで盛り上がった。
食事を食べ終わり片付けを済ませ、神様から貰った“至高の紅茶”を入れてお菓子と合わせて食後に彼女たちと一緒に味わう。
『なんですかこれ!
初めてこんなに美味しい紅茶を飲みました。』
「うぉおおん!!」 (美味しい!!)
「ですよね!
まあ、貰い物なんですが。」
旅の仲間が出来たときに一緒に飲もうと思って買った紅茶セットがあって良かった。彼女たちはとても喜んでくれていて、こっちも嬉しくなる。
『そういえば、≪試練の扉≫ を突破できなかったレベルはいくつですか?』
このまま流せればと思ってたけど、この話題来ちゃったか。
1だなんて言えない、言いたくない。
「えーと、ぃ・・・です。」
『ごめんなさい、ちょっと聞こえなかったです。』
やばい、そんな可愛らしい顔で聞かれたらごまかせない。
「1です・・・。」
『え!? それはちょっと予想してませんでした。
一応 ≪試練の扉≫ を超えてきたので、ご褒美についてこの後お話しようと思っていたんですが、その、条件がありまして。』
「条件?」
『はい、あなたの願いを聞いて簡単なものなら、条件はなしか手加減した戦闘での勝利が。
難しい願いなら、本気の私との勝負に勝つことが出来たら叶えようと思っていました。
ただ、あまりにレベル差があるので、手加減した戦闘でも勝負になりません。
ですので、簡単なものだけになってしまします。』
もしかして、もっと後半に来るべき場所だったんじゃ。
スカーレットさんとせっかく仲良くなれるチャンスなのに簡単なものだけって、悔しすぎる。
なんとかならないだろうか、願いを聞いて貰える機会を今じゃなくて取っておくとか出来ないかな。
「今じゃないとダメですか?
できたらもう少し後がいいんですけど。」
『難しいですね。
この後、仲間がどうなったか調べるために旅立つので。
3000年前に急に姿を消したと伝わっているのはおそらく隠れ里を作ったからだと思います。
その隠れ家を探すために、先ほど教えて貰った大陸の色んな場所にある ≪龍人の遺跡≫ を訪ねますので再び会うのは難しいと思います。』
そんな、せっかくのチャンスなのに。
いや、旅をするから会えないんだ、一緒に行けばいい。
俺の人生の目的は【未知】だけど、彼女たちの旅なら会いそうな予感がする!
「俺の願いはもう決まってます。
その旅に付き合わせて貰うって、簡単な願いに入りますか?」
『すみませんが入りません。
私たちは昔にひどい裏切りにあって、あまり他人を信用できないんです。
原因は人間でしたからエルフのあなたとは話すことは出来ますが、さすがに旅ですと・・、ごめんなさい。』
スカーレットさんは今までの笑顔とは違い、少しこわばった顔で謝ってきた。
さっき聞いた帝国の初代皇帝か・・・。
聞くとことによると昔スカーレットさんに勝負を挑み、勝てば自分の女になるように言ったらしい。
初代皇帝は世界で当時の10本の指に入る実力を持ち、国を興すほど強かったが、それでも負けた。
なのにその後もつきまとい、それでもスカーレットさんが断ると国を利用して龍人狩りを始めた。
その時に人間から裏切りなどにあって、人間や他人が信用できなくなったようだ。
(ふざけるなよ、初代皇帝。
もう死んでるから会うことはないが、もし会ったら絶対にぶっ飛ばしてやる。)
何してんだよ、当時の人間。
いや俺も元は人間だけど、今は違う。
おかげで彼女たちと会えたが、一緒に旅をすることが出来ないじゃないか。
「手加減した戦闘での勝利ではどうですか?」
『本気ですか?
私のレベルは70以上です。
手加減しても、圧倒的なそれほど比べるのもできないほど差があります。
それに残念ながら難しい願いになります、これは勝負する前からわかってますから本気の勝負はやりません。』
「つまり、本気の勝負を受けてくれないと・・・。
どうしても、何があってもダメですか?」
どうする!? どうすればいい!!?
このままではチャンスを失ってしまう。
何か手はないか・・・、まだ諦めたくない!
『・・どうしてもいうなら、条件があります。
手加減した戦闘での勝利したなら、本気でお相手しましょう。
言っておきますが本気で相手をする場合は命をかけてもらいます。
私は全力を出すので死ぬ可能性がかなり、いえ、確実に死にますが本当にいいんですか・・?』
わずかな、本当にわずかな道だけど、可能性を作ることが出来た。
下心80%、人生の目的20% が今俺を動かしているものだが、二度と会えないような美しい女性と近づける機会なんだ、手放してたまるか!
死ぬのは怖いさ、一度死にかけて体験したんだから余計に怖いさ。
でもよ、ここで諦めて妥協したら何か大事なものをなくす気がするんだ。
「その条件でお願いします。
このチャンス、俺は諦めませんよ!」
『いいでしょう・・・。
美味しい紅茶のお礼です、特別にチャンスをあげます。
手加減した戦闘いにもし勝利できれば、次は本気の勝負を。
準備が終わったら声をかけて下さい、この部屋で戦闘を行います。』
彼女は真剣な顔で部屋の中央へと移動した。
セオンさんは部屋の隅に丸まって、こちらそ勝負を観戦するみたいだ。
(よし、絶対に勝つ!
何があっても必ず勝利する!!)
俺は気合いを入れて作戦を練り始めた。
ウエストポーチの持ち物はほとんどそのままで腰に付け、リュックは隅に置く。
ただ、しっかり魔導書は読み返し、持ち物はいろいろと勝つために細工だけしておく。
・・・・・・
「準備終わりました。」
俺は準備をして、彼女と相対する。
彼女は目をつむり集中していて、真剣な様子がひしひしと伝わってくる。
『勝敗条件は今からかける相手の ≪保護≫ を壊した方が勝ち、壊れた方が負けとします。』
ーー二重発動 ≪保護≫
『では、開始します。』
先手必勝!
彼女が勝負を開始した瞬間、俺から遠距離攻撃をたたき込んだ。
ーー≪風弾≫
ーー≪土刃≫
ーー≪風弾≫
ーー≪土刃≫
ーー≪風弾≫
ーー≪土刃≫
・・・
パンッ シュ! パンッ シュ! パンッ シュ! ・・・
魔法杖のおかげで威力が増加した魔法をひたすら放つ。
勝つためにはまずは攻撃を当てることが重要だが、残念ながら俺は近接スキルを持っていない。
使える攻撃手段は魔法と弓だけで、どちらもまだレベルが低いから数と作戦で質をごまかすしかない。
(相手の方が明らかに身体能力は高い!
何も考えずに近づいたら、すぐに ≪保護≫ を砕かれる。
後のことを考えないで、魔力量を気にせず魔法を絶え間なく発動するしかない。)
≪風球≫ よりも射出速度が速い ≪風弾≫ で相手を牽制して、魔法の対処のために足を止めさせる。
≪土球≫ よりも殺傷度が高い ≪土刃≫ で相手の足を狙い、行動力を落としにかかる。
『は!! 』
ーー≪袈裟斬り(スラッシュ)≫ & ≪火球≫
ザン! ゴオオオッ、ボシュ!
彼女は長剣を抜き、見えない速度で魔法を切り裂く。
さらに ≪火球≫ を合間に展開し魔法にぶつけられ、相殺されてしまう。
しかも相手は一撃でこちらの魔法を2発破壊するから、次第に ≪火球≫ がこちらに近づいてくる。
(負けてたまるか!
相手も遠距離勝負に乗ってくれている今がチャンスだ!!)
ーー≪圧縮≫:魔法杖
長さ:10 % 縦:10 % 横:10 %
ーー≪身体強化【風】≫
ーー≪解放≫:弓、矢5 & ≪連続射撃≫
ブン! シュッシュッシュッ!
魔法杖を圧縮して手袋のポケットにしまう。
≪身体強化【風】≫ で体の移動速度を上げ、≪火球≫ の射線から横に転がり逃げる。
すぐに体勢を立て直し、弓と矢を構えて ≪連続射撃≫ で威力は落ちるが数を増やし相手を射る。
2本は相手の横側に撃ち牽制、3本は相手の急所の頭、心臓、足を狙う。
ザンッ!!
たった一振りで3本の矢は砕かれた。
残りの2本は彼女の斜め後ろに刺さり当たりはしない。
だが俺は防がれることを前提で時間を作り、既に次の攻撃をしている。
「魔法や矢が当たることなんて期待してない。
俺はしっかりと振りかぶって投げる時間が欲しかったんだよ!」
ーー≪ただの投擲≫
【投擲】のスキルは持ってないから腕力で石を投げる。
子供だが、元の世界にいたより速いスピードで石が数個、相手に飛ぶ。
石って小さくても当たり所が悪ければやばかったりするほど、殺傷能力は案外高い。
『確かに威力はありそうですが、それだけです。』
彼女は冷静に長剣で打ち落とそうとしている。
そりゃ、レベル70なんだ1kgの石なんて余裕だろ。
だが・・・、かかったな!!
ーー≪解放≫:石3
ただの石じゃない。
元はとてつもなく重い大岩から回収した欠片だ!
時速 80m/s で迫る元は1トンの岩が相手の目の前で ≪解放≫ される。
衝突のエネルギーは跳ね上がり25トンぐらい、それが3つもあるんだ、流石に予想外だろう。
「いけー!!!」
決まったと思った。
これで相手に大ダメージを与えて勝ったと思った。
ーー≪身体強化【火】≫ & ≪龍撃斬≫
ドゴオオオオオン!!!
『惜しかったですね、当たれば貴方の勝ちでした。』
彼女は一振りで・・、たったの一振りで大岩を全て破壊した。
不意をついたはずなのに、あの巨石群をスキル一つで消し飛ばした。
岩の粉塵が舞い、≪身体強化【火】≫ の影響か彼女の体から不規則に火がわき上がっている。
あ、ありえないだろっ・・!
高速で迫るトラック並みの衝撃を打ち消すなんて、強すぎる・・!
手加減してこれなんだ、本気の彼女に勝つ可能性は本当にあるのか!?
俺はあまりの驚愕で頭がまっしろになった。
次の勝負は勝てるのか疑問に思ってしまった。
心の内にあった楽観的な思考が砕かれ、諦めかけてしまう。
けど、もう次の手は打っている。
『え!!? どこにいったのですか!』
ーー≪解放≫:矢付き糸 & ≪小型化≫
ーー≪圧縮≫:矢付き糸
長さ:0.1 % 縦:ーー % 横:ーー %
シュン!!
矢は5本放った。
3本は正面に、2本は相手の横側に。
実は、細工して左の矢には糸をくくり付けていたんだ。
しかも、厚みを圧縮して0.001m にすることで相手にばれないように隠した。
さらに追加効果として、糸は固体なので圧縮され攻撃の余波でちぎれないように丈夫になった。
俺は彼女が岩に集中した隙に体を圧縮して、彼女の視界から消える。
岩の粉塵が彼女から姿を隠すちょうどよいカーテンになったのは嬉しい誤算だった。
腰に巻き付けている糸を元の厚みに戻し、今度は長さを圧縮して彼女の左後ろに高速移動する。
俺のことを探していた彼女が、こっちを見ようとわずかに体を捻り始めた後ろ姿が見える。
視界が悪い中、足下を高速移動したが、≪小型化≫ しても背 13cm 横幅 3cm もあるから、気づかれたか。
だが遅い。
ーー≪解放≫:全身、剣
≪解放≫ は一瞬で終わる。
気づくのに一秒遅れた彼女には致命的だ。
戻るときのスピードを利用して、剣を彼女に突き刺す。
これは決まったと思った。
ーー≪高速斬≫
キンッ!
「え!!」
防がれた、剣をはじき飛ばされた!
『ふうー、危なかったです。
今のはちょっと焦りました。』
カラン
剣が落ちる音がする。
まさかこれも防がれるとは思わなかった、なんで反応できるんだよ。
それと彼女が剣を構えなおすのが走馬燈のようにゆっくりと見えるが、俺は剣を弾かれたせいで体勢を崩し倒れているから身動きできない。
『これで終わりです!』
ああ、斬られる。
剣もない、盾も構えられる体勢じゃない、移動用の糸もつきた。
(おわった・・・。
なわけがない。
油断したな!!)
ーー≪解放≫:小麦粉
『きゃっ!』
彼女の足下で爆発が起こり、横から彼女を襲い体勢が崩れる。
横、そう彼女から見て右側から・・・、さっきまで矢があった場所から。
俺が放った矢は五本だ。
三本は破壊され、一本は今使った。
五本目は細工してないとは言っていない。
小麦粉20kgを圧縮して矢にくくりつけていた。
長さ5 cm、厚み1.4 cm と小さく、袋と矢の色が同じだったのは幸運だよ。
そして、袋は圧縮したままで、中身だけを ≪解放≫ して爆発させた。
(まだ勝負は終わっていない。
この至近距離なら魔法を当てられる!)
視界が小麦粉で真っ白になり何も見えないが、ゴーグルと【探求の魔眼】のおかげで相手の姿ははっきり見える。
俺は魔法杖を ≪解放≫ しようとした。
ーーーーそう、俺も油断してた。
ズドン!!
いきなり大きな爆発が起こった。
視界が炎で真っ赤に染まり、体が吹き飛ばされる。
「う、ううう、いた・・・くない。」
『≪保護≫ のおかげで二人とも怪我はないようですね。
ただ、どちらも壊れてしまいました。』
彼女はあれだけの爆発が起こったのにほとんど動いていなかった。
しかも服装は火であぶられたはずなのに、焦げ目や汚れが一切見えない。
それに比べ俺は痛みはなかったが、吹き飛ばされ転がったせいで防具が埃まみれになった。
というか、何が起こったんだ。
もしかして彼女が何かしたのか?
「一体、何が起こったかわかりますか?」
『ええ、≪粉塵爆発≫ です。
この白い粉に私の体から出た火の粉が点火して、爆発したみたいですね。』
粉塵爆発!!
それは予想してなかったわ。
あ、それなら剣で攻撃しないで小麦粉を ≪解放≫ するだけで勝てた・・・。
くそおおおお、もったいないいいいい。
「引き分けですか?」
『勝負は、そうですね。
ほんのわずかな差ですが、先に私の≪保護≫ が壊れましたのであなたの勝ちです。』
え・・!
やった!!
勝ったんだよな、勝ったんだな、勝った!!!
「よっしゃ!」
彼女はしっかりとした眼差しでこちらを見て勝利を告げてくれた。
その声には気のせいかもしれないが、どこか驚きが混ざっている様に感じれれる。
俺は勝利をかみしめ心の中から喜び、衝動がわき上がってきて、めっちゃ興奮した。
『お見事です。
全力ではないといえ、レベル1に負けるとは思ってもいませんでした。
どこか油断していたと思います、すみませんでした、あなたを一人の戦士として見ます。』
「ありがとうございます!」
『もう一度聞きます。
本当に次の勝負をしますか?
今のままでも叶えられる願いの範囲は広がりました。
けど負ければ願いはなしで、最悪死ぬかもしれませんよ。』
・・どうするか。
今の勝ちはただ幸運だっただけだ。
粉塵爆発が起こらなければ魔法で攻撃していたが、おそらく防がれていただろう。
その後は、彼女に近づかれ剣も近接スキルもない俺では斬られて負けていたはずだ。
次やっても勝つのは難しいだろう。
そのうえ本気の彼女に勝つことは遙かに困難になるはずだ。
(今のままで願いを叶えて貰うか、本当の願いのためのチャンスに使うか。
普通の人ならこのままで十分、危険は犯さないだろう。)
死の可能性があるハイリスクは危険だ。
危険だ・・、けどハイリスクってことはハイリターンでもある!
試練を乗り超えることが出来れば、とても大きなものとなって返ってくる!!
なら、決まっている。
生まれ変わった俺の願いを叶えるためには、どちらを選ぶべきかは明白だ。
こんなチャンスを逃したら後悔する、チャンスってなのは一度きりなんだ、この手を離さない。
「ああ、もちろん全力の勝負を望むに決まってるじゃないですか!」
俺はしっかりと相手に伝わるように彼女に向き合い大声で宣言する。
『本気ですか!!?
・・わかりました、相手になりましょう。
このまま始めたいところですが、1時間与えますので休憩して下さい。』
彼女はとても驚いていた。
こちらを心配するようなどこか優しさがある顔で、初めて見た。
「助かります。」
勝負が終わったら集中が切れ疲れが一気に来ている。
さすがに休まないと持たないから、1時間の休憩は嬉しい。
俺は、休みながらやれることをしていく。
名前:ジュリア・R・スカーレット
年齢:3523歳
性別:女
レベル:82
職業:魔法剣士
種族:龍人
スキル: 【火魔法7】 【光魔法6】 【聖魔法6】 【剣術7】 【体術6】 【見切り6】 【魔力回復6】 【体力回復5】 【同時発動5】 【氷狼語】
種族スキル: 【真・龍眼】 【飛行】
固有スキル: 【聖魂】
装備品: 【火龍の長剣】 【龍鱗の防具】 【ミスリルの髪留め】
一部分のみ記載
年齢は寝ている時間を含む
ごめんなさい、遅れました。
先の話のプロットのアイデアが浮かび、忘れないうちに書くのに時間を使ったので本文を書く時間がなかったです><、すみません。
第8話 やらなければ分からない
第9話 XXXX(タイトル未定)