第6話 遺跡の最奥
「ここは・・?」
俺は回りを確認したが暗闇で何も見えない。
ウエストポーチからランプを取り出して、元の大きさに戻す。
ーー≪解放≫:光魔石付きランプ
周りを見ると、燭台があるのが分かった。
おそらく、火でこれを着けることで明かりを確保するのだろう。
ただ、中にあったものは崩れ落ちていて、とても火が着きそうには見えない。
後ろを照らすと壁があり、ここに魔力を流しながら転移呪文を流せば戻れると書いてあった。
前を見ると、先ほど地面の下に見えた大きな輝きが近づいたように感じる。
どうやら、俺は遺跡の壁の下への転移に成功したようだ。
「さーてと、進んでみますか!
魔眼の効果範囲を30 m に設定、透視も常に発動状態で。」
先は暗闇だったが、≪透視≫ のおかげで少し通路の凹凸が分かる。
それにどうやら、【遠視2】 の ≪視覚強化≫ の効果で目が良くなり、暗闇の先がよく見えるようになっているようだ。
ランプが届く範囲は少ないので、とても助かる。
通路へと進み出して、周りの地下遺跡について調べる。
壁や地面にランプを近づけたり、ノックしたり、触ったりしてみた。
コンコン、ペタ
「叩いた感じだと壁と地面は固いな。
それに、上の遺跡と違って壁には文字や絵はない。
通路は今のところ一本道で、道幅は大人三人が歩いても通れるほど案外広くなってる。」
方角は方位磁石で東へと延びているのを確認。
天井も見たところ高く、かなりゆとりがある設計の通路のようだ。
通路はわずかに下へと傾いていて、先に進むほど地下へと潜っていく。
それから俺は30分ほどだろうか歩き続けた。
暗闇を歩いたので普段歩く距離よりは短いかもしれないが、2km 以上は東へと歩いた。
今まで何もなかった通路の壁に、斑模様が右斜め先に現れた。
まだ遠くはっきりとは見えないので、その壁へと近づく。
(これは何だ?
横に長い線が何本も壁に埋まっている。)
「それに、すぐ先の壁の丁度足下辺りに何か四角いものが膨らんでいるな。」
俺は問題の場所のほんの手前まで行って、しゃがみ込み調べて見る。
・・・これはもしかして罠じゃないか?
この四角いものは人が前を来たことを感知する装置で、壁に埋まっている線は槍なんじゃないか。
線の先が近づいたことで見えるようになり、先端が少し尖っていた。
試しに罠を発動させてみる。
ーー≪解放≫:木の小盾、ブラストベアの魔法杖
小盾を通路の先に転がす。
・・・何も起きない。
ーー≪風球≫
【風魔法】の Active Skillを発動する。
杖のおかげか分からないが、けっこう速いスピードで通路を通過する。
ズドン
「うお、焦った!」
いや、通過はできなかった。
いきなり壁から突き出た槍に ≪風球≫ が 貫かれて破壊された。
ズズズ・・
槍はそれから元の壁へと戻っていく。
(まじか、罠は壊れてなかったか。)
槍は通路の反対側まで届いており、威力はかなり高そうで、数も多く避けられそうにない。
「どうするかな・・
槍を一つずつ破壊していくか、装置を取り出すか。」
ーー≪解放≫:片手剣
片手剣を元の大きさに戻して、槍を斬る。
かなり固く、一回の振りでは切れそうにないが槍はすぐに戻ってしまう。
それにどうやら、一度切るのに成功したが槍は後ろから補充されており無くなりそうにない。
壁の装置が更に固く、今のレベルが低く剣術のスキルがない状態では歯が立ちそうにない。
「他の手段は何か無いか?」
ギルドから出てここまで来るまでの間に買った、土と風の魔導書を取り出す。
魔導書を読みながら何か使えそうな魔法はあるか調べる。
・・・
「見つけた。
これとこれを合わせれば行ける!」
俺はさっそく思いついたアイデアを試す。
ーー≪土壁≫ & ≪硬化≫
ズズズ、ピキッピキッ
俺は、 土壁 を目の前に出して通路をふさぐのではなく、通路の壁に沿って展開する。
ちょうど、槍の噴出口がふさがるように。
それから 硬化を土壁に手を触れ発動する。
この魔法は対象の硬さを向上させる効果があり、流し込む魔力が多ければ多いほど硬くなる。
魔法杖を使い威力を底上げしたうえに、魔力を10分ほどかけて流し込んだ。
コンコン
作り終わった 土壁を叩くと、かなり硬い感触が伝わってきた。
上手くいけば、罠を発動させても土壁が槍を防いでくれるはずだ。
・・行けるか?
ーー≪風球≫
ズド
「成功だ!」
槍は 土壁で止まったようだ。
今のうちに俺は多数の槍の罠を抜ける。
そのまま通路を進んでいくと今度は、見るからに落とし穴っぽいのを見付けた。
通路の先の床が途中で、≪透視≫ で見ると分かりやすく薄くなっている。
「今度は定番の落とし穴か。
だけど、俺には【風魔法】がある!」
そう【風魔法】には宙に浮かぶ魔法があるのだ。
さっき魔導書に何かないか探しているときに見つけた。
≪浮遊≫
魔力量に比例して対象を浮かす。
ただし、対象の下に地面あるいは風の勢いを受け止めるものがなければ意味がない。
さっそく試験運転する。
ーー≪浮遊≫
ヒュオー!
足から強い風が吹き体が軽くなるのが分かる。
魔力をおもいっきり込めて、風の勢いを強めた。
ヒュオーーー!!
(あれ? 思ったより浮かばないぞ。)
というか体は上向きに引っ張られる感触がするが、足は浮いていない。
「ああー、スキルレベルが足りないのか。
それとレベルが0で低いから補正がかからないんだ。」
レベリングしないでここに来たのが失敗だったかな。
どうするかな、いまさら戻ってレベルアップ後に、またここに来るのはなんか悔しい。
「何かないか・・?」
【風魔法】には何もなかった。
やはり 浮遊が一番適していると思う。
・・・
・・・・・・
俺の体が軽くなれば良いんだよな。
けど、防具を外したぐらいじゃ無理そうだったし、荷物は【圧縮の指輪】で軽くしている。
(うーん、俺も小さくできれば解決なのに。)
そんな時だった俺の頭に声が響いたのは。
ーーーーー新しい能力を手に入れました
≪小型化≫
【圧縮の指輪】の装着者の体を指輪ごと小さくする。
重さは軽くなり、肉体を圧縮するため肉体のステータスは下がるが、精神のステータスは変わらないので魔法の威力は同じ。
ただし、装着者が身につけているものを全ても小さくなるので、既に圧縮し
たものがある場合はそれは小さくならないので、気をつける必要がある。
これは!
まさに欲しかった能力。
「ありがとう、助かる。」
俺は荷物の整理をして、必要なもの以外の荷物をリュックに詰めて可能なサイズまで圧縮する。
その後、≪小型化≫ で自分の体を小さくしてから、リュックを背負いなおす。
(重い・・!)
今まで軽くしていたから、重く感じる。
けど、これでも50 g はないから、元に戻れば問題はない。
「よし、もう一度だ!」
ーー≪浮遊≫
ヒュオー!
体と荷物が宙に浮かび始めたのがわかる。
俺は今、空を飛んでいる。
「なんか、すごい。
思ったように移動できてかなり楽しい!」
体が軽すぎたのか最初は威力が大きかったが、慣れてくると自由に飛ぶことができた。
落とし穴の罠を超えて、俺は向こう側に着いた。
それからも、槍や落とし穴の罠は続き、途中途中で低級ポーションを飲んで体力を回復していった。
罠の種類も増え、その度に今あるスキルと道具で乗り越えていった。
■ 断崖:道が谷で途切れており、50 m ほど先に対岸が見える。
浮遊は足下に地面がないと使えない。
いくら自由に飛べても、地面からの高さがあり過ぎると落ちてしまう。
そこで、矢に糸を付けて【弓術3】で対岸へと飛ばす。
ーー≪小型化≫
ーー≪圧縮≫:糸
長さ:0.1 % 縦:—— % 横:—— %
シュン!
「うおおおおお、メチャクチャ速いいいいいぃっ。」
糸を掴んだ状態で、糸を圧縮した。
それによって、対岸まで一気に移動することができた。
■ 転がる大岩:狭い坂道を大岩が転がり迫ってくる
通路の幅以上に岩が大きく、体を小さくしても隠れる場所がない。
横は崖なので、浮遊でも逃げることができない。
槍の罠の時のように、土壁に数分も魔力を込めて硬くしている時間もない。
土壁を連続発動。
ーー≪土壁≫
ーー≪圧縮≫:土壁
厚さ:0.1 % 高さ:—— % 横:—— %
ズズズ、シュン!
俺はアースウォールを圧縮して、壁の硬さをあげた。
ズドン!!グシャ
大岩の勢いが止まり、なんとか助かった。
「ふう、今回はまじで危なかったわ。
かなりぎりぎりだったけど、圧縮が成功して良かった。」
【圧縮の指輪】の圧縮すると『性質が高まる効果』は、対象が固体の時はその倍率に比例して硬くなる。
このことに荷物を整理していると、袋も硬くなっていたので気づくことができた。
土壁を解除してから大岩が壊れているか確認する。
大岩は粉々に割れていて、いくつかの大きなブロックと瓦礫になっていた。
俺はいくつかの大岩の欠片を回収して袋にしまう。
そういった罠の他にも、休憩場所はあった。
「やっと、一息をつけたー。
罠がないか、集中し細心の注意をしてたから、本当に疲れた。」
地下水がわき出ている場所があり、水筒の水を補給しておく。
魔力もかなり使ってしまったので、肉とパンを食べて少しの間仮眠をとる。
それとちょうどいいので、武器や道具の荷物の位置を整理した。
【裁縫3】を使い、防具の点検と手袋に小型化した武器をしまうスペースを作る。
それから進んで、最初の位置からかなり東にある地下へとたどり着いた。
いま、俺の目の前には神様が言っていたものかもしれない大きな輝きが見える。
扉の向こうにだけどね。
扉には、 『 試練を乗り越えしものに褒美を 』 とだけ書かれてある。
「この扉もまた魔力を流して呪文を唱えれば開くのかな?」
しかし周りの壁を探しても他に文字が書かれた場所がない。
開けるための呪文が分からないので、とりあえず魔力を流しながら扉を押した。
・・・開かない
(鍵穴も見当たらないから、途中で鍵を取り忘れたってころではなさそうだ。
もしかして、どこかの部屋に扉を開くためのボタンでもあったのか?)
けど、ここまで一本道だったので、脇道や小部屋を見落としたとは思えない。
扉を開けるためには、龍人でなければならない、とかだったら流石にお手上げだ。
「いや、まだ調べる手はあった!」
ーー≪鑑定≫
『試練の扉』
結界が付与してある扉。
物理的な方法や、魔法では傷がつかない。
魔力を流しなら押せば開けることができる。
◆ ≪条件≫:レベルが「70」以上であること
ん・・・?
俺は目をこらして、よく見る。
◆ ≪条件≫:レベルが「70」以上であること
えええええええ!
そんなのありかよおおおお!!
「ここまで来て、最奥まで来てそれはないだろう!
最初の転移するときの条件に書いとけよ、そしたら頑張ってレベル上げたよ!!」
いや、たしかに70は厳しいよ。
すぐに上げることはできないかもしれない。
けど、助っ人でレベル70以上の人連れてくるとか、そういう偽装する道具を探してたよ!
「どうすっかな・・・。
かなり距離あるから、手ぶらで戻るのは勘弁して欲しい。」
俺は、諦められなくて ≪透視≫ で周りを探す。
扉の向こうにある光の元は、どうやら大きな狼のようだ。
扉の向こうは大きな空間が広がっていて、狼がこちらを向いて丸まっている。
それに・・、よく目をこらすと奥にある箱か何かの中に女性が寝ているのが見えた。
「!!?
なんでこんな大きな狼がいるんだ!
それに、女性はなんで寝ているんだ!!」
もしかして、思っていたよりもヤバいものを封印している遺跡だったのか、ここ。
だから、レベル制限して普通の人が間違って開けられないようにしたとか。
「そうかもしれない。
試練ってもしかして、あの大きな狼と戦うことっぽいし。」
いやでも、ここまで来たからには扉の向こうに行きたい。
もしかしたら、試練は違う内容で戦わなくても大丈夫かもしれない。
それに、メチャクチャ【未知】の匂いがする!
これだよ、こういう想像がつかない世界を待ってた。
ここで諦めてちゃ、今までと同じで何も変わらない。
確かに見るからに危険だ、けど試さないと分からない!
「さてと、どうやって向こうに行くかな。」
試練の扉を開けるのは難しそうだ。
周りの壁も硬くて、傷つきそうにない。
≪圧縮≫ でも扉や壁は圧縮できなかった。
他にも試せる手段は、全て試したがどれもこれも扉を開けることはできない。
時間だけがたった。
ここまで来て、目の前に欲しい物があるのに手を出せない。
(くそっ、打つ手無しか。
他にできることはもうないのに・・。)
壁によりかかり、ただ呼吸だけする時間が流れた。
・・・
・・・・・・
いや、待てよ。
生き物なんだから呼吸は必要なはずだ。
もしかして、どこかに通気口があるんじゃないか?
俺は飛び上がって、上を見渡す。
ランプの光が少ししか届かなかったが、≪透視≫ で見ると細い通路があるのが見えた。
「よっしゃ!
道を見つけたぞ!!」
俺ははやる気持ちをおさえて、スキルを使った。
ーー≪小型化≫ & ≪浮遊≫
シュン、ヒュオーー!
体を小さくして、元から圧縮していたリュックを持ち、浮かび上がる。
俺は天井のすみにあった通気口に侵入する。
通路は上へ上へと伸びており、先が見えない。
上へと昇っていると、壁に横道を見つけた。
「もしかしてこれが、あの部屋に繋がっているんじゃ!」
横道を進むと、予想通り下へと伸びていた。
(あと、もう少し。
あと、もう少しなんだ!)
横道を下りていると先に大きな輝きが見えた。
俺は飛行のスピード上げ、その光へと向かう。
ズボ
ついに通気口から出ることができた。
左手には扉と、狼の輝きが見える。
右手には床が高くなっている場所に棺に女性が寝ているのが見える。
「やった・・!」
部屋に侵入した時点では誰も起きない。
俺は音を立てないように床へと下りた。
小型化を解除して、【隠蔽】の≪足音軽減≫を使い慎重に歩く。
階段を上り、かなり大きな輝きをはなっている女性が寝ている棺に近づいていく。
あともう少しで女性のそばに着くとこだった。
『・・・あなた、誰? 』
女性が目を覚まして、尋ねてきた。
【土魔法3】
≪身体強化【土】≫、≪土球≫、≪土壁≫、≪硬化≫、≪地槍≫、≪土刃≫
【風魔法3】
≪身体強化【風】≫、≪風球≫、≪強風≫、≪浮遊≫、≪風纏≫、≪風弾≫
【遠視2】
≪視覚強化≫、≪焦点集中≫、≪視点固定≫、≪動体追跡≫
【隠蔽1】
≪足音軽減≫、≪呼吸音軽減≫
【探求の魔眼】
≪可視≫、≪透視≫、≪鑑定≫、≪最適化≫、≪制限≫、≪on/off≫
【圧縮の指輪】
≪圧縮≫、≪解放≫、≪小型化≫
第7話 分岐点:交渉と試練
頑張って今日か明日には挙げる予定です。
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