第2話 魔眼を手に入れた
「ここは・・・。」
目が覚めると、俺は真っ白い空間に仰向けで寝転がっていた。
手を床に付きゆっくりと痛む体を起こしながら、少しずつ記憶を思い出していく。
(たしか、瓦礫に飲み込まれたはず。
あのあと、少女は助かったんだろうか。
体が動くってことは救助されて治療されたのか?
それにしては、体が変な感じがする、まだ何か刺さっているような感じだ。)
辺りを今一度見渡しながら、声を上げる。
「誰か! 誰かいませんか!!」
少しの間続けていたが何も反応はない。
よく見るとここは広い空間だと気づいた。
病室にしては何もないなと思っていたが、そもそも部屋ではなかったようだ。
「まさか・・・。」
こういうのを小説で見た気がする。
たしか死んだあと、神様と話している場所って言われるとそんな気がしてくる。
自分の体を見返すと家を出た時の服を着ている。
服は全く汚れておらず、血や埃などもない。
あんな大きな瓦礫が体に当たったんだ、何も汚れてないのは変だ。
体はまだ何か刺さったような潰れたような痛みを感じるが、見える範囲では体は正常でそれが違和感でしかない。
(ここは死後の世界なんじゃ・・・。
そっか、死んじゃったか。
そっかー、死んじゃったかー。はは。)
頭にじわじわと自分が死んだ事実が染みこんでくる、心臓がとても痛い。
「まあ、ここに少女がいないんだ、助かったのかな。
よかった、本当に助けられてよかった。」
床に座り込んで、痛む体を休める。
ここ想像した通りの空間なら、待っていれば神様と会えるのだろう。
そう考えると、死んだ事実が頭の中をぐるぐると回って考えてしまう。
声を出して、沈む気分を紛らわす。
「あー、やりたいこと沢山あったんだけど。
旅をして色んな場所に行ってみたかったな!
想像もつかない体験もして、自慢したかった。
それに、頑張って金持ちになって、俺が知らない世界を見てみたかった!
親や友達にもめっちゃ世話になってるから、恩返ししたかったのに。
あと、新しい彼女ほしかった!!!!!」
「そうか。それがお前の願いか。」
いきなり若い女性の老人の小さな子供の、何人もの人が同時にしゃべったような声が後ろから聞こえてきた。
「うお!」
後ろを振り返ると、白い布に纏った金髪の美しい女性が立っていた。
「かみさま・・・?」
「その通りだけど、違うのよ。
言葉で説明するのはとても難しいの、そもそも神様の概念が違っているわ。
それはそうと、遅れて申し訳ありません。
処理に時間がかかってしまい、お待たせしてしまいました。」
目の前の神様? が手をかざすとテーブルと椅子が二つ現れて、座るように促される。
テーブルの上には紅茶がいつの間にかあった。
「違うんですか?
お名前を教えてください。
俺、いえ僕は、風切 真土と言います。」
「普段通り喋っていただいても大丈夫ですよ。
私は、あなたの世界では【旅と願いの神 セナ】と名乗っております。
違うと言っても、神様みたいなものですから。」
「そうなのですか、分かりました。
それで、あの、少女は助かりましたか?
俺はどうなってるんですか?」
神様のことについて詳しく聞きたがったが、それよりも気になることがある。
「優しいのね。フフ。
あの子は助かりました。
本当にありがとうございます。
あの子は私の神社の娘で、とても優しくて働き者で目をかけていたから私の大切な存在なの。」
神様は紅茶を一口飲み、目を伏せながら、
「あなたは・・、死にかけているわ。
まだあなたの体は瓦礫の下で、柱に体を貫かれていて、足は壁に潰されています・・。
ごめんなさい、私にできることは貴方の魂をここに呼ぶことだけ。」
やっぱ、死後の世界みたいなもんか。
心が少し痛んだが、俺よりも立派な少女が助かったんだ。
俺でも役に立つことができたと思うと、少し嬉しかった。
「いえ、謝らないでください。
なんとなくそんな感じがしてましたから、覚悟はしてました。
さっき、それが願いか? と言われてましたが、どういうことですか?」
俺も紅茶に口をつけた。
やばい、めっちゃ美味い。
紅茶はよく分からないけど、体の痛みが取れるのを感じる。
これ、貰えないかな?
「そのとこについてお話します。
私は【旅と願いの神】。
あなたの願いを、異世界に【転生】させる形で叶えることができます。
本来、私は強い願いを持つ者、死んでも叶えてみせる叶えたいと願い努力する者を、異世界に旅をさせることで願いを叶えているの。
今までにも何人も送っているわ。
その人たちの大半があちらの世界で願いを叶えています。」
俺は、いきなりすぎて整理できないので、紅茶を飲んで心を落ち着かせる。
紅茶美味いな!
本当に貰えないかな?
後で頼もう。
ふー、落ち着け。神様を信じないことには何も始まらない。
つまり、異世界に行かせてくれる神様ってことか。よし。
「いま、旅と言われてましたが、さっきは【転生】と聞いた気がするのですが。」
「そうですよ。
今回は少し特殊なんです。
貴方は願いを叶える対象ではなかったのですが、少女を助けいただいた恩返しのためと、死にかける前に一時的に対象の候補には入りましたので。
『死ぬまで旅をする』、普通の人はこうは思っても時間が経つごとにブレーキがかかるのですが。」
あれか、二万円お参りしたときか。
あの時は絶望しかなくて、本当にそうするつもりだった。
「ブレーキがかかる前に、死んでしまったと?」
「はい、その通りです。
それで候補に入った上で私が貴方に会いに来ました。
これにより【願いを叶える条件】を満たしたんです。
それで異世界に送るのですが、貴方の体は死にかけています。
ここは時間の流れが違うので話すことができますが、現実では後数分で死んでしまいます。
私には異世界に能力をお渡しして送ることしかできないのですが、このまま送ってもすぐに死んでしまします。」
やっぱ、死ぬんだ。
ちょっと、どうにかなるんじゃないかて思ってた。
まあ、そこまで惜しくはない。
「それで、旅ではなく【転生】なのですか?」
「ええ、本来は私の力ではできないんですけど。
地震の原因が異常事態のため、運命干渉をやわらげるために特別に許可をいただきました。
異常事態の余波を鎮めるためと【転生】の手続きのために時間がかかってしまいました。
何分急いで処理しなければ大きな影響がでてしまうためですが、お待たせしてしまい申し訳ありません。」
あれは異常事態のせいだったのか。
なら、なおさら神様が謝ることじゃない。
お互い紅茶を飲む。
「本当に気にしないでください。
俺の一人のために時間を使って、影響がせっかく助かった少女にまで及んだら絶対に後悔しますから。」
神様はどこか安堵したような感じの笑みを浮かべた。
俺なんて気にしなくていいのに。
優しい方だな。
紅茶美味い。
「そう言って下さると助かります。
それで、今あなたには【転生】できるチャンスがあります。
もちろん、他の人たちと同じようにいくつかの能力もお渡しします。」
「もちろん、【転生】させて下さい!
記憶ってそのままですよね?
あと、あの、もし選ばなかったらどうなるんですか?」
おお、本当に【転生】できるとは思わなかった。
少女を助けたのは恩返し目的じゃなかったのに。
けど、認められたようでめちゃくちゃ嬉しい。
「そうです、記憶は保持して転生して貰います。
もし選ばなかったら、輪廻に入ってもらうことになります。
記憶は消えてしまいますが、能力の代わりに加護を与えます。」
なるほど、記憶をもったまま【転生】か、記憶はないが加護がある輪廻か。
うん、記憶をもったまま【転生】だな。
能力を貰えるらしいし。
紅茶も貰えるんじゃね。
「能力ってどんなのですか?」
「能力は、1つの強力な【固有スキル】と3つの【スキル】になります。
貴方は組み合わせを自由に選ぶことができます。
ただ、何でもというわけではありません。
【固有スキル】は貴方の願いをかなえるためのもの。
【スキル】は願いを叶える上での補助となるものしか選ぶことはできません。」
【固有スキル】!
強力なって響きが俺の心をくすぐる。
それと3つの【スキル】か、なんかわくわくするな。
ただ、願いに関係するってどういうことなんだろう。
「どういうことですか?」
「これは、方向性を絞ることで魂への付与を可能とするためです。
本来なら【スキル】はこの世界の人たちに馴染みがないものです。
しかし、死んでも叶えたいと思うことで魂が急激に燃え上がり、不安定になります。
そのため、魂への干渉がしやすくなり【スキル】を付与することができるのですが、願いを関係がない【スキル】ですと定着しないんです。
最悪、魂に傷を負ってしまい死に至ることもあります。」
願いに関係するってそういうことか。
心を焦がすような願いを叶えるための【スキル】なら魂は受け入れるけど、関係ないと弾かれ、最悪魂が傷つくと。
「なんとなく理解できた気がします。
俺の願いって、旅をすることですか?」
「それもありますが、あなたの願いの源は今までにない体験をしたい、世界を見たいという【未知への憧れ】です。
旅はそのための一つの手段にすぎません。
他の願いのお金持ちになる、彼女を作るなども手段に含まれます。
恩返しは、貴方の後悔からきているので、強い願いではないですね。」
え・・・!!?
体が震え、心がざわつく。
自分じゃ分からなかったけど、【未知への憧れ】って言葉を心が受け入れてる。
パキパキ・・
まるで鎖が軋んでいるような音が響く
そうか、そうだったのか。
今まで言われた通りの行動ばっかだった。
新しい世界に挑戦して失敗するのを心のどこかで恐れてた。
けど、それ以上に俺が見たことない体験の話が聞こえると目がいっていた。
死んでから自分がしたかったことが分かったのは悔しいが、自分の人生を振り返るとあってる気がする。
今まで親に言われて勉強ばっかして、ろくに遊んでこなかった。
周りの人たちが楽しそうに話すのを聞いているだけで、俺もそんな体験をしたかったってずっと心の奥深くでは思ってた。
けど、つきあいが悪い俺が誘われるはずもなく、誘われても毎日塾に行ってた俺には時間がなかった。
俺はずっと新しい世界の扉を開きたかったんだ。
ブチッ!
心のどっかにあった鎖が砕ける感じがした。
心が湧き上がる。
昔に失ったと思ってたウズウズが体を動かす。
急に視界が空けた気がする。
とにかく騒ぎたくて仕方がない。
おれはーーーーーもう後悔はしない。
失敗するのが恐くてやる前から諦めてたけど、諦めてたまるか!
何も行動できないで終わるなんて、ここまでだ!!
ああ、何で今まで気がつけなかったんだろう。
悔しいなあ
「俺は未知を知りたい!
今までにない体験したい!
この世の全てを手に入れたい!
俺に誰も知らない【未知への鍵】を下さい!!!」
神様の目を見て、俺の思いを語る。
神様は真剣な顔で俺の目を見て、瞬き一つもしない。
・・・
・・・・・・
何分経っただろうか。
あるいは数秒なのかもしれないが数時間かもしれない。
ダメなのか。
やっぱり俺は何もできないやつなのか・・・。
いや、俺にだって叶えたい夢がある。
後悔だらけの人生だったけど、この思いは俺が俺である証だ。
何を犠牲にしてでも【未知】を味わいたい、何も知らないで挑戦しないままで死ぬのなんてもう嫌だ!!!
と、俺が固く決心したときだった。
神様が柔らかい微笑みで俺に笑いかけてきたのは。
「貴方の願い、確かに聞き届きました。」
「———ーー【探求の魔眼】。
あなたのための【固有スキル】です。」
【探求の魔眼】:
対象が持つ世界への【影響力】を光として見ることができる。
世界の真理へ干渉をして、対象が世界に与える目に見えない流れを解析する。
他の魔眼とは違い、直接見ることなく間にあるものを超えて所持者が探し求めている対象を輝かせることで教えてくれる。
【影響力】が大きいほど、光は大きくなり遠くまで届く。
物だけでなく、人や事象の【影響力】まで見ることができる。
紅茶美味い。
ただいま書き中!
毎日1話以上アップしていくつもりです。