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青い春  作者: 如月あい
4/5

シャトル

バドミントン用語が出てきます。

シャトル……競技でつかう”羽”のこと。

ハイクリア……高く遠く飛ばす技。テニスのロブみたいなもの。


一応補足です。

 ラケットの中央にシャトルが当たって、小気味よい音をたてて向こう側に飛んでいく。部活の中で、ハイクリアを打っている時が一番好きだった。この練習の時はあまり深く考えずにただ高く遠くに飛ばすことが目的でいられるからかもしれない。

「首いたくなったー」

 一緒に打ち合いをしていた美優が首を左右に振ってそう叫んだ。ハイクリアの時、視線は常に上にあるうえに、初心者でない限りあまり失敗しないラリーである。そうなると必然的に首は上を向いて固定され、非常に疲れるのだ。

 コートの中でする必要もないぐらいの練習だが、これは後輩への手本もかねてしている。

「スマッシュの練習にでもする?」

 きっと彼女は断るだろうと思ってそう叫び返せば、案の上美優は首を横に振った。

「ちょっと休憩しよ」

「わかった」

 私と美優はコートを後輩に明け渡し、コートの外側に置いていた水筒とタオルに手を伸ばす。

 この体育館は六面コートで、半分を女子、他の半分を男子が使っている。

 ネットを張れない体育館の隅で、コートに入れない子たちは練習したり休憩したりしている。もっともこの学校のバドミントン部はあまり人数が多くないので、それほど人が余ったりはしないのだが。  

「今年の一年生、経験者あんまりいないね」

「そうだね」

 経験者とは、中学校のときにバドミントン部に所属していた子のことだ。あるいは、ジュニアでやっていた子も含めるのだが、そう言う子はほとんど中学でもバドミントンを続けているのだ。

「このくらいの気温でもばててるもんね」

 四月の体育館は、比較的”快適”である。テニス部は良く、体育館の部活は日陰だからいいななんて言うが、体育館特有のこもった熱気は、経験してみないと分からないものだ。

 私はタオルと水筒を置いてラケットを再び手に取った。

「夏はみんな死んでるだろうなあ」

 美優は靴が滑りやすくなったのか、手をパーにして靴底をさっとひとなでした。そして靴を地面にこすりつけるようにしてきゅっきゅという音が鳴るか確かめているかのようだった。

 私はラケットで落ちているシャトルを掬い上げると、そのままラケットのバックハンドでシャトルを天井まで打ち上げた。落ちてきたらそれをフォアハンドで打ち上げる。その作業を繰り返していると、ふと、自分がなんのために休憩しているのかを思い出した。

 これもまた首を使うメニューなのだ。

 自主練としては悪くないが、今やるべきではなかった。

 これで最後にしようと思っておもいきり手首を使って打ち上げると、コントロールを誤りシャトルが体育館の二階部分に乗り上げてしまった。

 窓を開けるくらいしか機能していない二階部分の通路は、そこへ上るための階段がない。もちろん階段がある体育館も多く存在しているが、この学校は梯子しかないのだ。

「最悪」

「あーあ。やっちゃった」

「練習後にとるわ」

 私はため息をついて、ラケットを置くと、タオルで汗をふいた。



 


 練習が終わり、みんながコートを片付けている間、私はある程度まで手伝ったあと、梯子の前でため息をついていた。

 この梯子はかなり幅が広く、登りきったあとに手すりを乗り越えなければいけないので、案外重労働なのだ。

「おつかれ。何やってんの?」

「あ、おつかれ」

 男子バドミントン部の谷川が声をかけてきた。

「ほらあそこ。シャトル乗せちゃったから、これからのぼるの」

 念力で落ちないかなとくだらないことを考えている私は、かすかに見える白い羽をさしていった。男子に頼む子もいるが、そういうことをすると無駄に勘繰られるのでやりたくないのだ。

「ん、あそこ? とってくる」

 そんな私の思惑に反して谷川は何でもない事のようにそう言った。

「え、いいよ」

 私はあわてて制したが、谷川はあっというまに上まで登って行ってしまった。

 そして華麗に手すりを乗りこえると、シャトルの場所まで行った。そしてそのシャトルを持ち、私に向かって投げた。

 シャトルが弧を描いておちてくる。私はあわててその落下地点までいってシャトルをキャッチした。

「ありがと!」

「どういたしまして!」

 谷川が笑顔でそう叫んだ。

 その瞬間、私は奇妙な気持ちになった。

 こういう笑顔は、不意打ちされるとどきりとするものなのだ。

「おーい谷川!」

 それをみていた他の男子が、俺も上げたからとってくれと声をかけているのが見えた。彼は一度こちらを見て手をあげると、すぐに呼ばれたほうに行ってしまった。


「え、もしかして谷川のこと好きになっちゃったり?」

 

 美優がからかうように後ろから声をかけてきた。

「まさか、そんなちょろくないよ」

 私は慌ててそう言い返したけれど、まだ心臓は高鳴っていた。


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