表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い春  作者: 如月あい
2/5

増えるコンパス

「あーあ。また忘れた……」

「篠原、おまえ忘れすぎだろ。学習しろよ」

「しょうがないでしょ。だってコンパスなんかテストの時しか使わないもん」

 今日は期末テストの日。数学のテストでコンパスが必須なのだが、私はこれをよく忘れる。今年ですでに三回目だ。定期テストは年に六回しかないので、私はめでたくその半分で忘れ物をしたことになる。

 こうなれば、私のとるべき行動は一つだ。コンパスを二つ持っている酔狂はほとんどいないので、購買にいくしかない。

 中学からあわせたら、私はいくつのコンパスを持っていることやら。

「購買行ってくる」

 私は教室をでて、一階にある購買へと向かう。階段を駆け下りて角を曲がろうとしたところで、人にぶつかってしまった。

「すみません!」

 上級生でないことを祈りながら謝ると、振ってきたのは聞き覚えのある声だった。

「篠原」

「うわ、ごめん木下」

 声変わりしたあとの低い声で声をかけてきたのは野球部の木下だ。例に漏れず彼の頭は坊主である。

 一度でいいから頭をシャンプーで洗うのかボディソープで洗うのか聞いてみたいものだ。

「お前、また購買?」

 野球部のエースだが、生活態度のそそっかしさは私とあまり変わらない。

「げ、あんただって前回忘れてたじゃん」

 仲間に裏切られた気分になって思わずそういうと、木下は唐突にカバンを探り始めた。

「これ」

 差し出されたのは、なんとコンパスだった。

「え?」

「俺、前回忘れてコンパス買ったけど、そのままカバンに入れっぱなしだった。それを忘れて今度はちゃんと持ってきたから、二つ持ってる。だから貸してやる」

 なんてタイミングのいい男だろう。

「そうなの? ありがと! 今度ジュース驕る!」

「八十円の紙コップの?」

「あはは、ばれた?」

 私は笑い飛ばすと、後でねといって教室まで一気に階段を駆け上る。

 そして数学の時間になった。先生がテスト用紙を配っている。

 木下の席は隣の列にあり、私の席より二列前にある。

 ふと彼の手元をみると、何故か彼はコンパスの箱を開けるのに苦戦していた。どうしたのかと思ってみていると、彼は透明なフィルムを爪でやぶき、コンパスの箱を取り出した。


「嘘でしょ」


 私は思わず小さくつぶやいて、そして自分のコンパスを見つめた。

 驕るジュースは、八十円の紙コップじゃなくて、百六十円のペットボトルにしよう。私はひそかにそう決意した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ