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幽霊相談

戦士の魂

作者: 白黒犬

これは幽霊と会話のできる青年のです。

以前書いた短編と主人公は同じですが、前作は読まなくてもかまいません。

ホラーと銘打っていますので、一応オカルトです。

あまりうまくはありませんが、それでもいいという方は是非一読してください。

若者よ、聞いているか?

死者の声を聴ける若者よ。聞こえているのだろう、某の声を。

もう一度言おう。某は生まれながらの戦士である。

幼き頃は暗く、狭い場所でずっと一人でいた。両親の顔はわからぬ。我を生み落してすぐに去ったのか、居なくなったのか。だがそれをさみしいと思う間もなく、某はただただ強さを求め、鍛えぬいた。

なぜそうしていたのかはわからぬが、外に出たときに必ず役に立つと確信を持っていたがゆえにだ。

辛く、長い日々ではあったが苦ではなかった。周りには友も敵も存在しない。孤独こそが某の世界だった。

そういえばお主もいつも1人―――睨むな。友達がいないのは別に悪ではない。

ともかく、孤独の中ひたすらがむしゃらに生きてきた。そんなある日、某は突如気づいたのだ。


外に出るのは今であると―――


神の啓示とは思わん。しいて言うならば直観だろう。某は必死に手足を動かし、外へと飛び出したのだ。

今でも忘れはしない。

はじめて浴びた太陽の光。響く蝉しぐれ。そして、体いっぱいに吸い込む数多の匂い。

その時の感動をどう言葉で伝えられようか。億の言葉で持っても、お主には伝えきれぬだろうよ。

それに、その感動はほんのひと時だ。すぐに某は戦へと赴くこととなった。

なんのために?むろん生きる糧を得るためにだ。明日を生きるためには戦わなくてはならぬ。戦い、他者を出し抜き、蹴落とし、明日の糧を得ることができるのだ。

聞くところによればお主たちは命をかけぬ、争いのない日々を送っているらしいな。

場所にもよるのか?だが、実にうらやましいことだ。

お主たちは感謝すべきよ。争わずとも飢えることのない日々を手にしている幸運を。

話がそれたな。ともあれ、某は幼少より鍛えぬいた腕と自慢の二刀で並み居る敵を薙ぎ払ってきた。

その活躍はまさに無双!どのような敵もこの二刀でもってちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活劇!時には自分の倍はあらんとする相手にも一歩も引かず、一瞬のスキをついて懐に入り込み、その巨体を刀で持って叩き伏せたのだ!

戦場に赴いては、その強さで持って多くの勝利を我がものとしてきた。口にするまでもないことだが、非力な弱者には手を向けておらん。あくまで強者を、少ない食料を独り占めせんとする悪鬼たちを打ち払っただけよ。

ともあれ、そんな争いだけの日々が続く中、某もついに年貢の納め時が来た。

いつものように戦場へと向かい、敵を払い、勝利の美酒に酔っていたところ、この体を網が捕えたのだ!

普段であればそのような油断はしなかった。だが、あの時の美酒は最高においしく、少し、ほんのわずかな気のゆるみが、敵の接近に気づけなんだ。

慌ててその場を離れようとするがすでに時は遅し。某の体は敵によって捕らえられてしまった。

敗者に言葉はなし。某も死を覚悟していた。だが、本当の地獄はそれからだった。

その敵は我を狭き牢に閉じ込め、飼い殺しにしたのだ!

このような屈辱があってたまるものか?敗者に生き恥をさらせという、実にむごい!

しかもだ!閉じ込められたまま飢えさせるかと思いきや、敵はなんと某に寝床、そして食べ物までも用意したのだ!

それのどこが悪いだと?馬鹿者が!

敵に、情けを、かけたのだ!それによって某の戦士としての魂と誇りは完全に汚された!これは慈悲などではない。二度と戦士に戻ることができぬように、徹底して某の心を砕きにきたのだ!

某も生き物、しかも戦場で命を懸けて糧を奪ってきた戦士だ。目の前に出された食べ物を無駄にすることなど、本能が許さない。

我慢の末に某が与えられた食べ物を口にするのを、敵はさぞかし愉快そうに見ておった。あの時の敵の表情、今も忘れられぬわ!

そして戦士として死した某は、そのまま何日も牢に閉じ込められたまま変わらぬ日々が過ぎていった。

時々、他所からか同じように捕まった戦士が同じ牢に送られることもあったが、ほとんど死に絶えた。飢えたのではなく、心が折れたのだろう。

戦士にとって、牢の世界は狭すぎるからな……。いくら食事や外敵の心配がなくとも、某のように強い精神でなければ到底持つまい。

某はずっと耐えた。何もないという地獄をひたすら耐えた。だが、結局時の流れには叶わなかったのだ。

もうすぐ夏が終わろうというあの日、某にもついに寿命が来た。

よもやこのような狭い牢の中で生涯を遂げるとは、外に出たときは思いもしなかった。死するときは大地の上で、願わくば戦場でその命を散らせたかった。

それももはや叶わぬ夢よ。某はそう思い、この世に生を受けた時と同じように、孤独に死を受け入れた。

……なんだその顔は?

死を受け入れたのならなぜ成仏しないとな?

簡単よ。死してなお、敵は某を話さなかった!あろうことか、某の死体を貼り付けにし、衆人観衆の前に晒すと言ったのだ!

な、なに!?それが悪いのかだと!?

き、貴様は何を言っているのだ!?あ、ああ頭は正気か!?

お、お、おそれおおくも、か、かつては戦士であった男のな、亡骸に!こ、ここ、このような辱めを……!!

そのような行い到底許すわけにいかぬ!成仏などできるか!断固としてその行為を、止めなくてはならないのだ!

さあ、若者よ!お主は死者の魂の声を見聞きできるのであろう?

ならば某の声を!魂の叫びを!戦士の最後の願いを奴へ伝えるのだ!!

これはお主にしかできぬことだ!さあ、早くしろ!できぬのならばこのまま永遠にお主の傍に付きまとうぞ!いいのか?いいのだな!?


僕はため息をつきながら、厄介な依頼人を片目で見つつ、目の前の彼にもう一度だけ語りかけた。

「悪いけどゆずってくれないかな?」

彼は不満そうに眉をひそめる。

僕は周りの人に、特に大人に変な目で見られてないか不安に思いながら、続ける。


「その標本の、クワガタのだけでいいからさ。お礼にアイスもあげるから」


少し悩んだ後、幼稚園児の子供はうなづいて、ガラスの嵌められた木の箱からピンでとめられたクワガタ虫を取り出し、僕に渡してくれた。そして代わりのアイスをもらうと、嬉しそうに駆け足でその場を立ち去る。

ああ。これでようやく、この厄介な虫の幽霊から解放される。

どっと疲れが押し寄せる中、僕はしずかに、そして深いため息をついた。

いかがでしたでしょうか。

オチのみに全力を注ぎました。

笑っていただければ幸いです。

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