~第八話~
次の日なって、僕は、目覚まし時計のセットした時間に起きる。
起きて、顔を洗っていると
「朱莉~」
と言って、僕に抱きついて来るのがいた。
「お、お父さん! 僕だよ!」
僕に抱きついてきたのは、父親の圭吾父さんで、どうやら……朱莉母さんと間違えたみたいである。
「あれ……聖?」
「そうだよ……何で、間違えるの……?」
「だって、そっくりだしな?」
「え?」
そう言って鏡を見ていると、後ろから
「おはよう~」
寝ぼけ眼の朱莉母さんが、洗面所にやって来た。鏡に映った姿を見ていると、そっくりと言うか……双子?って感じに見えるぐらいに、本当に似てる風に見える。
「あ、ほんとだ……」
「だろ?」
「確かに……私と聖ちゃんだと、双子の姉妹に見えるわね~」
「それ笑えないんだけど……」
「そんな事より、朝食出来てるから、食べなさい?」
「あ、うん」
そう言って、顔を洗い終わり、身だしなみをチェックして、僕は、朝食を食べる事にした。
朝食を食べ終わり、遅刻するのは嫌だったので、自分の部屋に戻り、制服に着替える。
男物の制服なので、これで女の子には見えない筈……と思っていた。制服に着替え終わり、鞄の中に意思疎通用のノートを入れて、出かける事にした。通学路を歩いていると、桜の花びらが道路に散っていて、それを掃除している人をちらほらと見かけた。
そして、通っている高校、山野辺高校にたどり着く。
昇降口で、上履きに履き替えて、一年一組に向かう事にした。
一年一組の教室内に入ると、もう既にほとんどのクラスメイトが集まっていたりしている。
僕は、自分の席に座り、鞄を開いて、ノートを机に入れる作業をした。
作業が終わって、ぼ~っとしていると、キーンコーンとチャイムが鳴って、担任の碓井先生が入ってきて、こう言う。
「皆、おはよう、今日も普通の授業となっているので、そのつもりでいるように、では出席を取ったら、授業を始めたいと思う」
そう言って、出席を取った後、授業が始まった。授業内容は、中学時代と違って、ちょっと難しくなっていた。まあ、黒板に書かれている文章を、ノートに書き写すだけでいいかな……と思ったので、その作業に専念して、時間が過ぎていく。
そして、授業が終わり、お昼になった。
僕は、母さんが用意してくれたお弁当を持って、教室を出る事にした。
向かう先は、もちろん放送部員なので、放送室の扉を開けて、中に入ると
「あ、来たわね? 聖君」
そう言ったのは、部長の中田彩さんだった。
「あ、はい」
「それにしても……改めて聞くと、本当に凄い声ね……ねえ……聖君」
「はい……?」
「その声をいかして、キャラクターを演じるとかやってみない?」
「あの……それって?」
「実はね……来週、人形劇をやる事になってね? そのアフレコを聖君に頼みたいの、駄目かな?」
「人形劇ですか?」
そう話していると、遅れてやってきた、同じクラスの亮太がやって来た。
「お待たせしました~って、何か話してました?」
「ええ、聖君に人形劇の声をやってくれないかとね? あ、亮太君もやる?」
「あ、はい、やってみたいです、聖はどうだ?」
「う~ん……」
僕は、悩んで、まあやってみるのもいいかなあ……と思ったので
「じゃあ、よろしくお願いします」
「決まりね、じゃあ近いうちに何の役をやるか、教えるわね? 今の所、まだ台本が出来上がってないみたいなの、人形は出来てるんだけどね? その人形劇を、幼稚園で開演する事が決まってるわ」
「そうなんですか」
「なんか、ちょっと楽しみかも」
そう話していると、部員の洋子先輩が、こう言ってくる。
「二人とも、ラジオの準備お願いね?」
「あ、はい、じゃあ、聖、行こうぜ」
「うん」
そう言って、僕と亮太は、ブースの方に向かった。
ブースの中に入り、椅子に座り、マイクの調整をする。そして、スピーカーから、洋子先輩の声が、聞こえてきた。
「二人とも、準備はいい?」
僕と亮太は、Okのサインをする。
「じゃあ、行くわよ?」
そう言ってから、スピーカーから、洋子先輩の声が聞こえてくる。
「これから、お昼の放送をはじめます」
そして、僕と亮太の、ラジオ放送が始まった。
「こんにちは~、今回も始まりましたヤマノベラジオ、司会はもちろん、ブラックと」
「えっと……ホワイトです、よろしくお願いします」
「それにしても、ホワイトさん」
「はい?」
「なんか、すごい人気らしいですよ? 山野辺高校HPの書き込み欄もダントツにトップですし」
「あ、ありがとうございます……え~っと……人気が出て嬉しいです?」
「なんで疑問形なのかは置いといて、では、早速最初のコーナー、音楽を流します、それでは聞いて下さい」
そう言って、音楽が流れ出す
音楽が流れている間は、マイクのスイッチを切っているので、そのまま休憩する事にした。
休憩していると、ブースの中に洋子先輩が入ってきて、ノートPCを開く。
そして、音楽が鳴り終わり、再び、二人で話す事にした。
「いや~いい曲でしたね~ホワイトは、どう思いました?」
「確かにいい曲だったと思います」
「うんうん、じゃあ早速このコーナーに行きたいと思います! 題して「ホワイトボイス」~このコーナーは、このヤマノベラジオのマスコット、ホワイトちゃんに言って欲しい事をリスナーの皆さんに考えていただくコーナーです」
「え? 僕って、マスコットだったの……?」
「では、早速行きましょう、え~っと何々……ホワイトラブさんから「お兄ちゃん、大好きwって言って欲しい」って書いてありますね? では、ホワイトちゃん、どうぞ~」
「えええっ? う~ん……「お兄ちゃん、大好き♪」こ、こんな感じ?」
「今、このラジオを聴いている人、悶絶してると思いますよ~」
「も、悶絶……」
「じゃあ、次の人は~けいこんさんから「ご主人様、なにします? とかメイド風で」と、書いてありますね~では、ホワイトちゃん、どうぞ~」
「ええ……じゃ、じゃあ……「ご主人様、これでよろしいでしょうか……」と、まあ、こんな感じ?」
「グッジョ~ッブ!な、なんか興奮してきた……ハアハア……」
「っちょ!? ブラック、鼻息荒いし、顔近い~」
「おっと……いかんいかん、興奮してしまった……ま、まあこんな感じでやっていきたいと思います、さて、ホワイトちゃん、言ってみてどうでした?」
「みんな……もうちょっと、ましな回答を希望したいかも……なんかマニアックすぎるって感じです……」
「そうですか~おっと、もうこんな時間だ、今日はここまで、では、次回にお会い致しましょう、MCはこの俺、ブラックと」
「いつのまにかちゃんづけになってる、ホワイトです」
「以上で、お送りいたしました、この番組は放送部の提供で、お送りしました」
そう言った後、マイクのスイッチを切る。
そして、三人でルームの方に行って、洋子先輩が、マイクのスイッチを入れて、こう言う。
「これで、お昼の放送を終わりにします」
そう言ってから、スイッチを切る。
「はい、OK~」
「今日の放送は、まあ、よかったんじゃないかしら?」
「あ、ああ……」
「あれ? 太一先輩……なんで、顔が赤く?」
「い、いや、これは……」
「ふっふ~実はね……太一の奴ね? 聖君の萌えボイスを聞いて、こうなったのよ?」
「何言ってんだ、そう言う彩だって、さっききゃーきゃー言ってたじゃないか? 変な含み笑いもしてたしな?」
「そ、それは……ちょっと妄想してだけよ!」
妄想って……一体何を……とそう思ったが、あえて聞かない事にした。
「そ、それより、あとは放課後に集まるだけよ? じゃあ、解散」
部長の彩さんが言ったので、僕と亮太は、自分のクラスに戻る事にした。
クラス戻ると、同じクラスの女子生徒、山本理恵さんが、こう話してきた。
「さっきの放送を聞いて、見てみなよ? クラスのみんなを」
そう言われて、見てみると、明らかににやにやしている者がいた。きっとというか、何かの妄想をして、悦に浸っているみたいである。しかも、よく声を聞いてみると
「なあ、さっきの放送の台詞聞いたか?」
「俺は、録音した、これでホワイトちゃんの声を毎日聞けるぜ……」
「あ、ずるいぜ、俺にもダビングしてくれ!」
そんな声が、聞こえたりしている。うん……録音って、はっきり言ってやめてほしかったけど、声を出すのは不味いので、言うのをやめる事にした。
「なんかさっきの放送を聞いて、妄想に浸っている奴、多いな……」
確かにそうだなあ……と、本当にそう、思ってしまう。
まあ、深く考えない事にして、自分の席に着き、午後の授業に、専念する事にしたのだった。
午後の授業は、結構簡単な授業内容だった。
まあ、授業内容をノートに書き写す作業で、時間が過ぎていく。先生に黒板の文字を読むようにと、他の生徒に呼びかけていたが、僕が文字を読むと、僕の声がラジオのホワイトちゃん? だと思われてしまうので先生に当てられませんように……と思っていた。
何とか当てられる事はなく、授業が終わる。そして放課後になり、担任の碓井先生の挨拶も終わり、帰る用意をしてから、僕と亮太は、部活なので、放送室に向かう事にした。
放送室の中に入ると、もう既に先輩達が集まっていて、僕達を見た後、部長の中田彩さんが、こう言ってきた。
「あ、二人とも来たわね? じゃあ、明日のラジオの事だけど、明日はちょっと変えて、洋子と太一の二人でやってもらう事にしたわ」
「じゃあ、俺と聖は、こっちで先輩の手伝いですか?」
「ええ、そうなるわね」
「太一先輩が、レッドって言ってたけど、俺がブラックで、聖がホワイト、じゃあ……洋子先輩はどうするんです?」
「私? そうね……ブルーにするわ、これでイエローが揃ったら、完璧に戦隊物よね?」
「あら、それは私にイエローをやれとか言ってるのかしら? 洋子」
「いや、そう言う訳じゃないわよ、ただそう思っただけよ」
「別に良いわよ」
「え?」
「別に私は、色にはこだわらないしね? さしずめ、放送戦隊ヤマノレンジャーってとこかしら」
「あ、それいいかもな? 二人は、どう思う?」
そう、部員の太一先輩が言ったので
「俺は別に良いと思いますよ、聖は?」
「僕は……うん、ありかな……と思います」
「じゃあ、決まりね? 放送戦隊ヤマノレンジャーとして、やってみましょうか」
「りょ~かい、あ、じゃあ、太一と明日のラジオの打ち合わせやるわね? ほら、太一、行くわよ」
「ああ」
そう言って、双子の先輩達は、ブースの方に向かった。
「じゃあ、亮太君、機材の使い方を教えるわね? 聖君には前に教えたから、今回は亮太君の番よ」
「あ、はい、わかりました」
そう言って、亮太は先輩に機材の使い方を教わっていた。
僕は、その姿を眺めていると、顧問の朝崎翠先生が放送室に入ってきた。
「あ、聖、お前の声な? 教師達にも好評だぞ?」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、特に男性教諭で一人、オタクっぽいのがいてな……そいつが言うには、私に「あのホワイトの声、誰がやっているか教えてくれ」とか言われてしまってな……うまくごまかしといたが……それでよかったよな?」
「あ、はい、ありがとうございます」
「いや、それより……頼みたい事があるのだが……いいか?」
「僕にですか?」
一体、頼みたい事って何だろう?と思った。
「その男性教諭に頼まれてしまってな……目覚まし時計にホワイトの声を入れてほしいのだそうだ……どうだ? やってくれるか?」
僕は、どうしようかと悩んだが、まあ別に減るものでもないし、断るのも失礼かな……と思ったので
「まあ、それぐらいなら……別にいいですけど……」
「そうか、さんきゅ~な? いや~助かった、これで新しいゲームが買えそうだ、じゃあ、目覚まし時計を渡すから、明日、私に渡してくれ」
そう言って、僕に目覚まし時計を渡してきた。新しいゲームって……もしかして……その男性教諭に金とか貰ってたのかな……気になったので、ちょっと聞いてみる事にした。
「あの先生……その男性教諭に何か貰ったんですか?」
「ああ、なんか「金なら出すから、お願いする!頼む!」とか土下座してきてな? 丁度欲しかったゲームあったし、ついOkしてしまったのだ」
「土下座……そこまでしますか……」
「ああ、ちょっとどん引きしてしまったがな……」
「そ、そうなんですか……」
そんな話をしていると、ブースにいた二人が、戻ってきた。
「打ち合わせ終わりました」
「Ok~じゃあ、洋子、帰りの放送お願いね」
「りょ~かい」
そう言って、洋子先輩は、マイクのスイッチを入れる。
「下校の時刻となりました、皆様、速やかに下校して下さい、繰り返します、下校の時刻になりました、皆様、速やかに下校して下さい」
そう言って、マイクのスイッチを切る。
「はい、OK」
「じゃあ、今日は解散ね? じゃあ、解散」
そう言ったので、僕は、亮太と一緒に帰る事にした。
帰り道、亮太が話しかけてきた。
「聖、先生に頼まれたの、どんな感じにやるんだ?」
「う~ん……まあ、ありきたりなのをやってみる事にするよ」
「をうか……じゃあ、出来たら、俺にも聞かせてくれないか?」
「え……? う、うん、分かった」
「じゃあ、俺、こっちだから、じゃあな」
「あ、じゃあ、さようなら~」
そう言って、僕は、亮太と別れて、家に戻る事にした。
家に帰ると、誰もいなく、僕、一人だった。
うん、丁度いいから、目覚まし時計に入れる音声の収録でもするかな……
と、思ったので、目覚ましの録音ボタンを押して、こう言った。
「えっと……朝、朝だよ? 起きて下さい~」
そう言って、録音ボタンを離す。
こんな感じでいっか……と思ったので、撮り直しはやらない事にして、両親が帰ってくるまで、ゆっくりとしている事にしたのであった。