ミザリーの夢
短い睡眠時間の中、シアンは懐かしい夢を見た。
ミザリーが白いワンピースの裾を踊らせて、波打ち際を歩いている。彼女の燃えるように赤い髪と翡翠の海は恐ろしく不調和だったが、シアンにとっては幼い頃から見慣れ、目に馴染んでいる光景の一つでもあった。
シアンはミザリーのほっぽったサンダルを拾い、そのあとをゆっくりついて歩く。波と戯れているミザリーに視線を送り続けていると、彼女はゆるりと振り返った。その拍子に、首に下げたペンダントがキラリと輝く。
「ずーっとつけてるッスね、それ。いい加減外せばいいのに」
「これのこと?」
ミザリーはペンダントのチェーンをちょっと持ち上げて言った。
「いいの。気に入ってるんだから」
「そりゃ、そう言ってもらえんのは、あげたオレとしては嬉しいッスけど。でも安物だし、もう子供っぽくないッスか?」
「値段なんて!」
ミザリーは繊細な物を扱うように、そっとペンダントを両手で包みこんだ。
「シアンがくれたものだもの、たとえ安物でも子供っぽくても、私には大切な宝物よ。だからね、いつも身につけていたいの。…………ダメ?」
「まさか」
シアンは即座に否定した。
「ダメじゃないッスよ。大切にしてくれてありがとうな、ミザリー」
そう言ってシアンが照れくさそうに笑うと、ミザリーは嬉しそうにはにかんだ。彼女はペンダントの飾りを、慈しむように撫でる。
「……このペンダントのモチーフのリンドウってね、花言葉が『正義』らしいの」
「へえ、そこまでは知らなかったッスね」
「そうなの。それでね、シアン……」
「ん?」
「あのね、私、いつも正しくありたいと思うの」
ミザリーからの突然の告白に、シアンは瞠目した。
「え? 花言葉だから? 何スか、藪から棒に」
「……私ね、シアンのこと好きよ。大好き。でもね、例えばシアンが悪者だったとしたら、私、きっとシアンを許さない。シアンだけじゃないわ。例え大好きな村の皆でも、彼らが正しくない行いをしていると思ったら、私は、それを正すの」
「それは……正義感が強いというか、でしゃばりというか……」
会話に窮するシアンとは裏腹に、ミザリーははっきりとした口調で言う。
「他人からの評価はどうでもいいわ。私は、自分の信じる正義に真摯でありたいの」
そう言ったミザリーの瞳には決意めいた輝きがあり、シアンは眩しく思った。
これらの会話を交わした一週間後、村は悪意に満ちた炎に消された。正義感の強いミザリーは、何を思い、この二年間を過ごしているのか。
(……ミザリー、お前がもしガーダーで、反逆者と戦える立場なら、どう動く? どう正す?)
シアンは心の中で問いかけながら、目覚めるべく、薄い瞼を押し上げた。