表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

ミザリーの夢

 短い睡眠時間の中、シアンは懐かしい夢を見た。


 ミザリーが白いワンピースの裾を踊らせて、波打ち際を歩いている。彼女の燃えるように赤い髪と翡翠の海は恐ろしく不調和だったが、シアンにとっては幼い頃から見慣れ、目に馴染んでいる光景の一つでもあった。


 シアンはミザリーのほっぽったサンダルを拾い、そのあとをゆっくりついて歩く。波と戯れているミザリーに視線を送り続けていると、彼女はゆるりと振り返った。その拍子に、首に下げたペンダントがキラリと輝く。


「ずーっとつけてるッスね、それ。いい加減外せばいいのに」


「これのこと?」


 ミザリーはペンダントのチェーンをちょっと持ち上げて言った。


「いいの。気に入ってるんだから」


「そりゃ、そう言ってもらえんのは、あげたオレとしては嬉しいッスけど。でも安物だし、もう子供っぽくないッスか?」


「値段なんて!」


 ミザリーは繊細な物を扱うように、そっとペンダントを両手で包みこんだ。


「シアンがくれたものだもの、たとえ安物でも子供っぽくても、私には大切な宝物よ。だからね、いつも身につけていたいの。…………ダメ?」


「まさか」


 シアンは即座に否定した。


「ダメじゃないッスよ。大切にしてくれてありがとうな、ミザリー」


 そう言ってシアンが照れくさそうに笑うと、ミザリーは嬉しそうにはにかんだ。彼女はペンダントの飾りを、慈しむように撫でる。


「……このペンダントのモチーフのリンドウってね、花言葉が『正義』らしいの」


「へえ、そこまでは知らなかったッスね」


「そうなの。それでね、シアン……」


「ん?」


「あのね、私、いつも正しくありたいと思うの」


 ミザリーからの突然の告白に、シアンは瞠目した。


「え? 花言葉だから? 何スか、藪から棒に」


「……私ね、シアンのこと好きよ。大好き。でもね、例えばシアンが悪者だったとしたら、私、きっとシアンを許さない。シアンだけじゃないわ。例え大好きな村の皆でも、彼らが正しくない行いをしていると思ったら、私は、それを正すの」


「それは……正義感が強いというか、でしゃばりというか……」


 会話に窮するシアンとは裏腹に、ミザリーははっきりとした口調で言う。


「他人からの評価はどうでもいいわ。私は、自分の信じる正義に真摯でありたいの」


 そう言ったミザリーの瞳には決意めいた輝きがあり、シアンは眩しく思った。



 これらの会話を交わした一週間後、村は悪意に満ちた炎に消された。正義感の強いミザリーは、何を思い、この二年間を過ごしているのか。


(……ミザリー、お前がもしガーダーで、反逆者と戦える立場なら、どう動く? どう正す?)


 シアンは心の中で問いかけながら、目覚めるべく、薄い瞼を押し上げた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ