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セレッサ迎撃戦―思案―

ルインから輪を描いて広がる強風は、なおも止まない。飛んでくる瓦礫が、容赦なく隊員たちを襲った。


 ラゴウやレイラーが怪我を負った隊員の援護に回ったが、それでもほとんどの隊員がルインの攻撃にやられてしまい、戦力が一気に削がれる。まともに動けるのはシアンを合わせても六、七人だけだ。

 封鎖された十二の通りの壁は、バタバタと倒れていく。


「くそ……っ! 一度破壊されると自動では修復してくれんのが面倒だな……っ」


 エリシアはルインが攻撃する度に壊れる土の檻を修復するため、なかなか攻撃に手が回らない。その上、仲間を巻き込まないようにするため大技が使えないようだった。

 しかし、皆が烈風によって広場の端へと追いやられている今ならチャンスだと、攻撃をしかける。


「土の剣山アルディナ・ペニテンテ!」


 エリシアが叫んだ瞬間、広場に敷かれた石畳を突き破って、千以上の土の刃がルインへ伸びた。

 土のポールに立っていたルインは、針のむしろに立たされる。それどころか、太い土の刃はルインの胸元にまで伸びてきた。幾つもの尖った土の剣先がルインのコートを破き、胸元に埋まった火の魔石を抉り取ろうとする。


 咄嗟に一歩引いたルイン。しかし足を踏み外し、狭い足場に立っていることを思い出した彼は、歯噛みした。


「ああ……そうか、そうだな。雑魚を相手にするより……何が一番手っ取り早いって、その女を殺して土の魔石を奪い返すことだよな!」


 風を止めたルインは、広場を埋め尽くす土の剣山を焼き払った。さらに――――……。


「あの女を食らいつくせ! 人喰い馬ディオメデス!」


 ルインの生み出した四頭の火の馬が、凶暴にいななき、エリシアに突進してくる。エリシアは土で壁を作り上げ、身を庇った。そこへ火の馬が頭から体当たりし、膠着状態に陥る。

 すると今度は追い風を纏って加速したルインが、直接エリシアへ突っ込んできた。


「――神速を誇る風帝よ! その速さを以って彼の者を捕え、強靭な縄となり戒めろ!」


 風のリングに命じたのはシアンだ。

 矢継ぎ早に、風が鎖となってルインの身体を拘束する。その隙にシアンは一足飛びでエリシアの元へ行き、人喰い馬に水の剣で斬りかかった。 

 馬たちは前足を浮かせて怒ると、シアンとエリシアの周りをぐるりと囲む。


「――――どうしても僕の邪魔をするんだな、シアン」


 エリシアを守るため油断なく水の剣を構えるシアンへ、ルインは不快そうに言った。


「ああ、ルイン。もう二度と、お前にオレの大切な人は殺させねぇ」


「シアン、すまない助かった」


 盾代わりにしていた土の壁を崩し、エリシアが言った。


「番犬ッスからね。――――隊長、お願いがあるんスけど」


 シアンは背後のエリシアを横目で見やってから、作戦を耳打ちする。時間をかければその分不利になるので、シアンとしては早く決着をつけたいところだ。

 一方ルインは、シアンたちが甘言を囁き合っているようにでも見えたのか、眉間にしわを寄せた。


「……なあ、もう本当に不愉快だよシアン。ミザリーは守れなかったから、その女だけは守るっていうのか? やめろよそういうの。だって何だか――――僕が悪者みたいじゃないか!」


 身体を拘束していた風の縄を、ルインは鎌風で断ち切った。さらにその風が人喰い馬と結びつき、馬は通常の三倍の大きさに変化する。

 ルインはシアンへ怒鳴った。


「どうして僕の邪魔をするんだよ! ミザリーも、シアンも! だって、おかしいだろう!?」


 馬が一頭、シアンに蹴りかかった。シアンは水の剣で馬の足を斬るが、まるで泡が割れるように剣は蒸発してしまう。踏みつぶされそうになる度に、シアンは水の剣を作っては無駄にした。


「なあシアン……君はおかしいと思ってくれないのか? 何で誰も僕に同調してくれない?」


「同調って、オレは――……? 何だ!?」


 金縛りにあったように、シアンは動けなくなった。

 目を凝らして見てみると、身体に風の鎖が巻きついている。ルインに技を真似されたようだった。内臓まで縛りあげられるような激痛に、シアンは呻く。シアンを助けようとしたエリシアたちには、獰猛な火の馬が立ち塞がった。


 ルインは癇癪を起こし、がなりたてる。


「おかしいだろう? シアン、なあ――だって僕は王になるべき存在だった! それが、他人の都合で運命を変えられたんだ! その運命に抵抗して何が悪い!?」


「……っ運命に抵抗するなら、まずは自分の弱い心に抗えよ! 己の気に入らないものを作りかえるために、他人の人生を踏みにじるな! うあっ!!」


 締めつけが増し、シアンのろっ骨が悲鳴を上げた。ルインは同調する言葉以外は求めていないようだ。秀麗な彼の顔は怒りで醜く歪み、目が血走っている。


「僕の痛みはどーでもいいっていうのか!?」


「そうは言ってない! ……っ王族として歩むはずだった運命をねじ曲げられていたと知った時の、お前の憤りは相当なもんだったと思う。けど……っ国王様を殺したり街を襲撃しなくたって、いくらでも現状を変える方法はあったろ! 何で欲に負けて、多くの犠牲が出るような方法を選んだんだよ!」


「他人の犠牲なんて、どうでもいいからに決まってるだろう!」


 ルインは地団駄を踏んだ。シアンの拘束はさらにきつくなり、シアンは地面へ血を吐いた。


「僕は僕さえ幸せなら、他人がどうなろうと、どうでもいい! 嫌だ……もう、もうシアンも、楽に死なせてやらない……」


「おいおい……あのクソガキ、何する気だあぁ?」


 人喰い馬の胴体を水の太刀で斬りつけながら、レイラーが言った。ルインの胸元で光を放つ火の魔石の禍々しさにあてられ、レイラーは三白眼を細める。


「妙案を思いついたよ、シアン。そこにいる女の作った土の壁……」


 ルインは広場を囲む強固な壁を見渡してから、エリシアを突くように指さして言った。


「土の壁を一つの魔石だけで破れないとしても……火と風の魔石、二つ使えばどうだ?」


「な……っ」


 火と風、最悪の組み合わせだ。ロシャーナを焦土へ変えた火災旋風がシアンの脳裏に過ぎる。


(ルインはあの暴挙を、まさか此処でも起こす気なのか――……?)


「二つの魔石を使って火災旋風を起こし、ガーダーを皆殺しにする。僕は、君たちの灰の山から土の魔石を奪うことにするよ」


 シアンの嫌な予感は当たった。

 もしもルインに火災旋風を起こされれば、シアンたちと共に勝機も灰になる。そしてその後の最悪な事態が手に取るように想像出来てしまい、シアンは薄氷の上に立たされているような不安に襲われた。


(火災旋風を起こさせるわけにはいかない。何としてでも、ルインを止めなければ……!!)


 シアンはぐっと拳を握った。ガラス玉を利用した作戦を決行するなら、今しかない。


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