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セレッサ迎撃戦―正体―

今回短めです。

 シアンがミザリー宛ての手紙を送ってから十日以上が経った。


 その間に二名の評議員が縄につき、取り調べで黙秘を貫いているが――それを知る一般市民はおらず、皆、暗澹とした思いを抱えて毎日を過ごしている。


 ……が、古都セレッサには、そんな民衆はいなかった。


 そもそも民衆どころか、野良猫一匹すらいない。広場の中央に神殿を配し、十二の放射線状の通りから出来たセレッサは、長い眠りについたように静まり返っている。

 それもそのはず、数百年前に捨てられたこの街は国民から忘れ去られ、今や美しく区画された通りに沿って石造りの廃墟が並んでいるだけだ。

 

そんな深閑とした街を闊歩する者が、たった一人だけいた。


 色あせた建物との対比が際立つ黒のコート、それを纏った男は、神殿の崩れかかった階段を上る。壁に掛かった篝へ火の魔石で炎を灯し、篝火の続く通路を、最奥を目指して突き進んだ。


 やがて道の終わりが見えると、両脇に柱の並ぶ広間へ出た。その中央には、豊かな髪をした女神と思しき石像が、天井近くまで聳え立っている。両手で水を掬い上げるようなポーズをしていた。

 そんな石像を囲むように造られた丸い池の水は、意外にも翡翠の色を保っていたが――男の視線は、石像の手で止まったままだ。


 石像の手のひらの上にころりと載った、丸い石。それは男の探し求める、土の魔石だった。


 男は底の厚いブーツで、石像によじ登る。石像の腕の部分を足場にし、手のひらの台座から、慎重に土の魔石を取る。男は魔石の表面を撫でたところで、とうとうエレメンタルラピスが揃ったという実感がわいた。


 腹の内から笑いがこみ上げてきた男は、仮面の下でほくそ笑む。


「……っはは。やっと揃った……。これで僕は――――……っ!?」


 ヒュッと風を切って、柱の陰から水の弾丸が飛んできた。それは不意を突かれた男の仮面を弾き、バランスを崩させる。男が咄嗟に石像へ掴まったところで、真下の池に仮面がボチャッと落ちた。


 風化によって一部が崩落した天井の隙間から眩い光がさし、宙を舞う埃と共に男の銀髪を照らし出す。絵のように美しい男の顔には、左半分に生々しく火傷跡が残っており、それを陽光がてらてらと照らしていた。


「――――やっぱり、お前が反逆者だったんスね、ルイン」


 柱の陰から姿を現したシアンは、久しぶりに会う幼馴染を見上げ、失望の色を滲ませた。


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