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迎撃作戦

 昼過ぎ、現在本部に待機している隊員は全て大広間に集まり、整列していた。二百人あまりの人間を収容するため、長テーブルは、額縁に彩られた壁際へと寄せられている。


 シュトラインは昨日の内に、エリシアから全ての報告を受けていた。仕事の早い彼は、アーチ型の天井に描かれた、淡い色彩の絵を見上げて言う。


「捕縛した医師もルイン・ソルシエールが犯人だと吐いたことですし、エリシアの忠犬くんが嘘をついている可能性は低い……反逆者はルインで決まりですかねぇ」


 最前列に並ぶシアンは、向かい合って立つシュトラインの疑り深さにいい加減慣れてきた。


「ンでは、忠犬くんに頼まれていた古記録の件は、調べる必要がなくなったというわけですね」


「へ? あー……まあ……そうなるんスかね……」


 アレクセン王と最後の魔女の末裔がルインであるという事実は、奇妙な感覚をシアンへ与えた。が、ルインの母親の高慢な性格が、出自に対する矜持から芽吹いたものだと考えると、納得がいく気もした。


 シュトラインは後ろに控えるエリシアの手から、差出人にミザリーの名が書かれたシアン宛ての手紙を受け取る。


「調査の結果、手紙の住所もルイン・ソルシエールらしき特徴の男が借りているとのことでしたし……。さて、これからどうしましょうかねぇ?」 


「そりゃぁ、こちらから仕掛けるべきだろぉ!」


 そんな威勢のいい声と共に、蝶番を吹っ飛ばす勢いで大広間の扉が開いた。


「キョージ・レイラー、ただいま戻りましたぜえっとぉ!」


「レイラー先輩! リゼンタから戻ったんスね――――って、また酔ってるんスか!?」


 負傷した部下を引き連れたレイラーは、腰に下げた酒瓶を揺らしながら大広間へ入ってきた。


「よぉ、シアン。俺は耳がいいからなぁ、話は聞こえてたぜぇ。それよりシュトライン様!」


 シュトラインに近寄ったレイラーは、シュトラインの血色の悪い手へ、新聞を押しつけた。


「リゼンタとロシャーナの事件が記事になって、民衆の我慢も爆発寸前。そろそろ本気で捕まえに行かなけりゃあ、民の暴動で国が潰れんぜぇ?」


「……ンン。キルギスや被災者の記憶がなくなったこともばれているようですねぇ……。おや、エレメンタルガードが無能とまで書かれてますよ」


 シュトラインは新聞の一面に目を通し、のんびりと言った。


「ンでは、飲んだくれ君の言うとおり、こちらから仕掛けましょうか。反逆者を誘いこみます」


「誘いこむって……」と、ラゴウが口角を引きつらせた。


「本部で籠城でもするつもりですかい? それじゃあ、王都にも被害が及ぶのは避けられやせんぜ?」


「本部で迎え撃つのではありません。ン土の魔石を餌に保管場所へ誘い込み、迎え撃ちます」


 大広間に沈黙が落ちる。最初に息を吹き返したのはレイラーだった。


「場所変えただけじゃねーの! むしろ土の魔石を奪われる心配を考えたら、そっちのがよっぽど、危険ってもんだろーがよぉ!」


「ンン。奪われないで下さい」


「お、おう、そりゃぁ尽力するけどよ――いや、そうじゃねぇ、お茶目に頼まれても……」


「国民の巻き添えなら、ご心配なく。ン存分に暴れ回って結構ですよ。何せ――――土の魔石の隠し場所は、セレッサですから」


「な……っ。シュトライン様、貴方って人は……あんな場所に隠していたんですか?」


 エリシアはシュトラインを、呆れと感嘆の入り混じった目で見つめた。隊員たちは驚きの声を上げたあと、「なるほど、それなら……」と頷く。

 セレッサについてよく知らないシアンは、皆の反応を見てとりあえずは大丈夫そうだと踏んだ。一歩前に進み出る。


「あの、オレに名誉挽回させてくれねッスか? ルインをおびき出す役目はオレが負うッス! ルインはオレの記憶が戻ったことを知らない。なら、オレがミザリーへ宛てて、セレッサへは近寄るなって手紙を書いて送れば、ルインはセレッサに魔石が隠されていると勘づいて、食いついてくると思うッスから」


「リゼンタとロシャーナの件で利用された手紙を、逆に利用するわけか。しかし、それでは不安が残るな」


 エリシアからは色よい返事がもらえなかった。

 しかしシュトラインの方は乗り気で、「これがあるじゃないですか」と新聞を振ってみせる。


「ン念のため、エレメンタルガードが反逆者の正体を未だに掴めていないと、新聞を使って嘘の情報を流しましょう。さらに、評議員を捕まえても報道はしないよう、新聞社には圧力をかけます」


「……ルインは、あんまり駆け引きが得意な奴じゃないッス。でも自信家だから、多少のリスクはあっても、自分の欲しいものは強引に手に入れようとする。魔石を三つ揃えたルインが、最後の一つの在処をちらつかされて、動かないとは思えないッス」


「で、でもワンコくん」


 ニーカは綿毛のようなツインテールを忙しなく弄る。


「お、おびき寄せることに成功しても……三つもの魔石の本体を持つ反逆者が相手だと、た、単純に、圧倒的な魔力の差で負けてしまわない、かな……?」


「……いや、勝ち目はあるッスよ」


 シアンは熟考して言った。


「魔石を扱う際に重要なのは、精神力と想像力。いくら相手が……ルインが強い魔石を保持していようと、頭の中で一気に物事を考える量には限界がある」


「ガーダーで畳みかけ、一斉に数で抑えるっつーわけかぁ?」


 レイラーは三白眼を光らせ、うきうきした様子で言った。


「そうッス。相手の思考が追いつかないほどの一斉攻撃を叩きつける」


「畳みかけるにはルインを囲む必要があんぞ。そっちの方が難しい問題だな。出来るんか?」


 そんなラゴウの台詞に、隊員たちは「ううん」と唸る。しかしエリシアは光明を見出した。


「……不可能ではない。保管場所であるセレッサの街を上手く利用すれば、な。……そうですよね? シュトライン様」


 エリシアに横目で見られたシュトラインは、ニヤリと笑った。


「ン確かに。しかしそれだけでは心もとないので、宰相の権限で、『ある許可』も出しましょう」




次からクライマックスです。

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