ミザリーの行方
バサバサバサ。
と、鳥が飛び立つような音を立てて、手紙が床に落ちた。机の上に置いていた手紙入れの箱を、シアンが後ろ手で引っかけたのだ。落としてしまった張本人のシアンは、机に寄りかかるように手をついていた。
何故か酷い動悸がする。
「ミザリーちゃんが死んでる……? どういうことですかい、隊長。何の冗談で……?」
ラゴウが「またまた」と茶化そうとした。が、エリシアは表情を崩さない。
シアンは怖い顔をして、一拍遅れて食ってかかった。
「い……いくら隊長でも、そんなひどい冗談、許さねえッスよ! 後処理で疲れているから、笑えない冗談を思いついたんスか? だとしても、ちょっと、意地悪いッス」
シアンは足元に散らばる手紙を拾い上げ、エリシアの顔の前にかざして見せた。
「ほら、オレはこの一年間、ミザリーとしょっちゅう文通してるんスよ!」
「……タイプライターで打たれた手紙など、証拠にならんな」
手紙を一瞥したエリシアが、無機質な声で切り捨てる。感情のない人形と喋っているようで、それがますますシアンの胸騒ぎに拍車をかけた。
「……っじゃあ逆に! 隊長はミザリーが死んだって証拠、あるんスか!?」
シアンはムキになって言った。
あるわけがない。だって、ミザリーは生きているのだから。生きているはずだ――……。
シアンは服の胸元をグッとかき抱くように握りしめた。ミザリーは生きているはずなのに、不安に駆られる自分が忌々しくてたまらなかった。それに、『災厄の埋み火』で助けられて以来初めて、エリシアに不信感を抱いてしまった。
「……証拠か。いいだろう」
ややあって、エリシアが言った。
「先日、貴様が執務室の扉をいきなり開けた時は、驚いて仕舞ってしまったが……」
そう前置きして、エリシアは腰に下げているポーチへ手を伸ばした。シアンから何かを隠すように仕舞っていた、例のポーチだ。エリシアはそこから、ある物を取り出した。
「……シアン、このペンダントに見覚えはないか?」
シャラリ、と涼やかな音を立てて、切れたチェーンが揺れる。エリシアがシアンに見せたのは、チェーンが切れた、安っぽい花のペンダントだった。
「何ですかい? それ」
ラゴウが首を傾げる。その傍らで、シアンは心臓が止まるような思いがした。リンドウがモチーフのそのペンダントには、見覚えがあった。
「このペンダントは、『災厄の埋み火』の焼け跡から、私が発見したものだ。焼けた遺体の首に引っかかっていてな……村人を救えなかった戒めとして、いつも携帯していた」
「…………」
「このペンダントは、写真のミザリーがしている物と同じだな……?」
ラゴウはだらりと下がったシアンの手から、写真を引き抜く。写真のミザリーの胸元に光るペンダントと、エリシアの持つ焦げついたペンダントを見比べた。
「隊長の言うとおり、確かに同じ……。お、おいシアン。お前さん、嘘ついてたんか? そうじゃねぇなら、ちゃんと証明しろや。ミザリーちゃんが本当に事件前に引っ越したんなら、お前さんの性格だし、ちゃんと見送ったんだろ。その時のことを詳しく話して、ミザリーちゃんが『災厄の埋み火』に巻き込まれてないって、はっきり言わんかい……」
ラゴウはシアンの肩を揺さぶる。シアンは唇を噛みしめ、俯いた。
「…………言えないッス」
「は?」
「だから……」
噛みしめた唇から血が溢れ、鉄の味が口の中に広がった。
「…………言えないんス。覚えて、ないッスから」




