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急転

「ン構いません、リゼ様にも聞かせてあげて下さい」


 シュトラインがそう促すと、リーゼロッテはパッと表情を明るくさせた。


「ありがと! ノーヴェ!」


「いえいえ。リゼ様のおっしゃる通りです、リゼ様もいつまでも子供ではないですし、ンそろそろ世の中のことを知るべきだと、私も思っただけですよ」


「じゃあ、遠慮なく語るッスけど……」


 王女の熱意と宰相の後押しにより、シアンはキルギスから聞いた話やロシャーナでの出来事を包み隠さず話した。

 話が進むにつれてリーゼロッテは、ソファに座るシアンの膝の上で打ち萎れていったが、最後まで耳を傾けていた。


「……ン要約すると、評議会はリーゼロッテ様を廃し反逆者を王位につけ操り人形にするつもりが、何らかの不興を買い反逆者に裏切られたため、ここ一年は仲間と思っていた反逆者から命を狙われる身になったという訳ですか……評議会らしい自滅の仕方ですねぇ」


 一人用のソファに掛けたシュトラインは頬杖をつきながら言う。淡白な物言いだったが、切れ長の冷眼は、評議会に対する静かな怒りを宿していた。


「操り人形として利用しようとしていたことが反逆者にバレて、怒りを買ったってことッスかね? それとも何か別の……?」


「ンそれは他の評議員を捕えたあとに、いたぶりながら訊き出しましょう」


 シュトラインは酷薄な笑みを口元に刻んで言った。シアンはこいつだけは敵に回したくないな、と思った。


「評議会がエレメンタルガードに協力を頼まなかったのも、今なら納得出来ますねぇ。もしも機関が反逆者を生け捕りにし、反逆者が真実を吐けば、自分たちが共犯者だとばれますから」


「そうだとしても、納得いかないッス。『災厄の業火』は王位につく障害となるジハード国王様を排除するために引き起こしたのだとして……」


 膝の上に向かい合って乗っていたリーゼロッテが、シアンの首へ腕を回してしがみついた。


「……どうして反逆者は、オレの故郷の村まで焼く必要があったのか……。他にも、気になる点は残ってるッス……」


「ンそちらの方は、反逆者を捕まえて聞き出しましょう。キルギスが意識を取り戻せば、反逆者の正体も分かるでしょうからねぇ」


「そうッスね……待ってる間がもどかしいッスけど……」


 エリシアの話では、キルギスはロシャーナのすぐ近くにある病院へ運ばれたそうだ。しかし容体は芳しくないようなので、シアンとしては目覚めるのを待つ時間も惜しいところだった。


「あの、シュトライン様に質問していいッスか? 王族と魔女の血を引く者がいるっていう言い伝えを国王様から聞いた時、評議会だけじゃなくシュトライン様も信じたんスよね?」


「そうリゼ様がおっしゃってたんスけど」と、シアンはリーゼロッテの黒髪を梳くことで気持ちを落ち着けながら言った。


「どうして皆、そんなあっさり、史実だと信じたんスか?」


「ンああ……。言い伝えに出てきた『雷が落ちて地面が割れ、王は子供と離れ離れに』の行で、ピンときたんですよ」


「え……あの非現実的な行でッスか?」


「ンン。非現実的だからこそ、着目したのですよ。あの『雷』は評議員をさしている、と」


 目をむくシアン。

 リーゼロッテの方は察しがよく、「あ」と声を漏らした。くいくい、とシアンの耳たぶを引っ張り、薔薇色の唇を寄せる。


「あまり知られてないけどね、評議会の紋章は稲妻なんだ。纏っているローブの胸元には、その刺繍が入ってる。見たことない?」


 シアンは目線を斜め上にやって、初めて会った時にリブルハートが着用していたローブを思い浮かべた。


「あ……っ。そういや、確かにあったッス。刺繍!」


「国王様は、あまり作り話や嘘が得意な方ではありませんでしたからねぇ……言い伝えに雷が出てきた時、評議員に対する何かの当てこすりか意趣返しかと思って、ン私はあまり気にかけていませんでしたが……」


「じゃあシュトライン様と同じく『雷』が評議会のことを指していることに気づいたリブルハートの方は、真偽を確かめるために古記録を盗み見て、真相を知ったってことッスか」


 シュトラインの続きの言葉を、シアンが引き継いだ。


「あの、その古記録、オレに見せてもらえないッスか? キルギスの話では、当時の王と魔女の間に出来た子供の居場所……つまり反逆者の出身地が書いてあるみたいなんス」


「ンそれは、君の管轄ではないのでは?」


 シュトラインは尤もな意見を言った。シアンは返答に窮する。


「そ、そうッスけど、捜索部隊や情報通信部隊の奴らは、今でもう手いっぱいだろうし」


「なら、貴重なガーダーの君は尚更そうでしょう。古記録は日記だけでも膨大な量がありますから、探すのには時間がかかりますよ。あと、もちろん古い文字で書かれているでしょうが――……ン君、教養に自信は?」


「……えーっと。あ、オレの幼馴染は、古語も結構詳しかったんスけど……」


「なるほど。ンつまり君は筋肉バカというわけですね」


 シュトラインは笑顔で、厳しい評価を下した。いじけるシアンの頭をリーゼロッテが撫でる。


「ボクは筋肉バカなシアンも好きだよ。安心して! 古記録はボクとノーヴェが、片手間に調べるからね。ね、ノーヴェ! いいよね?」


「ン全く……私をこき使えるのは貴女様くらいですよ。リゼ様」


 シュトラインがすんなり引き受けたことに、シアンは内心で驚いた。

 エリシアといい、シュトラインといい、ジハード国王の忘れ形見にはえらく甘い。やはりリゼ様は最強だ、とシアンは胸に刻んだ。


「うう……。ありがとッス、リゼ様……! まあ、やっぱベストなのは、キルギスが目を覚まして洗いざらい吐くことなんスけど……」


 シアンは窓の向こうへ、キルギスが一刻も早く目覚めるようにと思いを馳せた。




 シアンの願いは叶っていた。


 キルギスが目を覚ましたのだ。ベッドに横たえられた身体は以前の面影がないが、それでも生きながらえた彼は、つっかえながらも言葉を発することが出来た。


 連絡を受けたエリシアは、人を吹っ飛ばすような勢いで病室に掛け込んだ。そして――――そして、対面したキルギスが発した言葉に、失望させられた。


「キルギスが……記憶を、失った…………?」



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