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災厄の襲来―収束―

ロシャーナの関所は燃え、もうその役目を果たしていなかった。


喉を焼く熱風に火災旋風の脅威をまざまざと見せつけられながら、ガーダーは消火を続ける。先ほどより格段に規模は小さくなっていたが、旋風は既に、街の大部分を焦土に変えていた。


そんな火の海へ、無謀にも再び飛び込もうとしている者がいた。エリシアだ。


「離せラゴウ、ニーカ!! 私の命令がきけんのか!!」


「離しやせん!! 止めたら、アンタさんは絶対にシアンを助けに行くじゃねぇですか!!」


 熊のような腕で、ラゴウはエリシアを羽交い絞めにする。巨躯とはいえ、腕に熱傷を負ったラゴウでは止め切れないかもしれないと危ぶんだニーカも、非力な腕でエリシアを押さえる。


「行くに決まってるだろう! 離さんか、私なら水のリングで消火しながら進むから平気だ!」


 そう言うエリシアの水のリングは青く光ったまま、延々と放水し続けていた。


「へ、平気じゃ、ありませんっ。落ちついて下さい隊長……っ。い、今飛び込んだら、ワンコくんだけじゃなく、隊長まで死んじゃいます……っ」


 早々に息の切れたニーカが訴える。その言葉に反応したエリシアは、華奢な腕からは想像もつかない力で二人を振りほどいた。


「……あの駄犬が死ぬだと……? ふざけるな! あいつは私の番犬だ! 私が見ていない場所で死ぬことなど許可しておらん! シアンが死ぬなら私の前だ!」


「――――――――その通りッスね」


「……っ!?」


 背後から聞こえてきた声にエリシアが振り向くと、燃え盛る炎に無数の黒い影が揺らめいていた。そして次の瞬間、光線のような水が、分厚い炎の壁を貫いた。


 弱まった炎の中から姿を現したのは…………。


「……シアン!」


 数十名の民を引き連れ、腕に少女を抱えたシアンだった。


「皆を看てあげて下さいッス!」


 慌ただしく駆け寄ってきた医療部隊に、シアンは避難民を預けた。それから虚を突かれた様子のエリシアに向き直り、ニッコリ笑いかける。


「反逆者は逃しちまったけど……約束は守ったッスよ、隊長」


「……! ああ。よくやった……」


 エリシアはシアンが戻ってきた実感がわいたのか、目尻を下げ、シアンが一番気に入っている微笑み方で笑顔を見せてくれた。そして両手を広げて、シアンの背中に手を回そうとしてくれた瞬間……。


「お前さん、無事だったんか! よかった、よかった!」


 喜色を浮かべたラゴウが、鍋蓋のような手でシアンの背をバンバン叩いて行った。お陰でつんのめり、シアンはエリシアの胸へ、顔面からダイブしてしまう。


「ぶっ!! う、うむーっ」


 男性隊員の夢が詰まった二つの膨らみに挟まれながら、シアンはニーカが傍で「ワンコくん、ご愁傷様……」と見放すのを聞いた。エリシアがプルプル震えているのが服越しに伝わってきて、シアンはサーっと血の気が引いていく。

 

 ラゴウに文句を言ってやりたいところだが、彼は言うだけ言って、颯爽と消火に戻ってしまった。とりあえず謝るしかない。そう思ってシアンは口を開き――……


「えっほゴホゴホぐえっほ!! さ、酸素が足りないッス……おえええええっ」


 その場に座り込んで、盛大に咳き込んだ。


「あ、や、違うんス隊長! 隊長の胸で窒息出来るなら本望なんスけど、この息苦しさはそっちじゃなくて、ゲホッ! うお、頭くらくらしてきたー……」


「言いたいことは山ほどあるが――……この駄犬がっ!」


 エリシアは眉間を押さえ、短く叱った。


「それは一酸化炭素中毒だ! 医療部隊、担架を――――」


「え! へ、平気ッス! 風のリング使って何とかするッスから! それより……」


 シアンは真面目な声でエリシアの発言を遮り、街を焦土にした火災旋風を睨んだ。


「オレのことより、アレをどうにかする方が先ッスよ」


 そう言ったシアンの横顔に、エリシアはこれまでとは違う雰囲気を感じ取った。



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