災厄の襲来―道中―
リゼンタが襲撃を受けてから一時間半後の午後八時。
シアンたちにも問題が発生していた。リゼンタ行きの列車が途中の駅で止まってしまったのだ。
リゼンタ近隣の街まで水が流れ込んできたためだと駅員から連絡を受け、シアンたちは水の魔石が奪取されたことを悟った。
そこで、急遽蒸気自動車を見繕うはめになったシアンたち。ニーカを含む解析部隊や他の部隊もいるため、数が要った。
「車の手配出来たッスよ、隊長!」
「ああ、ご苦労だったなシアン」
「ルートはどうするッスか?」
「ん? そうだな……車でリゼンタへ向かうとなると、経路にあるロシャーナを過ぎてからは、山の周りを迂回しなければならんだろうな……」
エリシアは蒸気自動車に乗りながら、険しい表情で言った。
「列車で三時間の道のりを蒸気自動車で行くってだけで、かなりのタイムロスなのに……。レイラー先輩たち、無事だといいんスけど」
シアンも蒸気自動車に乗り込みながら、浮かない顔で言った。
レイラーたちやリゼンタの住民も心配だが、シアンにはもう一つ心配の種があった。ミザリーのことだ。リゼンタ近隣の街にまで水が流れ込んでいるなら、ミザリーの街にまで被害が及んでいてもおかしくない。
ミザリーは可愛らしい見た目の割に結構おてんばだ。妙な正義感を発揮してリゼンタへ向かい、誰かを助けて無茶をしていなければいいのだが、とシアンは気を揉む。想像すると、ますますそんな気がしてきて、「うわあ……」と思いながらシアンは座席にもたれかかった。
シアンが眠いのだと勘違いしたエリシアは「徹夜になるだろうから、今のうちに寝ておけよ」と告げる。
車高の高い車に揺られながら、シアンはエリシアの清廉な横顔を眺めた。
「……そういや、自分のことは二の次で無茶したりするとこは、隊長もそうッスよね……」
エリシアはいつでも最前線に立っているのだ。
「? 何の話だ?」
「気づいてないなら、いいんスよ」
シアンはエリシアの肩に頭を預け、物思いに耽った。
……ミザリーは、己の正義に真摯でありたいと言っていた。エリシアだって、敬愛する王を殺されたにも関わらず、復讐心に捕らわれることなく人助けに邁進している。あの変態宰相でさえ、病弱なリーゼロッテの代わりに、混乱する国を支えているというのだ。
(……隊長はきっかけがあれば変われるって言ってくれたけど……オレもそろそろ、けじめつけないとッスね……)
水の魔石も奪われたこの一大事に、いつまでも己の過去を引きずってばかりではいられない。そう思いながら、シアンはゆっくりと目を閉じた。




