森のくまさんと青い鳥 ~幸せを求めて~
さて、今回お話するはとある森に住むクマと青い鳥、そして森に住む者たちの友情のお話さ。
女も男も老いも若きも、
さぁ、どうぞ楽しんでいってくださいな。
御代はあなたのお気持ち程度でかまいません。
ほんの暇つぶし程度の気持でも構いません。
さぁ、それでは、『森のくまさんと青い鳥』の始まりはじまり~♪
とある森の中に、一匹の、心優しくもちょっとおマヌケなクマさんがいました。
クマさんは、森に迷い込んだ御嬢さんから、あるお話を聞きます。
「クマさん、クマさん。知ってますか?幸せの青い鳥のお話を。」
赤い頭巾と赤いローブを着た御嬢さんはクマさんに尋ねます。
「なんだそれ?うまいのか?」
クマさんはリンゴをむしゃむしゃと食べながら、御嬢さんに聞き返しました。
「やだ、食べ物じゃありませんよ。これは言い伝えです。うまくはないです。」
御嬢さんは苦笑して、真面目な顔でクマさんに言う。
「なんだ。美味しくないのか。」
クマさんはガッカリしました。御嬢さんは人差し指を一本立てて、悪戯っぽい顔で話を続けます。
「それによると、青い鳥を見つけた者は幸せになれるらしいですよ?クマさんの幸せがお腹いっぱい食べることならば、美味しい話かもしれませんね?」
クマさんは御嬢さんと森の入口で別れ、青い鳥の話について考え始めました。
幸せの青い鳥。
それを見つけるとお腹いっぱいご飯が食べれるのかぁ。
死んじゃう心配もしなくていいのかな~?
さっそく、クマさんは青い鳥を探し始めます。
幸せの青い鳥を。
幾らか時間が経ち、季節は春から夏に移り変わりました。
クマさんはまだ青い鳥を探しています。
ふと、視界を青い小鳥が歌を歌いながら横切ります。
「ピ~♪ピピ~♪ピ~♪あつ~い夏が来た~♪」
クマさんの眼がキラリと光ります。
「まってーーー!幸せの青い鳥ーーー!」ダッダッダッ
クマさんは青い小鳥さんを追いかけ始めました。
「ピッ?何かしら?」
青い小鳥さんは後ろを振り向き、
「ピッ!!?」
驚きに一瞬固まりました。が、
「ピーーー!!!」
次の瞬間猛スピードで飛び出します。
クマさんがそれを追いかけます。
「まってーーー!幸せの青い鳥、幸せをおくれよ~~」ダダダッ
クマさんはその巨体を揺らし、青い小鳥さんを追いかけます。
小鳥さんにはそれは恐怖でしかありません。
「いーやーーーっ たーべーらーれーるーーーッ!!」ぴゅーバサバサッ
小鳥さんは必死で逃げようと、その小さな翼を必死に羽ばたかせます。
それでもまだ、クマさんは追いかけます。追いかけてきます。
二匹の逃走劇は次の日の朝まで続く。
「食べないからまっておくれよ~~!幸せの青い鳥―――!!」
「ピッ!?」
ピタッ。ピュー―――
「ウソだわ!!あなた絶対あたしを食べる気でしょう!?騙そうたってそうはいかないんだからねーーーーーーー!!」
いや、あんた、一瞬騙されたでしょう?疑ったでしょう?
「食べないよーーー!幸せをおくれよーーー!幸せの青い鳥―――!!」 ダダダダダダダッ
「ウソだわっ!!ウソうそ嘘ウソ!!あなた絶対あたしを食べるのよぉー――!!頭からむしゃむしゃと丸かじるされてあたしはその短い生を全うできずに死んでいくんだわ!!うわーーーーーん!!!(泣)」
「そんなことしないよーーーー!きみよりも鮭の方が美味しいから食べないよーーーーー!!」
くわっと目を見開いて鳥さんはいいます。
「あんた!!あたしは美味しくないって言いたいわけぇーーーー!まったくもう!!レディーに向かって失礼しちゃう!!」 ピュー―――
「ご、ごめんなさいーーーー!」 ダダダダダ…
「フンっ!それでいいのよ!!…あ、」
バシンッ!!ポテッ…
鳥さんは前を見ていなかったので、大きな木の幹にぶつかって、下に落ちてしまいました。鳥さんは地面で目を回し、頭には星が散っています。
熊さんは鳥さんを心配して、鳥さんに近づきます。
「だ、大丈夫!!?」ダッダッダッダッダダ…
「ピーー…☆○×△□★……」
「あわわわわわわ……、ど、どうしよう!?どうしたらいい!?わわわわわ…」
熊さんは鳥さんの周りをうろうろと落ち着きなく歩き回っています。
そこへ、老狸の翁と狐の娘が通りかかりました。
「ほっほっほ。おぬしもまだまだよのぅ、狐の娘っ子」
「むきーーー!!黙れや腐れ狸じじぃ!!今に見てろ!!絶対狸じじぃをぎゃふんと言わせてやる!!」
「ぎゃふん。ほれ、言ったぞ?これでおまえさんの願いは叶ったわけだ。よかったのう?狐の娘っ子」
「あーーー!もーーー!そういうことじゃなくってだなぁ!っん?あれは熊公か?なにしてんだろ?」
「聞いてみればよかろう?まったくお前はそんなこともわからなくなってしまったのか?じい様は情けない、情けないぞ~、狐の娘っこ~…」
「だーーっもう!!黙れやこのうさんくせぇ腐れ狸じじぃ!!いっぺんイテまえ!!そんで性格叩き直して出直してこいや!!こちとらそれくらい分かっとるんじゃボケェ!!」
「…ならばさっさと声をかければよかろ?あやつ、なにやら途方に暮れているようじゃぞ?」
「ほんとうか!?おーーーい!熊公―――!!どうしたんだーーーー!!何か手伝えることはあるかーーーー!!」
「あ!狐の娘さん!!た、助けてーーーーー!!(号泣)」
「お、おいおい、どうしたんだ?…あれ?その青い鳥、どうした?死んでるのか?」
狐の娘がそういうと、熊さんの目からぶわッと大量の涙が出てきました。狐の娘は慌てます。狸の翁はそれを見ながらニヤニヤと笑っています。
「え!?え!?なにこれ!?あ、あたしのせいか!?違うよな!?な!?お願いだから違うと言ってくれーーーーー!!つか何ニヤニヤと笑ってんだよクソ狸じじぃ!!キモいんだよ!!笑ってないで助けてくれよーーーー!!熊公もデカい図体して泣いてんじゃねぇーーーーーー!!マジ腹立ってきたーーー!!オラッ!!いい加減泣き止め!!鮭の横取りすっぞ!!コラ!!」
「ぐすっ、ぐすっ、それは嫌デス。断固として阻止させてイタダキマス。」
「く・ま・こ・う?」
「ヒッ!!ご、ごめんなさい!!!」
狐の娘が真っ黒い笑顔でクマさんの名を句切って呼びます。するとクマさんは怯えて涙が止まりました。
「よし!!涙は止まったな。で、なんで泣いてたんだ?」
狐の娘はしゃくりあげるクマさんから苦労して事情を聴きだしました。
「なんだ、そんなことならよく利く薬を狸ジジイが持ってるんじゃねェか?」
「ほっほっほ、持ってないとは云わぬが……タダでくれてやるのもどうかと思うのぉ…。」
「狸の翁様……」
熊さんは狸のクソじ…老狸の翁を懇願するように物言いたげにその純粋過ぎる目でじぃーーーっと見つめ続けます。その視線の痛いこと、痛いこと―――狸の翁はその純粋過ぎる視線に耐え切れません。狸の翁は心が薄汚れているどころか、真っ黒です。真っ黒黒なのです。薄汚れている者に純粋過ぎる者の視線は眩しすぎて痛いのです。翁はクマさんになにかが負けたような気がしました。
「……しかたないわい。熊の助、一つ貸しじゃぞ。」
狸の翁は自家製の薬をどこからか取出して、クマさんの前にぽーいと放ります。
「その青い鳥の頭の傷によく利く薬じゃ。塗って少し待つとそやつが目を覚ますじゃろう」
「あ、ありがとう!狸の翁様!!」
「よかったな、熊公!」
「うん!青い鳥さん、これで目が覚める!ぼくに幸せをくれるかなぁ~…。」
「幸せ?その青い鳥がお前に幸せをくれんのか?」
狐の娘の問いにクマさんはその大きな手で苦労して小さい青い鳥さんにお薬を塗りながら応えます。
「そうだよ!森に迷い込んだ紅い頭巾のお嬢さんから聞いたんだ~。青い鳥は幸せをくれるんだって!ぼくをお腹いっぱいにしてくれるんだって!」
「(お腹いっぱい?あ、熊公の夢か。)あっはっは!そりゃいいや。なれたらいいな。幸せに。」
「ほっほっほ、熊の助ならなれるじゃろう。その幸せが腹いっぱい食べる事とは限らんがのぉ…。」
「クソジジイ、珍しくいいこと言ってんじゃねェか!そうだな、熊公なら絶対なれるよ!」
「ありがとうっ、ありがとうっ、…ぅう…ひっく…ひっく…、」
「だ~~~~!!泣くなよもうっ!!うっとうしい!!」
「ご、ごめんなさいぃぃいぃぃーーーーー!!」
「ほっほっほ。泣くほど嬉しかったんじゃろう?放って置けばそのうち涙が止まる。我慢はよくないからのぉ。」
「何が言いたいんだよ、クソじじい!熊公は泣き止め!!デカい図体して泣き虫なんてかっこ悪い!」
「(ガーーーーン!!!)……ぼくは…かっこわるい…」
クマさんは落ち込んでしまいました。
「ほっほっほ。(娘っこは何気にヒドイのぉ…)わしはもう行くぞ?狐の娘っこの母との妖術比べをするのでのぉ…。」
「あっ!てめっ!油断も隙もあったもんじゃねぇっ!母様は普段は威張り散らしてはいるがああみえて身体が弱いんだぞ!!クソジジイを母様と闘わせることなんてさせるかってんだ!!断固阻止じゃボケェ!!!」
「ほっほっほ。ならばおまえさんがワシの相手をしてくれるのかのぉ?」
「おお!やったろうじゃねぇかっ!あとで吠え面かくなよ?クソじじい!」
「ほっほっほ。おまえさんがワシに勝つ?無理無理。お前さんじゃ絶対むーりー。」
「なにおぅぅ!ぜっっったい勝ってやる!!!そういうことだからまたな、熊公!」
二人は言い合いをしながら去っていきました。クマさんは落ち込んだまま。二人が去った事にも気づかずにブツブツと言いながら落ち込んでいます。
お昼を過ぎたころ、クマさんやっと落ち込みから回復しました。お腹が減って食べ物と青い鳥さん以外の他の事はどうでもよく思えてきたのです。
「…ぴぃ~、ここは…?あたしは何を…?」
「あ!気が付いた!良かったーーー!」
「ピ!ぴぃぃぃいぃぃぃーーーーーーーーー!!!!?」
鳥さんはクマさんを見て絶叫し、逃げ出そうとしますが怪我のせいでうまく飛べません。
「お、お、落ち着いて!食べないから!動いたら傷に触るから!」
「…ぴぃ~…。動けないわ。あなたの言うとおりね。食べようと思うならあたしが気絶している間に食べれた筈だし。で、食べないならなんであたしを追い駆けて来たの?そういえば幸せがどうとか言ってたけど……」
「青い鳥さん、幸せをおくれ。ぼくをおなかいっぱいにしておくれ。青い鳥さんは幸せをくるるんでしょ?だから青い鳥さん、幸せをおくれ~。」
「無理。」
「え?」
「だってそれ、迷信だもの。」
「迷信?迷信ってなあに?食えるの?美味しいの?」
「食べれないし、美味しくも…ないわね。あなたには。」
「いい?迷信っていうのはね、俗信のうちで、合理的根拠のないもの。一般には社会生活上実害を及ぼし、道徳に反するような知識や信仰をいうのよ。」
「?…よくわかんない。」
「ハァ…、要するにね、根拠もないのに大勢の者に信じられている噂、間違ったお話、人々が作り出した根拠のないこと、子供に言い聞かせるための教訓とか、あったらいいなぁ~っていう願望がひとり歩きしたものとか、そういうのをいうのよ。」
「そうなのか~。青い鳥さんはぼくを幸せにはしてくれないのか?」
「そんなこと知らないわよ。少なくともあなたをあたしがお腹いっぱいにしてあげることはできないわね。そんなことしたらあたしが過労死するもの。」
「…そうなのか~…」
クマさんはがっかりしたように云います。
「…そんなに幸せが欲しかったの?」
「…うん。腹いっぱい食べたかった。幸せになりたかった。」
鳥さんはクマさんの為に何かをしてやりたくなりました。
「…だったら、あたしが一緒にあなたの幸せを探してあげる。」
「…え?」
「最初は虹の滝でも探してみましょうか。」
「…いいの?」
「なんかね、あたし、あなたのことが放って置けなくなったの。あたしが放って置いたらあなた簡単に騙されそうなんだもの。だからあたしがあなたの幸せを一緒に探してあげる。ついでに友達になってあげてもよくってよ?…というかあなたのせいであたしが怪我することになったんだから、責任とってあなたがあたしを連れて行きなさい。あたしが食べられないように!!」
「わかった!よろしくね!青い鳥さん。」
クマさんはその人懐っこい顔を輝かせて云いました。
こうして二匹の幸せ探しの旅が始まります。