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星屑のリング  作者: 星歩人
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第一章 出逢い 第五話 ダイブ

 その日の朝は、大きな風もなく穏やかだった。潜水艇に乗り込んで、いよいよ、砂の海へのダイブする。潜水艇は小型の三人乗り、左右が操縦士と副操縦士、真ん中がアームを操作して採掘をする作業士の座席がある。砂の海では有視界の作業は不可能なので、センサーだけが頼りである。この潜水艇は、砂虫の回遊を探知するためのもので、探知用の水中ブイを設置する作業を行うためのものだそうだ。あたしは、アームを操作する作業士を、操縦士はカレン、副操縦士はなんと子供たちの教育係のジェットだった。

「あ、ローラはね。一応、船員見習いでもあるのよ。あんた程じゃないけど、IQも高くてさ、通信教育ではあるけどれっきとした大学生なの。あ、知ってるか、自己紹介くらいはしてたよね」

「改めまして、よろしく。マキナ」

 ジェットはにこやかに微笑んだ。

「こちらこそ、よろしく、ロ、ローラ」

 あたしはジェットがローラと呼ばれていることに違和感を覚えた。

「なーに、マキナその如何わしいものでも見るような目線。ちょっとやだなあ」

「あんたが、ローラと呼ばれてるからじゃないかしら、ジェット」

「もう、カレン。ジェットはやめて、父さんが悪いのよ出生届で、あたしの名前を母ちゃんが産気づいた場所と書き間違えるから。ジェットローラースパイラルなんてひど過ぎるわよ。でも、あたし本名のローラーも好きじゃないの。短くローラと呼んで欲しいな」

 ジェットはにこやかに言うが、その感じはとても同年代じゃ無いように感じた。見た目は幼く見える時もあるが、物言いや振る舞いに年長さを感じるのだ。

「じゃあ、ローラと呼ばせていただくわ、ジェットさん」

「もう、マキナ。ジェットはやめて」

 あたしはなぜか笑いがこみ上げてきた。カレンもジェット、もといローラも笑っている。緊張をほぐすためにローラこの話を持ち出したのかもしれない。

『ああー、聞こえるか。セイレーン。こちらはサンドクロールス。どうぞ』


 テッドからの無線が入った。砂の中は遮蔽が多くて無線が通じないので、比重の異なる無線の中継ブイを等間隔にしずめていき、それを使って無線をするらしい。雑音はかなり入って聞きづらいが、多少の海流のうねりがあっても無線が通じるのでかなり便利であるとローラは教えてくれた。

「こちらセイレーン。聞こえます。船長」

 ローラが応答した。

『ジェットか、まだまだ慣れない仕事だろうが頑張ってくれ』

「あのう、船長。休みに入ったら港にちゃんと入ってね。ここから上に行かないでよ」

『あ、ああ。今度はそうするよ。それじゃあ、弟に代わってくれ』

 ローラとテッドの会話の意味は不明だった。『弟』という言葉にカレンの顔がきっとなるのが、船内鏡越しに見えた。多少男勝りであろうが、年頃の女の子に向かって『弟』とは酷いものだ。カレンはテッドにとっては右腕で、『弟』のような存在なのかもしれないが。

「船長、出航準備オッケーです。いつでもダイブ可能です」

 カレンは、テッドの意地の悪い冗談をすかし、いい片腕ぶりをみせた。

『よし、それではセイレーン、ダイブ開始せよ』

「はい、セイレーン、これよりダイブを開始します。ダイブ開始時刻は、オアシスゼロ時刻で〇七一五です」


 ブリーフィングでカレンから聞かされた話では船体は砂上船から吊り下げられた状態になっており、あたしたちは船底のハッチから船内に入り、座席に座っているとのことだった。各座席はジャイロ式になっており、常に水平を保つようになっていた。

 最初は砂の粒が細かく密度の荒い層まで一気に潜るので、吊り下げられた状態の方が都合が良いというわけだった。砂の海は摩擦や抵抗が多いと、深く潜れないので、長くこの方法がとられて来たらしい。

 潜水艇は浮上時に多くの動力を必要とするため、潜水時は自重と砂の水流を利用した潜水方法をとっている。砂の水流は推進濾を通りぬけ、その量を音で感じ取ることで、昔の漁師たちは深さを知ったそうだ。センサーが発達した現在ではその方法はあまり使われていないと言われているが、この潜水艇ではちがっていた。

 昔の方法と、コンピュータの方法の両方で判断していた。人間の感覚は時として、コンピュータを凌駕する能力を発揮する。テッドの父親はそういう事を重んじる船乗りで、船員たちは何度もその力で難局を乗り越えていたのだ。だから、テッドもその方針は変えずに受け継いでいるのだ。だが、潜水艇の扱いに関しては、テッドよりもカレンの方がうまかったらしいのだ。


 水深計はみるみる上がってきた。外は何も見えないので、計器の示す数値だけが頼りだった。水深が深くなれば水圧も上昇するが、最新鋭のこの潜水艇では搭乗者が水圧を感じることはほとんどないのだ。

 二十分かかってようやく、五十メートルを潜った。更に十五分たって千メートルに。そして、更に五分後にようやく、千五百メートルまでに達した。センサーは砂虫の回遊を全く探知しなかった。

 更に遙か二千メートル下に大きな海溝のような溝があることが確認された、溝の深さについては測定不可能だった。千五百メートルでも外は砂だらけで何も見えなかった。砂の層の終わりはここより更に千五百メートルは潜る必要があるようだが、当然光はないので、明かりをつけてもどの程度見渡せるか定かでない。


 あたしは、成分分析センサーを広域にし、岩肌をサーチし始めた。やみくもにサーチしても範囲が広すぎるので、雨季以外は外に露出している場所を先につきとめることにした。

 師匠は千五百メートル下と言ったが、その誤差は一体どのくらいあるのか、実際のところあたしには見当も及ばなかった。

目的の植物が生息する岩肌は侵食でわずかに内側にえぐれていて、そのえぐれた天井の溝に生息しているということだった。この植物が入江で濾過をして、砂の海の水をきれいにしているということらしいのだ。敏感なアームの感触を直接指の神経に伝達しても、触ったことの無いあたしにはその感覚が全くわからなかった。


 センサーで岩肌をサーチしても、実はこの手の溝はいくつかあり、どこがそれに該当するのかが全くわからなかったのだ。これが地上にさえ出ていれば、簡単に見つけ出せるらしいのだが、今は海の中。あたしはあせるばかりだった。するとロボットアームの操縦桿に誰かの手がかかった。

「あたしにやらせてください」

 それは、副操縦席から身を乗り出して来たローラだった。

「大丈夫、あたしもその植物は研究してるんです。実際に採ったこともあります。但し、地上でですけど。地上で探す場合も、やはり岩肌を指の腹で触りながら探すのです。岩肌の感触は覚えています。

 あの植物が繁殖している溝は、必ず表面に気泡のある入江貝が無数に生息しています。理由はわかりませんが、共生なんだと思います」


 その話はあたしも師匠から聞かされていて知ってはいたが、ごつごつした岩肌と貝をロボットアームの感触で見分けるなんてできっこ無いと思ったのだ。しかし、今はローラを信じる他なかった。カレンはゆっくり岩肌をなめるように潜水艇を移動させた。

 あたしはローラとはサンドクロールス号の宴会で世話になったが、身の上話もせぬじまいだったがこの時ばかりはローラが何十年来の親友であるかのように感じられた。

 これまでいろいろあったが、あたしは、あそこであの岩の上で行き倒れたことを猛烈に感謝した。


「ありました。きっとこれです」

 ローラは船外アームでそれらしきものを掴み、船内に取り入れた。その姿は海藻のようでもあり、クラゲのような刺胞動物のようでもあった。その植物とも動物とも知れない生物は、体内発光をしており、赤や青、オレンジといったきらびやかな光粒を放つ美しいものだった。師匠からイメージは教えられてはいたが、想像していたもの以上にそれは美しかった。

 あたしは、ロボットアームを使ってその外皮の一部はぎ取り、成分分析機にかけた。結果が出るのは五分後。あたしには一時間にも感じられる待ち遠しさだった。

 そして、出された解析結果は、まさにあたしが探し求めていたものそのものだったのだ。やっと見つけた、これでみんなを助けられる。

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