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星屑のリング  作者: 星歩人
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第五章 星屑の種 第十話 起死回生の大逆転

 船体の軋み音は、より、大きく感じられるようになった。

 

 今すぐにでも圧壊ということはないだろうが、相手は人知を超えた怪物だ。奴との戦いは、秒刻みというところだろう。タンクも表情に全く余裕がない。額から汗がシャワーのように噴き出している。


 アリサも、口元から笑いが消えた。

 

 グレッグは、相変わらず白目を剥いて、人口生体の外皮膚をぺろんと剥きはいだ状態のまま、目を点滅させながら、懸命に状態の回復を図っている。図っているんだが、いっこうに状況が回復しそうにない。


 船体の傾きは、垂直になってしまった。クルーは船が傾きだした時に、椅子に固定したので、下に落ちた者はいない。ホセ翁も、その妻や孫娘もしっかりとシートに固定されている。ホセ翁は老いたわが身を悔しがり、目をかっと見開いて、事の顛末を見守ろうとしているようだ。妻と孫娘と手を取り合って。


「大丈夫、大丈夫だ・・・・・」ホセ爺はカッと目を見開いて小声でつぶやいた。


 深度は1メートルずつ、ぐい、ぐいと、沈んで行く。深度計がそれを示している。彼らが乗るアクアマリン号は。全長200メートルはある巨大な船体なので、実際に小刻みな沈みは感じないが、彼らの思いがそう感じさせるのだ。


 それは死への恐怖などではない。それはむしろ、期待と喜びだ。未知への挑戦、成功への期待、やり終えた事への充実感が、このわずかな挙動を何十倍にも体感させているのだ。


『お嬢様、出来ました。船のコントロールを掌握しました。』


グレッグの思念波が皆の頭に伝わった。


それを聞いて、滝のようにしたたり落ちていたタンクの汗もひいた。


「やったな、グレッグ。俺の方もどうにか立て直せそうだぜ」


「あたしは、別に心配なんかしてなかったわよ。アンタならやれるって思ってたし、ちょいとした余興になったでしょ」


 船はゆっくり、浮上しはじめている。深度計も船の上昇を示している。あの怪物はどうなったのか、力尽きたのか、抵抗している様子は全く感じられなかった。


『あと数メートルで浮上します。皆さん、シートベルトの固定モードをあげてください』


 皆は、グレッグの指示に従い、シートのフィットモードボタンを押し、自分らの体をシートの中に埋もれるようにしっかり固定した。


「グレッグ、お前さんはどうするんだい」


 タンクは皮がぺろんと剥けたままのグレッグが、衝撃で壊れはしないかと心配する。グレッグも一応は、フィットモードでシート固定はしているが、そのガタイの大きさと、金属骨格がむき出しとなった骸骨のような風貌が、浮上の衝撃で壊れはしないかと不安になったのだ。


『いちおう内骨格の衝撃吸収強度を上げます。仮に頭がもげても平気です。ここにあるのは人工生体脳です。少々揺さぶられた程度では、ゼリーのようにべチャッと潰れたりはしません。

 ただ、取れた頭がラグビーボールのように、その辺を跳ね回るかもしれませんので、そん時は迷子にならないよう拾い上げてくださいタンクさん』


「お、おうよ」


 タンクは意外にも自分がグレッグに信頼されていることに戸惑い、威勢の良い返事を死損ねてしまった。


『行きます!』


 グレッグの合図と共に船体が急上昇するのを感じた。これは水圧に抵抗する重い浮力じゃない、空中に浮いている感じだ。そして、一気に倒れこんだ。

 多分、海面に倒れたのだろう。


 船体が上下、左右に激しく揺れ動いた。あまりの加速度に、悲鳴も上げる暇がない程だった。


 時間はほんの数分だった。船内のエマージェンシーコール状態は、解除され、防護シャッターも開き、窓から太陽の光が差し込んで来た。


 船内の大型スクリーンに船外の様子が写し出された。波は船の周りだけまだ、うねりがあるが、周囲は穏やかである。


 船内は外気が入り、酸素濃度も正常になり、潮の香りがほのかにした。


 タンクは、グレッグの方を見やると、グレッグの頭が無い。


「おい、嘘だろー、グレッグ!!」


 タンクは、シートベルトを引きちぎらんばかりに強引に外すと、グレッグのそばに駆け寄った。頭は確かに外れていた。


「どこだ、グレッグ」


 タンクは必死に取れたグレッグの頭を探すが、見つけられない。


「グレッグ、おい、グレッグ、どこだよ」


 タンクは、浮上して物で散らかったラウンジ内を駆け回る。机の下、納戸の中、部屋の角や隙間など、散らばった物や衣類、壊れた船内品をかきわけ、どこだ、どこだと、あわてふためく。


 アリサやホセ爺たちは、そんなタンクの狼狽ぶりを目にして苦笑する。なぜなら、グレッグの首は、グレッグが右手で掴んでいたのだ。


 グレッグは、狼狽するタンクの陰で、頭を右手と左手でお手玉をする。生態脳は首が外れる前に、胴体部に移動させていたのだ。


 グレッグやアリサは、タンクをからかおうと、脇から次々とガラクタを放り込む。ごみはそこまで船内には散乱していなかったはずなのだが、必死のタンクには、そのことに気づけない。


「おお、おい、みんな、グレッグの首を探してくれ」


 タンクは、更に狼狽する。みんなが散らかした、ごみの中にもぐったり、バケツに顔を突っ込んだりと、その姿はまるで道化師だった。


 アリサやホセ爺夫妻らは、次第に笑いをこらえ切れなくなり、声に出してしまう。


 タンクは、はっと周囲の空気が笑いに満ちていることに気づいた。振り向けば、眼前にグレッグのロボ顔と面会する。


「グレッグはとても嬉しいです。タンクさん」


 グレッグはロボ顔で最大の笑顔で、タンクにほほえんだ。グレッグの両手に握られて、頭全体が、レーザーイルミネーションで煌々と輝き、花火まで上がっていた。



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