表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑のリング  作者: 星歩人
5/51

第一章 出逢い 第四話 再び砂上船へ

 あたしは改めて、テッドの砂上船への招待を受けた。甲板には乗組員が総出で出迎えてくれた。彼らは、軍隊のように整然と並び、敬礼までしてくれたのだ。これが、彼らの正式なお客様のお迎えなのだろう。正式にお客様として迎えられたあたしは、ようやく砂上船の説明を聞かせてもらえることとなった。

 テッドの砂上船、サンドクロールス号はその名が示す通り、静かで波も無い真平らな砂の表面を這うように航行する。砂上船は船首の底に砂をかきわける鰓のようなものが左右についている。実は砂は見た目にはわからないが対流をしている。砂上船はこの砂の対流と風の力を利用して航行しているのだ。船の甲板は特殊なシールドに覆われている。このおかげで肌を露出させていても、人体に大きな影響を与えない程度の紫外線量になっており、気温も二十五度前後で快適な環境に保たれている。

 だが、砂虫漁の際は、エネルギー供給確保の為にシールドは解除され、着ぐるしい砂漠服を着ての作業となってしまうので、体力勝負の仕事になってしまうようだ。また、砂上船の大きな帆は形状記憶材質で出来ており、電圧でその形状を変化させていた。通常は、風を受け、船そのものを動かす動力となっているが、同時に太陽エネルギーを吸収し、蓄電しているとのことだった。そして、恒星間通信をするような場合は、帆に電流を流し、巨大なアンテナにするのだそうだ。わたしの狙いは当たっていた。


 あたしは、テッド達の力を借りて、シェルターと連絡を取ることにした。テッド達は、軍事衛星の裏コード使って良好な通信を開いてくれた。やはりこういうことをできる連中なのだなと思った。

 どうも仲間はこの星の衛星軌道上にでもいるようで、コンタクトをしている様子が伺えた。とりあえず、お客のあたしはモニタの前に座って、回線がつながるのを待った。その間、再び食事の歓待を受けていた。


 ジュリアーノさんの弟、マルコさんの虫料理だったが、材料の虫の見てくれからは考えられないほど美味な食事だった。カレンも舌鼓を打ち、何杯もおかわりしたという砂芋虫の熟成ホワイトスープは最高だった。


 二時間ほどゆったりとくつろいでいると、テッドが通信接続の合図を出した。砂嵐のモニタが徐々に細かな色のついたドットの映像が現れだし、やがて鮮明な映像となった。


 六ヶ月ぶりに見るモニタの向こうには、懐かしい顔があった。心配だった師匠もクランツ兄貴もいた。シェルターの外側はあまり良くない状況のようだった。心配されるのは、設備の故障だった。

 案の定、一部が故障し部品の調達が出来ない状況に陥っていた。それでも、一年はどうにか生活できるとコンピュータは予測していた。シェルターに入った人間が想定人数の半分以下だったことも幸いした。

 これがもし、想定人数入っていたら、半年も持たない状況となっていたことだろう。


 あたしは、何よりも家族とゆっくり話がしたかったが、そうも言ってられない状況が双方にあることを自覚した。状況を察してか、師匠が先に話を切り出した。


「マキナ。アレは見つかったのか?」


「いいえ、師匠。まだ、見つかってないわ。師匠が示した場所には来たとおもうのだけど、見つからないの」


 師匠はあたしが送った位置情報を確認し、場所が正しいことを告げてくれた。


「ずいぶんと時間がかかったようだが、場所はそこで間違いない。但し、お前も確認してると思うが、今は雨季だ。海面も上昇している。

 あの入江は特に海面上昇率が高いのだ。アレは岩肌に生息しているのは間違いないが、今は千五百メートルほど下にあるんだ。だから雨季に入る前に採取せねばならなかったのだ。

 あと、四ヶ月早ければ、手が届く範囲でそのまま岩肌から採取できたんだ。

 だが、お前は初めてでそこまでたどり着いたのいだ。それだけでも褒めてやらねばならないだろう。

 問題はどうやって千五百メートル潜るかだが、その砂漠服は潜水服としても使えることは、知ってるな。そこらの岩盤は頑丈だからしっかり、岩場にフックを取り付けられるさ」


「あ、はい。調べてやってみます」


 あたしは、悪い癖で師匠に咄嗟にそう応えてしまった。そして、愕然となった。アレは千五百メートルも下にある。砂の海を潜るってことなのか。

 たしかに砂漠服は潜水具にもなるが一人では砂の海など十メートルも潜るのは大変だろう。砂の海の潜り方のこつも説明はあるが、あたしは砂の海など潜ったことは一度もないのだ。


「お話の邪魔をして申し訳ない」


 あたしは、師匠の言葉に不安になった素振りを察知したかのように、テッドはあたしの肩を軽く叩き、「俺に任せな」と、割って入ってきた。


「お前さんは一体誰だ」


 師匠と父は声をそろえたかのように叫び、怪訝な顔つきになった。無理もない、見てくれは少々イケメンの若い男が突然に、愛娘の肩を抱いて割って入ってきたのだから。


「あ、申し遅れました。あたしは、惑星デュナンで海運業を営んでおります、サンドクロールス号の船長、テッド・グラーノフ三世と申します。以後、お見知りおきを。

 今は、マキナさんのお仕事の協力者を務めております。契約内容をお送りしますのでご覧になってください」


 師匠と父は契約内容を見て驚きを隠せなかったが、事情を察して特に反論はしなかった。


「お二方とも意外と、物分りがおよろしくて助かります。わたくしどもは、砂虫漁においてもプロを自負しており、実は砂の海を潜れる潜水艇も所有しております。

 ですので、この任務はわたくしどもにおまかせください。きっと、目的のものを採取して、お嬢様を安全に皆様の元へお届けいたします。それと言ってはなんですが、追加料金を上乗せしていただきたく、こちらに認証とサインをいただけないかと」


 テッドはすかさず、追加料金の請求書をシェルターへ送りつけた。そこには、あたしを無事に故郷へ送り届ける条件が含まれていた。


 そうなのだ。あたしとテッドの契約は、目的物の採取だけであり、その後については何もなかったのだ。あたしは、植物を採取しても、その後、来た道を戻り、オアシスゼロのホテルに戻ってから、連絡バスに乗って帰るしかないのだ。


 惑星連合に加盟していないこの惑星は、オアシスゼロこそ惑星連合の統括府があるが、政府機関のシャトルは停泊できない為、近くの惑星連合ステーションまで連絡バスを乗り継いでいかねばならないのだ。この惑星に降りたときは、半分、旅行気分だった。


 だが、使命を帯びた今は、帰りの安全も確保しなくてはならなかったことをあたしは全く考えていなかったのだ。

 テッドは商売に抜け目無いが、あたしよりも上手のようだ。と、いうかあたしがあまり世間を知らないのだ。


 父は状況を察し、あたしの安全をテッドに託したのだろう。すんなりと契約書にサインし、認証をくれた。


「毎度あり―――!」


 テッドの声が景気よく響いた。そして彼は、無防備なあたしの左の頬にキスをした。


「おい―――、きさまー!何お―――!」


 先ほどまで冷静だった父が取り乱した。


「ほんのご挨拶ですよ、お父さん」


「お父さんだー。貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはないぞー」


「僕はもう娘さんのすべてを知ってしまいましたから、体の隅々までね。だから、今度、お会いするときは、息子として迎えてあげてくださいね。お父様」


 あたしは、裸にむかれたことを再び思い出し、顔がかっと熱くなるのを覚えた。だが、テッドはあたしの裸は見ていなかったと弁解してたが、納得するまでには時間がかかるのだ。


 きっと、あたしの頬は赤らんでいたに違いなかった。父はそれを見るなり、怒りを沸騰させ、みるみる顔が赤鬼のように変化していくのがありありと見えた。


「貴様―!」


 父が怒りをあらわに叫んだその瞬間、通信回線は切れた。あの普段は冷静な父があそこまで取り乱したのを見たのはあたしも初めてだった。きっと、今、父ははらわたが煮えくりかえっていることだろう。


「よし、これで準備はおわりっと」


 テッドはあたしの肩から手を離した。


「ちょっと、あんた」


 あたしは、テッドをぶたずにはいられなかった。テッドはいつも悪ふざけをするが、こればかりはあたしも許せなかった。


「よしな!」


 カレンが割って入り、あたしの右手首をつかんで、テッドへの平手打ちを止めた。


「いいんだ、カレン。打たせてやれ。俺はそのくらいのことをしたんだ」


「本当にいいのテッド」


「ああ、構わないさ。早く、マキナの手を離してやれ、カレン」


 テッドは、右の頬をあたしの眼前につきだし、さあ、やれよと言わんばかりだった。彼はまるでいい男きどりの絶頂だった。状況が、状況でなかったら、あたしは、少しこの男に惚れるかもしれないと思った程だった。きっと、この男はせいぜいか弱い女の平手打ちが、頬を軽く叩く程度だと思い込んでいるのだろう。


 でも、残念でした。あたしは、幼い頃から、空手や柔道、剣道をこの身にたたき込んできた、紅蓮家の次期当主なのだから。あたしは、平手を握り込み、無防備なテッドの頬に一発おみまいしてやった。テッドは真っ白になったボクサーのようにスローモーションで、床に崩れ落ち、大の字になって倒れた。


「せ、せんちょ―――、お、おかしら――」


 船員たちが悲鳴をあげて、テッドの周りにつめかける。


「あんた、結構やるじゃない。見直したわよ」


 テッドへの平手打ちを止めたカレンが思いがけないことを言ってきた。


「怒ってないの?」


「ううん。あたしも、たまにあいつをぶん殴りたくなることあるのよね。あいつとは、幼馴染なんだけど。ガキの頃は、しょちゅう喧嘩したわね。あいつ、あたしを女だと思ってなかったのよ。未だに弟分扱いするのよ。嬉しいやら、悲しいやらってとこね。

 でも、あいつがあたしの所有する宇宙船の船長になってくれて、あたしは、あいつの気の合う弟分で、相棒であり続けることを承諾したんだ。あたしは、あいつを思い焦がれる女の子でいるより、あいつの弟分、いや相棒でいることに幸せを感じたのかもしれないね。だからね、仕事上あいつの部下であるあたしは、昔のように、そうそうあいつを殴ってばかりもいられないのよ。あいつの船長としてのメンツも立ててあげないとね」


「カレンって、宇宙船持っているの?」


「え、まあ、ただのうすらでかい貨物船よ。うちの家業でさ、輸出業と運輸業を一緒にやってるって感じかな。砂虫漁は、年中やってなくてさ、は一年の五分の二くらいで、あとは副業やるか、休んでるのよ。

 そもそも、一匹、まともに仕留めるのが大変だし、質のいいやつは一匹で一年は悠々暮らせる稼ぎになるのよね。そんでもって、半年近く、空きが出るってんで、うちの仕事、手伝ってもらってるわけよ。なんてったって、家訓ってやつで、女は家業と宇宙船所有権は継げても、貨物船の船長業は告げないとかふざけたものがあるのよ。でも、船長を登録しとくとさ、あいつが居ないときは、わたしが船長代行で仕事できるんで、助かってるのよね。

 まあ、あいつにとっても、宇宙船での旅は気晴らしになっているようだしね。お互いギブアンドテイクってとこなのかな」


 ふたりは、よくあるいい感じの男女じゃないけど、”男の友情”ではしっかりと絆を結んでいるようだった。


「それと、テッドがあんたのお父さんにした事だけど、あれは決して悪気でやったわけじゃないのよ。彼流の元気付けなのよ」


「元気付け?」


「そ、今、シェルターじゃ深刻な状況でしょう。

 もちろん、みんなはあんたの成功を信じているけど、実際は強がっているだけなのかもしれないのよ。特に男はさ、強くしてないといけないじゃない。

 だから、あいつはああいうことをしてあんたの父親を焚きつけたのよ。次、会う時、あんたの父親は、あいつをぶん殴る口実ができたでしょ」


 あたしは、カレンの話に少し納得してしまった。確かに泣き言を言わない父なら、ありえる話だと。

 テッド、あんた結構、いい男だよ。あんたのその計算の無いの破天荒ぶり、素敵だよ。


「お休みテッド、いい夢を見てね」


 あたしは、大の字に伸びているテッドに、投げキッスを送った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ