第五章 星屑の種 第七話 ハイになろう!
「アダ・・・・・・ムうーーーーー、? ?」
アリサは懐かしさよりも、誰それな印象の方が大きく、まじまじとアダムを名乗るイケメンの好青年を見つめてしまった。だが、それは、決して、惚れたとかいう類ではない。
アリサは、おじ様派で、グレッグの生体マスクもその好みを存分にいかした、イケおじ様顔なのだから。
「あは、どうしたんですか?ジロジロと」
アダムはいささか困り顔で、左頬を右人差し指でかきながら、薄ら笑う。
「アダムって、最後に会ったのいつだっけ?」
怪訝な顔つきでアリサは、好青年となったアダムをまじまじと見入る。
「あは、アリサさまとはあまり直接にはお会いしてませんからね。姿を見せたという意味では、七年くらい前でしょうか?」
「あの時のあなたって、まだ十歳くらいのお子様だったじゃない? 年、盛り過ぎてない?」
「アリサさま。仮に十歳でしたら今は十七ですよ。ヒトであれば、それなりに着こなせば、大人の風貌であることはごく自然ではないかと思うのですが。
それに、すこし盛っているのは、アリサさまも同じでしょう。アリサさまの素顔はもっとお若いでしょうに」
言われてみればそうだ。今のアリサは、新鋭の会社社長を演出し、実際の年齢より十歳は上乗せしているのだ。
「イヴと結婚して、子供を作って、その子供をバッカス姉妹に出したって、ほんとうなの?」
「そうですね。私とイヴは、ある時を境に自分らの複製体を作れることに気づきましてね。試行錯誤の結果、最近、それに成功したのです。それで、自分たちの仕事をその子らに受け継がせたのですよ。
まあ、ヒトの子供ではありませんから、親子の情などというものはありません。彼らはいわば、ボクとイブの劣化のないコピーのような存在なのですから」
アリサは、ほとんどヒトと変わらない仕草をするアダムの姿に驚きっぱなしだ。会話もこころなしかたどたどしく、恐る恐る話している。もとからアダムには親近感を持てない性分だったのだから。
「でも、独立して結婚って、どこか別の場所に住んでるの?」
「はい、以前はカレン様の宇宙船がボクの家のようなものでしたけど、今はちょっとした恒星間航行可能な亜光速船舶を手に入れましてね。それを使ってイブと気ままな旅行をしているのです」
ちょっとした、恒星間航行可能な亜光速船舶ねえ、・・・・。きっと、バッカス工業のリモート工場でもでも操作して建造したのかしら。それとも、オバさんたちがこれまでのご褒美にプレゼントしたのかな。
オバさんたちにとっては、アダムとイヴは家族同然だからねえ。
「じゃあ、イヴもここに来てるの?」
「ここには居ません。カレン様や大旦那様がいらっしゃることを事前察知済みでしたから、、リゾートエリアにてバカンス(死語)中です」
スーパーコンピュータの生体端末が伴侶を連れて気ままに旅行して、バカンスを楽しむ?なんかついていけないわ。彼が何者なのかってことすらわからないのに。
グレッグはヒトの生体細胞から培養合成された人為的生命体なんだけど、しくみはともかく、基本はヒトなのよ。ヒトの記憶を持ってるし、三百年前のご先祖様との旅の話もとても楽しく聞かせてもらえたわ。
でも、アダムやイヴは、見た目こそヒトだけど、呼吸はしないし、食事は一応するみたいだけど、排せつも、発汗もしない。その上、全く眠らないし、コンピュータと直接会話してしまうのだから人知を超えてるわ。
「そうそう、旅行というのは、正確ではないですね。私たちには目的がありますので。
なんと言いますか、ヒトにありがちな自分探しといいますか、私たちの創造主の足跡探しの旅をしているのです」
はあ、それはご立派なことで、・・・・、で、なんで、あたちにコンタクトしてきたの? あたしら1ミリも関係なくない?
どっか行ってくれないかしら、ほんとに・・・・。
アリサは無表情でアダムを見つめる。顔に出したら察知されて、皮肉を言われるのがオチだとわかっていたからだ。
「あまりご興味ない、早く立ち去って、みたいなお顔をしないでくださいよ、アリサ様!」
「あ、ごめん顔に出てたかしら」
「いえ、発汗と、瞳孔の微妙な動き、右手を握りしめるなど、明らかに苛立っておられるので」
相変わらず鋭い。こいつの前では、どんな演技も通用しないわ。まさに超能力級。グレッグも同じことができるけど、グレッグと私の絆は、こいつとは違うんだもの。
「ボクがさっき見逃してあげた一件についてですが。少々、犯罪まがいのことでをされてましたね。でも、あちらの企業が行っていることも共和国に対する犯罪行為に近いことですし、むしろ黙って使わせてもらった方が有益かと思いましたので」
「じゃあ、あたしらが何してたか分かったんだ」
「無論です」
「わかったわ。アンタははったりとかかます奴じゃないし、きっとどっかの情報にあたし等の不審な動きが目についたとかいう理由で嗅ぎつけたんでしょうから、もう何も詮索しないわ。グレッグがあんただって認識できた時点で、あたしら詰んでんだから」
「ご理解が早くて助かります。それでは妻も待っておりますから、リゾートエリアへ参りましょう。僕は一足先にお暇しますので、皆さんは故郷の料理を楽しまれてください。また、ここの無重力蒸気風呂は、デュナンの雨季の霧雨を彷彿させますよ。連絡方法はグレッグさんに教えましたので、あとはよしなに」
そう言って、アダムは部屋から去って行った。
アダムが去ると、アリサは寝室へ行き、服を脱いでベットに埋もれた。そして、ブレスレットの端末をいじり、子供の頃の写真や映像を見た。
そこにはまだ小さかった自分と、ブリキ男のグレッグ。バッカス姉妹と父と母と、兄弟姉妹、砂上船の乗組員たち、祖父母やマキナもが、砂上船の甲板でどんちゃん騒ぎをしていた。
そこには、小さなアダムとイヴが居る。しかも、宴の中心にいて、皆とはしゃいでいた。自分はというと、やや冷めた面持ちで「バカじゃないの」とボソりながら、端の方で、椅子に座り、様子を眺めているという感じだった。
アリサは、父に肩車をされて、大喜びするアダムの写真を眺めた。
「なんかあの子、何考えているのか分からなくて、頭も良すぎて、不気味で嫌なのよね。パパは好きみたいだけど・・・・、はぁあー」
「嫉妬ですか、お嬢様」
アダムと対面した後のアリサの様子に不安を覚え、グレッグが思念通信で話しかける。本当は情緒不安定で、父親好きで、我がままで、寂しがり屋のアリサが家出旅をつつがなく続けられているのは、このグレッグのケアあってのものなのだ。
「・・・・、そうかもね。あたしも、まだまだよね。器が小さいわ。ちっとも成長してない・・・・」
アリサは、見ている映像がぼけて、自分が泣いていると気づいた。
「一旦、船に戻りましょう。自室の方がくつろげるのでは、・・・・・」
アリサはグレッグの優しい誘いに思わず、うんとうなづきそうだった。端末を閉じようとした時、自分が今の道に入ったころ、タンクとグレッグの3人で最初の仕事をこなした時の映像が目に留まった。
大した賞金首では無かったが、短時間ながら激しい宇宙戦闘で、白兵戦もあり、血沸き肉躍る感覚を初めて覚え、血がぐつぐつと沸騰する錯覚を思い出したのだ。
アリサは両の頬を両手の平でパンパンとたたき、自らを鼓舞した。
「いーえ、それには及ばないわ。今はバカンス中よ。アダムになんか遠慮しないわ」
アリサは、飛び起き上がり、広間に飛び込んで叫ぶのだった。
「グレッグ、タンク。これから野外パーティに出かけるわよ。支度なさい。豪華で派手な服装で、繰り出してやるわ。
グレッグは30分でさっきのことやれるわよね。
アダムは何時に私たちを待つとは言ってなかったわ。きっと、わたしが意気消沈して、一晩明かしたら、自分たちを捜しに来るとでも思っているのよ。
そうはさせるもんですか。
グレッグ、新しいネットワーク網をいくつか作って、私たちのネットワークにプロテクトをかけて、アダムが侵入できないようにして。他も同じような処理を施して、
あなたがかけたプロテクトは、あいつでも簡単には入り込めない。絶対はないけど、少なくとも半年はかかると思うわ!」
タンクは元気を取り戻したアリサに狂喜する。
「やっぱ、お頭はそうでなくっちゃ。
おい、ブリキ野郎、もたもたすんなよ!って、もう、おぱじめてやがるのか、白目むいて気持ち悪いなー」
グレッグはネット接続するときは、さすがにヒトの体を保ってはおられず、白目をむき直立不動のまま、もくもくと処理を続ける。
ただし、彼はこの状態で、並行して会話や食事もできてしまうハイブリット野郎であることも言い添えておこう。
天空にきらびやかな花火が乱舞する。どどーん、パンパン、パラパラ、と雑音のようでもあり、切ない調べでもあったりする。
華やかできらびやかな光を放つドレスをまとったアリサが、グレッグとタンクを従えて花火下で舞い踊る。アリサを片手で空中を舞わせ、片手でキャッチする。右腕に座ったアリサは、イエーイ!と奇声を上げる!
更にアリサはグレッグの右肩に乗り、トンボを切って、タンクの両肩に乗る。アリサは地上に着地することなく、レーザーの糸が放たれるセンスを振って、二人の上で華麗に乱舞する。
観客は盛り上がり、やんやの声援を送る。アリサたちの踊りに触発されたVIPたちもステージに上がり、自慢のダンスを披露し始める。
VIPの野外ホールは完全な警備体制で、どんな不審者も見逃さぬ厳戒体制Sクラスの傘下で、宴は繰り広げられる。
宇宙移民が故郷から持ってきた中で、これは珠玉の芸術品と言えるだろう。爆発して、華やかに燃え上がって、散らばって、はかなく消える。まるで、ヒトの人生のようだ。
無限にも思える宇宙の時の流れからすれば、地球を母星とする、数千年を超えた繁栄も、これらを統べる創造主からすれば、ひと瞬きの出来事にすぎないだろう。
数十年だった寿命を2、3倍に増やしても、広大な宇宙は広すぎて回りきれない。ヒトも、資源も、資金も無限大になければ、とうてい無理である。
それでも、いつの日にか、自分がその結果を見ることができない未来に夢つなぐために、努力と成果の足跡を残し、次の世代がその後をつむいで行く。それがヒトの執念であるのだ。
踊り疲れたアリサ一行は、警備装備に守れたテーブルで三度目のディナーをとる。惑星アクアグラスの夜はとても長い。ひと眠りして明けるような短い時間ではない。
天空ではとめどもなく花火が乱舞している。
「物が壊れない、怪我人が出ない花火ってのも、素敵ね」
アリサは、爆発しては消える花火を見上げ、つぶやいた。
「紙一重の差しかないのに、この華麗さ、儚さ、すべてが素晴らしい!」
「タンク、あんたにも情緒をたしなむ心があったのね」
「お頭、随分じゃないですか、これでも通信教育で大学の修士課程を取ったのですぜ」
「あれ、それ、初耳。なんの論文書いたの?」
「教えません!、それと調べても出ませんぜ」
「ああ、偽名で、いろいろ細工したってやつ。それか個人師事のものかしら。まあ、いいわ、アンタに学が芽生えているなら嬉しい限りだわ」
「アリサ、この花火はグレン家の一族の方々が主催されているんだよね」
「ええ、パパが言ってたわ。唯一、”職人”が多い一族なのよね」
タンクを脇においやって、アリサとグレッグは夫婦会話を始める。面白くない、不貞腐れ顔をするタンクに、アリサはグレッグがテーブルの下で瞬時に手割りしたタンクの頭ほどもある岩カニの揚げ半身を手渡した。
タンクは、それを受け取ると、殻ごと、バリバリと食べてしまう。更に度数の高いショットを煽って、砂虫のステーキをかぶりつき、二、三回の咀嚼で胃に落とし込む。
「お嬢の国の食い物も、なかなかどうして、うまいじゃないですか?」
「なかなかうまい? 極上と言いなさい。いえ、極上としか言いようがないでしょ。これだけ豪快で、胃もたれないしないような肉がある?」
「まさにパワーの源ですね」
「そう、そう。もっと食べな、もっと、あんたの筋肉脳も繊細になるから」
宴はなおも続いて行った。




