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星屑のリング  作者: 星歩人
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第五章 星屑の種 第三話 アリサの流儀

 宇宙船で逃げる賞金首は、宇宙船を捉えても、捕獲はひと苦労である。なにせ、持っている宇宙船がそこそこデカい。金で雇われた乗組員もわんさか居る。資金もでかいから装備も半端ない。


 当然、追う側もそれに対抗する装備と人員と資金が必要である。きちんとした労働時間があり、休暇もとれる連邦警察は、優秀ではあるが、持続性はと言えば、断続の連続である。なので、逃亡犯の捕獲には何年もかかっている。


 連邦警察という高給取りの公務員たちにとっては、犯罪者が逃げまくろうが、暴動起こそうが、そいつらを四六時中見張っているようでもないのだ。

 彼らはちゃんと休みをとって、家族サービスもし、十分な休養もしてるわけである。個々、個人で見れば、意外とのんびりとしているのだ。下に行けば行くほど、休みは取りにくいというのは、もはや刑事ドラマの世界にしか存在していない。


 かろうじて居るとすれば、それは警察の下請け業者としての賞金稼ぎであろう。こいつらは飯食って、用を足して、寝る以外は四六時中、悪党どもの捜査、確保に当たれる便利屋である。アリサたちカリュード号の乗組員たちもこういう下請けのいち業者なのだ。


 もちろん、フリーの奴もいるが、フリーでは捜査に限界がある。連邦政府の犯罪者データにハッキングをかけるのは業界では当たり前のことだが、外部アクセスで足が着かないようにするのは手間も資金もかかり、リスクも大きい。

 それならば、政府と手を結んで中から堂々とアクセスし、新開発の武器や装備の試作品を使い、改造し、偽装できる範囲で大いにドンパチをやりつくせる方が、好都合である。


 賞金稼ぎたちは、労働時間が不定期なことに対して不満を言うのは、まっとうな給料が支払われない時だけだ。働きに見合う給料が支払われれば、彼らは大量のドーピングをしたみたいに、目はぎらぎらとして、水と糞まずい固形のパサついた軍隊レーヨンだけでも半年でも仕事をしてくれる。

 賞金稼ぎの仕事は、悪く言えば、山師である。だが、常に考えて行動し、時には命をもかける冒険と発見に満ち溢れた夢の職業ともいえる。


 辺境の星で両親の愛情を一心に注がれてすくすく育ち、その優秀な頭脳で幼くして科学者となり、将来は連邦科学センターの研究員を目指していたアリサだったが、どこで道を間違えたのか、今は重犯罪者捕獲人稼業を営んでいるのだ。



 おっと、今は戦闘中である。賞金首の船の中に戻るとしよう。



 防音ヘルメットをしていても収音機を破壊し、耳の鼓膜をも破らんとする程のけたたましい轟音とともに螺旋状の光が直進した。グレッグが放った重爆レーザー砲が通路の先にある何層にも渡る防護壁をぶち抜いたのだ。

 宇宙船の船内は、軽く飛べない程のやや強めの重力が床に対して発生させられていた。おそらく、重力を入れることで重装備が仇となるように仕組んだのだろう。敵も重力があるのは不利なはずだが、敵の重歩兵は装甲マシンジャケット、いわゆるロボットのスーツのようなものだから、装着者の苦にはならないようにできている。


 突撃兵も人工筋肉繊維を編み込んだサイバテックスーツを着込んでいるので、多少の重力では大した負荷にはならないのだ。

 但し、アリサの部隊も同等の装備をしているので、ここはどちらがより場慣れしているかが戦局を有利にするのだ。


 賞金首の船の内部構造は事前に調査済みだったので、アリサたちは用意周到に準備した武器で、まるでゲームのチート技のように、侵入口から難なく壁を突破できている。

 ちゃんと壁の裏側に立っている歩兵の位置を確認しながら、歩兵の負傷が最小限度になるように攻撃しているのだ。

 

 重犯罪者であっても、できるだけ殺すな。重症でも生き残らせろ!


 アリサがカリュード号の乗組員たちに課した使命である。


 いくら人の寿命が長くなったといっても、重犯罪者の刑務所暮らしが短くなったりはしていない。

 人が100年も生きれなかった時代ですら、懲役300年という刑罰があったのだから。平均寿命が150年になろうとも、こいつら重犯罪者の懲役年数は300年以下になることは無いのだ。


 たいていの重犯罪者の行きつく先というのは、よほどの大物でなければ死刑も、独房での終身刑、でも無い。あまっさえ、数年の寿命を残しての出所も無いのだ。

 大半の重犯罪者の行きつく先は、原生動植物の生息する星への流刑である。自活力が無ければ、死に絶えるか、原生動植物の餌食となる。

 だが、彼らが運よく生き残り、更にそこで子孫をもうけ、街や国を作るなら、その子孫たちには恩赦を与え、その星を連邦政府に加盟させ、惑星開拓を行うといった打算もあったりする。

 そのくらい宇宙移民の末裔たちは繁栄し、犯罪者も後を絶たないほど多いのだ。


 アリサが犯罪者の命を尊ぶのは、たくさんの愛ではぐくまれて育った女の子らしい、慈愛の心ではなく、単に賞金の目減りを気にしてのことなのだ。


 取れるモノは、はした金まで取れ!


 奪えるモノは、誇りまで奪え!


 悪を行うモノに同情は必要ない!


 徹底した強奪こそ、彼らへの敬意に値する!


 アリサが大好きな父の言葉である。アリサはこれを信念として実行しているに過ぎないのだ。

 これにおののいて、泣きわめいたり、疲弊するような奴は悪ではない。ゴミである。ゴミには奪い取る誇りすらない。そうやって完膚なきまで痛めつければ、もう悪さはできない。


 アリサは、この言葉を思い出すたびに、この言葉を心の中で復唱するたびに、この言葉を言い放ちながら高笑いをする父の姿が目に浮かび、心の底から勇気が湧いて来るのだ。


『全員、正面の壁のハッチの前で止まれ!』


 アリサの指示に従いカリュード号の乗組員の突撃歩兵隊は停止する。グレッグは探索機を使って、壁の奥の様子の観察を始める。解析された内部構造はすぐさま、各自のヘルメットのキャノピーの内側に投影される。ついでに、脳神経にも伝送され、立体的な情報として閲覧できるようになっている。

 壁のすぐ奥は指令室、その真下が操舵室、奥が制御室であると読み取った。船の制御は簡単には奪えない構造であることをアリサは理解した。


 アリサらがいる場所は指令室の裏手、壁のハッチは緊急脱出用だと推察された。賞金首の彼らには、偽の信号を送り、指令室の正面に居ると思わせている。なので、ハッチ側は軽武装の幹部らしき人物が数名いるだけで、武装兵はいなかった。


 タンクは、指令室の正面に集中している武装兵の数を割り出した。


『重武装兵が五、突撃兵が十です』


『操舵室や制御室はどう?タンク』


『いません。お頭』


 アリサは内部探索しているタンクを手招きで呼んだ。タンクは索敵装置を閉まって、アリサとグレッグのもとへ走って来た。


【お頭。奴らは、どうやらここで決着をつけるみたいですね】


 タンクはグレッグとアリサにだけ聞こえるプライベート回線を使って、話した。


【歩兵は確認できたけど。700万カラットの賞金首、武器密輸商人ゴメス・チャンドラーはどこよ。マーカーが全く出て無いのだけど】


【申し訳ありません。奴の確認ができません、お頭】


【何寝ぼけたこと言ってんの、装甲機構服着ていても歩き方とか体形とかで特定できるでしょ。

 あいつがロボットやサイボーグって話は聞いていないわよ】


【それが、ゴメスのデータが消えたというか、変わったというか・・・】


【はあ? 20時間前の作戦会議で、皆で確認したじゃない。ゴメスは、褐色の肌に、金色の瞳に中肉中背のしゃくれ顎のごつい猫背オヤジだったでしょ】


【それがつい、今。データが改ざんされまして、というかされてたようです。いえ、されてしまいました】


 タンクはアリサの逆上を恐れて、おそるおそる改ざんされたゴメス・チャンドラーの立体映像を投影共有した。

 映し出された映像は、ピエロがおケツをめくってあっかんべーしていた。


【ばーか、ばーか、俺様が簡単につかまるかよ、このションベンタレ娘が!】


 憎たらしい声で、おケツの穴から花火を炸裂しながらピエロはしゃべった。

 しかも、この憎たらしい声は、耳の奥までへばりつくように何度も連呼されてしまった。


【何だと、このクソったれ!】


 アリサの怒りは脊髄反射的に沸騰し、コンマ一秒足らずで頂点に達した。彼女はいつもは用意周到で、冷静沈着にことを運ばせることをモットーとしていた。

 徹底的に相手を圧倒して、相手よりも高い目線から話をする。これが彼女が賞金首と対峙するときに最も気分が高揚するときなのだ。


 圧倒的な支配で相手に撃ち勝つ。


 それがアリサ流の勝利の方程式だったのだが、このゴメス・チャンドラーにおいては勝手が違った。


【待て、お頭!】


『お前ら全員両側の壁に貼り付けーーーーー、早くしろーー』


 タンクは咄嗟の機転で回線を切替え、警告音を発するとともに前方の部隊に緊急退避命令を出した。

 先方の突撃部隊隊長のヨハンは、いつものアレが始まったとつぶやきながら、中央ハッチを境に反対側にいる副隊長のロドリゲスにヘルメットの内部キャノピー表面に投影された、エアパネルの”船長乱舞”を押して伝えた。


 ”船長乱舞”とは、アリサが逆上して重爆レーザー砲の拡散乱射しまくる意味の警告だ。


 兵隊たちは狼狽することなく、腰のロケットパックを全開にして高速移動し、左右の隊はそれぞれ両側の壁に張り付いた。


 アリサはタンクが察して行動することを計算に入れてたにしては、ぎりぎりのタイミングでグレッグから奪った重爆レーザー砲を爆裂粉砕放射線モードに切り替えて発射した。


 重爆レーザー砲から発射された光線は放射線状に拡散して、壁に横一列の穴を開けて突き抜け、指令室の床の当たりを直撃した。


 重爆レーザー砲の放射網を受けた指令室の瞬時に細かい亀裂が入るや否や床はバラバラに砕け、指令室に居た武装兵は五メートル下の操舵室へ、土砂崩れするように落ちた。

 重力を床にかけていたことが仇となり、操舵室は瓦礫で埋め尽くされ、歩兵どもは瓦礫と機械に挟まれ身動きできなくなてしまった。


 ふーっとため息をつくアリサは、不機嫌な顔が緩まなかった。


 いつもなら、重爆レーザー砲の乱射後は『ふー、スッキリ快感!』と上機嫌で叫ぶのだが、ゴメスに屈辱的な嘲りを受け、コケにされた後では、そうもいかなかった。


『タンク、いったん重力切って、こいつらをブロブで固めて、船に積み込んどいて。あと、外に浮いてる連中も』


 アリサは、大物は逃がしたが飯代の賞金首は、しっかりいただくことだけは忘れなかった。彼女は戦利品の回収も怠らない。自分の船に使えるもの、転売して金になるものをグレッグに調べさせ、整理させる。


 取れるモノは、はした金まで、根こそぎ取っていく。それが彼女の流儀なのだ。

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