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星屑のリング  作者: 星歩人
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第四章 すばらしき仲間たち 第五話 彼方から七 私はグラッグ

 私が私だと認識したのはいつだっただろうか。


 最初の私は手も足も頭も胴体も無かった。ビリっとしびれるような小さな感覚が走り、嫌な感じを覚えた。


 からだが何か吸い込んだり、何もいないでいると、不思議と気持ちいいという感覚覚えた。もちろん、当時の私は、不快も気持ちいいもわからなかったが、今思うとそういう感覚だったと思えてしまう。


 その当時のわたしには時間の感覚はまるでなかった。それでも退屈とは感じなかった。なぜならば周囲の刺激にたいして否が応でも対応せねば、自分の実態が分解されそうだったからだった。


 私はある時、目と耳を同時に設けるようになった。目と言っても今のようなものの形がはっきりわかるのではなく、光や物体が移動しているのが分かるくらいのものだった。そして、耳も今のものとは異なり振動のようなものを感じ取っていた。


 そして、私以外の存在を初めて認識したとき、私は私というものになった。


 あなたは、誰ですか?


 そう聞いた訳ではなかったが、彼とは何度も認識のズレを合わせて行く作業を行うようになっていた。


 そして、認識が合うと、明るく暖かく心地良くなり、合わないと、寒く、不快な感覚を覚えた。そうした果てのないやり取りがいくつも行われたある時だった。


 私は、タクミ。君はグラッグ。


 ワタシ、は、タクミ。キミはグラッグ。


 いやいや、キミ、キ、ミ、が、グラッグだ。ワタシがタクミだ。


 キミがグラッグ。


 いや、自分を言うときは、ワタシだ。


 こんな自己を認識するやり取りをああでもない、こうでもないとやりあっていた。


 やがて、私は言葉を覚えた。タクミが作ってくれた装置で、初めて私は話をしたのだ。耳も聞こえるようになり、目はモノを見ることができるようになっていた。


 ものの形を認識出来るようになった私は、知識を得ることに喜びを感じ、タクミは、私が知識を得やすいよう、様々な工夫を凝らして、それを実現してくれた。


 とりわけ、私は本が好きになった。それは火をつければ燃えて灰になり、濡れれば柔らかくなっていまい原型を留められなくなるほどもろい記録手段なのだが、映像で得る以上に頭を豊かにしてくれたのだ。

 実際には無い話でも想像力を掻き立てられ、泣き、笑い、怒り、悔しがったりさせられた。

 タクミは私の知的好奇心を鍛えるためにボードゲームも教えてくれた。確かにこれは、本と同じくらいに面白かったが、やはり、私は本の方が好きだった。


 私は本の内容について、ことあるごとにタクミと討議をした。一ヶ月、研究所にこもって、数式を解いたことが何百回とあった。ときには口論となり、感情をむき出しにして、罵りあうこともあった。最初は、タクミに言い負かされてばかりだったが、次第にタクミを言い負かすようにもなった。そんな生意気な私に、タクミは怒りもせず、「お前はすごいやつだ」と言ってくれた。


 そして、月日は流れ、私は小さなタケルを目にした。遺伝子情報はタクミと類似しているが、身長が低く、声も発声が良くない様子だ。


 すぐに私は知識を得て、それはタクミの子供だと理解した。タクミはつがいと生殖行為を行い、自分たちのコピーを作ったのだ。タクミたちはせいぜい、百五十年で命が尽きてしまう生き物で、次に生まれてくる子孫の反映を促したり、自身の研究を未来に完成させてもらうためなのだ。


 そこからどのくらいの年月がたったかは、今でも正確に覚えている。八十年と二百日と十五秒だった。


 私に私を認識させ、言葉を教えてくれた人物、タクミの黒髪はすっかり白くなっていた。体中に皺が目立ち、そうだ、彼は年をとったのだ。


 一方、私は年はとっていなかった。私の細胞は古いものを捨て常に新しく再生している。

 タクミはこれでも宇宙開拓に乗り出した頃の太古の人類よりは、若さを維持しながら寿命を伸ばし、体中にガタが来る前に天寿を全う出来るようになったのだと、以前、説明してくれた。宇宙開拓に乗り出す以前の人類は生まれて五、六十年で体の至るところに老化の影響が出始め、八十年もすれば、いや八十年も生きれない者も多くいたのだ。


 私はふと気になった。そして、こう言った。


「タクミ、あなたは間もなく、死ぬのですか?」


 タクミは、軽くうなずいて、「ああ、そうだ」と答えた。


 そして、その日を境にタクミを見ることは無かった。


 タクミの子供のシオンは、最初の頃こそ私に興味を示し、将棋や囲碁の相手をしたが、次第に勝てなくなると、不機嫌になり、しまいには癇癪を起こし、私とのインターフェイスを切ることが多くなった。


 やがて、彼は私への興味は失せ、私を無視するようになった。

 研究所での私は、地位があった。若い研究員の研究成果に助言をするなど、研究チームのリーダーとして振る舞うようになったが、それにもシオンの恨みをかった。シオンよりも先に、論文を提出し、数々の科学賞を受賞したからだった。


 シオンはついに頭に来て、私を科学研究学会から永久除名した。私は居場所を失った。


 それから間もなく、私は人工冬眠させられることになった。事前に何の相談も無かった。

 

 シオンは、感情取り去った冷たい口調で私に言った。

「いつか遠い未来のグレン家の子孫なら一人か、二人くらいはお前に興味を示す変わり者がいるだろう。その時までしばし眠れ。

 お前が次に目覚める頃、多分俺はこの世に居ない。お前は最初、友達だったが、今では目の上のたんこぶだ。親父はなぜ、お前を生み出したのか、遺言にすら書き残さなかった。

 お前をよろしくとだけ書いてあった。冗談じゃない。お前は化物だ。お前が居ては、俺と俺の家族の将来が危ぶまれる。お前がした俺への侮辱は許さない。もう、これきりだ。消滅させないのが唯一の心遣いだ。元気にやれ」



 手足の無い私には、なすすべはなく、水槽に壁を作られ真っ暗闇に放り込まれたのもつかの間、意識が朦朧となり始め、やがて真っ白な世界へと引き込まれて行った。

 急速に意識が薄れる中で、私は音なき声を張り上げた!


 タクミ、私を生んでくれて、ありがとう!

 私にも来世というものが、あるなら、もう一度、キミに会いたい!

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