第四章 すばらしき仲間たち 第五話 彼方から三 新たなる生活
「これが草食竜の干し肉、そっちがオレンジ色の巨大花の種から搾りとった香味オイルとマーガリンな。作り方はとっても簡単だ干し肉はこぶし台の大きさに切り裂いて、塩や香辛料をまぶして洞窟で日陰干しにする。香味オイルはこっちの万力みたいな機械で種を潰してオイルを絞り出すんだ。マーガリンはそのオイルを練りこんで凝固させる。
そして、この房状に重なったウィンナーみたいな奴が洞窟の天井の巣から取り出した巨大昆虫の幼虫の燻製だな・・・」
「デッド、子供たちへの説明はいいんだけど、あんたまさかここに住むつもりじゃ無いでしょうね?」
鬼嫁のような口調で、カレンはデッドに突っ込みをかけるが、デッドは怖じ気づくこともなく、飄々と子供たちに食材の加工方法について語って聞かせている。
「まあ、ここへ来てかれこれ三週間だがあと数日で助けが来る見込みもなさそうだし、そうなるとまずは現地調達で生活基盤を作っておかねえといざという時に困るだろう」
「何が困るのよ」
「何もないところに若い男と女がいたら、寂しさも相まって燃え上がってさ、ガキが出来ちまうこともあろうさ」
「それはお姉ちゃんとセルゲイのこと?」
「イヤイヤ、俺とカレンだったり、マキナだったりってこともありうるじゃないか」
「あんた、あたし達を襲う気!」
「襲うなんて俺をケダモノ扱いするなよなあ! 当然、夜空を見ながら星のロマンスを語ってから合体に移るさ!」
テッドはにやけた顔で碧の目を潤ませてカレンを見つめた。見慣れているはずなのにカレンはキュンとしてしまう。だがテッドの言葉は100パーセント真面目ではなかった。『合体する』というデリカシーの無い言葉にカレンは、怒りをおぼえ、握った拳をテッドの顎目掛けつき上げた。
だが、テッドは紙一重で交わす。ウルスラなら殴らせるが、カレンの重いパンチは受けるにはキツイと分かっているからだ。カレンは当てるまで食い下がらない性格なので、執拗に拳をぶん回す。
「こらあ、避けるな!」
今までは割りと当たってくれていたテッドだったが、カレンにはそろそろ大人の、しかもレディとしての扱いをしないといけないといけないと考えているのだ。
テッドはカレンのパンチを寸前で交わし拳を伸び切ったところで腰に手をまわし抱き寄せてキスをしようか迷ったが、まだ早いと口先を引っ込めしゃがみ際に胸をひと揉みして子どもたちの元へ戻るのだった。
テッドはやんやと子どもたちの声援を受け、決めポーズをする。カレンは、その光景を苦虫を噛み潰した顔をして見つめた。
そんなカレンの様子を、ウルスラはショットの原酒の植物の実から蒸留したお酒を煽りながら、楽しく様子を伺っている。セルゲイはというと、周囲の木や植物の葉を集めて、家作りに勤しんでいる。砂上船での研修が彼の眠れる家系の血を甦らせたのだろうと思えた。
マキナは、ローラと船の修理とエネルギーの備蓄を行っている。太陽電池は半分が破損し、修復不可能な状態だった。
エンジンの一部も破損し、その交換部品は無いときている。だが、複雑な部品ではないし、幸いなことに船体に破損は見当たらない。そこで、デッドとマキナは、合金を精製して、部品を製造しようと言い出した。合金なぞ作らなくてもシャトルと一緒にもがれた宇宙船の船体があるのだが、その分量を溶かす程大きな設備は無いのだ。それでも原始人から一気に超文明の現代人へ進化しようと言うのだから、なんともハチャメチャな話だ。だが、こいつならやる。と、いうかいつもやってることなんだから頼りにしていいとウルスラは何の不安も無かった。
彼女が気がかりなのは、アダムのことだった。アダムは事故のショックで大量の電磁波を体に受け、冬眠状態にあるのだ。それは丁度、マキナがデュナンの砂漠で生き倒れコクーン化したように、全身が泡のようなもので覆われてしまったのだ。死んではいないが、いつ目覚めるかはわからなかった。アダムが目覚めれば今の難局はハイピッチで解決できる筈なのだ。
当のウルスラは、使える機材と衛星軌道上を周回している宇宙船のブースターを使って、SOSの打診を試みてはいるが、付近を航行する船舶の無線は微かにしか拾えず、とても彼らを誘導することは不可能だった。自動索適するにはパワー不足で、経験と勘を頼りにポイント範囲を絞って通信相手を探すのだから非効率この上無い。それらしく応答できる相手はいるのだが、信号の解析結果が海賊や密輸業者の類いだと出るのでは利用するにはリスクが多い相手だった。生身の喧嘩なら負ける気はしないが、辺境地に非武装で降り立つ奴らなど居はしない。こちらは小さな子供もいるのだし、状況的に不利である。だが、万策尽きた時は、こういった連中を相手にしなければいけないことも考慮すべきと肝に銘じることにした。
唯一の頼みの綱は、イヴである。彼女とアダムの繋がりが、奇跡を起こす筈なのだ。だが、イヴはビッグスペンダー号にいる。ビッグスペンダー号とは通信途絶して1週間以上経っているのだ。マキナの誘拐に成功し、衛星軌道上で待機中のビッグスペンダー号に今や発着しようかという時、突如として発生した時空の歪みに吸い込まれてしまったのだ。
ビッグスペンダー号に近付くに連れて次元の歪や空間電磁波の量が異常値を示すことがあったが、発生源は遠方であったので気に留めなかったが、それが一瞬にして移動しシャトルの進行方向に現れたのだ。逃げるすべもなく、ウルスラたちはシャトルもろとも飲み込まれた。
不思議なことにビッグスペンダー号の格納庫にいたはずのテッドたちも同時に飲み込まれ、この未開の惑星の地に降り立っていたのだ。周囲の残骸から格納庫と歓迎会を催すはずだった大広間と厨房の一部がごっそりと抜けており、そこにテッドたちがへばりついていたのだった。
ビッグスペンダー号も腹の一部をもがれて、ただでは済まない状況は察するにあまりあるも格納庫の位置ならば燃料庫や武器庫、動力炉、機関室、そして、バッカス家別室には影響はないし。区画ごとに隔壁があるので、乗員が船外へ放り出される心配は十中八九無い筈なのだ。
いったい何が原因だったのか? 時空が裂けたり歪むなど通常航行中の宇宙船のエネルギー程度で引き起こせるものではないはずだ。そうなると、ランデブーポイントの周辺にもともと存在していて、シャトルと宇宙船の間に生じたエネルギーフィールドが影響したという仮説もなりたたなくは無いが、本当に偶然に起きたこととは、ウルスラにはとうてい信じられなかった。
でも、気になるものが無い訳では無かった。それはアダムとイヴと名付けられた謎の人工生命体だ。当初は、グレン社が開発したビッグスペンダー号のマザーコンピュータの生体端末と思われていたのだが違っていた。今から三百年近く前に、グレン社が人工の回遊惑星で発掘した古代生命体だったのだ。大きさはスクランブルシュートの楕円ボール並の大きさで、幅は60センチ程度、重量は500グラム程度の未知の金属物質だった。それが生命体と分かったのは五十年ほど前で、マキナの曾祖父、タケルが研究を始めてから急速に解析が進んだのらしい。
グレン社は800年も続く大財閥にして、大企業である。それが300年前の叡智を結集しても発掘した物体がオーバーテクノロジー的な何かとしかわからなかった。高硬度の結晶石カッターや超電子カッターを使っても表面に傷のひとつもつけることが出来ず、エックス線も通さないそれは、当時の科学者たちを悩ませた。科学者たちは攻めあぐんだあげく、それを研究所の倉庫の片隅に放置してしまった。
マキナの曾祖父タケルはどうやってその物体を見つけたのか?
研究者となったマキナは疑問に思い、曾祖父を知る研究者から話を聞こうとしたが、これというきっかけは聞き出せなかった。アダムとイヴの製造過程を見てきたマキナは、ミクロの核をタンパク質やアミノ酸で合成された生態培養液に入れて成長させているのを確認している。アダムとイヴと呼ばれる生態端末と同型のものは、数百あるということだが、今のところまともに起動したのは、カレンとウルスラが所有するアダムとイヴだけなのだ。他は、環境が合わないのか、人のように成長する前にコクーン化するか、分解して、核だけに戻ってしまっているのだ。
現在、アダムは事故のショックで巨大なコクーン(繭)と化し、まったく動かないのだ。
「アダム・・・・・・」
ウルスラはコクーン化した外皮を触るがそれは温かみの無い無機質の岩のようだった。
「お願い、蘇って、」




