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星屑のリング  作者: 星歩人
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第四章 すばらしき仲間たち 第五話 彼方から二 ウルスラの計画

 話は二週間前にさかのぼる。


 テッドの船長三期目の乗船に合わせて、セルゲイとの結婚を控えたウルスラは、アダムとイヴの力を借りて、例のマキナ略奪計画を実行に移していた。

 ウルスラは、よもや自分が十八を迎えて結婚するとは思って居なかった。家事は苦手では無いが、およそ自分が家庭的な人種であるとはとうてい思えなかったからだ。

 しかも、好きになった男は、年中ぼさぼさで、寝癖か天然かわからない鳥の巣のような焦げ茶頭で、黒ぶちの厚い眼鏡をかけ、よれよれのコートを纏ったオタクのような風貌だから笑う他なかった。ただ、それは外見だけの話で、目は良すぎるほどよく、眼鏡はその能力を普通に抑える為の補整具に過ぎず、テッドの甥であるのも頷ける程の運動神経と体力の持ち主だった。


 しかも、彼の姉は、学生時代の親友ともいうべき人物で、その母親は運びや業界でも一、二を争う実力者、ハルカ・カナタ、もといタチアナ・シュタットガルトと来ている。その片腕のミライ・エイゴウが、容姿と素性を隠したテッドの妹、マリア・グラーノフなのだからまたまた笑える。髪をゴールドブロンズから黒に変え、瞳は碧からブラウンにして、肌を多少色白にしただけだが、言葉使いと性格がまったく違うため、セルゲイはまんまと、五年間も騙され続けているのだと聞いて、ウルスラはおかしくてしょうがなかった。


 ウルスラには、ミライとしてのマリアは、演じているようにしか見えないのだ。もっともセルゲイにとって、マリアは叔母とはいっても、同年齢の女の子にしか映らなかった。破天荒なマリアの性格が幼い頃からとても苦手だった。身内となれば、何の遠慮も無い。裸同然の姿で家の中を歩き回るし、気味の悪い昆虫や爬虫類も素手でつかんでしまう。おまけに、喧嘩も強く、少々の町のゴロツキも相手では無かったのだ。

 だから、彼女が近寄ろうものなら、部屋の角まで遠ざかっていったという話だが、ミライであるマリアはそのオーラをそのものを見事に消し去っているため、セルゲイは気付きようが無いのだ。そういう鈍いところも含めて、ウルスラはセルゲイに首ったけになってしまっているのだから、自分でも不思議なのだ。


 初めて会ったのは、中等部の学生という随分と大昔だったが、その時は、全く意識の外だった。そして、後に大波乱を巻き起こすきっかけとなった、極秘運送依頼ネットへの穴開け介入時に手伝う形で、約一ヶ月近く一緒に作業をしたときも、ダサいメガネおたく程度の認識でしか無かった。

 だが、話はなぜか意外に合うところがあり、結構面白い奴程度に昇格していたが、セルゲイの誘いは全て断っていた。嫌いとかそういうことではなく、単に面倒くさかったのだ。存外、セルゲイが誘う場所は、有名なリゾート地や美しい眺望のレストランといたセレブのデート情報などではなく、隠れた名工の工場(こうば)といった、所謂、職人的な業師の仕事場巡りだったりするので、呆れると同時に苦笑もし、その情報に興味さえ覚えていた。

 だが、セルゲイも何故だかウルスラにこの上ない魅力を感じ、OKがもらえるまで意地でも頑張って誘いをやめなかった。

 ウルスラは、あの惑星デュナンでのひと騒動の時、セルゲイのデートの申し出を受けようと思ったのは、彼女の祖母の家の農業研修があったからだった。

 知るひとぞ知るこんな情報までどうやって調べて来たのかと彼女は、思ったが、なんとなく目星はついてしまった。おそらく、テッドの関係者、たぶん、マルコかジュリアーノあたりからの口コミ情報かなんかなのだろうと。

 そのおかげで、言いたがらない父親に聞かずとも祖母の居場所までつきとめられたのだ。それがあって、彼の申し出を受ける気になったのだから、運命とは不思議な縁で結ばれているものだとつくづく思わされたのだった。


「ウルスラさん、マキナさんの自宅周囲のセキュリティシステムは、意外と手薄ですよ。一直線で人ひとり分の空間が十秒も開けることが出来ます。これなら瞬間移動カプセルで射出して、空中でエアブレーキをかけて受け止めれば簡単ですよ!」

 アダムは嬉しそうにモニタのシミレーションを見ながら言った。その様子はまるで、小さな男の子が楽しい玩具で遊んでいるようなはしゃぎぷりだった。

「それは、すごい発見ね。でも、周囲に飛行体とかいたら、当たらなくてもかすめるだけでも危険だから、安全な時間帯とかをきちんと割り出してちょうだい」

「イェス、マム!」アダムはどこで覚えたのか、右手を右の額に当てて軽く敬礼をすると、コンピューターをせわしくいじりだした。


 ウルスラは、最近、アダムがマキナを“ママ“と呼ばず、“マキナさん“と呼ぶようになったことに気づいていた。顔つや声も、以前よりも男性っぽくなってきている。いや、男性っぽいは言い過ぎだ。男の子ぽいというのが正確だろう。これは、新しい進化なのか。

 同じような変化はイヴも見られた。心なしか体型が、女性、いや女の子のように心なしか凹凸のある丸みをおびてきていると感じたのだ。そして、アダムはイヴを、イヴはアダムをなんとなく意識しているかのようにも見えた。

 彼らは、本当に人工生命体なのだろうか。人類の叡智、仙人級とか言われる頭脳が結集したら、神、いや万物の創造主のようなことが、ちっぽけな部屋の片隅でなせたとは、科学者の端くれでもあるウルスラには、信じられなかった。

 確かに彼らは、人類とは異なる有機体ではある。そもそもコンピューターと意志疎通できる時点で生物を越えているのだから。だが、彼らは、呼吸をし、食事もとり、わずかではあるが排泄もしている。発汗や皮膚呼吸でそれをしているようだ。


 ウルスラは、そういうアダムの成長を気味悪がることもなく、むしろ母親的目線で嬉しく見つめていた。

 そして、この船ご自慢のハーブティーをそっとすすりながら、空間に展開されたエアモニタに映るウェディングドレスのカタログやら、式場のパンフレットに目を通すのだった。

 ウルスラは、さっきから視界の隅っこに膨れ面のカレンがモニタの先のカメラのレンズに顔をよせてなにやら怒鳴っているのが気になっていた。もちろん、音声は切ってあるので、彼女が何を叫んでいるのか想像だに出来なかった。

 無視するのも可哀想なので、おそるおそるも、楽しげに、ゆっくりと音声モニタのスイッチを入れた。

 

「お姉ちゃん、艦内の電力が著しく低下してるわよ!アダムにまた何かやらせてるでしょう。ほんとに、まったく、もう!

 艦内温度が十度も下がって、居住区でもブレイカーが飛びまくりよ!」

 ウルスラは相変わらずのカレンの迫力のクレマーぶりに苦笑した。

「アダム、そろそろお開きにしましょう。でないと、カレンが夕食抜きだとか言い出すわよ」

「それは、いけません。クレアさんの食事を抜かれると、憂鬱になってしまいますから」

 アダムは、空間に開いていたエアモニタウィンドウを全て閉じ、動力回路からのバイパスを切り、船の制御を定常状態に戻した。

「戻しました!」

「ご苦労さま、残りはわたしの部屋でしましょう。そのとは夕食ね。

 今日の夕食は、砂虫のヒレシチューらしいわよ」

「それは、楽しみです。また、マリアさまがお届けになったのですね」

「そう、あの人、普段はぽわんとしてて、何考えてるか分からないようにしてるけど、意外とキレ者で、情に厚いんだよね。んふ」

 ウルスラは頬杖をついて含み笑いをする。

「マリアさまは、お苦手では無かったのですか?」

 アダムはおそらく、ウルスラの心境の変化というのを認識しているようだ。

「最近になって、ちょっと見直したかな?あなたとの信頼関係も、影響してるかもね」

「それでは、参りましょうか、ウルスラお嬢様」

 ウルスラは、さっとさしのばされたアダムの手先を軽く掴むと、立ち上がって一礼し、手をつないでラボを出た。

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