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星屑のリング  作者: 星歩人
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第四章 すばらしき仲間たち 第二話 宇宙料理兄弟

 その男は少々奇妙だった。大量の紫外線と宇宙線が降り注ぎ、灼熱の大地の岩地にあいたささやかな平原の一角にレストランを開いていた。店の名前は、『ご当地料理』だった。

 店の前には、インプットとなる食材とアウトプットとなる料理の写真が電光板に掲げてある。電光板は店のなかに置いてあり、店は人工的に作り出した濃い霧で遮蔽されその下に透明な結晶石の板が覆っていた。店の脇にはいくつかコンテナがあり、店への入り口と、調理場があるようだ。


 使用できる通貨は惑星連合統一通貨ステラだが、珍しい食材との物々交換もありときた。ステラとのレート表も電光板に書いてあった。この星のガキでも簡単に捕まえられる岩トカゲや岩ネズミだと、百匹は捕えて来ないと一番安いスープも飲めない。もちろん、生きたままでは交換価値は無い。切り身にして、熟成させるか、乾燥させるか、瞬時冷凍するか、加工していることが前提である。ソーセージや、ハムにしてもいいが添加物が多いとこれもまた交換価値は無い。


 その店を経営する男は、まだ、三十にも満たない少々イケメンの優男(やさおとこ)だった。名はジュリアーノ、彼は経営者兼チーフシェフでもある。従業員は同じくシェフで、彼の弟のマルコだった。マルコは少々小柄でおっとりした風貌の青年だ。兄のジュリアーノは、主に爬虫類系の肉料理を得意としたが、弟は、見た目もぞっとするような昆虫系の料理を得意とした。


 彼らの父は、ここ砂の海の惑星デュナンの首都オアシスゼロで、この星に観光で訪れるセレブを相手に高級レストランを経営しているが、数年前までは、この星でも一二を争う砂虫漁船の専属シェフを勤めていたのだ。その息子たちの二人も子供のころに何度かは乗船させてもらい、厨房の素晴らしさと食材の豊富さには感嘆したらしい。そして、彼らの父は夢を果たしたいと数年前に船長に申し出、代わりに長男を入れると申し出た。しかし、息子であるジュリアーノは、そのことに納得いかなかった。親が専属だったから、そのまま入れ替わりというのでは、彼の料理人としてのプライドが許さなかったのだ。

 そこで、一旦、辞退をし、その代替えには、父親の店から交代で弟子のシェフがあたることととなった。専属が欲しい場合は、募集を出して、直接腕を見て、船長がじきじきに話をして、気に入ったあかつきに入れればいいとした。自分が募集に応募しなければ、自信がなく、合格しなければ、腕がないということなのだ。専属シェフは乗組員の日々の食事だけでなく、来客、ことに政府の高官や、財界のセレブたちの肥えた舌を唸らせるのだから、あたって砕けろのよう場当たり的な心持ちでは当たれないものなのだ。

 そして、その募集は既にあり、彼は、応募した。審査官は抜き打ちでやって来るので、果たして誰がそうなのかは分からない。審査シェフが選んだプロの料理人四名と、雇い主の一名の判定が三以上で決まるのだ。セレブク相手に料理を出す場合は、これを満たしたシェフで無いと採用できないが、審査シェフ二名の推薦と雇い主の了承でも採用でき、ジュリアーノのマルコはこれに該当していたのだった。


 客は予約を入れて来る者もいれば、地元の漁師のように獲物を持ってふらりと現れる者もいた。場所が場所なので、金持ち連中は大体は垂直離着陸できるVTOLジェットバスに乗って七、八人で訪れるが、中には砂漠服を着たツアー客が訪れることもある。もちろん全員セレブだ。

 別料金になるが、このレストランにはちょっとした宿泊施設も用意してあり、蒼い月を眺めながらのディナーや、朝日を見ながらのモーニングも楽しめるのだ。

 場所が場所なので、満員になることなどまず無い。毎月の前半しか店はやっていないが彼らはそこに居住しているので、金さえ払えば、食事はさせてもらえ、宿泊もできる。値段は最低でも、都会で一般の四人家族(親のどちらかが働き、子供二人は学生)一ヶ月衣食住する生活費に相当するので、一般人には無理である。

 それだけの額をもらうので、客とのトラブルは店、もしくは自分をも潰しかねないので、常に冷静な対応と心からのもてなしが必要なのだ。


「よう旦那、久しぶり!」

 愛想のよい笑顔でジュリアーノは、岩場から軽装のパーカーのついた登山服で、岩場から登ってきた若者に親しげに声をかけた。もちろん、外からではない。透明な結晶石の板の壁の内側からである。

 砂漠服を着ていないことから察して、その若者は地元の先住移民の子孫だとわかる。だが、そこそこ高台にあるため、少々息が上がっており、呼吸を整える必要があった。若者は口許を緩ませ、白い歯をのぞかせ、すぐ脇の入り口に入ると背負ってきた荷を下ろした。

 着てきた服は下着を含めて脱衣かごに入れてクリーニング行きとなる。代わりに店内服を着て、リュックに入れてきた食材ケースだけを取りだしトレーに入れた。

「旦那、今日はどんなものがあるんだい、いつも持ってきてくれる砂虫のひれ肉は上質で、一番人気メニューだぜ。あんだけの大きさ取れるってことは、相当な大物なんだろうな。

 俺、ガキの時、親父がさ、砂虫漁の砂上船の専属シェフやっててさ、砂虫漁をたまたま乗船した日に見たんだけどさ、あれスゲーデカイんだな。でもそいつの急所ってのが、退化した胸ひれの付け根にあるらしくって、腕のいい銛師でないと射てないつーから、あんたきっと砂虫漁師の家族なんだね。さしづめ、次期若頭ってとこかな」

 青年はにやりと笑って、ケースを開けて見せた。ケースの中には半透明で少々嗄れた厚めのシートが何枚も重ねられていた。


「なんだい、これは?」

 青年は手術用の薄い手袋をはめ、その内の一枚を取りだした。次にまな板を取り出して、鋭いブレードで柵状にして、その一片をジュリアーノに差し出した。食えということなのだろう。ジュリアーノは、その柵状のものを口に運び噛んだ。最初は、味はこれといってなかったが、噛み締める程に海の味がしてきた。クニュっとした食感も良かった。

「旦那これ、いいな。煮込んでも型崩れしないだろこれ」

「ああ、型崩れはしない。あんたの岩トカゲのコンソメスープにもあうぜ」

「なんなんだこれ、まさか、深海魚の類いか?」

「惜しい、近いが、海月(くらげ)と植物の中間の生き物だな。凄い光を放つ生き物でな、でも、外気にさらすと一分と生きちゃいないんでな。そうなると、体組織もどろどろになってすぐに死じまう」

「それじゃ、どうやって作ったんだ」

「深海で回游してるそいつらを潜水艇のロボットアームで透明結晶板に挟みこんで、瞬間冷凍して内層の皮だけを剥いで、瞬間乾燥させたのさ」

「そいつは、たまげた。セレブ連中ならこれにもいい値をつけてくれるだろうな、砂の海の底に潜る奴等なんてそうそういねーから、乱獲もねーだろうしな。

 よし、これだけでフルコース食わせてやるよ。他は買い取りだ、あとは何があるんだい」

 青年は二段目のケースを取りだした。二段目のケースは少しばかり底が深くなっていた。中には海老とも昆虫ともつかないものが元気よく泳いでいた。

「旦那、生きたままは、ダメだよ。日持ちしないから」

「いや、こいつらならこの水槽の中でなら三ヶ月は大丈夫だ。こいつを高圧蒸気で揚げてやると香ばしくて、このまま食えるんだ」

「これ、海水じゃなさそうだな。臓物のような臭いがするな」

「ああ、砂虫の内蔵を擂り潰して遠心分離させた体液さ」

「と、いうことはこいつらは砂虫の寄生虫か?」

「ああ、そうだ。虫ならお前の弟が詳しいだろ。弟を呼べよ」

「あいにく、弟は野菜の買い出し中だ。近所に無農薬野菜を栽培しているご老女がいてな、そこの野菜が最高にうまいのさ。野菜ですら、生で食っても甘味があるのさ。

 買ってくるだけならすぐなんだが、ご老女は独り暮らしでな、旦那も子供もいるんだけど、なかなか寄り付かないから話し相手になってるのさ、だが、帰ってきたらあいつ興奮するだろうな、砂虫の寄生虫なんて体組織が変化するとこいつらも死んでしまうんでな、生きたままを見れるだけでも価値は高いさ。十万、いや百万ステラぐらいかな」

「いや、これはプレゼントだ。今夜、ディナーに来る連中にでも食わしてやってくれ」

「そうか、すまんな。食事には二時間ほどかかるから、それまで展望ラウンジでくつろいでくれ、酒もあるがほどほどにしてくれよ、おれのメシもきちんと楽しんでくれないとな」

 そう言ってジュリアーノは、客の照合ブレスレットを青年に手渡すと食材を持って厨房へ駆け込んだ。青年は、エレベーターで四階相当の展望ラウンジへと向かう。ブレスレットで場所をキープし、リクライニングでくつろぐ。しばらくすると、若い女性たちが表れ、馬乗りになるなど、男女の交わり行為をはじめてしまう。彼女たちも、店の常連客で、この青年とはいい仲のようだ。


 食事の時間になると、この青年は、先程の女性たちをエスコートして表れ、会食を始める。そこにはようやく、弟のマルコも表れ、例の食材を見て興奮した。

「うお、兄貴これは、砂虫の内臓脂肪を栄養源にする寄生虫じゃないか、生きた本物見れるなんて、ラッキーだよ」

 マルコは高圧水蒸気炉に寄生虫のひとつを刺し、瞬時に揚げ、口に放りこんだ。外側はかりかり、中身は半生の食感となんとも言えない味覚のアンサンブルに身を悶えさせてしまう。

「旦那、これ旨いとか単純に言うレベルじゃ無いです。旨すぎます。見た目は最低ですが、味は格別です!」

 青年は、少々、弟マルコの暑苦しさが苦手のようだが、ことのほか喜んでくれたことには、嬉しい様子のようだ。


 昼過ぎに始まった宴も夕刻には終焉を迎えた。赤い夕日が周囲を真っ赤に染め上げる光景はなんとも心を洗われる思いがする。このときばかりは、シェフもお客もじーっと夕日が地平線に沈むまで見いってしまう。

 夕日が地平線に沈むと、皆は静に、お酒を楽しみ始める。青年も、酒を飲む。ウィスキーのボトルを三本ほどあけて、ほろ酔い加減になると、青年は、指をパチリと鳴らして、シェフを呼びつけた。

「やっぱり、お前は最高だ。採用だ。一ヶ月後に、この下の漁港に砂上船が停泊するからそれに乗り込め。弟も連れてな。食材は運んでやる。それとこれは通信機だ、船の位置も図れ、通信もできる」

 青年は懐から出した通信機を見せた。そして、シェフの右手を掴み、画面に親指を当てさせた。通信機が『セットアップ完了』と言うと、青年は通信機をシェフに握らせた。

「店はおまえの親父の弟子が継続してくれるそうだから、店はたたまなくていい。休みもやるから、たまには戻ってしごいてやれ」

「旦那、あんた、まさか?」


「お前さ、雇い主の顔くらい覚えておけよ、俺は、テッド・グラーノフ。砂虫漁最高の砂上船、サンドクロール号の船長さ!」

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