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星屑のリング  作者: 星歩人
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第一章 出逢い 第二話 目覚めたら悪夢

 あたしは、青い月の沙漠の上を優雅に船で旅をしていた。


 目の前には緑色の澄んだ目をした男性がいる。


 彼は船を漕ぐ、その船は空を飛んでいて、優雅にゆっくりと飛んでいる。


 夜空には妖しく青く光る月を、青い月を....。


 青い月は目の前にあった。そうだ、ここは青い月の惑星、砂の海の惑星だった。


 あたしは、悲鳴にも似た小さな耳鳴りを感じふと目が覚めた。


 何時間寝ていたかは不明だが、部屋の中にある天儀時計が示すには夜明まで、まだ何時間もあるのだろうと予測した。

 ただこの天儀時計はこれまでおよそ見たことがなかった。デザインは古めかしく、かなり大きなものだからだ。少なくとも百年以上は前の技術で作られたものに思えた。


 図鑑でしか見たことがなかった針が時刻を示すのに使用されているのには驚いた。文字盤の中にいくつか小さな別の単位の時計が入っていた。

 きっとどれかは季節や気圧、気候を表したりするのだろうか。使用されている記号や数字が見慣れないため、何を示しているかはわからなかった。


 あたしを夢から覚ました小さな耳鳴りは、最悪の状況下で泣き苦しむ家族の声だった。もちろんそれは幻聴だ。シェルターの中は、まだそんなに酷い状況ではないのだ。


 焦るな、うろたえるなと心に暗示をかけてもすぐに、無意識のうちに体や意識が緊張してしまう。

 こんなことでは、任務はとうてい全うできない。こうなるのもわたしが未熟なせいなのだ。人は心に不安を持つだけで自ら力を失ってしまう。

 しなくていい心配をして心を弱くしてしまう。科学技術は発達しても、人類の精神は何千年立とうともちっとも進歩していない。

 

 眠りにつけなくなったあたしは、この砂の海の惑星に一人で来なければならなくなったいきさつを思い出すことにした。


 あたしの故郷、アクアリア星は、水と緑で覆われた、あたしたちの銀河では一番自然が残っている美しい星だ。あたしの祖先は所謂、宇宙開拓移民の末裔だった。母なる地球を離れ数世紀に渡って宇宙の海原を航行し、人類が住める惑星を見つけては開拓する第何十だが、何百番目だかの一団の中にいたらしい。


 この星系に根を下ろしたあたしの祖先は、紅蓮くれない れんと言った。母や祖母に小さい頃からよく聞かされて来た紅蓮グレン家の始祖にあたる人なのだ。

 彼女は、みどりの黒髪を持った凜々しい女性だったと聞いている。彼女の傍らには常に頼りになる相棒がいた。名字は分からないが、イワンといい、宇宙のならず者たちをまとめる船の船長だった。

 この惑星デュナンに旅立つほんの一週間前、そう、あの惨事に見舞われるほんの少し前に、現グレン家当主である母が、何か突然に思い出したかのように、紅蓮の話をしてくれたのだ。


 蓮とイワンは宇宙開拓移民の孤児院で知り合った。どちらも、旅の途中で家族を失い、流れまわって孤児院暮らしとなっていた。


 二人が十五になった年に第九次惑星国家間戦争が起きた。二人は義勇軍に志願し、伴に戦場を駆け抜けた。指導力と人望のあった蓮は大尉まで昇進し、イワンは曹長として蓮の手足となり、何度も窮地を乗り越えた。


 そして、敵の本拠地、人工惑星要塞ギガントス攻略を前に戦争は終結した。お互いに家族のいなかった二人は、食べるために万屋よろづやを始め、旅から旅のあてどもない旅を繰り返していた。


 やがて、二人は偶然にも、稼業の為に使用していた星間貨物艇が不慮の事故で不時着した星で、その後の彼らの運命を変えるものと出会った。それはとてつもなく、巨大な船だった。

 年式こそ古かったが、しっかりした作りだったが、エンジンに損傷を受けていた。通常航行はできたが、亜光速以上の運転には耐えられない問題を抱えていた。


 船長をしていた男は、かつては英雄として、いくつもの戦場をかいくぐって来た伝説の戦士だった。

 蓮とイワンは戦場こそ違え、彼の噂は耳にしたことがあった。彼は戦士たちの中では伝説的存在だったのだ。


 軍隊時代は整備士も兼ねていたイワンは、その船の修理にあたった。船体に致命的な損傷がない事が幸いしたが、どれもが戦時代の技術であったため、技術の解析に多くの時間を要することとなった。

 惑星は辺境地とは言えど、人は住んでおり、町もあったので、蓮とイワンはよろづ屋稼業を続けながら生計をたて、修理を続けた。船が修理できなければ、蓮もイワンもこの星で生涯を送らなければならない。足掛け三年でどうにか修理を完了させ、その星を離れた。このとき、二人の間には男の子がいたという。


 戦士は、戦いの反省から私財をなげうって、戦争孤児や移民を入植者が少なく争いのない星へと送り届けていたらしいが、もうたいそうに年をとっていて、その仕事を続けるのは不可能となっていた。


 そこで、死ぬ前にもう一度だけ故郷を見たいと言ったという。二人はその戦士の最後の望みを叶えてやろうと、その航海につきあうこととなった。船長はイワンが務めた。二人は行く先々で、行商をしながら情報を集めて行った。


 戦士の船、テッド・グラーノフ三世号の航行記録は破損しており、彼の生まれ故郷の星の位置は記録に残って居なかった。


 二人は、彼の記憶を頼りに、ほうぼう回って探したらしい。その戦士の生まれ故郷こそ、アクアリアだったのだ。グラーノフ三世号はとても大きな船だったので、行く先々で乗員を雇い入れていった。

 いつしか、船の中は小さな町が出来ていた。五年の歳月を経て二人はようやく、年老いた戦士を生まれ故郷へ帰した。彼は旅の途中何度も死にかかったが、故郷の土を踏むまでは死ねないと歯を食いしばって、生き抜いて来た。


 戦士がついに故郷の星に降り立ったとき、ちょうど日没を迎えていた。


 木陰に腰をおろし、何十年かぶりの故郷の夕日を眺めた彼の目からはあふれんばかりの涙が、止めども無く流れ続けたのだという。

 彼は、「ただいま」とひとこと言って息をひきとった。


 既に親族は戦争で亡くなり、身寄りもない身の上だった。二人は彼の遺体を最後に息をひきとった場所に墓を作り弔った。戦士は自分にあこがれて若者が戦場に出たりしないよう、墓標には自分の通名や戦争の事は書くなと言い残したことを守った。


 やがて、蓮はこの星の美しさに惹かれ、旅先で知り合った仲間たちと伴にこの地に根を下ろすことにした。この星へ降り立つ一年前に、彼女は永年のイワンへの想いを伝え、結婚を申し込んだ。しかし、イワンは、その申し出だけは受け入れることができなかった。


 理由は、ハヤトという彼らの子供だった。


 ハヤトが五歳の頃に立ち寄った惑星で起きた内乱に巻き込まれ、非難中に離ればなれになっていたのだった。

 イワンはその責任が自分にあったとして、自分のような者は、蓮の夫にはふさわしくないと、その申し出を素直に受け取ることが出来なかったのだ。蓮は彼の心の扉を開くことはできなかった。


 結局、蓮は、この旅の船出の時に航海士として雇っていた男のプロポーズを受け結婚した。イワンは、大粒の涙を流して二人を祝福したという。戦士の星へ降り立って半年後、イワンは未開の惑星開拓の話を聞きつけ、自分の骨を埋める場所にその地を定めた。


 イワンの旅立ちの時、二人はいつか再会を誓って、壊れた宇宙船の廃部品と蓮が持っていた折れた刀で、不格好な合わせリングの首飾りを作った。


 我が一族では”星屑のリング”と呼んでいるが、それが正しい名前だったかどうかは定かではない。だが、あまりにも不格好だから、見ればきっと気付くに違いない。そう思っていたのかもしれない。


 蓮とイワンがその後、再び出会ったという記録はどこにも記されてなかった。少なくとも我が一族の書庫にはそれを示す記録の存在は確認されていない。なにせ、千年も昔の話なのだ。紅蓮はわたしたちのご先祖さまという以前にアクアリアにおける伝説の偉人なのだ。


 蓮が愛したアクアリアは本当に美しい星だったが、ここ百年の長きの間、政治が不安定で戦争が何度も起き、その度に自然が破壊され、今では自然の四十パーセント近くが修復のできない状況に陥っていた。

 あたしの家族と大部分の親族は企業経営の為、故郷を離れ最も裕福な人工惑星エデンに移り住んでいた。長年独裁者の圧政に耐えた反政府軍は、周辺惑星国家の協力をかりて政府軍を打ち破り、共和国を打ち立てた。新政府は惑星再生プロジェクトを打ち立て、グレン家もそのプロジェクトに参加することとなった。やがてプロジェクトは成果を生み、徐々に惑星再生が完了しつつあった。


 まもなく、故郷を離れていた人々も帰郷し、都市の再建にとりかかりはじめた矢先のことだった。地下に潜伏していた、旧政府軍が奇襲をかけ、新政府軍を転覆させようと反乱を起こしたのだ。しかし、既に力をなくしていた旧政府軍はまたたくまに鎮圧され、指導者は追い詰められた挙句、大量の土壌汚染物質を撒き散らしてしまった。


 これにより、あたしたちが再生させた植物はことごとく死滅していき、大気も汚染されてしまった。残された住民は、どうにか避難用のシェルターに避難した。あたしだけは、運良く、師匠と父の依頼で遠く故郷を離れ、惑星回復の秘薬とされる植物の球根を調査する為に、この砂の海の惑星デュナンに降り立っていたのだ。


 故郷の惨事をあたしが知ったのは、この星の首都であるオアシスゼロのホテルで、ルームサービスの夕食を取ろうとしていた時だった。


 緊急惑星間通信が、あたしの通信機に入ってきた。ことの重大さを知ったあたしは、すぐさま政府の特別回線で家族と話をすることができた。

 あたしは自分を呪った、どうしてあたしだけがここにいるのかと。シェルターの周囲は高濃度の有害毒素が蔓延し、完全密閉した救助活動が百パーセント行えなければ、避難民の安全が保証できないという状況だった。


 また。この有害毒素は金属を腐食させる成分も含まれていた。これでは救出作業中に故障してしまう可能性があった。

 あたしの探している惑星デュナンの砂の海に生息する植物は、有害毒素を吸収し、無害なガスとして吐き出す性質を持っていた。その植物は繁殖能力も高いため、シェルター周辺で生息させれば、毒素濃度を薄めることができさえすればどうにか救出の可能性も見えてくるというのだ。


 あたしの師匠はかつて探索中の植物を捕獲し、あたしの父と協力して有害毒素で汚染された惑星の土地を回復させた経験者でもあった。ただ、非常に希少な生物の為、この植物はその能力の一部を公にされていなかったのだ。


 この植物はDNPLT10010という認識コードはあるが名前は無かった。


 不運なことに、あたしはその植物を一度も見たことが無かった。


 知っているのは父と師匠だけ。秘密保持のため写真も、スケッチも無いのだ。更に今、この場に師匠はない。当初の計画では、あたしがまず一ヶ月使って、師匠の情報から場所を割り出し、後から来る師匠と兄弟子のクランツ兄貴がその結果を検証するというものだったからだ。


 いわば、この調査は、あたしの植物学者としての能力を鍛える試練でもあるのだ。師匠とクランツ兄貴は、事故が発生した際、皆を助けようとかばい怪我をして、今は集中治療中だった。


 あたしは、通信画面の向こうにいる家族と師匠ら植物研究所の人々に誓った。あたしは必ず、目的を果たして帰ってくると


「かあちゃん。とうちゃん。じいちゃん。ユキ、コズナ、メロ、師匠、クランツ兄貴・・・・・、あたし、きっと持ってくるよ。そして、みんなの元へ必ず帰ってくるよ」


 あたしは心を落ち着かせ、床に入り再び眠りについた。今度はすっと穏やかな眠りが訪れた、心が楽になったおかげだろう・・・・・



・・・・・・・・



 なんだか、頬が熱い。夜が開けたのかな。と、あたしは、意識した。


 頬にじりじりとくる熱を感じ、あたしは目が覚めた。


 そして、すぐに周囲の異変に気づいた。今のあたしは、砂漠服を身に着け、顔を横に向け、うつぶせで寝ている。


 生命維持装置は正常に動いている。バッテリーもフル充電状態だ。コンピューターにも異常は見られない。しかし、これは一体どうしたことなのか?


 あたしは、ゆっくりと立ち上がった。周囲を見回すにつけ、気が動転しそうになるのを必死にこらえた。


 眠りに落ちる前まで、あたしは、テッドという船長の砂上船の客間のベットにいた筈なのだ。なのに、今あたしが立っているここはあのテッドとカレンと三日ほど前に出会った岩場だ。


 まさかあれは夢だったのか?


 ふかふかのベットの感触や、おいしい料理の味の記憶も鮮明なのに、あれは全て夢だったというのだろうか?


 あたしは呆然とその場に立ちすくんだ。更には思考も止まろうとしている。あたしは、ただ、ただ周囲を眺めるだけだった。そして膝を地面に落とし、肩を落としこうべを垂れた。

 砂上船での戯れの記憶が呼び起こされ惨めな気持ちが湧き上がってくる。ふと、左手首のリスト端末が視界に入る。


 そうだ、何をしている。まずは状況確認をするんだ。


 あたしは気を取り直して、状況を確認することにした。予想はしていたが我が目を疑う結果が示されていた。


 なんと、この惑星降り立って、六ヶ月も経っていたのだ。あたしの記憶が確かなら、この場所に来たのは、一ヶ月前だった筈だ。その筈だったのだ。

 しかし、今はそれが五ヶ月も多く経っているのだ。これは一体全体どういうことなのだ。この惑星で生活をした記憶はオアシスゼロからの探索にかけた一ヶ月と、あの砂上船で暮らした数日程度の記憶しか無いというのに。


 あたしは、砂上船の甲板で見たことを思い出した。確か空を見上げた時、太陽の位置がいつもより西よりにずれていたことを。

 あれはやはり、季節がが経っていたことの現れだったのだ。砂漠服も脱がされ時間も場所も確認する手段は無かった。裸にひん剥かれたことや、暖かい歓迎で、あたしの感情ははげしく動き、冷静な判断ができなくなっていたのだ。


 あのテッドとカレンと初めて出会った時、確か彼らは身分証IDを持っていなかった。つまり、彼らは惑星連合国家に未所属の者たちだったのだ。そういった者たちの、仕事といえば、すべてが違法行為。密輸、産業スパイ、反政府組織への武器や食料の横流し・・・。


 もちろん、海賊行為や殺人までもしでかす連中さえいる。彼らは、こういった惑星連合国家に所属しない未開地の星を根城にしている。この惑星では、彼らを「砂漠の鼠」とよんでいたのだったことを。


 何ということだ。何というお人よしなのだ。


 あたしは、まんまと彼らの獲物にされたのだ。あの宴会はきっと最後の日だったのだ。あたしは気絶した後、人工冬眠かなにかにかけられ、眠らされていたに違いない。


 荷物を掻き回され、コンピュータを解析され、情報をしっかり読み取られていたのだ。そして、さしたる自己紹介もしていないあたしを『学者の卵』と呼んでいたし、あたしの名前もさらりと紹介していた。あの自信に満ちた目線は、あたしへのあてつけだったのだ。悔しい、なんてやつだ。


 だが、悪いのはあたしだ。あたしがぶざまにこの岩場で行き倒れなければ、こんなことにはならなかったのだ。彼らはいったいどの程度情報を解析できたのだろうか。

 実際の答えは師匠しか知らない断片的な情報でしかないのだ。彼らがあれを欲しがる理由は簡単だ。あれは、さる研究機関などに売れば、大金が入るからだ。

 きっと彼らはそれを嗅ぎつけたのだろう。山師のような連中は金になるものは見逃さない。悔しいが済んだことなのだ。


 きっとカモフラージュに雇ったバックパッカーの連中も丸め込んだのだろう。所詮は金で転ぶ連中なのだ。


 あたしは、彼らが情報を正しく理解していないことに望みを託し、師匠がくれた情報を頼りに、あの植物が生息する入江へと向かった。


 入り江へ向かう途中で、地図を見ながらあたしは思い出した。実はあたしは、かなり目的地に近い場所までたどり着いていたのだ。急ぐあまりに無理をしてしまい、天候と日照時間の変化を読み違え、疲労も重なってあそこで行き倒れたのだ。


 だが、彼らに発見されなければ、どのみちあたしはあそこで終わっていた。だから、結果的には彼らには感謝しなくてはならないのだ。今は、彼らに騙されたことを恨むより、自分のふがいなさを反省しなくてはならないのだ。

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