第三章 あたしの夢 エピローグ
ミッション・コンプリート!
ようやく、タチアナさんの仕事が予定期間以内に完了した。仕事の受け取りの承認はメガネくんがしてくれた。
あたしとメガネくんは、恋人同志になってしまった。悪いタイミングで、結合もしちゃたし、それが不発に終わったのは不幸なのか幸福なのか。パパとは全く正反対の人物だけど、変わり者があたしには似合っているのかもしれない。
近い将来、子供をもうけたら、タチアナさんの職場に仕事の依頼と称して出向き、連れ添わせている娘か息子に、「お婆ちゃん」と呼ばせてやるのが今のちょっとした楽しみだ。きっと、お義母さんは、笑顔で笑いながらも、こめかみに十字の血管を浮き出たせていることだろう。
でも、今は二人だけの秘密。テッドなんかに知られたら絶対に、「よう、おまえら、一発やったんだってな」、さらに「なんだ不発だったのか、しょうがねーな。当たらないときは、数撃っとけ」と大声で言われてしまうことだろう。あとは、カレンをテッドが口説き落とすか、カレンが強引に婿に連行するかは温かく見守ってあげることにしよう。
あたしが、メガネくんと別れるかもしれないじゃないじゃないかって?それは絶対にないと思う。メガネくんといるとなんだかとても癒される。相思相愛って、こういうことを言うのかな。
そうそう、なんで彼がメガネをかけているのか不思議だと言うかもしれないから言っとくね。近眼ではない、今時近眼は簡単に治せる。実は、彼はとても視力が良すぎるのでそれを抑える為にメガネをかけているのだ。
テッドたち惑星デュナンの先住移民の子息たちは、生身でも外を歩ける他に視力や聴力、嗅覚が良すぎるほどいいんだけど、これが他の星や環境にいくと、その強すぎる能力が過剰に反応して、精神的にも肉体的にもダメージを及ぼすのだ。
でも、テッドの家族は自分で制御出来るらしくて、そういう人々も60%はいるらしい。ただ、メガネくんはそういう能力がないので、特殊なメガネで能力を失わない程度に抑えている。そう、彼は、自分の能力が仕事にいかせるので、衰えさせないように維持させてるらしいんだな。
砂上船にいたパトリシアさんも、ローラもその目を使って研究に役立ててるていうから、まさに超人ね。アーニャさんが傭兵として優れていたのも身体能力のおかげなんだから、まあ敵に回せない人達だな。
さて、今は、マキナ・グレンを引き渡す為に惑星連合政府指定のランデブーポイントに向かっているところ。不安は無いわけではない。何せ、彼女は惑星連合科学局の重要人物。それを、いち民間人が移送してる訳で秘密保持の為に何か仕掛けては来ないかと緊張もしていたけど。こっちには、アダムとイヴがいる。妙なことしたら、向こうのシステムにハッキングかけてぶっ壊してやる。それ以前に、紅蓮家の特使が来てくれたんで、多分何事もなく終わるだろう。なにせ、紅蓮家とテッドの御先祖様は、親友であり、夫婦だったのだから。
星屑のリングの誓いか・・・・、あたしも、カレンも変なリング飾りを持ってるけどこれは何かのおまじないだったのか。それとも、星屑のリングの誓い伝説にあやかって、模し損なった模造品?まあ、なんでもいいか。
パーティー会場のマキナは眩しくて、近寄れない感じ。それと気づいちゃたけど、テッドに惚れている感じがした。テッドの扱いは、昔のように子供たちの親分的なのりだけど、マキナは、その場を楽しんでいる様子だ。
あんなに憎ませて、頼らせて、信頼させて、友情結んでハッピーエンドか、全く策士だ、あいつは。
でも、会いたいなあ、会ってお話がしたいなあマキナちゃんと。あたしが行くと、マキナが記憶を無くしてた時の思い出が甦って嘘がバレるかもしれないから、おまえとアダムとイヴはマキナの前に顔出すなと言われてるの。だから、こうして、マキナちゃんをマジックミラー越しに見てるの。ああ、侘しい。
カレンちゃんは、デュナンに残ったとして、会場には来ずに船内のお屋敷でお嬢様モード全快中。大嫌いなツンツン頭を戻してお風呂に入って、クレアの食事に舌鼓を打ってるのだろうか。それとも、ふかふかベットで爆睡してるのかな。
あの一件から一年が過ぎた。相変わらずあたしとカレンは、宇宙を飛び回っての運び屋稼業を続けている。つい、一週間前までテッドが二度目の乗船を終えたところだった。相変わらずバカをやってくれて、心臓に悪いことが何度もあったわ。でも、それを持ち前の度胸で、ハッタリかまして乗りきってしまうのだから、恐れ入る。今回は、かなりな女癖の悪さも露呈してきたみたいだ。やっぱり、マリアがいないと歯止めがきかないみたいね。マリアとはデキてんじゃないかの疑いもあったんだけどね。何せデュナンは、人口が少ないから、兄弟姉妹で結婚も珍しくは無いんだって。
テッドの叔父さんや従兄弟姉妹の中には、そういう人が結構いるらしいって噂だから。ちなみに、テッドの筆をおろしたのは、もっぱらアーニャさんとの噂らしいけど、ありえそうに思えるから怖い。そう考えたら、マリアの初めての人はテッド?と考えたりすると、あの家族との交流を避けたくなっちゃう。でも、あくまでも噂だから、そうでないことを祈りたい。
あたしとメガネくんの仲はどうなったかというと、とても順調だ。お義母さんのタチアナさんや、お義父さんのヴェルナーさんにもお会い出来た。タチアナさんは、あたしが息子の恋人になったと知って、笑いながらも引いてたな。よほど、ウルスラ・ダントスの印象が良くなかったみたい。まあ、それなりに悪さもしたから、その反応もうなずけるのだけど。
それでね、結婚はあとでもいいから、孫の顔を早く見せろですって。まあ、見たがっているのはお義父さんの方だけど、お義母さんの方は、産んでもいいけど職場には絶対に連れて来るなと釘を刺されちゃった。あたしの楽しみを見抜かれちゃったかな。
そして、今日、あたしはある人の紹介で、テッドの砂上船のクルージングに呼ばれたの。久しぶりの惑星デュナンだけど、こう何度か来るとまるで自分の故郷のようにも思えてしまうわね。この星にはお婆ちゃんも住んでいるし、第二の故郷と言ってもいいかも。
メガネくんこと、セルゲイとは後から合流するの。彼は、お父さんの仕事、砂上船をしっかり見たいのだって。だから、一ヶ月は滞在するらしいけど、大丈夫かな。ここの人達、男には容赦しないからね。ちょっと、そこだけが不安かな。
あたしは連絡挺に乗って、砂上船にドッキングし、甲板へ降りた。もちろん、いつもの白いパーティードレスに着替えてだ。
ほぼ一年ぶりの砂上船なのだが、こんなに広かったかなと思うほどだった。すでに、招待客で埋め尽くされている会場で、あたしは主賓の招待者を探した。
その人は、この度、紅蓮家の当主となられた人で、文武にたけて、思いやりがあって、素直で、芯が強くて、あたしにとっては実の妹のようなは、もう失礼だけど、まだそうあってほしい人なのだ。
あたしは、人垣をかき分け、その人を探した。小柄で艶のある黒い髪だからすぐに見つかると思ったけど、紅蓮家の人が多いせいか、黒髪の人は多くてなかなか見つけられなかったが、あたしは、ようやく見つけた。
最初は人違いかと思った。なぜかと言えば、身長がすごく高くなっていたのだ。横顔は、多くの写真や彫像が残されている伝説の女戦士、紅蓮そのものだった。
あたしは、彼女の後ろにたち、さりげなく声をかけ、さりげなく話をしようとした。彼女が、記憶障害を起こしたときあたしと二ヶ月近く過ごした記憶を忘れずにいる可能性はあったが、今日のあたしは、カレンの姉として、カレンの代理で、紅蓮家の当主の就任パーティーに出席している身であることは肝に命じているつもりだ。だが、そうわかってはいても、気ははやってしょうがなかった。マキナの後ろで、あたしはそわそわしていた。
そして、声をかけようとしたその瞬間、黒く瑞々しい髪のその人が振り向いた。そして、あたしを抱いてくれたのだ。
「ウルスラお姉ちゃん、おかえりなさい」




