第三章 あたしの夢 第一話 特別ミッション
"さあ、チャンピオン・カルロス今年の防衛なるか、敵の動きを見計らっています。
カルロス率いるダイタロス・バーバリアンズ、さあどう出ますか。
さあ、カルロスは先ほどから仁王立ちだ。残り時間も少ない。逆転された状況では、ゴールホールに直接、ボールをたたきこむしか無いが、ホールは真っ直ぐには向いてない。 だが、この立ち位置からでは、真っ直ぐにしか蹴れないぞ。敵陣の前衛まで走り出せば、動きを読まれ100パーセント阻止されてしまうでしょう。
どういった、チーム連携で、この難所をくぐり抜けるのか・・・
おっーと、左ウィングのオットー・コーエンがいきなり前方にダッシュを始めた。だが、ボールは持っていない。ボール無しのダッシュは、前衛フィールドにはいるとペナルティになるが、カルロスはボールを持ったままだ。
さあ、今度は、左ウィングのウルリケが後方斜めに走り出す。
対戦者のアクエリアス・ドラッケンのピルマー・ストライカーは、微動だにしていない。陽動には乗らないという証しか・・・"
あたしの兄、カルロス率いるダイタロス・バーバリアンズとアクエリアス・ドラッケンのユニバースチャンピオンシップの最終戦なんだけど、どうやって衛星つないで見てるんだが、試合やってる地区のリアルタイムから、5秒遅れの衛星中継だよまったく。
なんで、その程度の遅延にできてるんだか、この船の性能だけじゃできないことなんだよね。
0.3光年先にある新設された亜空間ゲートの長距離跳躍通信でも使わない限りにおいてはね。使ってんだろうけど、そんなの使う金。予算になかった気がするけど・・・。
「ちょっと、ちょっと!あんたら仕事しなさいよ!」
カルロス兄貴の試合に、金でもかけたのだろう、テッドたちはさっきから小一時間も画面にへばりついている。カレンが怒るのも無理はない。予定の場所に着いていないのだから。
この船は、ワープ航法が使えるとはいっても、軍が使うワームホールゲートの一部を極秘で借りてるから、任務遂行中の軍艦に悟られないよう抜けなくちゃいけないから、使える時間帯ってのが決められているから、遅れたからじゃあって訳にはいかないんだなあ、これが。
あたしは、どうして傍観者なのかって?
それは、放っておいた方が面白いことになるじゃない。それに、かなりギリギリだけど、ゲートの門限には、まだまだ余裕があります。
テッドもそれを見越しているはずだし、どうやるか見たいじゃない。
それにしても、テッドたちのご執心ぶりには頭が下がるわ。あたしらは、別に兄貴の試合に金かけたりしないし、ゲームなら暇なときに、カレンがこさえた屋敷の中の仮想スタジアムで臨場感たっぷりに見れるし、特に気にして無いけど、テッドたちは何をやってんだか分からないんだな。
バーカーサースクランブルだけは、毎回、欠かさないつんだからあきれるわ。
「なんだよ、今いいところなんだよ、ったく」
カレン、今のでそうとう怒ったわね。さあ、どうするのかな。あ、衛生通信機の電源落としてる、そんなに単純にはいかないよ。ほおら、連打してる。マリアも、アーニャも、サンチョスも曲者なんだから、別電源繋いでるって。
「お姉ちゃん、黙って見てないで、こいつら何とかしてよ!」
あら、あたしにふってきた。ウルスラ・ダントスの時は、無視してたのに、ちょっと甘えん坊になっちゃたかな。
"おーっと、カルロスの脇からステファンが出て、今、ボールをショートパスされた、そして、それをバックにいるウルリケへロングパス!
カルロスは左へ回りだし、センターのヘクター、カトラス、ベグマンが前進し始めた!
ピルマーは、カルロスたちの狙いを読んだのか、指令を出し、後方のゴールポール付近まで下がったぞ・・・"
「よし、行けカルロス、トルネード流星キックだ!」
"ウルリケ、突進中のカルロスにパス!カルロス、そのままオットーへレーザービームパス!
ピルマーの指示にあわせて、ゲイリーがオットーと並ぶ、だが、オットーは前衛線ぎりぎりを尚も走行中だ!
それに向かってカルロスが猛スピードで迫って来る。いったいどうするんだカルロス!
おっと、オットーがボールを落とした!そこをカルロスがキックした。ボールは畝って、右に曲がった、これは久しぶりに出た。トルネード流星キックだ!
ボールは、左のポールに当たって、中央のゴールへ、入った、逆転優勝だ!"
「よし、やった的中だ。マリア、結果は」
「兄ちゃん、スゴいよ、ぶっちぎりのダントツだよ」
「こりゃスゲーや、大将。亜空間ゲートの切符獲得だぜ!」
「エンジンは臨海まで回ってるな、ショートワープで飛んで、繋ぐぞ!イチ、ニの、サン」
あはは、これは面白い。テッドたちは、どうやら、新設された亜空間ゲートの切符を賭けて、カルロスの作戦の先読みをスーパーセレブ連中相手にしてたみたい。
所謂、リアルチェスってとこだね。あそこを使えば、目的地のアクエリアはひと飛びだものね。カレン、あわててベルト締めてる。亜高速航行に入ったわ、まだシグナルが鳴ってる。あたしも締めるとしよう、さーて、どんな仕事になるのか楽しみだわ。
二分もしないうちに、シグナルは消えた。通常空間に戻ったみたいだ。現在は、慣性航行している。ランデブーポイントまで、一時間というところだ。この辺の宇宙が赤く明るい。そして、目の前は水の惑星アクエリアがある。降りるには結構な許可がいるらしい、生態系だか環境の維持だとかぬかしてるけど、政治不安定で何が起きるか分からないが現状の理由だったと思ったけど。ほんと、この世はウソつきばかりだね。
ここって、伝説の英雄様の出身地で、あのなんつったっけな、グレン・ダイ・ザ・インダストリーとかいう大企業の一族の出身地でもあったっけ!ダントス家やバッカス家が束になったって勝てない、巨大帝国だよね。
争いごとも大きくて、何度か生態系異常に陥るようなことにもなったそうだけど、これまたスーパー科学者がいたとかで、復活させたっていうから驚きよ。きっと、賢人がいたんだろうね。グレンなら、連合政府も楯突けないか。下手したら、自分等がやられかねないからねえ。
アクエリアは周囲に小惑星がデブリのように円環状に浮遊していて、電磁波の強い場所もある。この船はシールドしているから影響ないが、これから会うお客は、電磁波の強い場所にいるらしい。いわゆる訳あり客ってことなんだろう。
「どうだ、カレン、間に合っただろう!イエイ!」
「さすが兄ちゃん、いかしてるう」
テッドとマリアのシスブラコンビが親指立てて、白い歯を見せ合う。どうしようもないほど能天気な兄妹だ。
こいつら、未だに、風呂も寝るのも一緒だから笑う。結構、大人なんだよこいつらは、あたしは年齢詐称してたけどさ。
このマリアの仕事してるときの姿はかなり笑えた。赤いレザーのミニスカはいいとして、言葉使いが、メチャクチャ可笑しい。自分の姉を先生と呼び、語尾は"ですわ"、と来たものだ。
しかも、三歳もサバ読みしてるし、何だか別人って感じだ。アーニャさんの姉もかなり曲者だね、その双子の兄貴がとんでもないんだけど。二人して、合法ブローカー兼スマグラーなんだから、そんなのに合法なんてあるんだ。
ぜひとも、そのお姉様とお兄様にはお目にかかりたいんだけど、そのうち会えるのかな。意外とあの娘、本業はかなり大事にしてるみたいだけど。そうまでしてると、いじりたくなっちゃうんですよ。あたしとしてはね。
ランデブーポイントに近づくと、警戒シグナルが鳴り始めた。お客と言えども管理外の場所では、用心せよとセキュリティシステムがアラームをあげているのだ。
そして、暗号化された誘導ビームが出てきたので、解読機に接続した。オートでかけられないようにしてるてのが味噌だ。アナログ的な方法を混ぜることでお互いの信頼を保つのだ。
「テッド、お客の信号つないだから、あとよろしく」
「おお、サンキュ。ウルスラ!」
良かった、普通に戻ってる。パパが来て、正体ばれて、しばらくよそよそしかったけど、普通に戻ってくれたみたい。パパが「娘たちをよろしくな」と言ったあと耳元でなんかささやかれてから、コチコチになって、ウルスラ様、カレン様とか言ってたから、あのままいかれたらやって行けなかったわよ。
パパ、よっぽどすごいこと言ったんだろうね。以来、カレンへの乳揉みもしなくなったし、玉でも抜かれたのかな。
誘導されて降り立った場所は、貨物船の20倍はある小惑星だった。待つこと十分、岩陰から宇宙服を着た人物が現れた。センサーがとらえてすぐに映像と分析結果を出してきた。
一応、人間ではあるようだ。補強骨格や人工筋肉スーツの類いも着ていない。手に持っている金属製の鞄も電子機器が入っている。チェックをかけたが爆弾の可能性は無いと出た。混合させて起爆させるような薬品も入っていないし、菌類などもセンサーからは検出されない。
でも用心に越したことは無い、百メートル手前で止まらせて、荷物を調べる機械を送るようデクドロイド、通称デクに指示を出した。お客は素直に両手を上げ、拘束具をつけられてくれた。鞄は重力制御をしたコンテナ無いに入れられ開けられた。ロボットアームとカメラを使って、サンチョスが念入りに調べている。
この機械は、更に構造を同じにした合成樹脂性の鞄を作り、そっちに載せ替える作業を行い、それを持たせて入れることになる。宇宙服もそこで着替えさせられる、アンダースーツに至るすべてをだ。
入れ歯や義眼、義手、義肢の類いもすべて交換させられる。訳あり客はそこまでしないと危険でしょうがない。それを承知で来る客のみ受け入れないとこの仕事はやれないとパパが言ってた。
体の観察はアーニャさんがやってくれる、その道のプロは筋肉の付き方や骨格でわかるらしいから、とにかく、うちは少数精鋭だから一瞬の隙を突かれて人質にでもされるとやばすぎるから、念には念をということで、モニタは全員見ている。
でも、宇宙服を脱ぎ、アンダースーツをばさりと脱いだとき、わたしはテッド、サンチョス、マルコのモニタを瞬断した。理由は簡単だ、”若い女”だったからだ。同性でも羨まんばかりの美しい肌に抜群のスタイル、男を百パーセントそそらせる秘部。これはうちの男どもに見せたら骨抜きにされてしまう。
「ウルスラ、何しやがる。船長のモニタを切るなよ」
「あんたはダメだよ。あんたの脳には猛毒だよ」
「例え、女でもしっかりと確認するのは船長のつとめだろう」
「そんな勤めなら、あたしと、カレンが代行してやるからあんたは、商談の準備でもしてな」
さて、困った。女の商談相手は、これまでもいたが、あそこまでとびきりのいい女ははじめてだ。容姿で判断する訳じゃないけど、なんか嫌な感じだ。
「ウルスラちゃん、心配しなくていいよ。あれ、うちの姉ちゃんだから」
・・・・・!?
我が耳を疑うのを嘲笑うかのように来船者識別結果に出された身分証確定情報には、タチアナ・グラーノフ、テッドの二番目の姉だ。そして、マリアが勤める運び屋会社の社長でもある。噂には聞いていたが、相当にイカスおんなだ。迫力もある。
『お姉ちゃん、お久しぶり?イエーイ』
『そのすっとんきょうな声は、マリアか?』
『あんた休暇中じゃないのか、こんな業者でアルバイトか?』
『話せば長くなりますので、とりあず上がってくださいませませ。お姉様、もとい、コホン、先生!』
すごい変わり身だった。一瞬にして、あのポヤンが普通の出来る娘になった。でも、この合法密輸業者殿があたしたちに何を依頼するんだろう。翼竜みたいな宇宙船お持ちでしたと記憶しますよ。
まさかドジって難破でSOSしてたのかな。こういう人たち見栄はるから、仕事と称して、あたしらをタクシーがわりに使おうって魂胆じゃないのだろうか。
レッド・デビルこと、タチアナ・グラーノフがあたしやカレン、テッドらと対面するには更に三十分を要した。数々のセキュリティゲートを通るのだけど、ところどころでひかかってくれるから、それを解除するのに手間がかかってしまったのだ。
この船は最新鋭の戦艦だけあって危険思考を察知するセンサーが装備されてるんだけど、一般の人には殆ど反応しないから、使えないシロモノだと思ってたんだよね。
それが、この人には鬼のように反応するんだよ。見た感じじゃアーニャやサンチョスにも彼女と似た凄みを感じたことがあるけど、どういう訳か乗船してからニヶ月以上経つけど全く反応しないんだよ。
まあ、この人がどういう人かは、テッドの反応見れば分かるね。パパに耳打ちされた時以上に縮こまっている。そう言えば、あの時は警報が鳴ったかな。それはある意味嬉しいかな。パパの愛情の度合いが知れて。
商談場は、この船の幹部作戦室を使う。ブリッジにも近いし、客との距離もあるからうってつけなんだ。テッド関係者なら殆ど身内なんでブリッジでもいいんだけど、一応この船、モニタ船だから、使えるところは使うことが契約条件でもあるんだよ。
デクを使うのもそう。この船にいるデクは最新鋭のアンドロイドで怖いくらいに動きが人間ぽいんだけど、息づかいがないから一緒に部屋にいると時おり背筋に冷たいものを感じることがある。
通常はセンサーだけが表にでた、いかにもロボット的な頭部を着けた奴等を番号で読んでるのだけど、究極のがあって、そいつは人工皮膚をまとった人型で、"イヴ"という名前まである。
一見すると、十五、六才の少年とも少女ともつかない容姿だが、見た者に性的欲求を与えぬよう中性的に作られている。耳や鼻、口、目、指の爪、髪の毛など外から見える場所はかなりリアルに再現されているが、皮膚感はあっても局所の濃い体毛や性器、肛門の類いは作られていない。
お客との商談には出させる決まりだと、二週間前に、ここの仕事の依頼元でもある武器開発局から通達が来て、実験室のカプセルを開けたらそいつが出て来たってわけ。何せ人っぽいから、あたしやカレンは、気色悪くて、手も出せなかったのに、テッドやマリアは抱き上げて自己紹介したり、服着せて、かいがいしく面倒をみていた。ほんと、不思議だ、あのふたりは。
イヴは、この船のメインコンピュータ、FYU-9000の人格化プログラムで、あたしもその仕事の一部をやってはいたけど、ブレインを設計してた天才科学者様の足元には及びもつかなかった。謎の人物でお目にかかったこともないけど、機会があればお会いしたいよ。グレン家の次期ご当主様とやらに。
ドアが開きイヴが入って来た。イヴは、この船でもあるから、彼女だけはどの部屋もノックなしに入れる。彼女、一応、イヴなら女性だろうからそうしている。もう一体、研究室内に寝かせてあるのがいる。そっちはアダムというけど、なんか意味ありで嫌な感じだ。
「よ、イヴ!久しぶり」
「イヴちゃん、こんにちわー」
入ってきたイヴにテッドとマリアが声をかける。すると、イヴはにっこりと軽く微笑む素振りをする。不思議なのだが、イヴはこの二人にだけ、こういう表情を見せる。あたしやカレンが声をかけても機械的に返事をするだけなのにおかしなものだ。
「お客様のご身分も照合取れましたので、仕事の商談に移らせていただきます。わたしは本船のオーナーにして、バッカス運輸の社長兼副長のカレン・バッカスです。
そして、その隣がわたしの姉で、副社長兼副長のウルスラ・バッカス、船長兼操縦士兼業務マネージャのテッド・グラーノフ、そして、」
姉の後ろで、いつもの作業員服でなく、本業の仕事着姿のマリアに、カレンは目を向けた。
「あんたは、今日はどっちなの?」
「アハハ、すみません。つい条件反射で、こっちです」
マリアは、カチューシャを取り、髪の毛のカラーに脱色スプレーをかけても褐色からプラチナゴールドに戻し、カラーコンタクトも取り、ショートヒールも脱いで、いつものマリアの姿でテッドの横に寄り添うように座った。
「副操縦士兼業務副マネージャのマリア・グラーノフです。そして、こちらがオブザーバーのイヴです」
カレンも律儀だよ、殆ど身内にわざわざ形式的な挨拶やるのだから。
「わたしは、タチアナ・グラーノフ、ハルカシークレット運輸サービスの代表取締役です」
簡単に社長でいいじゃん。正社員、五十人いるかどうかの会社なのに、見栄はっちゃって。この人、通り名は、ハルカ・カナタだったけ、肩書き名はそうなってるんだよね。マリアは、ミライ・エイゴーだって、これなんかの暗号?
「いつもは、秘書がいますが行き先不明の長期休暇中で、事務手続きには多少時間がかかりますが、」
いつもはマリアもとい、秘書のミライがちゃちゃっとやるのだろうけど、相当に手こずっているのが分かった。映像が出ずにしびれを切らしたのか、いきなり機械を殴り出した。
見かねたテッドが姉を羽交い締めにし、マリアが入って、機械をいじり始めた。しかし、機械は動かない。
結局、サンチョスが呼ばれ、修理を始めた。やはり、殴った衝撃で、部品の一部が壊れたようだ。それでも、流石はサンチョス、三十分でどうにか復旧させた。マリアは、姉に代わって、操作をしたが、機密の為なのか結構複雑な操作だった。
あれじゃあ、気の短い人はキレるわな。
そして、ようやくお目当てのものが表示された。そのタイトルは、【謎のリバース植物の採取作戦】だった。
真っ先に謎という言葉に疑問符が出た。それじゃ探せない。うちは、探偵でも、探索業者でもないのだ。この偽装船でないとって、ことも気になる。かなりの危険もあると見た。
しかも、実の弟と妹とその仲間が乗ってたとなると、要件も厳しくなりそうだ。テッドの関係者は、身内には厳しいからね。




