第三章 あたしの夢 プロローグ
昨日は素晴らしい一日だった。おそらく、人生において最良の一日になると思う。何故ならば、離れていた家族がようやく、ひとつになれたのだから。
でも、あの娘は、ちょっとだけご機嫌斜めのようだ。パパの説明にも納得いかない顔だ。無理も無いか、あの人は自分を死んだことにしてたし、更に十六年間、秘密にされていたことを突然に明かされたのだから。
わたしも苦しかった。何度も、打ち明けようかと思ったか分からない。できなかったのは、あの娘の将来の為を思ってのことだ。あの娘は、どのみち父親の稼業を継がねばならないことは、生まれた時から決まっていた。
いや、正確には、わたしかあの娘のどちらかが継がねばならなかった。バッカス家は、生まれた時から、能力に応じた職業を生まれた時から決め手行き、英才教育を施すのだ。
だけど、必死に隠そうとして、随分とあの娘には辛くあたってしまうこともあった。ゴメン、で済まされるものでは無いことくらい分かっている。
さてさて、どこから話せばいいだろうか、父親の出生の方からが手っ取り早いだろうか?わたしも、あの娘もあの男のキンタマが故郷なんだから....
我がパパ、いえ父、ラファエロは、バッカス家に婿養子になる前は、ダントス家の長子だった。型に縛られるのが嫌いで、将来を期待されながら、それを見事に裏切り、十五の誕生日に宇宙へ飛び出してしまった。
年齢をごまかして傭兵部隊に入り、数々の戦火を渡り歩いた後は、未開惑星の開拓、それが終わるとマフィアの用心棒、密輸業者など仕事を転々とした。
二十歳の時に砂の海の惑星デュナンに行き、砂上船を使わない独自の漁法で砂虫の捕獲に成功し、大金を得て、どこをどうしたのか旧式の宇宙戦艦を買い取り偽装を施して、宇宙海運業(合法的密輸業)を始めた。
そこで、ひょんなことからバッカス家のご令嬢、つまり、わたしのママに出会うのだけども、意気投合して、宇宙を旅しながら、子作りにも励んで、その最後の方で、あたしらが生まれたというわけだ。
あの奥手そうで、おしとやかそうなママがどうやって、ならず者のパパを落としたかについて聞くと、ママはこう答えてくれた。どうしても、手にいれたい男が出来たとき、おまえが取る行動がその答えだと。
なんとなく分かってはいるのだけど、果たして、あたしがそういう行動を起こしたくなるような男に出会えるのか、今のあたしには想像もつかない。
さて、わたしとカレンは双子だった訳だが、惑星連合国家では、優秀な頭脳を持つものを優遇する制度があった。
宇宙開拓民は高度に遺伝子操作された超人類だった訳だが、人道的に良くないとかで、早くにその研究は中止され、身体能力を強化させる方法に変えたのだ。
けれども最初のミュータント的な人類もいかばかりか子孫がいて、何世代かに数名の賢者が誕生していて、この賢者のお陰で暮らしが一変してきたってんで、こういった優秀な能力を持つ子供たちを幼い時点で優遇し、惑星連合国家の繁栄に貢献させようと考えたんだな。
だけど、制度化した時点では、そういった子供の出生率は激減して、見つけられたら最後、その子供は優遇されながらも一生涯、籠から出られなくされてしまい。二十に満たない年齢で死ぬと噂が流れた。
その賢者の判定は、三歳児に行われるのだけど、貨物船は長距離軍艦だったので、医療室もあり、カレンにその兆候があることを知った訳だ。
貧しい家の場合は、子供との引き換えに大金が入るが、パパもママも、子供を売り渡して得られるはした金などに興味など無かった。
そこで、パパの計らいで、カレンとあたしをすり替え、あたしが早いうちに彼らの期待通りの働きが出来なくなるので、その時に引き取る算段を立てるのだけども、引き取るには"家"が必用だった。
パパは、半ば勘当された身の上、ママもこの時点では、名目上は放浪者だった。もっとも、バッカス家は女当主のしきたり、入り婿探しの旅の身だったのだ。そこで、パパは父親の自分への溺愛心を利用して、あたしをパパの父、お爺ちゃんの娘にしたのだ。
ママも、パパのバッカス家への婿養子入りを画策してたけど、ママの対処は間に合わなかったって訳。パパの思惑通り、知力が賢者ほど伸びないと判断されたあたしは、半年もしないうちに、家でない家、ダントス家に戻された。
でも、研究所で来る日も来る日も、実験動物的な扱いを受けていた幼いあたしは、いつしか、感情を殺し、他人に冷たくなっていた。そんなとき、テッドに出会った。
底なしのバカのあいつは、どうしようもないほどの面白い奴だった。彼の兄弟姉妹は、誰彼からも嫌われていた孤独なわたしに笑顔をくれた。
そうして、あたしの五歳の誕生日の日にパパとママに出会い、真実を聞かされた。既にカレンは、パパの仕事に興味津々で、難関の仕事をやらせる為にも、双子の姉の存在は話さず、少しばかり、孤独を与えて、カレンに自身の宇宙海運業を託すことに決めたと告げられた。そして、最後のけじめが、自身を殺して放浪者に戻ることだった。
見事、カレンは、パパの死を乗り越え、宇宙海運業を継いだ。十五で、免状貰えたのはカレンが五十年ぶりの快挙だったらしいのだが、あたしたちを巻き込んで宇宙に出た。家族の絆を復活させようというパパのもくろみ通り、あたし達は、再会を果たした。
皮肉にも、惑星連合国家の賢者研究者たちがあたしの脳に施した活性化訓練は、凡人の頭だったあたしを後天的に国家研究員レベルの知力にまで押し上げてくれた。
ダントス家の高度な教育が、あたしの知力増幅に作用し、賢者レベルには届かないも、この武器は、あたしがひとりでも生きていける力を与えてくれたのだ。
あたしは、小走りにパパの背中に抱きつき、傍らに寄り添って、カレンにあたしの知る全てを話した。
最初は、不満顔を続け、平然と話を聞いているかに見えたが、徐々に両目は潤みはじめ、溢れた涙が頬を流れ落ちるとともに、声をあげて泣き出し、あたしを抱き込んだ。
何でも無かったあたしまで、涙を流し、泣きだしてしまった。ちょっと、これにはあたしも驚いた。あの気丈なカレンがか弱い少女のように泣いているなんて、信じられなかった。
「お姉ちゃん、今まで知らなくて、ごめん、ごめんなさい。ごめんなさい。一人で、今まで辛かったでしょう」
そうでも無いんだけど、家族とは毎年会ってたしてたし、カルロス兄貴の試合もカレンの隣のボックス席で見てたし。
事実を知らなかったのは、悪いけどあんただけで、あたしの方がすまない気持ちでいっぱいなんだけど。
まあ、いいか、丸く収まれば、これからはカレンと一緒に歩めるのだもの。パパの手配で、あたしはバッカス家に戻れたし、爺いのおかげで、研究員の仕事ともおさらば出来たし、後腐れなくて、万々歳よ。
「お姉ちゃんの夢は、わたしがかなえるよ」
「ああ、ありがとう。それじゃあ、カレンの仕事は、あたしが助けてやるよ!」
「いいよ。わたしの、いえ、わたしたちの海を、わたしたちの船で渡ろう、そして、そして、お姉ちゃんの夢を!」
「あたしの夢を?」
「お姉ちゃんの夢の実現が、わたしの夢になったも。だから、お姉ちゃんの夢は、わたしたちの夢なの。わたしたちの夢を叶えましょう。それがわたしたち姉妹がこの世で果す役目だよ!」
「役目か、よし、カレン、その話乗った!」
「わたしの海!」
「あたしの夢!」




