表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑のリング  作者: 星歩人
1/51

第一章 出逢い プロローグ

星屑のリング 第一章 出逢い


 惑星再生の為の植物を探す旅に出た少女が未開の惑星で、砂漠の鼠と呼ばれるならず者と出会い、騙され、協力し、苦難を乗り超えて友情を結んでいくSF冒険ファンタジーの第一章です。

《ねえ、あんた大丈夫! 生きてる。死んでんのかなあ。おーい!》


 人の声がする。


 これはたぶん、女の声だ。


 あたしは、ついさっきまで静かな暗闇の縁にいた。


 そう感じるのは周囲が何も見えないからだ。


 今、聞こえる女の声で、あたしという自我があたしという存在を認識したのだ。だが、体の実感は何も無い。これは夢なのだろうか。


 周囲は真っ暗だ。眠っているとするならば、体を起こすしかない。先ずは瞼を開こう。だが、瞼は開かない。ならば手足だと手足を動かそうとするが動く気配が無い。指先さえも動かせない。口も動かせないので声も出すことが出来ないのだ。

 周囲が明るければ、光が肌を通って目が明るさを感じるのだが、そんな感じでは無い。きっと、意識の一部だけが起きていて、体は眠っているのだろう。


 起きろ、起きろ。


 あたしは、意識を集中させて、瞼を強引に開かせようと試みるが、瞼の筋肉がわずかにピクリとしはするも、開かせることが全く出来ない。手足に至ってはつながっていることすら疑わしいくらいに感覚がない。


 そして、あたしは思い出した。どうしてこんな状況に陥ってしまったのかを。そこに至るまでの光景が走馬灯のように頭の中を駆け抜けていき、その最後は意識が朦朧となって倒れた時の光景だった。


 あたしは神様というものを呪った。すでに絶望の縁に立って倒れたのに、再び意識を戻して同じ絶望を繰り返させることに怒りさえ覚えた。あたしはどうあがいてもこの先には死しか無いのに、この状況からどう生き抜けと言うのだろうかと。


 万策尽きた上での絶体絶命の危機的状況に変わりは無い。あたしは、ここで死ぬ。死んでしまうのだ。こんな見知らぬ辺境の果てで、骨も皮も朽ち果ててしまうのだ。だから、もうあたしを放っておいて欲しいのだ。


《ちょっと、あんたってば》


 また声がした。たぶんだが、さっきの女だろう。申し訳ないが、あたしは返事はおろか、体も動かないのだ。

 体を揺さぶられているのを感じる、ああ、あたしはやっと体が意識とつながっているのを自覚した。


 でも、あたしの意識は戻っていない。意識が戻っているなら砂漠服の生命維持装置があたしの五感をサポートしてくれて、言語翻訳だってしてくれる筈だ。彼らの言葉は古い移民民族の標準言語に近い。そうであれば惑星連合共和国標準言語と基本は同じ筈なんだがイントネーションが独特すぎて聞き取れない。


《テッドだめ。この子起きないわ。このまま運びましょうよ》

《狼狽えるな。生命維持装置は正常だ。一時的に気を失ってるだけだ。とにかく、そいつを起こせ》


 男の声も聞こえる。若い、のかな。


 生命維持装置が通常稼働状態なら、砂漠服のヘルメット外のマイクが拾った音や無線装置に入った音を砂漠内の骨振動伝達機を通じて鼓膜に振動を伝えて聞かせてくれるのだが、今は普通に防音ヘルメット越しに、蚊の無く声程度のものが耳の鼓膜を震わせているだけだ。


 あたしは、心の底ではまだ生きたい、任務をまっとうしたいと思っているのだろう。だが、あたしが居る場所は灼熱の砂地の世界。強烈な宇宙線と紫外線が降り注ぐ砂漠の惑星なのだ。この惑星は昼間二つの太陽が照りつけ、外気温は六十度もあるが、夜はマイナス二十度にも下がる過酷な土地。木目の細かい砂地の遥か下は暗黒の海が広がるという奇怪な星なのだ。


《あなた、あたしの声、聞こえてる?》


 彼らはあたしの砂漠服の無線周波数を合わせたようだ。ものすごく鮮明に声が聞こえた。今度は普通のイントネーションだ。

 でも、一体どうやって。コンピューターのモニターを確認したいが、あいにくあたしの体は眠ってしまっている。これでは視覚神経越しに各システムの制御状態を見ることすらできない。


 気のせいか、さっきから体が熱いと感じ始めている。冷却装置が壊れてしまったのだとすると、この星の熱さでは、今日一日持たない、・・・・。仮に夕方を迎えられたとしてもマイナス二十度にも達すれば、凍りついてしまうことだろう。

 そうなんだ、やっぱりこの声は幻聴なのだ。死を受け入れられない往生際の悪いあたしの意識が作り出した幻想なんだ。

 あたしは、もう死ぬ。ここで終わりなんだ。


 かあちゃん。とうちゃん。じいちゃん。ユキ、コズナ、メロ、師匠、クランツ兄貴・・・・・。ごめん、ごめんね。役に立てなくて、


 あたしは、 弱音を吐いた。吐いてしまった。この旅の出発時、あれほど吐くまいと決意していたのに。この絶望的状況では仕方ない、体が動かないのだ。


「人は命ある限り決して、絶望してはならないんだ」


 かつてあたしが語った言葉だ。あたしの父の受け売りではあるが、常にこのつもりだった。なのに体が動かないのでは、それも向こう見ずな青すぎる言葉でしかない。もはやなす術無しと、諦めを感じている自分がいる。自らを鼓舞する気力はもはやない。

 このまま、何もかも忘れて眠りに落ちたいと、意識を空にしようと懸命に取り組むことにした。努力することなく、あたしは自然に気が遠くなっていくようだった。もはや体がいうことをきかないのだ。このまま体を委ねてしまおうと思った直後だった。


 突然、お尻というか直腸的な激しい刺激が下腹部にこみ上げてきた。その痛みは背筋を通って頭に鳴り響くほどだった。


 ひやあ、痛い。


 硬くなっていたあたしの体に瞬時に電気が流れ、手足は動き、立ち上がれたのだ。そして、あの岩のように重たかった瞼も一瞬にして開いた。


《おほお、生き還った!》


 歓喜に沸く男の声がした。周囲はとても明るく、ヘルメットの偏光シールドがすぐに働いた。目の前に広がった周囲は砂の海の入り江だった。あたしは、ぎらぎらと太陽が照り返す岩場の上にいた。そう、ここはあたしが数時間前に倒れてしまった場所だ。

 あたしの間近には、前かがみに屈み込んだ砂漠服の人がいた。体格から考えて男に相違なかった。《生き還った》と言った声の主だろう。声は若いと感じた。少なくとも”オヤジ”という感じは無かった。


《やっぱり、あれは効くね》


 女の声だ。センサーがあたしの背後に人の気配を察知している。どうやら二人しかいないようだ。


《おうよ、浣腸は結構きくからな。試して正解だったろう》


 浣腸? あたしの無防備なお尻に浣腸だと?


 なんて乱暴な起こし方なんだ。あたしを女と分からないからか。いや、女と分からなくても、こんな起こし方はない。だが、女と気づかれていないのは幸いなのかもしれない。この砂漠服は砂漠服の百キログラムに近い装備重量を体で支える補助の為に人工筋肉繊維が織り込まれている。

 更に女性特有の動きや体系を消す偽装を施し、体型や所作を男のそれになるよう調整していた。だからさっきの動きで、あたしは女だとは気づかれていない筈である。


 気がつけば、ようやく視覚内モニターが作動している。砂漠服の制御システムは、あたしの意識が戻ると共に再起動したようだ。何のことは無い。

 あたしが倒れてしまったので、エネルギー消費量を最小限に抑える生命維持モードが働いていただけなのだ。更には三時間前に救難信号も発信されていたようだ。それで、この二人が来たということだと理解した。


 だが、この二人は何か変だ。どう見ても、惑星連合政府直下のレスキュー部隊員には思えない。だいたい、あの礼儀正しい部隊員が、遭難者の生死の判断に浣腸で確かめるなんてしないだろう。

 いったい、どういう連中なんだ。こいつらは危険だ。用心しなければいけない。あたしは、右腕のリストバンドに装備されているショックガンをスタンバイモードにした。


《お前たちは誰だ?》


 あたしは、ショックガンの照準を前後の二人に向けた。ショックガンのオート照準システムはすぐさま、ふたりの足元に照準をロックする。あたしの声は、勇ましく自信に満ちて、少々危険な少年風の声で聞こえた筈だ。そういう声に設定してあるんだ。


『ターゲットをロックオンしました』


 よし、防衛システムは生きている。パワーも十分だ。彼らがあたしの砂漠服に無線周波数を合わせていたのであれば、彼らの砂漠服の防衛システムも照準システムの動作を関知して、『足元をロックオンされました』のメッセージを発していることだろう。

 彼らが攻撃行為に入ろうとすると、あたしの砂漠服の防衛システムが先に作動して、攻撃するということなのだ。彼らの動きには、幾分の動揺が見てとれた。


《おいおい、俺たちはあんたの命の恩人だぜ。そんな物騒なものはしまいなよ。それにあんたは結構疲れている。急に動いたから余計にだ。とにかく、俺の船に乗れよ。話はそれからだ》


 男はゆっくりと近づき、手を差し伸べて来た。あたしは彼らが身分証IDを持っているかをコンピュータに確認させた。だが、運が悪かった。恒星間通信衛星はこの上空にはいなかったのだ。これだから、偏狭の惑星は嫌いなんだ。

 仕方なく、身分証ID持っていることだけを確認することにした。しかし、彼らからはその反応が全く出なかった。


 非認証者! 砂漠の鼠か?


 あたしは一層彼らを警戒し、彼らの足元の手前一センチメートルに照準を絞り、一発だけ、威嚇射撃をした。背後の女は咄嗟に後ろに退いたが、男の方はまったく怯まなかった。それどころか、不敵にも微笑んでいるように思えた。

 やがて、男は軽いダンスのような軽快なステップを踏みながら、じりじりと近づきはじめた。まるで、あたしの砂漠服の防衛装置のスキャニングのタイミングでも読めているかのようだった。防衛装置が周囲をスキャニングをした後の集計演算時間の僅かな間を使って、素早く間を詰めて来るのだ。


 馬鹿な、あり得ない。人間業でできることではない。後ろの女がハッキングして情報を教えているか、いやそれの方があり得ない。

 この砂漠服のOS(Operating System)は特殊だ。そもそもこいつらが知るわけがない。どうなってるんだ、これはやはり悪い夢なのか。そんな躊躇をしている間に、あっという間に間合いを詰められてしまった。


 あたしは男が目の前に迫って来たので、懐に入って男に投げを打とうとしたが、既に右手首は掴まれて、手首をねじられようとしていた。そこで、今度は男の膝を蹴ろうとしたが、背後から女がはがいじめをかけてきた。

 あたしは、懸命にもがき抵抗するが、次第に力が抜けていくのを感じた。


 男が言ったとおり、あたしのからだは、急激な疲労に襲われ、それにあがなえなくなってしまった。


 意識は朦朧となり、徐々に瞼を開けていられない状況に陥っている。あたしは必死に瞼を引く上げようと悪戦苦闘するが視界は瞬きの度に徐々に引き上げるのが重くなり、視界の範囲も狭くなっていく。


 気がづけば、目の前は再び真っ暗になっていた。男と女の声はかすかに聞こえるが、もう何を話しているのか聞き取れなくなっている。

 その状況に狼狽えながらも、必死に状況確認しようと、内部モニターを開こうと苦戦するが、足の感覚も無くなってしまい、ついには自分が地に立っているのか、倒れているのかさえ分からなくなっている。


 何、これ、何が起きたの?


 あたしは、既に声が出なくなっていた。頭の中で、思っているだけだ。


 周囲の音も急激に小さくなり、やがて何も聞こえなくなった。


 あたしは、周囲が真っ白になっているように感じた。目は開いていないので、視界ではないが、白いと感じるのだ。

 やがて、あたしの体全体が温かくなって来るのを感じた。何かに触れている訳ではないのに、ふっくらとした羽毛のような暖かで柔らかいものに包まれる感覚に襲われた。

 それは、この世のものとは思えぬとても心地いい温もりだ。


 あたしは、心安らぐその温もりの空間へと誘われて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ