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死に損いのデッドレス  作者: 長岡壱月
Phase-1.白髪紅眼の男
1/35

1-(0) 忌術の日

 キセキとは、通常ではおよそ起こらない事象を指して云う。

 という事は……言い方を変えてやれば、起こりうる状態へとそれらを導き出すことが出来

れば、キセキは人の手中に収まるとも解釈できる。

 

 ──そんな理屈を、ある時実行に移した者達がいた。


「準備は整ったか?」

「はい、配置完了しました。いつでも発動可能です」

 そこは薄暗い、窓一つないだだっ広い密室の中であるようだった。

 床一面には巨大な六芒星ヘキサグラムを囲む円、それらの隙間にびっちりと書き込まれた複雑な文字列

らしきものが石灰で描かれている。そんな陣の外周で、ローブを目深に被った者達が作業を

終えて集合しつつあった。

「ならば、早速始めよう。いつ嗅ぎ付けられるか分からん」

 リーダー格らしき男のしゃがれた声が場に響いた。他のローブ達も拝承と言わんばかりに

頷くと、ぐるりと円陣の外周へと立ち位置を変えて広がる。

 彼らが焦る理由は、この部屋の中央──六芒星ヘキサグラムの中心部にあった。

「お、おい……。お前ら何をする気だ?」

「此処は一体何処なの? 貴方達は誰なの……?」

「くそっ! 離せっ、ここから出しやがれ!」

 人だった。

 厳密に表現するならば、両手足を縛られて枷と錘を付けられた無数の人間だ。

 目を覚まし、口々に不安や怒りを撒き散らしている者、或いはまだ気を失ったままの者。

少なくとも彼らとローブの一団との間にに面識はないようだ。

 更に付け加えるなら、外界と隔絶されてると見えるこの部屋でどれだけ叫ぼうとも、もう

彼らの訴えは届くことはないという点か。

 ローブの一団は誰一人として彼らの叫びに応じなかった。

 ただ在るのは、静かな狂気だ。

 ──彼らは“人間”じゃない。これは皆“要素”だ。

 そう言い聞かせなければ、自分達の側から脱落者が出る。チカラが乱れる。もし失敗して

しまえば、これまでの苦労が全て水の泡になってしまう。それは一団の共通理解だった。

「……始めるぞ。全ては、人類永遠の夢の為だ」

 感情の失せたリーダー格の声色が密室に響いた。

 その一言を合図に、ローブの一団は懐から一斉にある物を取り出す。

 手にされたそれらは、杖だった。

 木材と思しき本体に艶のある塗料を被せ、黒や焦げ茶など各々の杖が申し訳程度の個性を

演出している。

 だが何よりも目を惹くのは、それらの杖先全てに宝石……のようなものが取り付けてある

ことだろう。赤や緑など色彩は様々だが、共通して受けるその印象は──“何処となく宝石

自体に見返されている”ような、そんな錯覚にある。

 その杖を掲げ、ローブ達が精神を集中し始めた。

 円陣中央内の人々が怪訝に押し黙ったのは、ほんの数秒の事。

『──がっッ!?』

 訴える叫びが、次の瞬間苦痛の雄叫びに変わる。

 床一面に描かれた文様が、余す所なく強い光を放ち始めていた。

 同時、生まれるのは巨大なエネルギーの渦。

 囚われの人々から、まるでもぎ取られるように発生する血色の奔流。

 目には見えない、しかし確実にこの場に生まれ、蓄積されていくエネルギーの膨張に密室

が不気味に震えていた。

 白目を剥き、渇いたように喉を掻き毟りながら次々に床に倒れていく人々。

 重なり合っては断続的に響く、最早人間のそれではない断末魔の叫び声。

 それでも、ローブの一団はかざした杖を下げる事はしなかった。むしろこの阿鼻叫喚の様

を推し進めるように口元を結び、自身の人間性を封じ込めるが如く押し黙っては“儀式”に

ひたすら集中する。

(今更、怖気づく必要はない……我々は古くから“犠牲”を払って今の世を作ってきた)

 リーダー格の男の表情かおが僅かに見えた。

 奔流に煽られはためき続けるローブの下から覗くのは、ギラギラとした眼。

 だがそれは野心──私利と言うには違うと印象付けられる。

 むしろ、他益。自分が無数の他の為に礎と為ろうとする、その歪んだまでの決意だ。

「──もう少しだ。もう少しで、奇跡かみはヒトの前に跪くのだ!」

 狂気。叫ぶ声。一層力を込める面々の力。唸るように強く輝く杖先の宝石達。

 

 その日、巨大なエネルギーの奔流が彼らの視界全てを血色の紅に染め上げた。

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