第八話 最初の犠牲者(鈴木ヨシヒコ)
「私も犯人では有りません。それじゃ、後はみんなに決めて貰いましょう。私とヤヨイの友情が正しいのか、それとも、それすら疑われてしまうのか」
なんなんだこの展開?ぼ、僕には急すぎてついていけないぞ。
心臓がバクバクいっている。ただでさえ、ちょっとした事で不安になってうるさい心臓が、一段とうるさく騒いでいる。
でも一方でどこか安心している。ともかく今は争ってるのが山里か宮原さんで決定だ。
今回僕が犯人に指定される事は、ほぼ無くなった。
ふぅ、良かった。やっぱり何か起こった時は、大人しくしているに限る。
これまで、ほとんどと言うか、全く発言していない僕に注意を向ける人なんていない。議論を引っ張るのは、大神君とか、南谷君とかに任せておけばいい。元々、クラスの中心でわいわい仕切ってる連中なんだ、こういう時も活躍してもらわないとね。
みんなが議論を進めているのをぼんやりと見る。言っとくけど単にぼーっとしてるわけじゃない。
一旦落ち着いて心臓がゆっくりになってくれないと、僕はしゃべる事さえままならないんだから。
最早、止められない所まで対立しちゃってる二人を雨宮君や、南谷君が何とかなだめようとしているみたいだ。
僕は当然発言する気がないので、考えごとをしながら話を聞く。話を聞いて置くのは重要だ。
いつでも、流れを把握して目立たない位置にいかないとね。
僕、鈴木ヨシヒコの処世術はこれに尽きるんだから。
まぁ、クラスでも目立たない方だし、成績も優秀でなく、スポーツも優秀でなく。当然チヤホヤもされないし先生からの視線も無味乾燥、友達だって全然多くないけど、責任も回ってこない。そんな立ち位置が以外と好きだ。
自慢じゃないが、というか本当に自慢にならないけど。何かの委員長だとか、部活のキャプテンとか一回もやった事無い。これは無責任って事じゃない。
僕が思うに、無責任てのは、責任のある立場なのに責任をまっとうしない事だ。僕の場合は責任のある立場が似合わないから、自分から行かないだけ。それだけ。
だから僕は無責任では無いと思ってるし、責任から逃げてもいないと思ってる。責任がない分日も当たらない、それでいいじゃないか。
しかし、議論は進まないな。
僕の中の結論はもう出ている。この状態では、もうどちらかを犯人に指定するしか無いんだと思う。
今は、まだ如月……まぁ本当に如月かまだ分からないけど……が待ってくれている。でもそのうちキレだしたらどうするんだよ?
もうこの段階で説得なんて成功しそうも無いし、元々説得なんてナンセンスなんだよ。僕たちを閉じ込めるなんて、普通じゃない事するヤツに日本語が通じるわけない。
まぁ、そう思ってても言わなかったんだけどね。
説得するってのは行儀のいい綺麗な答えではあるから、やっとく事が無意味でもないだろうしね。
さて、選ぶならどっちだろう?
宮原か山里かなら、まともじゃ無くなってる宮原か?
「南谷も、雨宮も甘い事言ってんじゃないよ!落ち着いても変わんない!どっちにしたって、アタシか宮原か選ぶしか無いっての」
山里が宣言すると散々いろいろ言っていた南谷も押し黙った。今度は、誰も喋らない。
反対してた二人も本当は、どうやっても選ばなきゃいけないって事は分かってるんだと思う。
「今まで、黙ってるヤツはどうなのよ、鈴木!アンタ何か言いなさいよ。アタシと、こいつとどっちが犯人!」
「・・・・・っ・・・」
な、なんで僕の事を名指しで指名するんだよ。
こんな状況で、選べなんて重大な決定できるわけ無いだろ!ふざけんな!
「・・・・・。」
「アンタ男でしょ、ちょっとハッキリ物言いなさいよ!どっちなの?アタシじゃ無いわよね!」
ふざけんな、ふざけんな。男だからって何だよ!
女性の方が優遇されてる場合だって世の中にはいっぱいあるだろうが。
佐々木さんとか近藤さんとかもあんまし喋って無いだろうが!
自分が男の癖にって言い方するなら、お前は女の癖にもっとおしとやかにできないのかよ!
しかも、私じゃ無いだろなんて言い方、感じ悪すぎる。
「・・・・・・・・。」
「はぁー。もうこれなら、宮原犯人じゃなくて鈴木犯人の方が良かったかもね!何も言わないなんて話になんない」
その言葉を聞いた途端に、僕は僕をコントロールできなくなった。
「・・・・・ふざけんな!・・・・そんな理由で犯人にされてたまるかよ!山里ユウコに一票、お前が犯人だ!」
僕は思わず、そう叫んでいた。今まで全く自分が犯人に疑われる事を考えて無かったからその反動だと思う。とっさに出てしまった。
「ちょっとアンタ!本気で言ってんの?ふざけんじゃないわよ」
「・・・なんだよ。どっちか選べって言ったのは自分だろ。ぼ、僕は選んだだけだよ・・・。ほら次の人」
僕は、発言していない近藤さんに目線を向ける。
「え?あの、私は・・・・。」
そう言って黙ってしまう。
ほらみろ、すぐには答えられないんだよ。
沈黙の中で山里ユウコの顔色だけが悪くなっていく。
「はいはい、もう時間切れね。意見はまとまって無いみたいだけどこの際仕方ないね。一番犯人として投票された、山里ユウコに罰を与えます!」
唐突に宣言された。背筋がスッと寒くなる。なんて事だ僕の投票が最終的な決定打になってしまった。
くそっ、今はいいけど、次は次は最悪僕が犯人にされるかもしれない。
「ちょ、ちょっと、待ちなさ」
「はいはい、反論は認めません♪今度からは、時間居以内に議論を終わらせてくださいね」
「ふふ、やっぱり私とヤヨイの友情の正しさが証明されたみたいね。ふふっ」
怖い。この状況で何の躊躇も無く、罰を進行する如月を笑って見ている宮原が怖い。
やっぱり、宮原だと言っておくべきだったのだろうか?
感情で反発したのは間違いだったのか?
「やめて、やめて、ちょっと、マジでやめてってば!」
如月が山里の後ろに回り込むと、何かを取り出した。あれは、たぶん注射器だ。まさか、毒なんだろうか。
罰っていうのは、本当に僕たちを殺す事だったのか?
「おい、如月やめろ!やめるんだ!」
「そうだ、やめろ!殺すな!」
「ヤヨイさん!やめて!」
「うそ、なに?えっ、やだ、やめてよ。ねぇやめて!」
みんな取り出した物に驚き、静止の声をかける。だけど、そんな静止の声も虚しく。
「アッ・・。痛い、やめてよ。痛いって!いや、死にたく無い。死にたくないよぅ」
針の刺さる所は良く見えなかった。後ろ手に回してある腕の部分に刺したのだろう。
山里は針から逃れるように必死で体を動かしていたが、全身が固定された状態だ。
当然、抵抗ができなかった。
針が刺さる所は見られなかったが、それでも一言驚きの声を発した後。
山里ユウコの反応が極端に鈍くなってきた。
体が縛られているから、どんな反応をしているのかはっきりとは分からないけれど、
少し震えるみたいに全身を揺らすと。その体が静止した。
「ユウコ!ねぇ嘘でしょ!!嘘でしょ!」
女子がみな叫ぶ!男子は何も言えずに目を離せずにいる。宮原だけは笑っている。
「山里さんは、死なないかもしれないわ。今打ったのはただの睡眠薬だもの」
「ほ、ほんとうか?」
希望を込めて雨宮君が尋ねる。
「本当よ、最も致死量超えてるかもしれないけどね。正確な致死量って分からないからもしかしたら本当に死んじゃうかもしれないし、生きるかもれない。それこそ、神のみぞ知るって所ね」
「な、なんでそんな事を・・・。」
「私は自殺をして、そして失敗して助かったんだもの。犯人に与える罰も、失敗したら助かるもの
それがフェアなんじゃないかしら。・・・・・・・・・・それじゃ、みんなまた次の時間に」
如月は、本当に何事も無かったかのように教室を出て行った。
ついに、一人目の罰が執行された。
人に毒物を注射する作業を淡々とこなし、なんでもなく出かける姿から、
嘘でも冗談でも無く、如月は皆殺しでもやってのけるだろう。
そんな事を思った。