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疑う円環  作者: 夏樹 真
1時間目
7/32

第六話 告げる名前(南谷ユウキ)


「ダメだ。もう、時間だ。出たとこ勝負しかない」


 大神が、くやしそうに声を出した所で全員の目線が時計に向いた。


長針が12の位置にある。


「くそっ!こんなの決められるわけねぇだろ」


 俺は思わず舌打ちする。

俺達が時計に気付くと同時に廊下から足音が聞こえたからだ。

本当に時間に忠実で、こっちの都合なんて考えてない無慈悲な足音だ。


「落ち着いて、大神君。南谷君。さっちゃん。なんとかして、・・・みんなで乗り切りましょう」


 委員長の言葉で、少し心を落ち着かせる。しかしそれも、直ぐに消えてしまう。


パタッ、パタッ、


という味気ない、特徴の無い足音が廊下から響く。

一定で淀みないその足取りと、自分の呼吸がリンクしていく気がする。

それほどまでに、足音に意識が集中されている。今はきっと、教室3つ分ほど後ろだ。


 みんな足音が一歩ずつ近づくにつれて

緊張して行くのが分かる。

俺だって緊張している。

宮原が失敗してしまえば、この中の誰かが罰される。罰の内容は分からないけど、俺の考えだと最悪、死ぬ事もありえると思う。普段は、頼りない、消えてしまいそうなほどに存在感を出さない宮原だけど。今は、お前に全てかかっている。


頑張れ・・・。頑張ってくれ!


無責任にそんな事を願う。

そんな事を考えながら、さっき委員長があえて”みんなで”と言ったのは、宮原にプレッシャーをかけないための気遣いだったのかな?なんて、場違いな事が頭の中を流れた。




パタッ、パタッ、トッ。・・・・・・・・・・ガラッ。


 如月は、さっき去って行った時と全く同じ出で立ちで現れた。

罰するなんて告げたのだからつい、禍々しい死神の鎌のような物や、キラリと光るナイフなんかを持っているかと思ったが、

ぱっと見た限りじゃ。先ほどと同じ黒一色のローブ姿だ。まぁ、あの下に隠されていたら分からないけどな。


「さて、一時間立ったよ!どう、有意義な議論出来たかな?」


 誰も言葉を返さない。

如月がローブの下で、ほくそ笑んだ気がした。


「ダメだよ。ちゃんと話をして、それで思い出して貰わないとね。犯人が分からないなら罰する人が増えちゃうからね」


・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。



 相変わらず俺たちは無言だ。

宮原が動くまで、誰も動かないだろう。

ここは、アイツのタイミングに任せるしかない。他のヤツが邪魔するわけにはいかないんだから。


如月の空気が不満そうに動くのを感じる。

「あれ?今、私がここに来た目的分かってるよね。こっちから聞かないと答えられないのかな?

それじゃあ、聞こうかな、犯人は誰だと思う?」


「ちょっと待ってよ。ヤヨイちゃん!!」


キタッ!

力強くとはいかないが、はっきりした声で宮原は静止をかけた。


 如月が早々と結論を求めて来たから、しょうがない。もうここで勝負するしかない。タイミングは上々だ。


頼む、頼むぞ。


 みんな二人の言動に最大の注意を向けている。

近藤と佐々木、あと鈴木は耐えるように下をむいているけど後のヤツは全員二人の方を交互に向いている。



「うん?なにかな、さっちゃん。あなたが代表して答えてくれるの?」


「ねぇ、こんな事やめようよ。ヤヨイちゃんが戻って来てくれて私、本当に嬉しいんだよ。

ヤヨイちゃんが死んじゃって、・・・・死んじゃったと思ってから、しばらく学校にも行けなかったし。

何やっても楽しくなかったし、涙がね・・・グスッ・・・出なかったの。心が受け入れられ・・なくて・・。

でもずっと、ずっと、泣きたい気持ちが止まらなかった・・・。泣けなくて。苦しくて。

私にとって、一番の親友で、何をするにもヤヨイちゃんから教わってた私の世界はね。

ヤヨイちゃんが居ないと成り立たないそんな物だったんだよ。

だから、今私にとって一番大事なのはヤヨイちゃんなの」


「私にとっても、さっちゃんは親友だよ」


 如月の声は、とても平坦で響いているようにはとても思えない。事実を事実として話す口調だ。

それでも、きっと響いている。こいつが、如月なら響いていないはずがない。


「ありがとう。ヤヨイちゃん。いじめに気づいてあげられなかったこんな私をまだ親友だって言ってくれて。私にとって、ヤヨイちゃんは心の中心だから。家族よりも大事だって思える人だから、本当に嬉しい」


 真っ暗で、陰湿な教室にふさわしく無い位に、迷いないはっきりした笑顔を宮原は浮かべていた。



「だからね、こんな事やめようよ。こんなやり方良くないよ」


「親友の貴方が私を止めようとするのね。私の気持ちを理解しないの?」


平坦だがどこか怒りを感じさせる口調に変わった。



「違うよ。ヤヨイちゃん!一緒にやろうって言ってるの」


「一緒に何をやるって言うの?クラスの仲間と楽しく高校生活を?くだらないし、出来るわけないわ。今の私にはもうね」


「自分をいじめてた人を許せないから?」


「そうよ」


「自分がいじめられていた事実に気付きもしない人が許せないから?」


「そうね」


「そっか・・・・・・」


「もう、分かったでしょ。説得してもどうしょうもないって、今日の為に下準備もしているの。転がり始めた石はもう止まらないわ。それこそ何かを、誰かを壊すまでね」


「良かった。じゃあ、この復讐は諦めないんだね」



 今は、宮原は何と言った?

復讐を諦め無い事が、良かった、確かにそう言ったはずだ。


 正直方向性は悪くて、如月を説得できる可能性は低いと思っていた。今だってこの会話じゃとりつく島もない。話の方向を、犯人以外の開放にもって行こうかと考え初めて居たくらいだ。

だけど、良かったとはどういう事だ。宮原が話を進める。



 先ほどと同じ笑顔なのに、それが能面のように怖く見えた。


「じゃあね、私が手伝ってあげるよ。この中の人に復讐したいんでしょ?いいよ。私手伝う。なんでもやるから言って。ヤヨイちゃんは死ぬような目にあったんだもん。何やったっていいよね。それこそ、殺しちゃったってさ」


「ちょ、ちょっと、さっちゃん!?な、何言い出してるの」


「そうだぞ、宮原!落ち着け、俺らは無事に帰らないといけないんだから。如月!聴いてるだろ。お前の事をこんなに思ってくれている宮原がここに居るんだぞ。俺達の選んだ人間を無差別に罰するなんてやめて、せめていじめの犯人だけを残して、残りは開放してくれないか?」


 俺と、委員長とで慌てて話を遮る。もう、任せとくのは無しだ。一体何を言い出してんだよこいつ!!


「うるさい!!二人とも黙って!私は、ヤヨイちゃんとお話してるのっ!ねぇ、ヤヨイちゃん。私が手伝ってあげるね。ヤヨイちゃんの目的が果たせるように。このクラスの人たちは、ヤヨイちゃんを殺したも同然なんだから、なんでもしていいよ」


「ふふふっ。なーんだ。そう、協力してくれるのね。ありがとう。さすが、親友ね」


「うん。そうだよ何でも言って」


暴走する宮原に大して、みんなが一斉に声をかける。


「そんな、事約束したらダメ!」「何言ってるか分かってんのアンタ!」「オイ、落ち着けもう一回考えろよ!」

「宮原さんやめて!」「冷静に考えろ!それじゃ何も解決できない」


 俺達の声は止まらない。マズイ。この流れは、マズイ。何とか落ち着いて、

宮原を落ち着かせる時間をつくらないと。


「ああもう、うるさいな。私は結論が欲しいだけよ。ねぇ、サトネ。貴方の考える一人目の犯人って誰?」


 俺達がアッと思った時には既に

宮原の口が開き、その言葉をスラスラと告げた。


「私は、一人目は山里ユウコだと思うわ」



皆の間を一瞬の空白が支配する。

それは、この10人の中に明確に敵・味方が生まれた瞬間だった。


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