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疑う円環  作者: 夏樹 真
1時間目
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第五話 クラスメイトの順位(近藤シズク)


「私、やってみます」


 そう告げた宮原さんは、普段のか弱い彼女からは、ちょっと信じられない位強い目をしていました。

南谷君の始めた説得の話は、宮原さんが受け入れた事でちょっと落ち着いたみたいです。

そんな風にみんなが議論を進めてくれている中で申し訳ないけれど、シズクが気になっているのは一番はケイちゃんの事です。


 いや、こんな状況でケイちゃんに甘えたいとか思ってるわけじゃないんだよ。

いつもみたいに、腕にひっつきたいとか、手を握って欲しいとか、あわよくば抱きしめてほしいとか・・・。

まぁ、考えてないわけじゃないんだけど。

こんな時だから、心細くなっちゃうのはしょうが無いし、彼氏に甘えたくなるのも守って欲しいと思うのもしょうがない事だとは思うのです。シズクは弱いから、直ぐに不安になってしまって、議論もきちんと頭に入って来ないみたいです。


 さっきシズクが泣いてしまった時から、ケイちゃんが何度もこっちを見て気にしてくれているのも分かってて、だからシズクは何とか落ち着いていられるんだよ。


「具体的に細かい事まで決める事はできないと思う。さっきまでの態度から考えて、あの黒い女が本物であれ、偽物であれ、如月として振舞うのは間違いないから、如月に話かけるつもりで接して貰えばいいと思う。相手がちょっと矛盾した事を言っても、そこには突っ込まないであくまで、如月にこんな馬鹿な事をやめてもらうようにってスタンスで説得すればいい」


「大神、さすがに丸投げはキツイだろ。俺としては、何人かで交互に説得しながら、なるべく相手に話をさせるのがいいと思う。さっきの話だけだと、あいつが俺達にしたい事を一方的に宣言しただけで、本当は誰に復讐したいとか、なんでこんなやり方をしてるのかに疑問が残るぜ。だから、如月が本当にしたいことは何なのかを聞き出して。その答えに合わせて、危険の無い方に誘導していくのがいいと思う」


「ありがとう。大神君。南谷君。でも、任せて、私が一番ヤヨイの事わかってるから」


「任せてしまって、ごめんなさい。お願いね。さっちゃん」


「頼んだよ。宮原」


「あんまし気負わなくていいぞ。リスクあるし、やばかったら宮内ヨロシクって言えば後は繋いでやるからさ!」


三条さん。ケイちゃん。宮内君が続けて声をかけます。


「結果についての文句はアタシは言わないさ。みんなで決めたんだから」


「ごめん。よろしくね」


「お願いするよ。がんばって」


 山里さん。佐々木さん。鈴木君も続けます。

しまった。気が付けばシズクが最後だ。ちょっと、まとめっぽい事を言わなくちゃいけないだろうか?

それとも、和ませるために明るい感じがいいかな?

みんな私が何か言うのを待っている気がするし、しょうがない。恥ずかしいけど何か言おう。


「宮原さん、お願いするわ。私どうしてもケイちゃんと一緒に助かりたいもの」



・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。


しまった!微妙な空気になってしまった!

これだから困る。シズクは笑いを取るのとか無理なのに、なんがか期待されてる気がしてつい、狙いに行ってしまった。

しかも、天然で言ってると思われているみたい。ケイちゃんの顔が引きつってるし、山里さんの顔が呆れてる。

いやだ。もう、顔を隠したい。

こんな事で手を使えない事を意識しなきゃいけないなんて。


「ま、ま、まぁ。雨宮夫妻と俺達のために、頼むよ。でも。無理はしなくていいからさ。それと、ここからは話変わるんだけど。もう一つ決めなきゃいけない事がある」


 先ほどの流れを引き継いで、大神君が話をリードしてくれる。

良かった。あの空気のまま固まって、気づいたら時間になったら最悪だもん。

9時50分あと10分しか無い。

みんなの顔にも真剣さが戻ったみたい。

まぁ、しらけさせてしまったシズクが言う事でも無いんだけどさ。


 それより、大神君が言っている決めなきゃいけない事というのは、やっぱりアレの事だろう。

”誰を犯人として指定するか”だ。

宮原さんの説得が上手くいけばそれでいいんだけど。

そうとは、限らない場合にどうするか決めておかないといけない。


「やっぱり、誰かを選ばないといけないんだよね」


「説得が成功しない事も考えられるもんね。そうだよねやっぱり」


「・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・。」


「・・・・。」


「・・。」


 どうしても会話が続きません。

やっぱり、みんなこの中で誰がいじめをしていた犯人なのか考えているのでしょうか?

それとも。誰が犯人なのかは、関係なくて誰なら”罰の実験台”にさせても良いかを考えているのでしょうか?


 不意に寒くなった気がして、肩を抱こうとして無理だと気付く。

体を固定されているためか、いつもより体が冷えている気がする。季節的に寒く無いのはいいけど。

こうして、嫌な考えを思い浮かべてしまった時に体が動かない事はそれだけでストレスだ。


 シズクはなんてことを考えてるんでしょう!

このクラスメイトの中で誰なら見捨ててもいいかを考えるなんて。

見捨てられていい人なんて居ないのに。


でも、一方でまだ死にたくない。

その気持ちも、ジクジクと心を刺激します。

そう。この夜で、とばっちりで死にたくは無い。

まだ17歳なんだ。これから、もっといろいろな事を出来る年なんだ。

それは、クラスのみんなも一緒なんだけど。でも、やっぱり死ぬには早すぎる。




自分は死にたくない。


ケイちゃんにも死んで欲しくない。


いつも仲良くおしゃべりするツバサさんも、死んで欲しくない。


後の人は?

死んでいいとは思わないけど、正直そこまで仲の良くない人もいる。


 宮内君とかは、話した事はあんまり無いけど。いつも楽しく盛り上げてくれる人だから、こっそり笑わせてもらっている。

山里さんは、近寄りがたい所があるけど、綺麗だし、弱いシズクと違って見習いたい所もいっぱいある。

佐々木さんは、本当にいい子だし。ケイちゃんの幼馴染だし、ケイちゃんのためにも選べないかな。

宮原さんは、関わり薄いんだけど。如月さんを説得するためには居てもらった方がいいと思う。


 大神君・南谷君・鈴木君は良くわからない。

普段クラスで関係することがほとんど無いし、この前喋ったは4月に自己紹介した時なんじゃないの?ってくらいに喋った覚えがない。

まぁ、今日の話の感じだと鈴木君は殆ど発言しないし。

残るんだったら大神君や南谷君が残ってくれた方が・・・・・・






 結論が出せてしまった。

クラスメイトに順位を付けるなんて!と思っていながら、

シズクにとって、居なくてもいい人が決まってしまった。

鈴木ヨシヒコ君。

よく知らないという理由だけで選んでしまって申し訳無いけれど。

いいの?こんな簡単に、クラスメイトを切り捨てて、それって最低の事じゃないの?



 何も決まらないうちに時間が過ぎてしまう。

”そろそろ、誰か決めないと”と言おうとして、ふと考えてしまった。



シズクが鈴木君を選んでしまったように。

シズクやケイちゃんを選ぶ人もいるんじゃないの?



 全員を見渡す。

みんな真剣に考えている顔をしているけど、頭の中でさっきみたいにみんなを値踏みしていると思うとぞっとする。

ふと鈴木君と目があった気がしてとっさに目をそらす。誰かに疑われる事を考えたら。

最初に、『私は鈴木君が良いと思う』なんて言うのは自殺行為だ。

みんなに、近藤さんは人を犠牲に出来る人だと思われてしまう。

鈴木君からは、当然恨まれるから反対に『近藤さんが良いと思います』と言われてしまうかもしれない。



動けない



何を言い出しても、議論が進まないか結局マイナスになってしまう。

そうか、大神君とか南谷君とか、いままで議論を引っ張ってくれた人たちもそれに気づいているから。今は何も言えないんだ。

どうしよう?誰か選ばないと。

それもみんなに納得してもらえる形で。

どうすれば?

どうしよう?


「ダメだ。もう、時間だ。出たとこ勝負しかない」


大神君が、くやしそうに声を出す。


全員が時計を見る。


長針は既に12の位置に到達していた。


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